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神経眼科

視神経脊髄炎(NMOSD)

視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)は、中枢神経系を侵す炎症性・抗体介在性・自己免疫疾患である。以前は「デビック病」とも呼ばれ、長年にわたり多発性硬化症(MS)の亜型と見なされてきた。しかし2004年にアクアポリン4(AQP4)に対する自己抗体(AQP4-IgG)が発見されたことで、独立した疾患単位として確立した。

歴史的背景として、1870年にSir Thomas Clifford Allbuttが脊髄炎と視神経障害の関連性を初めて記述した。その後の研究でMSとは異なる疾患と認識され、現在では「NMOSD」という包括的概念で捉えられている。

疫学は以下の通りである。

  • 発生率:AQP4+NMOSDの推定年間発生率は0.4〜7.3/百万人1)
  • 性差:男女比は約1:9と女性に著しく偏る
  • 発症年齢:主に中年(40〜60歳)に好発。本邦では30歳代後半〜40歳代前半にピーク
  • 人種:アフリカ系・アジア系に多い傾向1)
  • 妊娠との関連:女性の約20〜47%が妊娠中または出産・流産から1年以内に初発する
Q NMOSDと多発性硬化症(MS)はどう違いますか?
A

NMOSDはアストロサイトのAQP4水チャネルを標的とする抗体介在性疾患であり、病態・治療・予後がMSとは根本的に異なる。NMOSDではLETMや重症視神経炎が典型的であり、MSに有効なインターフェロンβなどの疾患修飾薬がNMOSDの再発を誘発する可能性がある点も重要な違いである。

NMOSDの症状は侵される部位によって多様である。

  • 急激な視力低下:主要症状のひとつ。ステロイド治療への抵抗性が特徴的である
  • 眼痛:視神経炎に伴い、約半数の症例に認められる
  • 色覚異常:赤色飽和度の低下が典型的
  • 視野障害中心暗点にとどまらず、水平半盲・両耳側半盲同名半盲をきたすこともある。視交叉・視索にまで病変が及ぶためである
  • 感覚障害・対麻痺:脊髄炎による運動・感覚障害
  • 膀胱直腸障害:脊髄炎に伴う自律神経障害
  • 難治性吃逆・悪心嘔吐:最後野(area postrema)の病変による特徴的症状
  • 眼球運動障害:脳幹病変によるもの
  • 過眠症(ナルコレプシー様):間脳・視床下部病変による

発症初期にインフルエンザ様症状(発熱・筋肉痛・頭痛)を呈することがある。

視神経炎

視神経乳頭浮腫:急性期に認められ、後に視神経萎縮へ移行する。

RAPD(相対的瞳孔反応欠損):片側性または両側性に認める。

両側同時性:NMOSDの視神経炎は17〜82%が両側同時性。MSとの重要な違い。

重篤な視力低下:AQP4+NMOSDでは最低視力の中央値が手動弁(HM)レベル。回復後も指数弁が中央値で、60〜69%が少なくとも片眼で20/200以下の永続的視力障害を残す。

脊髄炎

LETM(長大横断性脊髄炎):3椎体以上にわたる連続病変。AQP4+NMOSDの約85%が急性脊髄炎時に示す。

完全脊髄症候群:運動・感覚・自律神経の3経路すべてを巻き込む。

重度の機能障害:30%以上の患者が発作の最低点で車椅子依存。AQP4+NMOSDの37〜44%が最終的に歩行補助具を必要とする。

最後野症候群

難治性吃逆:数日〜数週間持続し、通常の制吐薬に反応しない。

悪心・嘔吐:最後野が血液脳関門を欠くため、AQP4-IgGが直接到達しやすい部位であることが背景にある。

NMOSDの診断核心所見:説明のつかない難治性吃逆はNMOSDを積極的に疑う契機となる。

Q NMOSDの視神経炎はMS関連のものとどう違いますか?
A

NMOSDの視神経炎はより重症・両側性・再発性であり、視力予後が不良である。AQP4+NMOSDでは60〜69%が少なくとも片眼で20/200以下の永続的視力障害を残すとされている。また視交叉を巻き込みやすく、両耳側半盲など多様な視野障害をきたす点もMSとの違いである。

NMOSDの正確な病因は完全には解明されていない。自己免疫寛容の喪失が根本にあると考えられている。

主なリスク要因は以下の通りである。

  • 女性:男女比約1:9と圧倒的に女性に多い
  • 人種:アジア系・アフリカ系で発症リスクが高い
  • 自己免疫疾患の合併全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群重症筋無力症など
    • NMOSDの10〜30%にシェーグレン症候群が合併する。小児例でも報告されている5)
    • 重症筋無力症との合併は2〜3%に認められる1)
  • 悪性腫瘍(傍腫瘍性NMOSD):NMOSDの3〜5%が傍腫瘍性と推定される2)3)
    • 乳癌・肺癌・卵巣奇形腫などが報告されている3)
    • 腫瘍内のAQP4発現が自己免疫反応を誘発するという機序が提唱されている2)
    • 奇形腫関連NMOSDは若年女性(平均32.7歳)に多い2)

診断基準(2015年国際コンセンサス)

Section titled “診断基準(2015年国際コンセンサス)”

AQP4-IgG陽性NMOSDの診断基準は以下の3項目を満たすことである。

  1. 少なくとも1つの主要臨床的特徴
  2. AQP4-IgG陽性(最善の検出法使用)
  3. 他の診断の除外

AQP4-IgG陰性または未検査のNMOSDの診断基準は以下の4項目を満たすことである。

  1. 少なくとも2つの主要臨床的特徴(うち1つは視神経炎・LETM・または最後野症候群)
  2. 空間的多発性
  3. 追加MRI要件を満たす
  4. 他の診断の除外

**主要臨床的特徴(6項目)**は以下の通りである。

  • 視神経炎
  • 急性脊髄炎
  • 最後野症候群(難治性吃逆・悪心嘔吐)
  • 急性脳幹症候群
  • 症候性ナルコレプシー/急性間脳症候群
  • 症候性大脳症候群

以下の表に主要な抗体検査法の比較を示す。

検査法感度特異度備考
CBA(細胞ベースアッセイ)69.7〜100%85.8〜100%推奨法
ELISA法CBAよりやや劣るCBAよりやや劣る日本で保険収載
  • AQP4-IgG:NMOSDに疾患特異的。急性発作時・免疫抑制療法開始前の測定が推奨される1)
  • CBA(細胞ベースアッセイ):現在の推奨検出法。ELISAの偽陽性率はCBAの5倍とされる1)
  • MOG-IgG:AQP4-IgG陰性NMOSDの約30%で陽性1)
  • CSFオリゴクローナルバンド(OCB):NMOSDでは10〜20%と低率(MSでは88%)。陰性はNMOSDを示唆する1)
  • CSF白血球数:50/μL超・好中球・好酸球の存在はNMOSDをMSから区別する手がかりとなる
  • 脊髄MRI:LETMが最も特徴的。中央灰白質優位。脊髄腫脹・T1低信号・Gd造影効果を伴う。AQP4+NMOSDの約85%が急性脊髄炎時にLETMを呈する1)
  • 視神経MRI:脂肪抑制画像が必須。両側性・長範囲の炎症(50%以上)が特徴。後方部分・視交叉の関与がAQP4+NMOSDに特徴的1)
  • 脳MRI:最後野病変・第4脳室周囲脳幹病変・視床下部/第3脳室周囲病変・広範白質病変などを認める
  • NMOSDの特徴:MSとは異なり、無症候性の新規T2病変は稀(3〜13%)。サーベイランスMRIは通常不要1)
  • 多発性硬化症(MS)
  • MOG抗体関連疾患(MOGAD)
  • 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)
  • 全身性エリテマトーデス
  • 神経ベーチェット病
  • 高齢者では虚血性視神経症・頸椎症性脊髄症・脊髄梗塞・原発性CNSリンパ腫との鑑別が重要
Q AQP4抗体が陰性でもNMOSDと診断されることはありますか?
A

ある。AQP4-IgG陰性または未検査の場合でも、主要臨床的特徴2つ以上を満たし、追加MRI要件を充足し、他疾患を除外できればNMOSDと診断される。また、AQP4-IgG陰性例の約30%ではMOG-IgGが陽性であり、両抗体の測定が推奨される。AQP4-IgG陰性例のうち後にセロコンバートするのは1%未満とされている。

第一選択:ステロイドパルス療法

  • メチルプレドニゾロン1,000mg/日の点滴静注を3日間施行する
  • 視力改善がなければ中3〜4日あけて再度1クール施行を検討する
  • NMOSDの視神経炎はステロイドへの抵抗性が高いため、反応不十分な場合は早期に次の治療を考慮する

第二選択:血漿交換療法

ステロイドパルスに反応しない場合に実施する。以下の方法が選択肢となる。

  • 単純血漿交換療法(PE):効果は最も高いが生体へのダメージも最大
  • 二重膜濾過血漿交換療法(DFPP)
  • 免疫吸着療法(IA):抗体選択的除去が可能

効果の順は単純血漿交換 > 二重膜濾過 > 免疫吸着とされる。1クール5〜6回施行し、治療後は体内IgG量の回復まで入院管理が必要である。なお「視神経炎」に対しては保険適用外となる場合があり、患者への説明が必要である。

AQP4+NMOSDでは初回発作後から維持治療を早期開始すべきとされる1)。日本では血漿交換後にプレドニゾロン5〜10mg/日+アザチオプリン50〜100mg/日への移行が一般的である。

エビデンスレベルの高い生物学的製剤は以下の通りである。

補体阻害薬

  • エクリズマブ:900mg IV 毎週×4回→1,200mg 2週間ごとの維持投与1)
  • ラブリズマブ:体重ベースの負荷量(2,400〜3,000mg)→15日目以降3,000〜3,600mg を8週ごと1)

B細胞除去療法

  • リツキシマブ:375mg/m² IV 毎週×4回、または1,000mg×2回(2週間隔)→6か月ごとに1,000mg×2回1)
  • イネビリズマブ:300mg IV 15日ごとに2回→6か月ごと1)

IL-6受容体阻害薬

  • サトラリズマブ:120mg 皮下注射、4週間ごと1)
Q ステロイドパルス療法が効かない場合はどうしますか?
A

血漿交換療法が次の選択肢となる。単純血漿交換・二重膜濾過血漿交換・免疫吸着の3種類から選択する。単純血漿交換が最も効果が高いとされるが生体への負担も大きい。1クール5〜6回施行し、治療後は入院管理が必要となる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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NMOSDは本質的にはアストロサイト病(astrocytopathy)である。発症機序は以下の通りである。

抗体産生と血液脳関門(BBB)通過

末梢でB細胞がAQP4-IgG分泌プラスマブラストに分化する。IL-6はこの分化を促進し、BBBの透過性を亢進させる。最後野はBBBを欠く領域であり、AQP4-IgGがCNSへ侵入する経路となりうる。

アストロサイト障害の連鎖

アストロサイト足突起に高密度に発現するAQP4水チャネルにAQP4-IgGが結合し、以下の経路でアストロサイト傷害が生じる。

  1. 補体古典経路の活性化:AQP4-IgGのFc部分が補体を活性化し、膜傷害複合体(MAC)を形成してアストロサイトを直接傷害する
  2. ADCC(抗体依存性細胞傷害)NK細胞や好中球がアストロサイトをFcγ受容体を介して傷害する
  3. C5aアナフィラトキシン放出:顆粒球(好中球・好酸球)を動員し、二次的な軸索損傷と脱髄を引き起こす1)

MSとの病理的差異

MSではCD8+ T細胞が中心的役割を担う白質中心の脱髄が主体であるが、NMOSDではCD4+ T細胞の関与が大きく、灰白質・白質の両方に及ぶ壊死性病変を形成する。

分布の理由

AQP4チャネルは視神経・最後野・脊髄に多く分布しており、これらの領域が選択的に標的となる。

バイオマーカー

  • 血清GFAP:アストロサイト障害を反映し、発作時に高値となる
  • 血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL):軸索損傷を反映し、発作の重症度と相関する1)

関与するサイトカインとして IL-6・IL-10・IL-17a・G-CSF・TNF-α・BAFF/APRIL が報告されている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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傍腫瘍性NMOSDの機序解明と腫瘍スクリーニング

Section titled “傍腫瘍性NMOSDの機序解明と腫瘍スクリーニング”

NMOSDの3〜5%が傍腫瘍性と推定される。卵巣奇形腫との関連例が特に詳しく研究されている。

Ikeguchiら(2021)は卵巣奇形腫関連AQP4+NMOSDの6例レビューを実施した2)。全例女性、平均発症年齢32.7歳(15〜50歳)。6例のうち83%(5/6例)が悪心・嘔吐を呈し、83%でCSFオリゴクローナルバンド陽性、83%に背側脳幹病変を認めた。病理解析では腫瘍内のGFAP陽性神経組織にAQP4免疫反応性とリンパ球浸潤が確認され、腫瘍内でのAQP4抗原提示が自己免疫反応を惹起する機序が示唆された。腫瘍摘出後には60%(3/5例)でAQP4-IgGが陰転化した。

Dingら(2021)は43例の傍腫瘍性NMOSDのレビューを実施した3)。88.4%が女性で、乳癌と肺癌が最多の腫瘍型であった。特に50歳以上のNMOSD患者では腫瘍スクリーニングの重要性が強調されている。

若年例であっても奇形腫を含む腫瘍のスクリーニングが推奨される。

ステロイド・血漿交換・リツキシマブなどに不応性の難治性NMOSDに対して、Protein-A免疫吸着療法(IA)の有効性が報告されている。

Fanら(2024)は、ステロイドパルスおよびIVIGに反応しない難治性シェーグレン症候群合併NMOSDの35歳女性に対し、Protein-A免疫吸着療法3セッションを実施した4)。1週間以内に視力障害・対麻痺・固有感覚障害が著明に改善し、AQP4-IgG・IgA・IgG・IgMの急速な低下が確認された。4年間の経過観察で再発・進行は認めていない。

自己免疫疾患との合併例の特徴

Section titled “自己免疫疾患との合併例の特徴”

NMOSDへの各種自己免疫疾患合併の実態が明らかになりつつある。

Zhuら(2025)は、11歳時にNMOSDを発症した14歳女児の症例を報告した5)。AQP4-IgG陽性で、経過中に原発性シェーグレン症候群の合併が確認された。メチルプレドニゾロン・IVIG・ミコフェノール酸モフェチル(MMF)→タクロリムスへの変更により寛解を維持している。成人NMOSD症例の20〜30%に自己免疫疾患合併が報告されているが、小児例での合併も存在することが示された5)


  1. Cacciaguerra L, Flanagan EP. Updates in NMOSD and MOGAD Diagnosis and Treatment. Neurol Clin. 2024;42(1):77-114.
  2. Ikeguchi R, Shimizu Y, Shimomura A, et al. Paraneoplastic AQP4-IgG-Seropositive Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder Associated With Teratoma: A Case Report and Literature Review. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2021;8(5):e1045.
  3. Ding M, Lang Y, Cui L. AQP4-IgG positive paraneoplastic NMOSD: A case report and review. Brain Behav. 2021;11(9):e2282.
  4. Fan W, Chen X, Xiao P, et al. Protein-A immunoadsorption combined with immunosuppressive treatment in refractory primary Sjögren’s syndrome coexisting with NMOSD: a case report and literature review. Front Immunol. 2024;15:1429405.
  5. Zhu G-q, Hu R-x, Peng Y, et al. A Chinese girl with neuromyelitis optica spectrum disorder coexisting with primary Sjogren’s syndrome: a case report and literature review. Front Immunol. 2025;16:1559825.

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