この疾患の要点
虹彩修復術は先天性虹彩 コロボーマ ・外傷・白内障 手術後の虹彩 損傷を自己虹彩 縫合・形成術で修復する術式の総称である。
主な術式は縫合材料にプロリン(ポリプロピレン)糸を使用し、虹彩 伸展→通糸→結紮の3ステップで施行する。
代表的結紮法はSiepser slipknot法2) ・McCannel法3) ・SFT(single-pass four-throw)法4) の3種類。
虹彩 組織が十分残存する場合は虹彩 縫合術が選択される。広範囲損傷・虹彩 萎縮例は人工虹彩デバイス の適応となる。
虹彩 付きIOL ・人工虹彩 は現時点で日本では薬事承認がなく、虹彩 縫合術は特別な器具を必要とせず選択しやすい方法である。
目標瞳孔 径は、羞明 ・グレアを抑えつつ眼底観察を妨げない範囲に設定する。瞳孔 が大きすぎると高次収差やコントラスト低下が問題になりやすい5) 。
IFIS (術中虹彩緊張低下症候群 )によるα₁遮断薬誘発性の虹彩 萎縮変性は不可逆的であり、術前の休薬でも予防できない。
虹彩修復術(iris repair surgery)は、先天性または外傷・手術後に生じた虹彩 欠損・虹彩 損傷を外科的に修復する術式の総称である。本記事では、患者自身の虹彩 組織を温存した縫合・形成術(pupilloplasty, iridoplasty)に焦点を当てる。
虹彩修復術と人工虹彩デバイス の適応は虹彩 組織の残存量・質によって分岐する。虹彩 組織が十分残存する場合は自己虹彩 縫合術が選択され、広範囲の虹彩 損傷や虹彩 が萎縮して縫合不能な場合は人工虹彩デバイス (別記事参照)の適応となる。虹彩 付きIOL ・人工虹彩 は現時点で日本では薬事承認がなく、特別な器具を必要としない虹彩 縫合による瞳孔 形成は比較的選択しやすい術式である。
虹彩 損傷の部位別分類(AAO PPP)1) :
瞳孔 縁部(sphincter damage) : 散瞳 固定・不整瞳孔
中間部(mid-peripheral defects) : 括約筋より周辺だが根部には達しない欠損
根部(iridodialysis ) : 虹彩 根部からの離断
独立した疫学データは存在しない。白内障 手術は年間約160万眼(日本)施行され、虹彩 損傷合併症の正確な頻度は不明だが、IFIS の有病率は全白内障 手術の約1〜2%と報告されている。
Q
虹彩修復術と人工虹彩デバイスの違いは何ですか?
A
虹彩修復術は患者自身の残存虹彩 組織を縫合・形成して瞳孔 を再建する手術である。虹彩 組織が十分に残っている場合に適応となり、特別な器具を必要とせず、現時点で日本では薬事承認が必要な人工デバイスを使わずに施行できる。一方、人工虹彩デバイス は広範囲の虹彩 損傷・虹彩 萎縮で縫合が不可能な症例(無虹彩症 含む)に適応される。無理に縫合すると虹彩 が断裂して不要な侵襲が加わるだけとなるため、適応の分岐が重要である。
羞明 ・近見障害 : 虹彩 欠損や不可逆性散瞳 により外光が直接入射し患者満足度が低下する
単眼複視 : 不規則瞳孔 による光路の分散
瞳孔 変形・散瞳 固定 : 白内障 手術後の美容的問題にもなる
視力 低下 : 瞳孔 が大きすぎると高次収差やグレアが増え、コントラスト感度 が低下しうる5)
Q
虹彩損傷の症状を放置するとどうなりますか?
A
羞明 ・グレアが持続し日常生活の質が低下する。大きすぎる瞳孔 では高次収差やコントラスト低下が生じやすい5) 。また不整瞳孔 による単眼複視 が持続する。眼底検査 の際に散瞳 が困難になり、黄斑 ・網膜 疾患の早期発見が遅れる懸念もある。先天性コロボーマ では脈絡膜 欠損内に網膜裂孔 ・剥離が生じる可能性があり、定期的な眼底検査 が重要である。
先天性要因
眼杯裂の閉鎖不全(胎生期発生異常)。眼杯は眼球内容物を上から巻き込むように囲み最終的に下側で閉じるため、定型的欠損は下方(鼻下側)に存在する
CHARGE症候群 (Coloboma, Heart defects, Atresia choanae, Retarded growth, Genital/urinary anomalies, Ear anomalies)の一症状として発見されることもある
合併症: 小眼球・小角膜 ・視神経 欠損(コロボーマ )・白内障 ・水晶体 脱臼・緑内障 ・網膜 剝離
後天性要因
外傷性: 鈍的外傷(眼打撲)・穿孔外傷による虹彩根部離断 (iridodialysis )・括約筋断裂
手術起因性1) :
虹彩 誤吸引(phaco tip周囲の虹彩 巻き込み)
切開創への虹彩 脱出(IFIS 時・不良創口構築時)
瞳孔拡張デバイス (iris hooks, rings)による過度の伸展・裂傷
括約筋切開(sphincterotomy)
虹彩 捕捉(iris capture): IOL が虹彩 前に脱出し瞳孔 変形をきたす
薬剤性IFIS : α₁遮断薬(タムスロシンが代表)→瞳孔 散大筋の萎縮変性(不可逆的)。術前休薬でも予防不能
炎症後: ぶどう膜炎 後の虹彩 萎縮・虹彩後癒着
虹彩 縫合術の術前評価に必要な検査を以下に示す。
検査 目的 詳細 細隙灯顕微鏡検査 虹彩 欠損の評価欠損の位置・大きさ・形態。透見性欠損(transillumination defects)の有無 前眼部OCT (AS-OCT )虹彩 構造・前房 角の詳細評価虹彩 厚・欠損範囲・IOL 位置の確認眼底検査 合併症評価 脈絡膜 欠損・網膜 欠損・視神経 コロボーマ の確認(先天性の場合)角膜内皮細胞検査 術前ベースライン スペキュラーマイクロスコピーで角膜内皮細胞密度 測定 眼圧測定 緑内障 合併の確認術後眼圧 上昇リスク評価 薬歴聴取 IFIS 原因薬剤の特定α₁遮断薬(タムスロシン等)の服用歴確認が最重要 全身精査 先天性症候群の確認 CHARGE症候群 等の関連疾患(心疾患・後鼻孔閉鎖・難聴)の評価
術前シミュレーション : 虹彩 縫縮輪をメルクマールとして、縫合位置のロケーションを確認し結紮時に虹彩 が無理なく寄せられるかを術前評価する。
本セクションは本記事の核心部分であり、虹彩 縫合術の手技を詳述する。
保存的管理
虹彩 付きコンタクトレンズ (cosmetic CL)
散瞳薬 による自然整復 (虹彩 捕捉の場合:仰臥位での自然整復を試みる)
経過観察 (軽度の瞳孔 変形で症状が軽微な場合)
虹彩縫合術(pupilloplasty)
適応 :部分的虹彩 欠損・麻痺性散瞳 (IFIS 後遺症・緑内障 発作後)・虹彩 組織が十分残存
縫合材料 :10-0/9-0ポリプロピレン(プロリン)糸
特徴 :特別な器具不要、日本で選択しやすい
人工虹彩デバイス(→別記事)
適応 :広範囲虹彩 損傷・虹彩 萎縮で縫合不能・先天性無虹彩症
注意 :日本では人工虹彩 ・虹彩 付きIOL は現時点で薬事未承認(2024年現在)
無理な縫合は虹彩 断裂の危険があり、広範囲損傷例では人工虹彩デバイス を検討
プロリン糸(ポリプロピレン糸)を使用する(劣化が少ない)
10-0または9-0プロリン糸: マニー社IOL 縫着用針付き縫合糸、Alcon社PAIR PAK
眼内虹彩 縫合では、細径針付き非吸収糸を用いて前房 内操作を最小限にし、角膜内皮 と水晶体 への接触を避ける1) 2)
OVD (眼粘弾剤)で前房 を形成した後、前房 内挿入可能な鑷子で虹彩 を瞳孔 中心方向へ伸展する
推奨鑷子: 河合式前嚢鑷子(把持面が平ら→虹彩 損傷最小)、MAXGRIP®(Alcon社)硝子体 鑷子
孔付きタイプ(池田式前嚢鑷子等)は虹彩 損傷を起こしやすいため不適
縫合位置をシミュレーションし、結紮時に虹彩 が無理なく寄せられるかを確認する
虹彩 根部への過剰テンションに注意 : 隅角 離断のリスクがある
麻痺性散瞳 例では虹彩 を全周伸展することで伸展操作自体に瞳孔 縮小効果がある
以下の3法から状況に応じて選択する。
長針法 : サイドポートから長針を挿入し虹彩 近位端→遠位端を穿刺する
迎え針法(30ゲージ肉薄針) : 角膜 穿刺→虹彩 穿刺→長針とロック→引き抜き。操作性が良好で正確性が高い。針穴を最小限にできる
眼内法(細径針) : サイドポートから細径針を前房 内に入れ、虹彩 辺縁を直接縫合する。前房 内での針操作を短くし、角膜内皮 と水晶体 への接触を避ける1) 2)
結紮法 原理 特徴 Siepser slipknot technique2) サイドポートのみで施行。虹彩 上の糸をフック/鑷子で引き出しループ形成→終端をループ内に2回くぐらせ眼外で引いて結紮 結紮位置の自由度が高い。糸を無造作に引くと虹彩 が損傷するため注意が必要 McCannel法3) 主創口から長針で虹彩 両端と輪部 を穿刺→眼外で二重結紮 創口と結紮位置が近い場合に施行しやすい。シンプルな操作 SFT法(single-pass four-throw)4) ループ内に終端を4回くぐらせて1回で結紮完了 前房 内外の結紮操作が1回で済み効率的
虹彩 部分欠損: 欠損部位に1〜2か所縫合
麻痺性瞳孔 縫縮: まず6時・12時方向を縫合し(通糸しやすい)、効果不十分なら随時追加
目標瞳孔 径: 約4mm弱
大きすぎる瞳孔 では高次収差やコントラスト低下が問題になりやすいため、症状と眼底観察のしやすさを両立する径に調整する5)
外傷眼・網膜 剝離眼: 術後眼底診察を考慮して約5mmに設定する場合もある
従来法(上方健常瞳孔 縁の切開またはコロボーマ 下方の単純縫合)では瞳孔 不整・偏位を残すことが多い。改良術式として以下の方法がある。
Cionni法 6) : コロボーマ 内で瞳孔 括約筋切開→切開部に隣接する健常虹彩 を縫合。瞳孔 の円形度が向上する
Ogawa法 7) : コロボーマ 内で瞳孔 括約筋切除→健常虹彩 を縫合。瞳孔 の不整や偏位が少ない
瞳孔 捕捉・嚢捕捉: サイドポートからフック/スパーテルで位置整復が可能
虹彩 捕捉(iris capture): 虹彩 とIOL が癒着していなければ散瞳 +仰臥位で自然整復を試みる。回復しなければ観血的整復を行う
瞳孔 捕捉再発: 逆瞳孔ブロック が関与する場合はイリデクトミーが有効
イリデクトミーでも再発する場合: 強膜 から対側強膜 まで抑えの糸を通す方法もある
IOL 挿入後に縮瞳薬と虹彩 牽引で約6mm以上の散瞳 が残れば同時手術での瞳孔 形成を検討する
多重手術で手術が複雑になる場合や判断に迷う場合: 二期的瞳孔 形成を考慮する
外傷後では受傷約2週間後を目安にPEA +IOL 挿入+虹彩 縫合の同時手術が行われることがある
広範囲な虹彩 損傷や虹彩 自体が萎縮している症例では無理に縫合すると虹彩 が断裂して不要な侵襲が加わるだけとなる。このような症例は人工虹彩デバイス の適応であり、Prosthetic-Iris-Devices記事を参照のこと。
Q
虹彩縫合術と同時に白内障手術を行えますか?
A
IOL 挿入後に縮瞳薬と虹彩 牽引を行っても約6mm以上の散瞳 が残る場合は、同時手術での瞳孔 形成が適応となる。外傷後では受傷から約2週間後を目安にPEA +IOL +虹彩 縫合の同時手術が行われることがある。ただし手術が複雑になる場合や判断に迷う場合は二期的手術を選択することが安全である。
Q
虹彩縫合がうまくいかない場合はどうなりますか?
A
広範囲の虹彩 損傷や虹彩 の萎縮が高度な症例では縫合自体が困難あるいは不可能となる。無理に縫合すると虹彩 が断裂し、虹彩 組織をさらに損傷する恐れがある。このような症例では人工虹彩デバイス の植込みが選択肢となる。日本では現時点で人工虹彩 が未承認のため、専門的な施設での対応が必要となる。
眼杯は眼球内容物になるべき組織を上から巻き込むように囲み、最終的に下側で閉じる。胎生期にこの閉鎖が不全の場合、定型的虹彩 欠損が下方(鼻下側)に生じる。毛様体 欠損・脈絡膜 欠損・視神経 欠損を伴い得る。先天性虹彩 欠損でZinn小帯の欠損を伴う場合は水晶体 が不安定となり、白内障 手術が困難になる。
鈍的外傷では眼球変形による虹彩根部離断 (iridodialysis )や括約筋断裂が生じる。穿孔外傷では虹彩 の直接損傷・脱出が起こる。
浅前房 での虹彩 誤吸引・phaco tip振動による虹彩 のagitation
不良創口構築による虹彩 脱出
瞳孔拡張デバイス の過度な伸展→括約筋裂傷
括約筋壊死: 眼内炎 ・TASS ・急激な眼圧 上昇時に起こりうる
α₁アドレナリン受容体遮断薬(タムスロシン等)が瞳孔 散大筋の萎縮変性を誘発する。この変性は不可逆的であり、術前の休薬でも予防できない。変性した虹彩 は脆弱で術中損傷リスクが高く、虹彩 損傷後の瞳孔 変形に至ることがある。
虹彩 根部の過剰牽引→出血(多くは自然消退)・隅角 離断
虹彩 の断裂(残存組織が短すぎると結紮に耐えられない)
角膜内皮 細胞障害(長針の前房 内操作による)
瞳孔 変形の残存・再発
眼圧 上昇
角膜内皮 細胞数減少
前房 内炎症
縫合糸の露出・劣化(長期)
症例1(眼打撲・74歳男性): PEA +IOL +虹彩 縫合施行。4か月後 視力 0.8(矯正1.2)、瞳孔 径約5mm、瞳孔 ほぼ中央、羞明 なし。角膜内皮 細胞数減少率1.8%
症例2(外傷性瞳孔 偏位・57歳男性): PEA +IOL +虹彩癒着 剝離+虹彩 切開+虹彩 縫合施行。6か月後 矯正視力 1.0、瞳孔 円形でほぼ中央
視力 は良好な例が多いが、欠損が黄斑部 に及ぶと視力 不良となる。脈絡膜 欠損内や辺縁の網膜裂孔 による網膜 剝離が発症することがあり、予後不良例が多い。先天性コロボーマ に白内障 が合併する場合、小眼球・Zinn小帯欠損・散瞳 不良を伴うことが多く手術は困難である。虹彩 コロボーマ の改良術式(Cionni法・Ogawa法)により瞳孔 の円形度と中心化が向上するとの報告がある6) 7) 。
Q
虹彩修復術後の視力はどの程度改善しますか?
A
症例報告では術後矯正視力 1.0〜1.2の良好な成績が報告されている。ただし視力 改善の程度は虹彩 損傷の原因・範囲・合併する眼疾患(網膜 疾患・角膜内皮 障害等)に依存する。虹彩 修復の主な治療効果は視力 改善よりも羞明 ・グレアの軽減・単眼複視 の消失・美容的改善であることが多い。先天性コロボーマ で黄斑部 に欠損が及ぶ場合は視力 改善に限界がある。
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Siepser SB. The closed chamber slipping suture technique for iris repair. Ann Ophthalmol. 1994;26(3):71-72. PMID:7944159.
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