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腫瘍・病理

眼窩神経鞘腫

眼窩神経鞘腫は、末梢神経鞘腫瘍の一種で、末梢神経の髄鞘(ミエリン)を形成するシュワン細胞から発生する良性腫瘍である。

眼窩内の発生頻度は、日本では全眼窩腫瘍の約1〜2%とされる。海外の報告では1〜6%1)あるいは1〜6.5%2)とやや幅がある。日本の良性眼窩腫瘍735例の集計では、神経鞘腫は38例(約5%)で第6位であった。

好発年齢は20歳以上で、20代〜50代に多く2)、性差はない。小児例は稀である。三叉神経の毛様体神経由来が多いが、眼窩上神経・下眼窩神経・滑車神経など眼窩内のあらゆる神経に発生しうる。悪性転化は稀である。

神経線維腫症との関連も報告されており、眼窩内神経鞘腫の約半数は神経線維腫症に合併しているとの報告がある。神経線維腫症の眼窩波及は11〜28%にみられ、そのうち神経鞘腫を発症するリスクは1.5%とされる。

Q 眼窩神経鞘腫はどのくらい珍しい腫瘍か?
A

日本では全眼窩腫瘍の約1〜2%、良性眼窩腫瘍の約5%を占め、第6位の頻度の腫瘍である。海外の報告でも1〜6.5%と稀な部類に入る2)。多くは成人にみられ、小児例はさらに稀である。

早期には自覚症状に乏しく、画像検査で偶然発見されることも稀ではない。

  • 眼球突出:最も多い主訴。数年かけてきわめて緩徐に進行する。浮腫・発赤・疼痛を伴わないことが多い。
  • 複視・眼球運動制限:進行例でみられる。
  • 視力低下視神経圧迫が生じると出現する。暗点・色覚異常コントラスト感度低下を伴うことがある。
  • 疼痛・感覚異常:影響を受ける神経の支配領域に生じることがある。
  • 急激な症状変化:腫瘍内部に壊死や出血を伴うと、突然炎症症状が出現することがある。

症例として、55歳女性で右眼窩上部に20mm×15mmの腫瘤が4年かけて増大した例が報告されており、視力は20/20を維持していた1)。また妊娠中に1cmから5cmへ急速増大し、外転神経麻痺散瞳が生じた例もある3)

  • 非拍動性の眼球突出:筋円錐内発生では真っ直ぐ前方へ突出し、筋円錐外発生では対側へ偏位する。
  • 眼球の下方偏位:大部分は眼窩上象限に浸潤し、眼球の下方偏位を伴う。
  • 腫瘤の触知:重症例では眼窩腫瘤を触れることがある。
  • 眼球運動障害・視機能障害は少ない:発生神経線維束の一部は腫瘍化せずに残存するため、障害は意外に少ない。
  • 被膜の存在:腫瘍は被膜を有し、周囲組織への浸潤・癒着は少ない。
  • 両側性は極めて稀:これまでに1例のみの報告がある。
Q 眼窩神経鞘腫の症状は急に出るのか?
A

典型的には数年かけてきわめて緩徐に進行し、初期には無症状のことも多い。ただし、腫瘍内部に壊死や出血が生じると突然症状が変化することがある。また妊娠中にホルモンの影響や血流量増加により急速増大した例も報告されている3)

眼窩神経鞘腫の発生には、末梢神経の髄鞘を形成するシュワン細胞の腫瘍性増殖が関与する。シュワン細胞は神経堤(neural crest)由来の細胞である。

  • 発生神経:三叉神経第1枝由来が最多。稀に第2枝、動眼神経、滑車神経、外転神経の枝にも発生する。
  • 神経線維腫症との関連
    • 神経線維腫症1型:17q11.2のニューロフィブロミン遺伝子の両アレル消失→Ras遺伝子シグナルが無制限に亢進→シュワン細胞増殖促進。
    • 神経線維腫症2型:22q11.2のメルリン遺伝子欠失→シュワン細胞増殖促進。
  • 妊娠:ホルモンの影響や血流量増加により、妊娠中に急速増大する可能性がある3)
  • 発生部位の稀少性外眼筋内発生は極めて稀であり、文献上6例のみの報告がある2)

臨床検査のみによる確定診断はほぼ不可能であり、病理組織学的診断が必須となる。

主な画像検査の特徴を以下に示す。

検査充実性病変嚢胞性病変
CT均一な造影効果内容不均一・部分的増強
MRI T1低信号・均一低信号
MRI T2高信号・均一嚢胞部高信号と低信号が混在
  • CT検査:境界明瞭な卵円形または紡錘形の腫瘤として描出される。骨を侵食することなく拡大させ(骨の菲薄化)、通常は筋円錐外に位置する。
  • MRI検査:診断に最も有用。T1強調画像で低信号、T2強調画像で高信号を示す。約41%で嚢胞性変性がみられる。Antoni A型はT1・T2で中間信号、Antoni B型はT1低信号・T2高信号を示す。眼窩先端部まで腫瘤が充満している場合は神経鞘腫のことが多い。
  • 動的MRI:海綿状血管腫との鑑別に有用。海綿状血管腫は濃染遅延パターンを示すのに対し、神経鞘腫はプラトー型ウォッシュアウトパターンを示す。筋円錐内で球状の場合は鑑別が困難なため、動的MRIが特に有効となる。
  • 超音波検査(Bモード):円形で境界明瞭な固形病変として描出。音響空隙は腫瘍内出血を示唆する。
  • Antoni A型:細胞密度が高く、紡錘形細胞の柵状配列(palisading)とVerocay体(柵状核クラスターに囲まれた核のない領域)を形成する。
  • Antoni B型:細胞密度が低く、粘液状マトリックス内に空胞化細胞・泡沫状組織球・硝子化血管を認める。
  • 両型はしばしば混在する。嚢胞性変性を伴う症例でAntoni B型または嚢胞性変性が優位となる2)
  • 免疫組織化学:S-100蛋白が強陽性を示す。SOX10・p16・ニューロフィブロミン陽性、上皮成長因子受容体(EGFR)陰性。
  • 組織学的亜型:慣習型(conventional)・細胞型(cellular)・叢状型(plexiform)・メラニン性(melanotic)・変性型(Ancient型)。

神経線維腫、悪性末梢神経鞘腫瘍、髄膜腫、海綿状血管腫、リンパ管腫、皮様嚢腫、リンパ腫、孤立性線維性腫瘍などが鑑別に挙がる。限局性神経線維腫と神経鞘腫の鑑別は術前には不可能であり、S-100蛋白などの免疫組織化学染色が必要となる。

Q 画像検査だけで確定診断はできるか?
A

臨床検査のみでの確定診断はほぼ不可能であり、病理組織学的診断が必要となる。MRIや動的MRIは他の眼窩腫瘍との鑑別に役立つが、最終的には手術で摘出した組織の病理診断によって確定される。

主な治療法は摘出術(excision)であり、被膜の完全性を維持したまま行うのが理想とされる。強く牽引すると腫瘍内の脆弱な組織が破損し、全摘出が困難になるため注意が必要である。腫瘍が残存すると再発リスクが高まる。

手術アプローチは腫瘍の位置によって選択される。

前方アプローチ

上方病変:前方眼窩切開術(上眼瞼溝切開または眉毛下切開)

下方・内側病変:経結膜切開

内側前方病変:涙丘経由切開

外側・頭蓋底アプローチ

上外側病変:外側眼窩切開術

眼窩先端部・尖端部:開頭による頭蓋底アプローチ。Working spaceの確保が難しく、視機能障害のリスクが高いため、外側開頭が推奨される場合がある。

上眼窩裂関与例:脳神経外科医との合同手術が推奨される。

  • 内視鏡下経鼻アプローチ:内側後壁(眼窩尖端部)の病変に適応される。
  • 時計方位アクセスアルゴリズム(Paluzzi分類):経鼻アプローチが1〜7時方向、外側アプローチが8〜10時方向、経頭蓋アプローチが9〜1時方向に対応する3)

全身の神経線維腫症ですでに診断がついている場合、視神経・眼球運動神経への圧迫による視力低下や複視がなければ経過観察が選択される場合もある。神経線維腫症の眼窩病変は完全摘出が困難で再発も多い。

手術が困難な場合や術後残存病変に対して検討される。

  • ガンマナイフ定位放射線治療:7例中6例で腫瘍の安定化または縮小が得られたとの報告がある。一方で2例に視力低下を生じた。
  • 8〜12 Gyの低線量でも視神経症が観察されたとの報告があり、眼窩尖端部の病変への単回照射は推奨されない(複数回照射が適応)。
  • 適応:小さい・切除不能・到達不能、または術後残存の良性神経鞘腫。

切除不可能な場合の生活の質(QOL)改善を目的として、骨性または脂肪性の眼窩減圧術が選択されることがある。視力が保たれており、急速な悪化がなく、悪性所見がない良性で増殖の遅い症例が適応となる。副作用として複視・眼球低位・眼球陥凹、稀に脳脊髄液漏を生じることがある。

Q 手術以外の治療法はあるか?
A

ガンマナイフ放射線治療(7例中6例で安定化または縮小)や眼窩減圧術(生活の質改善目的)が選択肢となる。ただし放射線治療では視神経症のリスクがあり、眼窩尖端部への単回照射は推奨されない。適応は腫瘍の大きさ・位置・症状によって判断される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

シュワン細胞は神経堤(neural crest)由来であり、末梢神経の髄鞘(ミエリン)を形成する。腫瘍は親神経から偏心的に成長し、神経線維腫と異なりびまん性浸潤はしない。

神経線維腫症との関連における分子機序は以下の通りである。

  • 神経線維腫症1型:17q11.2のニューロフィブロミン遺伝子の両アレル消失→Ras遺伝子シグナル伝達が無制限に亢進→シュワン細胞増殖促進。
  • 神経線維腫症2型:22q11.2のメルリン遺伝子欠失→シュワン細胞増殖促進。

二相性の組織形態(Antoni A型+Antoni B型)の病理学的特徴を以下に示す。

Antoni A型

細胞密度:高密度

配列:紡錘形細胞が平行に配列し、柵状構造(palisading)を形成する。

Verocay体:柵状に並んだ核クラスターに囲まれた核のない領域。

染色:過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色・ラミニン陽性(各細胞が基底膜を形成)。

Antoni B型

細胞密度:低密度

配列:粘液状マトリックス内に空胞化細胞がシート状に配列する。

間質:泡沫状組織球・硝子化血管を認める。

MRI対応:T2高信号領域に対応し、嚢胞性変性部位と一致する。

免疫組織化学では、S-100蛋白が強陽性を示し、SOX10・p16・ニューロフィブロミン陽性、上皮成長因子受容体陰性を呈する。IV型コラーゲン染色で細胞周囲コラーゲン沈着を同定できる。

亜型別の特徴として、細胞型ではAntoni B型が最小限または欠如しVerocay体が不十分であり、平滑筋アクチン染色で平滑筋腫瘍との鑑別を要する。叢状型はAntoni A型優位で核分裂・異型・壊死がなくS-100陽性であることで肉腫と鑑別する。メラニン性はHMB-45・Melan-A陽性を示し、悪性黒色腫との鑑別が困難となる。変性型(Ancient型)は変性による微小嚢胞・出血・石灰化および異型性・多形性を示すが、核分裂像の欠如とS-100陽性により肉腫と鑑別される。

妊娠中の急速増大については、ホルモンの影響および血流量の増加が原因である可能性が指摘されているが3)、詳細なメカニズムは今後の解明が待たれる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

内視鏡下経鼻+経眼窩複合アプローチ(EETOA)

Section titled “内視鏡下経鼻+経眼窩複合アプローチ(EETOA)”

海綿洞から眼窩に進展する神経鞘腫に対し、開頭を回避しながら全摘出を可能とする新しい低侵襲手法である。

Tanjiら(2025)は、妊娠中に三叉神経第1枝由来の眼窩神経鞘腫が1cmから5cmへ急速増大し外転神経麻痺・散瞳を生じた27歳女性に対し、産後に内視鏡下経鼻+経眼窩複合アプローチを施行した3)。術中MRIで全摘出を確認し、手術時間5.5時間、術後4日で退院した。術後に外転神経麻痺は改善したが散瞳は残存した。

マルチポート手術の利点として、標的への短いアクセス距離、神経・血管の交差回避、多方向からの視野確保が挙げられる3)

3つの主要アプローチの特性を以下に示す。

アプローチ主な適応部位特徴
経頭蓋(開頭)眼窩尖端部・海綿洞広い術野・高侵襲
内視鏡下経鼻内側・眼窩尖端部低侵襲・視野制限あり
内視鏡下経鼻+経眼窩複合(EETOA)海綿洞〜眼窩進展例開頭回避・全摘出可能

妊娠中の腫瘍急速増大に関する症例の蓄積が続いており、ホルモン・血流増加を介した増大メカニズムの解明が今後の課題となっている3)


  1. Uppal S, Saggar V, Scalia G, Umana GE, Sharma M, Chaurasia B. Unilateral orbital schwannoma arising from the supraorbital nerve: Report of a rare case. Clin Case Rep. 2024;12:e8381.
  2. Afshar P, Rafizadeh SM, Eshraghi N, Mansourian S, Aghajani A, Asadi Amoli F. Orbital schwannoma arising within inferior rectus muscle: A rare orbital tumor. Am J Ophthalmol Case Rep. 2024;36:102172.
  3. Tanji M, Sano N, Hashimoto J, et al. Multiport combined endoscopic endonasal and transorbital approach to orbital schwannoma. Surg Neurol Int. 2025;16:98.

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