この検査の要点
眼科超音波検査はAモード・Bモード・超音波生体顕微鏡 の3種類に大別される非侵襲的画像診断法である。
Aモードは主に眼軸長 測定に用いられ、白内障 手術前の眼内レンズ 度数計算に不可欠である。
Bモードは眼球・眼窩 内の二次元断層像を提供し、硝子体出血 や白内障 などで眼底が観察できない場合に特に有用である。
超音波生体顕微鏡 (UBM )は30〜60 MHzの高周波を用い、毛様体 を含む前眼部の精査に適する。
網膜剥離 ・後部硝子体剥離 ・眼内腫瘍・眼内異物 など幅広い病変の検出と鑑別に利用される。
放射線被曝がなく、安全で広く普及しており、外来やベッドサイドで簡便に実施できる。
眼科超音波検査(ophthalmic ultrasonography)は、超音波を利用して眼球内および眼窩 内の構造を非侵襲的に可視化する画像診断法である。眼球は体表に近く、液体で満たされた構造であるため、超音波検査に適している。
20 kHz以上の高周波音波がプローブ(探触子)内の圧電素子から発生し、組織の境界面で反射される。反射波(エコー)の強度と到達時間から、組織の位置や性状を画像化する。音波は液体中より固体中の方が速度が速い。音響インピーダンスや密度が異なる組織境界では、音波の散乱・反射・屈折 が起こる。
エコーの強度により、画像上の各領域は以下のように表現される。
高エコー(hyperechoic) :強い反射を示す白い領域
低エコー(hypoechoic) :弱い反射を示す暗い領域
無エコー(anechoic) :反射がない黒い領域
高密度の病変の後方には音響陰影(シャドーイング)が生じ、無エコー域となることがある。
Q
AモードとBモードの違いは何か?
A
Aモード(amplitude mode)は反射波を波形(スパイク)として表示し、組織間の距離や反射率を数値的に評価する方法である。Bモード(brightness mode)は反射波の強弱を画面上の輝度変化として表示し、二次元断層像を得る方法である。詳細は「検査の種類と原理」の項 を参照。
眼科領域で用いられる超音波検査はAモード・Bモード・超音波生体顕微鏡 の3種類である。検査部位により使い分けることが望ましい。
Aモード
原理 :単一の超音波ビームを送信し、反射波を波形(スパイク)として表示する。横軸が時間(距離)、縦軸がエコー強度を示す。
周波数 :8 MHz
主な用途 :眼軸長 測定、角膜 厚測定、腫瘍内部の組織性状評価
Bモード
原理 :反射波の強弱を輝度(明るさ)の変化で表し、プローブを動かすことで二次元断層像を構成する。
周波数 :10 MHz(一般的には5〜20 MHz)
主な用途 :眼内・眼窩 内病変の形態診断、網膜剥離 の検出、腫瘍の計測
超音波生体顕微鏡
原理 :30〜60 MHzの高周波超音波で前眼部を高解像度で描出する。解像度は高いが深達度は浅い。
主な用途 :毛様体 の形態評価、隅角 の定量的評価、前房 深度の測定
一般的な超音波診断装置では5〜20 MHzの振動子が使用される。Bモードから得られる二次元画像をコンピューターグラフィックで3D画像に再構築し、病変の大きさや境界を立体的に捉えることも可能となっている。
超音波検査が特に必要となるのは以下の状況である。
角膜 ・水晶体 ・硝子体 などの中間透光体の混濁により眼底が透見できないとき、Bモード超音波検査は極めて有用である。検査による侵襲も少なく、装置も小型化されており、外来で容易に使用できる。
硝子体出血 で眼底が全く透見できない場合でも、網膜剥離 の有無や後部硝子体剥離 の有無を評価でき、術前検査として不可欠である1) 。糖尿病網膜症 の経過観察でも、硝子体出血 やその他の透光体混濁がある場合に網膜 の状態を評価するための有用な診断ツールである4) 。
白内障 手術の術前評価において、成熟白内障 や高密度白内障 で光学式眼軸長測定 が不可能な場合、超音波眼軸長 測定(Aモードおよび/またはBモード)が推奨される6) 。光学式測定と超音波測定の間に有意差はないとされるが、光学式の方が非接触で迅速かつ正確という利点がある6) 。
脈絡膜メラノーマ などの眼内腫瘍の診断と経過観察にも不可欠であり、AモードとBモードの併用検査は厚さ3 mm以上の脈絡膜メラノーマ の診断において95%以上の精度を有する。
超音波検査の利点と限界
放射線被曝がなく安全で、広く普及しており低コストです。
不透明な中間透光体を通して眼底を評価できます。
リアルタイムに動態観察が可能です。
ただし検者の技量による個人差が大きく、シリコーンオイル やガスが充填された眼では良好な画像が得られません。
Aモードは主に眼軸長 測定に用いられる。
手順 :点眼麻酔後、プローブを角膜 中央に接触させ、視軸と一致させた状態で眼軸長 を測定する。最低10回計測し、その平均を結果とする。
波形の読み方 :角膜 前面・水晶体 前面・水晶体 後面・網膜 内境界膜 の4本のスパイクが垂直に立ち上がり、高さが波形の半分以上であることを確認する。
注意点 :角膜 の過剰な圧迫を避ける。高度近視 で後部ぶどう腫 がある場合は値が安定しないことがある。
区分音速方式(水晶体 1,641 m/秒、前房 ・硝子体 1,532 m/秒)は、等価音速方式(有水晶体 眼1,550 m/秒)より測定誤差が少ないとされる。光学式測定装置と比較して超音波Aモード法の測定値は0.2〜0.3 mm短く表示される。
体位 :座位または仰臥位で実施する。
手順 :閉瞼させ、プローブ先端にゼリーを付けて眼瞼の上から当てる。眼瞼との間に空気が介在しないよう密着させる。
スキャン :眼球に垂直方向でプローブを当て、被検者に眼球を動かしてもらいながら走査する。
記録 :静止画だけでなく動画を撮影し、網膜 ・硝子体 の動態を立体的に把握することが重要である。
トータルゲイン :感度を上げると微弱なエコーの検出が容易になるが、アーチファクトも出やすくなる。
ダイナミックレンジ :上げると階調表現力が向上するが、白黒のメリハリは低下する。
正常眼を対照として、硝子体 内に陽性像がみられない最高感度に設定しておく。
Bモード検査のコツ
検査画面とプローブを当てる被検眼が同一視野に入るように機器を配置してください。
視神経乳頭 を最初に描出すると、病変部位との位置関係の把握に有効です。
Bモード検査時にAモード波形を同時に表示すると、硝子体 内の病態把握に役立ちます。
プローブの向きを必ず記録してください。
超音波生体顕微鏡 (ultrasound biomicroscope)は30〜60 MHzの高周波を使用する。毛様体 を含む前眼部の詳細な形態評価が可能で、隅角鏡検査 に比べて客観性・再現性に優れた定量的評価が可能である。眼圧 上昇時に角膜 の透見性が低下している状態でも隅角 の状態を把握できる。ただし高周波のため深達度が浅く、眼球内や眼窩 の検査には適さない。
正常眼では硝子体 は完全な無エコー(陰性像)を呈する。硝子体 内に何らかのエコー(陽性像)が認められれば、病的変化を疑うべきである。正常では網膜 ・脈絡膜 ・強膜 は分離することなく、眼球内壁を裏打ちする1層の組織像として観察される。
装置の感度を高めに設定すると検出が容易になる。
新鮮なものでは塊状・羽毛状の可動性あるエコーを呈する。
出血による硝子体 エコーの輝度上昇と、後部硝子体 膜エコーの可動性を認める。
膜エコーとして描出される。膜の厚さは後極部で厚く、周辺部に向かって薄くなる。
可動性が大きく、Aモード上の棘波は網膜剥離 より低い。
完全PVD では後部硝子体 面が硝子体 中央まで前進し、皿状の像を呈する。
眼球運動に伴い可動性のある膜エコーがみられる。丈の浅い剥離や陳旧例では可動性が小さい。
全剥離でも剥離網膜 は視神経乳頭 部で後壁に付着しており、これが鑑別のポイントとなる。
高度の増殖硝子体網膜症 では膜エコーが硝子体 腔中央に引き上げられ、漏斗状を呈する。
後部硝子体剥離 に関連する眼底不透明硝子体出血 における網膜裂孔 の検出について、Bモード超音波検査の感度には44〜100%と大きなばらつきがあると報告されている1) 。網膜裂孔 が疑われる場合は、初回評価後1〜2週間以内に超音波検査を再検すべきである1) 。
硝子体出血 で網膜 の全容が不明な患者でBモード超音波検査が陰性の場合も、毎週のフォローアップが推奨される1) 。
所見 網膜剥離 PVD Aモード棘波 高い 中等度 可動性 規則的・平滑 不規則・粗雑 視神経 との連続性あり なし
Q
網膜剥離と後部硝子体剥離はどのように区別するか?
A
網膜剥離 では膜エコーが視神経乳頭 部と連続し、Aモード上の棘波が高く、眼球運動後の動きは規則的・平滑である。後部硝子体剥離 では視神経 との連続性がなく、棘波は低めで、動きは不規則かつ眼球運動停止後も波打つ動きが残る。増幅感度(ゲイン)を下げると硝子体 膜エコーは網膜 エコーより早く消失する点も鑑別に有用である。
ドーム状に眼内へ突出し、可動性が少ない点が網膜剥離 と異なる。
脈絡膜 剥離のエコー像は出血と違い、空洞のような低エコー像となる。
金属・木片・プラスチック・石のいずれも、異物後方への多重エコーを生じる。
異物の場所によっては検出できない場合があり、X線検査やCTの併用も必要となる。
外傷や眼内異物 が疑われる場合は眼球を圧迫し過ぎないよう注意する。
感染性眼内炎 では早期から硝子体 内に多数の点状エコーが出現する。
進行すると硝子体 内に塊状・胞状のエコーが出現する。
脈絡膜 悪性黒色腫などの眼内腫瘍の検出・計測・経過観察にBモードは有用である。
各種腫瘍の超音波所見の特徴は以下の通りである。
網膜芽細胞腫 :石灰化により高反射。腫瘍後方は音響陰影による欠損像。
脈絡膜 黒色腫 :表面が高反射、内部が低反射。
転移性脈絡膜腫瘍 :内部が均一に高反射のことが多い。
脈絡膜 血管腫 :眼窩 脂肪と同程度の内部反射(acoustic solidarity)。
脈絡膜骨腫 :音響陰影を伴う高反射。
早産児網膜 症(ROP )のステージ5の分類においても、Bモード超音波検査による網膜剥離 の評価が必要とされる3) 。
成熟白内障 やその他の透光体混濁で後方の観察が困難な場合にも、Bモードは眼内腫瘤や網膜剥離 、後部ぶどう腫 の検出に適切であるとされる2) 。
脈絡膜メラノーマ の評価においてBモード超音波検査は中心的な役割を果たす。基底径と病変の厚さは転移や死亡率と相関するため、画像診断による計測と経過観察が重要である。
Ramos-Dávilaら(2025)は、Mayo Clinicにおける1,021例のぶどう膜メラノーマを対象にBモード超音波による形態分類を行った5) 。ドーム型739例(72.4%)、キノコ型119例(11.7%)、多分葉型85例(8.3%)、微小隆起型77例(7.5%)に分類された。腫瘍の大きさで補正した多変量解析では、多分葉型は転移リスクが2.08倍(p = 0.003)、死亡リスクが2.38倍(p < 0.001)であった。
この研究から、Bモード超音波によるメラノーマの形態評価は予後予測因子としても重要であることが示されている5) 。
Aモード超音波検査による眼軸長 測定は、熟練者でも0.3 mm程度の測定誤差が生じうる。眼軸長 1 mmの測定誤差は短眼軸長 眼で約3.4 D、標準眼軸長 眼で約2.9 D、長眼軸長 眼で約1.6 Dの屈折 誤差を生じる。そのため測定誤差は0.2 mm以内に収めることが求められる。
測定精度を向上させるため、以下の方法が推奨される。
熟練者を含む2名で測定しデータを比較する
トノメーター型(起座位・顎台固定型)を使用する
不適切な波形を削除してから平均値を求める
シリコーンオイル 充填眼では、光学式眼軸長測定 の方が超音波よりIOL度数計算 の精度が高いとされている6) 。
Bモード検査では以下のアーチファクトが生じうる。
多重反射 :水晶体嚢 ・眼内レンズ ・眼内異物 などで超音波反射が非常に強い物質間に発生する。プローブの投射方向の変換で鑑別できる。
音響陰影 :骨組織や石灰沈着部位の後方で音響が遮断されて生じる。脈絡膜骨腫 や網膜芽細胞腫 の検出に逆に役立つ。
増強効果 :超音波減衰の弱い軟部組織の後方でエコー振幅が増強し高輝度を示す。
超音波検査は理論上、硝子体混濁 の影響を受けにくいが、硝子体手術 後にシリコーンオイル やガスが注入された眼では音速変化や深達度変化のため良好な画像が得られない。
救急外来においてベッドサイド超音波検査(POCUS: Point-of-Care Ultrasound)の有用性が注目されている。眼科救急は救急外来受診の約3%を占めるが、眼科医が常時在院しているとは限らないため、救急医による超音波検査の重要性が高まっている。
網膜剥離 評価にBモードを使用する際には、以下のニーモニック「CASE」に基づいた手技が提唱されている。
C (Close and cover):閉瞼しゼリーで覆う
A (Axial plane):軸方向の断面でプローブを当てる
S (Scan):網膜 の病変をスキャンする
E (Evaluate):眼球全体を評価する
近年、前眼部OCT の進歩により超音波生体顕微鏡 の一部の適応が前眼部OCT に置き換わりつつある。しかし虹彩 後方や毛様体 の観察では超音波生体顕微鏡 が依然として優位性を保っており、両者は相補的な関係にある。
前眼部OCT は非接触で高解像度に前眼部表面を評価できる。一方、超音波生体顕微鏡 は虹彩 後面や毛様体 、後房などの深部構造を評価しやすい7) 。
Vishwakarmaら(2023)は、AS-OCT と超音波生体顕微鏡 を併用することで、結節性強膜炎 との鑑別が困難であった結膜 下真菌症の診断・評価に有用であった症例を報告した7) 。
Kim SJ, Bailey ST, Kovach JL, Lim JI, Vemulakonda GA, Ying GS, et al. Posterior Vitreous Detachment, Retinal Breaks, and Lattice Degeneration Preferred Practice Pattern®. Ophthalmology. 2025;132(4):P163-P196. doi:10.1016/j.ophtha.2024.12.023. PMID:39918519.
Miller KM, Oetting TA, Tweeten JP, Carter K, Lee BS, Lin S, et al. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2022;129(1):P1-P126. doi:10.1016/j.ophtha.2021.10.006. PMID:34780842.
Chiang MF, Quinn GE, Fielder AR, et al. International Classification of Retinopathy of Prematurity, Third Edition. Ophthalmology. 2021 Oct;128(10):e51-e68. doi:10.1016/j.ophtha.2021.05.031. PMID:34247850; PMCI D:PMC10979521.
Lim JI, Kim SJ, Bailey ST, et al. Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2025 Apr;132(4):P75-P162. doi:10.1016/j.ophtha.2024.12.020. PMID:39918521.
Ramos-Dávila EM, Dalvin LA. Clinical Implications of Ultrasound-Based Morphology in Choroidal Melanoma. Ophthalmology. Retina. 2025;9(3):263-271. doi:10.1016/j.oret.2024.09.010. PMID:39326547; PMCI D:PMC11885033.
European Society of Cataract and Refractive Surgeons. ESCRS Cataract Surgery Guideline. 2024.
Vishwakarma P, Murthy SI, Joshi V, Mishra DK. Anterior segment optical coherence tomography and ultrasound biomicroscopy in the diagnosis of subconjunctival mycosis mimicking nodular scleritis. BMJ case reports. 2023;16(1). doi:10.1136/bcr-2022-253924. PMID:36653048; PMCI D:PMC9853128.
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