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その他

ステロイド薬の副作用と眼(Steroid Drug Side Effects on the Eye)

1. ステロイド薬の副作用と眼とは

Section titled “1. ステロイド薬の副作用と眼とは”

ステロイド薬(糖質コルチコイド)の使用による眼の副作用として、後囊下白内障(posterior subcapsular cataract;PSC)と眼圧上昇(ステロイド緑内障)が代表的である。全身投与・点眼・吸入・外用薬いずれの投与経路でも生じうる。

後囊下白内障は薬物による水晶体混濁のなかで最も頻度が高い。いったん発症すると比較的短期間で高度の視力障害を生じる。

ステロイドによる眼圧上昇には個人差がある。正常眼に対してステロイド点眼を行った場合、約35%が中等度の眼圧上昇(6〜15 mmHg)を示し、約5%が高度の眼圧上昇(15 mmHg以上)を示す1)開放隅角緑内障POAG)患者ではhigh responder率が46〜92%と著しく高い1)

吸入ステロイドによるPSCリスクについては、長期高用量使用でオッズ比(OR)1.3〜1.5の上昇が報告されている2)。経口ステロイドについても、長期使用で開放隅角緑内障のリスクが増加する3)

  • 後囊下白内障:薬物性水晶体混濁のなかで最多
  • ステロイド点眼による眼圧上昇:約35%が中等度、約5%が高度1)
  • 全投与経路でリスクあり(経口・点眼・吸入・外用・硝子体内注射
  • 吸入ステロイドでもPSCリスク上昇(OR 1.3〜1.5)2)
Q ステロイドを使うと必ず白内障や緑内障になるのか?
A

全員が発症するわけではない。発症リスクは投与量・期間・個人の感受性により大きく異なる。眼圧上昇は約35%に中等度(6〜15 mmHg)、約5%に高度(15 mmHg以上)の上昇がみられる。後囊下白内障はプレドニゾロン換算10 mg/日以下では比較的まれであるが、大量投与を1年以上継続すると発症しやすくなる。長期使用が見込まれる場合は定期的な眼科受診が推奨される。

後囊下白内障(PSC)の細隙灯顕微鏡像(右眼)
Chuang LH, et al. Ocular adnexal and ocular trauma imaging. Indian J Ophthalmol. 2009 Nov-Dec;57(6):470-472. Figure 1. PMCID: PMC2812771. License: CC BY.
細隙灯顕微鏡で右眼の後囊直下に生じた後囊下白内障(PSC)の混濁を示す。本文「主な症状と臨床所見」の項で扱うステロイド白内障の典型的な混濁パターンに対応する。

ステロイド薬による眼副作用は白内障緑内障で異なる症状・所見を示す。

ステロイド白内障(後囊下白内障)の所見

混濁パターン:視軸上の後囊直下に淡い点状混濁や空胞として発症する

進行様式:点状混濁が徐々に癒合し、境界明瞭で内部均一な皿状の後囊下混濁(PSC)となる

視機能障害の閾値:後囊下混濁の直径が2 mm以上になると視機能障害を生じ、手術が必要になることが多い

自覚症状羞明(グレア)・霧視視力低下が主体。PSCは瞳孔が縮小する明所で特に見えにくくなる特徴がある

ステロイド緑内障の所見

眼圧上昇:通常21 mmHg以上に上昇する

眼圧上昇の持続眼圧正常化までの期間は投与期間に比例する。トリアムシノロンによるものは9〜12か月間持続する

診断確定ステロイドの中止により眼圧が正常化すれば診断が確定する

進行所見眼圧上昇が持続すると緑内障性視野障害(弓状暗点・鼻側階段等)が生じる

Q ステロイド白内障はどのような見え方になるか?
A

後囊下の混濁により、明るい場所での羞明まぶしさ)や霧視(かすみ)が生じやすい。PSCは視軸の後囊直下に生じるため、瞳孔が縮む昼間や明所で視力が低下しやすく、夜間より日中に見えにくいという特徴的な訴えがみられる。混濁の直径が2 mm以上になると、日常生活に支障を生じる程度の視機能障害が起こることが多い。

投与経路主な薬剤・形態眼副作用リスク
全身投与(内服・静注)プレドニゾロン等最大。10 mg/日以上を1年以上で高リスク
点眼・眼軟膏デキサメタゾン・フルオロメトロン等眼圧上昇リスク高(薬剤力価に依存)
結膜下・Tenon囊下注射トリアムシノロン眼局所での眼圧上昇
硝子体内注射トリアムシノロン・デキサメタゾンインプラント近年増加。眼圧上昇が約30%5)
吸入喘息治療薬長期高用量でPSCリスク上昇(OR 1.3〜1.5)2)
鼻スプレー・皮膚外用各種ステロイド外用薬稀だが長期使用で報告あり3)

点眼での眼圧上昇作用は抗炎症作用に比例する。デキサメタゾン ≥ ベタメタゾン > フルオロメトロンの順に眼圧上昇作用が強く6)、用量依存性が認められる。

ステロイド緑内障のリスク因子

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  • 開放隅角緑内障の家族歴(特にPOAG1)
  • 強度近視1)
  • 1型糖尿病1)
  • 結合組織疾患(特に関節リウマチ)1)
  • 若年者(反応性がより顕著。基本的には誰にでも起こりうる)

ステロイド白内障のリスク因子

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  • 大量ステロイドを1年以上全身投与(プレドニゾロン換算10 mg/日以上)
  • 膠原病・関節リウマチ・ネフローゼ症候群・腎移植等の基礎疾患
  • 小児(成人に比べ発症しやすい)
  • 吸入ステロイドの長期高用量使用2)
ステロイド緑内障の眼底・OCT・視野所見(最高眼圧36 mmHg)
Lee KM, Kim M, Oh S, et al. Hemisphere opposite to vascular trunk deviation is earlier affected by glaucomatous damage in myopic high-tension glaucoma. PLoS One. 2020;15(5):e0233270. Figure 4. PMID: 32421695; PMCID: PMC7233594; DOI: 10.1371/journal.pone.0233270. License: CC BY.
最高眼圧36 mmHgを記録した緑内障症例の赤外眼底像・乳頭写真・OCT・Humphrey視野を示す複合画像。本文「診断と検査方法」の項で扱う視神経乳頭陥凹RNFL菲薄化・視野障害の評価に対応する。
  • 細隙灯顕微鏡検査:後囊直下の特徴的なPSC混濁(点状混濁・空胞・皿状混濁)を確認する
  • ステロイド使用歴と特徴的な混濁パターン(後囊下・境界明瞭・皿状)の一致で診断する
  • 眼圧測定ステロイド使用中の患者で高眼圧(21 mmHg以上)を認めた場合に本症を疑う
  • ステロイド中止後の眼圧正常化で確定診断とする
  • 隅角検査:開放隅角であることを確認する(閉塞隅角緑内障との鑑別)
  • 眼底検査OCT視神経乳頭陥凹の拡大・網膜神経線維層RNFL)菲薄化を評価する
  • 視野検査緑内障性視野障害(弓状暗点・鼻側階段等)の検出4)
投与経路・薬剤眼圧チェックのタイミング
ステロイド点眼(短期)開始後2〜4週4)
ステロイド点眼(長期)3か月ごと4)
トリアムシノロン硝子体内注射1〜2週後、以後定期的に5)
デキサメタゾンインプラント1〜2週後、以後定期的に5)
全身ステロイド長期投与初回投与後1か月、以後3〜6か月ごと
Q ステロイド点眼をどのくらい使うと眼圧が上がるか?
A

早ければ投与開始後1〜2週間で眼圧上昇を認めることがある。デキサメタゾンなどの強力なステロイドほど眼圧が上昇しやすく、定期的な眼圧チェックが必要である。投与開始後2〜4週での眼圧測定が推奨される。フルオロメトロンはデキサメタゾンやベタメタゾンと比較して眼圧上昇作用が弱く、眼圧上昇リスクの高い患者では代替薬として用いられる場合がある。

視軸上の後囊下に強い混濁が生じ、後囊下混濁の直径が2 mm以上になると視機能障害を生じ、手術が必要になることが多い。

  • 治療は超音波乳化吸引術(PEA)+眼内レンズ挿入(IOL)が標準術式である
  • ステロイドを継続中は混濁が進行するため、可能であれば投与量の減量・中止を検討する
  • 原疾患の管理上ステロイド継続が必要な場合は、白内障手術後も定期的な経過観察を行う

第一段階:ステロイドの減量・中止

可能な限りステロイドの減量・中止を図る。原疾患(膠原病・腎移植等)の状況により困難なこともある。眼圧上昇リスクの低い代替薬(フルオロメトロン点眼等)への変更を検討する6)

第二段階:眼圧降下薬による保存療法

視機能障害・眼圧レベルに応じて以下を適宜使用する:

  • プロスタグランジン(PG)製剤点眼
  • β遮断薬点眼
  • 炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)点眼
  • 炭酸脱水酵素阻害薬内服(アセタゾラミド):急性眼圧上昇時

トリアムシノロン残留の処置

硝子体内注射後に眼圧が持続上昇する場合は、硝子体内残留トリアムシノロンの除去(硝子体手術)、またはTenon囊下のトリアムシノロン塊の摘除が有効なこともある。

外科的治療

薬物コントロールが不良で視機能障害が進行しており、ステロイドの減量・中止による眼圧下降を待てない場合に手術を選択する。

  • 線維柱帯切開術トラベクロトミー)が第一選択として推奨される7)
    • 若年例が多いこと、合併症が少なく安全、術後管理が容易なことが理由である
  • 線維柱帯切除術トラベクレクトミー)は若年者では瘢痕化リスクが高いため次善の選択となる7)
Q ステロイド緑内障は治るか?
A

ステロイドの中止により多くの場合眼圧は正常化する。ただしトリアムシノロン硝子体内注射後の眼圧上昇は9〜12か月持続することがある。長期間高眼圧が続いた場合、視神経・視野への障害は不可逆性となるため、早期対応が重要である。薬物治療で眼圧コントロールが不良な場合は線維柱帯切開術が有効であり、若年例では特に良好な成績が報告されている。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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ステロイド線維柱帯房水の排出路)の細胞に直接作用し、複数の機序で房水流出抵抗を増大させる。

  • 線維柱帯細胞の細胞外マトリクス(コラーゲン・グリコサミノグリカン・フィブロネクチン等)産生が増加し、メッシュ構造が狭小化する8)
  • 線維柱帯細胞の貪食能(デブリの除去機能)が低下し、メッシュに異物が蓄積する8)
  • ミオシリン(MYOC)遺伝子発現がステロイドにより誘導され、線維柱帯内に異常タンパク質が蓄積する8)
  • これらの変化が積み重なって房水流出抵抗が増大し、眼圧が上昇する

以上の機序は、原発開放隅角緑内障POAG)のそれと類似しており、POAG患者がステロイドに対してhigh responderとなりやすい理由の一つと考えられている。

ステロイドによる水晶体障害は多因子性である。

  • ステロイドによる代謝異常・膜機能異常・酸化障害が水晶体透明性を損なう9)
  • タンパク質付加物(protein adduct)の形成・グルコルチコイド受容体を介する機序が関与する9)
  • 水晶体上皮細胞の細胞接着分子の異常が生じる
  • Na-K ATPase(ナトリウム・カリウムポンプ)の活性低下により水晶体内イオン・水分バランスが破綻し、後囊下に混濁が生じる9)

小児でステロイド白内障が生じやすい理由は、成長期の水晶体上皮細胞がステロイドの作用を受けやすいためと考えられている。

  • 選択的グルコルチコイド受容体調節薬(SEGRMs)の開発:副作用を軽減しつつ抗炎症作用を維持する薬剤の研究が進んでいる10)
  • デキサメタゾン徐放型インプラント(硝子体内)の眼圧管理眼圧上昇が投与後約30%に生じるが、多くは点眼でコントロール可能であることが示されている5)
  • MIGS低侵襲緑内障手術)の一般的進歩iStent、Trabectome、HydrusGATTなど、低侵襲に眼圧を下げる新世代手術が研究されている11)
  • 遺伝子多型とステロイド感受性:MYOC遺伝子・グルコルチコイド受容体(GR)遺伝子の多型とhigh responderとの関連が研究されており、将来的な個別化予測が期待される8)
  • ステロイド代替療法による眼副作用軽減:免疫抑制薬(シクロスポリン・タクロリムス等)への早期切替により、ステロイド投与量を削減し眼副作用を軽減できる可能性が報告されている12)
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