この疾患の要点
視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)は、主にアクアポリン4(AQP4)抗体が介在する中枢神経系の自己免疫疾患である。
視神経炎 と脊髄炎を主徴とし、女性(男女比 約1:9)・中年・アジア系に好発する。
NMOSDの視神経炎はMS 関連に比べて重症・両側性・再発性であり、少なくとも片眼で20/200以下の永続的視力 障害をきたす割合が60〜69%に上る。
脊髄炎では3椎体以上にわたる長大横断性脊髄炎(LETM)が特徴的で、完全脊髄症候群(運動・感覚・自律神経障害)を呈する。
診断にはAQP4-IgG測定(細胞ベースアッセイが推奨)とMRIが中心的役割を担う。
急性期はステロイド パルス、反応不十分例には血漿交換療法 が次の選択肢となる。
再発予防には補体 阻害薬(エクリズマブ)、B細胞除去療法(リツキシマブ )、IL-6受容体阻害薬(サトラリズマブ)などが用いられ、初回発作後から早期開始が推奨される。
視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)は、中枢神経系を侵す炎症性・抗体介在性・自己免疫疾患である。以前は「デビック病」とも呼ばれ、長年にわたり多発性硬化症(MS)の亜型と見なされてきた。しかし2004年にアクアポリン4(AQP4)に対する自己抗体(AQP4-IgG)が発見されたことで、独立した疾患単位として確立した。
歴史的背景 として、1870年にSir Thomas Clifford Allbuttが脊髄炎と視神経 障害の関連性を初めて記述した。その後の研究でMSとは異なる疾患と認識され、現在では「NMOSD」という包括的概念で捉えられている。
疫学 は以下の通りである。
発生率 :AQP4+NMOSDの推定年間発生率は0.4〜7.3/百万人1)
性差 :男女比は約1:9と女性に著しく偏る
発症年齢 :主に中年(40〜60歳)に好発。本邦では30歳代後半〜40歳代前半にピーク
人種 :アフリカ系・アジア系に多い傾向1)
妊娠との関連 :女性の約20〜47%が妊娠中または出産・流産から1年以内に初発する
Q NMOSDと多発性硬化症(MS)はどう違いますか?
A NMOSDはアストロサイトのAQP4水チャネルを標的とする抗体介在性疾患であり、病態・治療・予後がMSとは根本的に異なる。NMOSDではLETMや重症視神経炎が典型的であり、MSに有効なインターフェロンβなどの疾患修飾薬がNMOSDの再発を誘発する可能性がある点も重要な違いである。
NMOSDの症状は侵される部位によって多様である。
急激な視力低下 :主要症状のひとつ。ステロイド治療への抵抗性が特徴的である
眼痛 :視神経炎に伴い、約半数の症例に認められる
色覚異常 :赤色飽和度の低下が典型的
視野障害 :中心暗点 にとどまらず、水平半盲・両耳側半盲 ・同名半盲 をきたすこともある。視交叉 ・視索にまで病変が及ぶためである
感覚障害・対麻痺 :脊髄炎による運動・感覚障害
膀胱直腸障害 :脊髄炎に伴う自律神経障害
難治性吃逆・悪心嘔吐 :最後野(area postrema)の病変による特徴的症状
眼球運動障害 :脳幹病変によるもの
過眠症(ナルコレプシー様) :間脳・視床下部病変による
発症初期にインフルエンザ様症状(発熱・筋肉痛・頭痛)を呈することがある。
視神経炎
視神経乳頭浮腫 :急性期に認められ、後に視神経萎縮 へ移行する。
RAPD (相対的瞳孔 反応欠損) :片側性または両側性に認める。
両側同時性 :NMOSDの視神経炎は17〜82%が両側同時性。MSとの重要な違い。
重篤な視力低下 :AQP4+NMOSDでは最低視力の中央値が手動弁(HM)レベル。回復後も指数弁が中央値で、60〜69%が少なくとも片眼で20/200以下の永続的視力障害を残す。
脊髄炎
LETM(長大横断性脊髄炎) :3椎体以上にわたる連続病変。AQP4+NMOSDの約85%が急性脊髄炎時に示す。
完全脊髄症候群 :運動・感覚・自律神経の3経路すべてを巻き込む。
重度の機能障害 :30%以上の患者が発作の最低点で車椅子依存。AQP4+NMOSDの37〜44%が最終的に歩行補助具を必要とする。
最後野症候群
難治性吃逆 :数日〜数週間持続し、通常の制吐薬に反応しない。
悪心・嘔吐 :最後野が血液脳関門を欠くため、AQP4-IgGが直接到達しやすい部位であることが背景にある。
NMOSDの診断核心所見 :説明のつかない難治性吃逆はNMOSDを積極的に疑う契機となる。
Q NMOSDの視神経炎はMS関連のものとどう違いますか?
A NMOSDの視神経炎はより重症・両側性・再発性であり、視力予後が不良である。AQP4+NMOSDでは60〜69%が少なくとも片眼で20/200以下の永続的視力障害を残すとされている。また視交叉を巻き込みやすく、両耳側半盲など多様な視野障害をきたす点もMSとの違いである。
NMOSDの正確な病因は完全には解明されていない。自己免疫寛容の喪失が根本にあると考えられている。
主なリスク要因 は以下の通りである。
女性 :男女比約1:9と圧倒的に女性に多い
人種 :アジア系・アフリカ系で発症リスクが高い
自己免疫疾患の合併 :全身性エリテマトーデス (SLE)、シェーグレン症候群 、重症筋無力症 など
NMOSDの10〜30%にシェーグレン症候群が合併する。小児例でも報告されている5)
重症筋無力症との合併は2〜3%に認められる1)
悪性腫瘍(傍腫瘍性NMOSD) :NMOSDの3〜5%が傍腫瘍性と推定される2) 3)
乳癌・肺癌・卵巣奇形腫などが報告されている3)
腫瘍内のAQP4発現が自己免疫反応を誘発するという機序が提唱されている2)
奇形腫関連NMOSDは若年女性(平均32.7歳)に多い2)
AQP4-IgG陽性NMOSDの診断基準 は以下の3項目を満たすことである。
少なくとも1つの主要臨床的特徴
AQP4-IgG陽性(最善の検出法使用)
他の診断の除外
AQP4-IgG陰性または未検査のNMOSDの診断基準 は以下の4項目を満たすことである。
少なくとも2つの主要臨床的特徴(うち1つは視神経炎・LETM・または最後野症候群)
空間的多発性
追加MRI要件を満たす
他の診断の除外
**主要臨床的特徴(6項目)**は以下の通りである。
視神経炎
急性脊髄炎
最後野症候群(難治性吃逆・悪心嘔吐)
急性脳幹症候群
症候性ナルコレプシー/急性間脳症候群
症候性大脳症候群
以下の表に主要な抗体検査法の比較を示す。
検査法 感度 特異度 備考 CBA(細胞ベースアッセイ) 69.7〜100% 85.8〜100% 推奨法 ELISA法 CBAよりやや劣る CBAよりやや劣る 日本で保険収載
AQP4-IgG :NMOSDに疾患特異的。急性発作時・免疫抑制療法 開始前の測定が推奨される1)
CBA(細胞ベースアッセイ) :現在の推奨検出法。ELISAの偽陽性率はCBAの5倍とされる1)
MOG-IgG :AQP4-IgG陰性NMOSDの約30%で陽性1)
CSFオリゴクローナルバンド(OCB) :NMOSDでは10〜20%と低率(MSでは88%)。陰性はNMOSDを示唆する1)
CSF白血球数 :50/μL超・好中球・好酸球の存在はNMOSDをMSから区別する手がかりとなる
脊髄MRI :LETMが最も特徴的。中央灰白質優位。脊髄腫脹・T1低信号・Gd造影効果を伴う。AQP4+NMOSDの約85%が急性脊髄炎時にLETMを呈する1)
視神経MRI :脂肪抑制画像が必須。両側性・長範囲の炎症(50%以上)が特徴。後方部分・視交叉の関与がAQP4+NMOSDに特徴的1)
脳MRI :最後野病変・第4脳室周囲脳幹病変・視床下部/第3脳室周囲病変・広範白質病変などを認める
NMOSDの特徴 :MSとは異なり、無症候性の新規T2病変は稀(3〜13%)。サーベイランスMRIは通常不要1)
多発性硬化症(MS)
MOG抗体 関連疾患(MOGAD)
急性散在性脳脊髄炎 (ADEM)
全身性エリテマトーデス
神経ベーチェット病
高齢者では虚血性視神経症・頸椎症性脊髄症・脊髄梗塞・原発性CNSリンパ腫との鑑別が重要
Q AQP4抗体が陰性でもNMOSDと診断されることはありますか?
A ある。AQP4-IgG陰性または未検査の場合でも、主要臨床的特徴2つ以上を満たし、追加MRI要件を充足し、他疾患を除外できればNMOSDと診断される。また、AQP4-IgG陰性例の約30%ではMOG-IgGが陽性であり、両抗体の測定が推奨される。AQP4-IgG陰性例のうち後にセロコンバートするのは1%未満とされている。
第一選択:ステロイドパルス療法
メチルプレドニゾロン1,000mg/日の点滴静注を3日間施行する
視力改善がなければ中3〜4日あけて再度1クール施行を検討する
NMOSDの視神経炎はステロイドへの抵抗性が高いため、反応不十分な場合は早期に次の治療を考慮する
第二選択:血漿交換療法
ステロイドパルスに反応しない場合に実施する。以下の方法が選択肢となる。
単純血漿交換療法(PE) :効果は最も高いが生体へのダメージも最大
二重膜濾過血漿交換療法(DFPP)
免疫吸着療法(IA) :抗体選択的除去が可能
効果の順は単純血漿交換 > 二重膜濾過 > 免疫吸着とされる。1クール5〜6回施行し、治療後は体内IgG量の回復まで入院管理が必要である。なお「視神経炎」に対しては保険適用外となる場合があり、患者への説明が必要である。
AQP4+NMOSDでは初回発作後から維持治療を早期開始すべきとされる1) 。日本では血漿交換後にプレドニゾロン5〜10mg/日+アザチオプリン 50〜100mg/日への移行が一般的である。
エビデンスレベルの高い生物学的製剤 は以下の通りである。
補体阻害薬
エクリズマブ :900mg IV 毎週×4回→1,200mg 2週間ごとの維持投与1)
ラブリズマブ :体重ベースの負荷量(2,400〜3,000mg)→15日目以降3,000〜3,600mg を8週ごと1)
B細胞除去療法
リツキシマブ :375mg/m² IV 毎週×4回、または1,000mg×2回(2週間隔)→6か月ごとに1,000mg×2回1)
イネビリズマブ :300mg IV 15日ごとに2回→6か月ごと1)
IL-6受容体阻害薬
サトラリズマブ :120mg 皮下注射、4週間ごと1)
治療における注意点
MSに使用されるインターフェロンβ・ナタリズマブ・フィンゴリモドはNMOSDの再発を誘発・悪化させる可能性があり、禁忌に準じて扱う。
再発予防薬は長期にわたる継続が必要であり、自己判断で中止しない。
血漿交換療法は視神経炎に対しては保険適用外の場合があるため、事前に医療機関に確認が必要である。
Q ステロイドパルス療法が効かない場合はどうしますか?
A 血漿交換療法が次の選択肢となる。単純血漿交換・二重膜濾過血漿交換・免疫吸着の3種類から選択する。単純血漿交換が最も効果が高いとされるが生体への負担も大きい。1クール5〜6回施行し、治療後は入院管理が必要となる。
NMOSDは本質的にはアストロサイト病(astrocytopathy)である。発症機序は以下の通りである。
抗体産生と血液脳関門(BBB)通過
末梢でB細胞がAQP4-IgG分泌プラスマブラストに分化する。IL-6はこの分化を促進し、BBBの透過性を亢進させる。最後野はBBBを欠く領域であり、AQP4-IgGがCNSへ侵入する経路となりうる。
アストロサイト障害の連鎖
アストロサイト足突起に高密度に発現するAQP4水チャネルにAQP4-IgGが結合し、以下の経路でアストロサイト傷害が生じる。
補体古典経路の活性化 :AQP4-IgGのFc部分が補体を活性化し、膜傷害複合体(MAC)を形成してアストロサイトを直接傷害する
ADCC(抗体依存性細胞傷害) :NK 細胞や好中球がアストロサイトをFcγ受容体を介して傷害する
C5aアナフィラトキシン放出 :顆粒球(好中球・好酸球)を動員し、二次的な軸索損傷と脱髄を引き起こす1)
MSとの病理的差異
MSではCD8+ T細胞が中心的役割を担う白質中心の脱髄が主体であるが、NMOSDではCD4+ T細胞の関与が大きく、灰白質・白質の両方に及ぶ壊死性病変を形成する。
分布の理由
AQP4チャネルは視神経・最後野・脊髄に多く分布しており、これらの領域が選択的に標的となる。
バイオマーカー
血清GFA P :アストロサイト障害を反映し、発作時に高値となる
血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL) :軸索損傷を反映し、発作の重症度と相関する1)
関与するサイトカインとして IL-6・IL-10・IL-17a・G-CSF・TNF -α・BAFF/APRIL が報告されている。
NMOSDの3〜5%が傍腫瘍性と推定される。卵巣奇形腫との関連例が特に詳しく研究されている。
Ikeguchiら(2021)は卵巣奇形腫関連AQP4+NMOSDの6例レビューを実施した2) 。全例女性、平均発症年齢32.7歳(15〜50歳)。6例のうち83%(5/6例)が悪心・嘔吐を呈し、83%でCSFオリゴクローナルバンド陽性、83%に背側脳幹病変を認めた。病理解析では腫瘍内のGFAP陽性神経組織にAQP4免疫反応性とリンパ球浸潤が確認され、腫瘍内でのAQP4抗原提示が自己免疫反応を惹起する機序が示唆された。腫瘍摘出後には60%(3/5例)でAQP4-IgGが陰転化した。
Dingら(2021)は43例の傍腫瘍性NMOSDのレビューを実施した3) 。88.4%が女性で、乳癌と肺癌が最多の腫瘍型であった。特に50歳以上のNMOSD患者では腫瘍スクリーニングの重要性が強調されている。
若年例であっても奇形腫を含む腫瘍のスクリーニングが推奨される。
ステロイド・血漿交換・リツキシマブなどに不応性の難治性NMOSDに対して、Protein-A免疫吸着療法(IA)の有効性が報告されている。
Fanら(2024)は、ステロイドパルスおよびIVI Gに反応しない難治性シェーグレン症候群合併NMOSDの35歳女性に対し、Protein-A免疫吸着療法3セッションを実施した4) 。1週間以内に視力障害・対麻痺・固有感覚障害が著明に改善し、AQP4-IgG・IgA・IgG・IgMの急速な低下が確認された。4年間の経過観察で再発・進行は認めていない。
NMOSDへの各種自己免疫疾患合併の実態が明らかになりつつある。
Zhuら(2025)は、11歳時にNMOSDを発症した14歳女児の症例を報告した5) 。AQP4-IgG陽性で、経過中に原発性シェーグレン症候群の合併が確認された。メチルプレドニゾロン・IVIG・ミコフェノール酸モフェチル (MMF)→タクロリムスへの変更により寛解を維持している。成人NMOSD症例の20〜30%に自己免疫疾患合併が報告されているが、小児例での合併も存在することが示された5) 。
Cacciaguerra L, Flanagan EP. Updates in NMOSD and MOGAD Diagnosis and Treatment. Neurol Clin. 2024;42(1):77-114.
Ikeguchi R, Shimizu Y, Shimomura A, et al. Paraneoplastic AQP4-IgG-Seropositive Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder Associated With Teratoma: A Case Report and Literature Review. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2021;8(5):e1045.
Ding M, Lang Y, Cui L. AQP4-IgG positive paraneoplastic NMOSD: A case report and review. Brain Behav. 2021;11(9):e2282.
Fan W, Chen X, Xiao P, et al. Protein-A immunoadsorption combined with immunosuppressive treatment in refractory primary Sjögren’s syndrome coexisting with NMOSD: a case report and literature review. Front Immunol. 2024;15:1429405.
Zhu G-q, Hu R-x, Peng Y, et al. A Chinese girl with neuromyelitis optica spectrum disorder coexisting with primary Sjogren’s syndrome: a case report and literature review. Front Immunol. 2025;16:1559825.
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