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網膜・硝子体

スターガルト病(眼底黄色斑点症)

1. スターガルト病(眼底黄色斑点症)とは

Section titled “1. スターガルト病(眼底黄色斑点症)とは”

スターガルト病(Stargardt disease; STGD)は常染色体劣性遺伝を示す黄斑ジストロフィの代表疾患であり、黄斑における感覚網膜RPEの萎縮病変、およびその周囲に散在する多発性の黄色斑(フレック)が特徴である。最も重要な原因遺伝子はABCA4(ATP-binding cassette transporter)であり、ABCA4遺伝子による網膜変性はきわめて多彩な表現型を示す。

1909年にドイツの眼科医Karl Stargardtが7例の家族性黄斑変性として初めて報告した。1)1962年にFranceschettiが眼底に黄白色斑点(フレック)を伴う症例を「眼底黄色斑点症(Fundus Flavimaculatus)」として独立記載し、1)1976年にFishmanがStage I〜IVの分類を確立した。3)1997年にAllikmetsらが原因遺伝子ABCA4をクローニングし、4)現在は両者をABCA4関連網膜症(ABCA4-associated retinopathy)として同一疾患スペクトラムとみなすことが多い。1)

有病率は1:8,000〜10,000と推定され、遺伝性黄斑疾患の中で最も頻度が高いとされる。1)ABCA4の病的バリアント保因者頻度は約1/20であり、1,200を超える病的変異が報告されている。1)発症年齢は幼少時〜30歳代が多いが成人発症例も存在する。早期発症ほど進行が速く予後不良である。5)

Q スターガルト病と眼底黄色斑点症は別の病気か?
A

かつては別の疾患とされていたが、現在はいずれもABCA4遺伝子変異を主因とする同一疾患スペクトラムと理解されている。1)フレックの分布範囲や発症年齢に差があるが、遺伝的背景は共通する。スターガルト病黄斑病変が前景に立ち、眼底黄色斑点症はフレックが後極〜周辺部に広範に分布する傾向がある。

  • 両眼中心視力低下:最も主要な症状。初診時視力は0.5〜0.7程度であり、徐々に低下して最終的に0.1以下になりうる。進行は緩徐なことが多い
  • 心因性との誤診:小学生高学年頃に軽度黄斑萎縮のみでフレックが目立たない初期例は、心因性の視力低下として見逃されることがある。両眼性の視力低下に加え色覚異常羞明を伴う場合は本疾患を疑う
  • 色覚異常:後期にかけて生じやすい
  • 羞明(光過敏):錐体障害に伴い出現する
  • 暗所での見えにくさ:暗順応遅延を認める場合がある

診断トライアド(以下の3所見がそろうとABCA4関連網膜症を強く示唆する)1)

  1. 黄斑病変:中心黄斑から始まるRPE視細胞外層の進行性萎縮
  2. フレックRPEレベルの黄白色斑点、卵形〜魚尾形。FAFリポフスチン蓄積を反映し過蛍光を示す
  3. 乳頭周囲温存(peripapillary sparing)視神経乳頭周囲の網膜が病変を免れる6)

Fishmanらはスターガルト病の眼底所見をStage I〜IVに分類している。3)

Stage黄斑所見フレック
I萎縮なし〜軽度(beaten-bronze外観)黄斑周辺のみ
II黄斑萎縮あり黄斑周辺のみ
III黄斑萎縮あり(フレック吸収進行)黄斑+後極部
IV広範な脈絡膜萎縮(RP様眼底)後極〜周辺部

進行期(Stage IV)では骨針様色素沈着・視神経乳頭蒼白・血管狭細化などRP様外観を呈する。1)

Q 「bull's eye」所見はスターガルト病だけに見られるか?
A

bull’s eye黄斑症(標的黄斑)はABCA4関連網膜症の約20%にみられるが、クロロキン・ヒドロキシクロロキン網膜症や錐体ジストロフィPRPH2関連パターンジストロフィなど他疾患でも認められる。スターガルト病に特異的な所見ではなく、蛍光造影・FAFを含む総合的な評価と遺伝子検査が必要である。

遺伝子遺伝形式特徴
STGD1ABCA4常染色体劣性患者の大多数。1,200超の病的変異が既知1)
STGD3ELOVL4常染色体優性脂肪酸代謝異常。STGD1とは病態的に異なる1)
STGD4PROM1常染色体優性劣性型はRP様表現型1)
  • ミスセンス変異が全変異の約50%(ユニーク変異)、総アレル数の61%を占める1)
  • 深部イントロン変異:全アレルの推定約10%。35種類の深部イントロン変異が同定されている1)
  • 複合アレル:p.[Leu541Pro;Ala1038Val]は機能喪失型アレル1)
  • p.(Gly1961Glu):東アフリカ起源の最も頻度の高い変異。比較的遅い発症(平均22.7歳)でbull’s eye maculopathy型を呈しやすい7)
  • p.(Asn1868Ile):欧州での集団アレル頻度約7%。重度変異とのtransで浸透率約5%、晩期発症(平均36〜42歳)・中心窩温存(約85%)を特徴とする8)
  • 2023年にRDH8(レチノール脱水素酵素8)の複合ヘテロ接合変異がABCA4変異のないスターガルト病患者で世界初同定された2)
  • 光曝露リポフスチン蓄積を促進する可能性がある1)
  • ビタミンA過剰摂取:ABCA4変異ではビジュアルサイクルが障害されるため、過剰摂取はA2E前駆体増加を招く可能性がある
Q 子どもにスターガルト病が遺伝する確率は?
A

STGD1(ABCA4変異)は常染色体劣性遺伝である。両親がともに保因者の場合、各妊娠でお子さんが発症する確率は25%となる。日本人を含む一般集団でのABCA4病的バリアント保因者頻度は約1/20と高いため、保因者に気づいていない場合も多い。遺伝カウンセリングの受診と家族の遺伝子検査を検討することが推奨される。1)

診断には臨床所見(診断トライアド)+マルチモーダルイメージング+遺伝子検査の組み合わせが重要である。臨床診断のみでは10〜15%がABCA4以外の遺伝子変異によるフェノコピー(類似表現型)の可能性がある。1)

蛍光眼底造影(FA)

dark choroid(暗脈絡膜:蛍光造影早期に脈絡膜蛍光が遮断される現象。ABCA4変異例の約62%に認められる。1)スターガルト病に比較的特異的な重要所見。RPEリポフスチンが背景蛍光をブロックするため出現する。全例にみられるわけではない。

フレックの蛍光パターン:新鮮なフレックは過蛍光、古いフレックは低蛍光を呈する。1)

眼底自発蛍光(FAF)

萎縮域RPE細胞消失により低自発蛍光。萎縮進行のモニタリングに有用。1)

フレックリポフスチン蓄積により過自発蛍光。FA施行困難な小児でも適用可能。

定量的自発蛍光(qAF):疾患進行評価の客観指標として有望。9)

OCT

外節・楕円体帯(EZ帯)黄斑中心部のEZ帯消失が視力予後と相関する。1)

RPE変化RPE層の不整・萎縮を可視化。FA困難な小児での診断に有用。

ELM(外境界膜):早期変化としてELMの肥厚が報告されている。10)

ERG:初期には全視野ERGは正常のことも多い。病変部位の範囲推定に有用。晩期には著明な減弱(RP様)を呈する。

遺伝子検査:ABCA4を含む包括的遺伝子スクリーニング(WES・パネル検査)が確定診断・遺伝カウンセリング・将来の遺伝子治療適応判定に有用。1)フェノコピー(PRPH2、PROM1、CRX、RPE65等の変異による類似表現型)の除外に必要である。

鑑別疾患鑑別のポイント
PRPH2関連パターンジストロフィ常染色体優性。トライアド3所見を模倣しうる。不完全浸透に注意1)
網膜色素変性RP晩期STGD1がRP様眼底を呈する。夜盲・視野狭窄の病歴が鑑別の手がかり1)
加齢黄斑変性AMD晩期発症STGD1と臨床的に類似。家族歴内のAMD罹患者に注意1)
ベスト病卵黄様病変が特徴。BEST1遺伝子。EOGの異常
ヒドロキシクロロキン網膜bull’s eye様所見を呈する。薬剤歴の確認が重要
心因性視力低下初期例で眼底所見が乏しい場合に誤診されやすい

根治療法は存在せず、進行抑制と視機能維持が治療の主軸である。

光曝露回避

UV・強光の遮断:光曝露がリポフスチン蓄積を加速させるとされる。UVカットサングラスの常用が推奨される。1)

ビタミンA制限:ABCA4変異ではビジュアルサイクルが障害されるため、ビタミンAサプリメント・肝油の過剰摂取を避ける。

ロービジョンケア

拡大鏡・単眼鏡:残存視機能の最大活用。

遮光眼鏡羞明の軽減に有用。

学習支援:学童期には拡大教科書の利用・座席配慮・タブレット端末活用などが重要。

社会的支援:視覚障害者手帳の取得・就労支援との連携。

研究段階の治療

遺伝子治療:AAV・dual AAVベクターによるABCA4遺伝子補充、CRISPR/Cas9、AON療法の臨床試験が進行中。

幹細胞治療:hESC由来RPE細胞移植の臨床研究。13)

化合物療法:ALK-001(重水素化ビタミンA)・エミクススタット等。

常染色体劣性遺伝では保因者の両親から罹患児が生まれる確率は各妊娠につき25%となる。遺伝子検査結果に基づく家族内保因者スクリーニングが可能であり、将来の遺伝子治療適応判定にも遺伝子診断が重要である。1)

Q 遺伝子治療はいつ受けられるようになるか?
A

ABCA4を対象とした遺伝子治療の臨床試験が複数進行中だが、2026年時点で一般診療として利用できる段階にはない。詳細は最新の研究と今後の展望の項を参照。参加を希望する場合は専門施設に問い合わせることが必要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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スターガルト病の中心的な病態はビジュアルサイクルの障害とリポフスチン蓄積である。

ABCA4タンパクは光受容体外節の円板膜に局在する哺乳類ABCトランスポーターの中で唯一のインポーターであり、フリッパーゼとして機能する。11)N-レチニリデン-ホスファチジルエタノールアミン(NRPE)とホスファチジルエタノールアミン(PE)を円板膜内腔から細胞質側へ輸送し、all-trans-レチナールの蓄積を防ぐ役割を担う。11)ABCA4はRPEにも発現しており、RPEにおける追加的役割も示唆されている。1)

  1. 第1段階(ABCA4障害):NRPEの転送が停滞し、all-trans-レチナールが円板膜内腔に蓄積する1)
  2. 第2段階(RDH8障害):all-trans-レチナールをall-trans-レチノールへ還元する酵素RDH8の機能も障害されると蓄積がさらに増悪する2)

これらの障害によりall-trans-レチナールが二量化してA2E(N-レチニリデン-N-レチニル-エタノールアミン)が生成される。A2EはRPE細胞のリソソームに蓄積してリポフスチンを形成し、細胞毒性を発揮する。

新知見:細胞死経路と遺伝子型-表現型相関

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  • フェロトーシス(鉄依存性の脂質過酸化による調節性細胞死)の関与が明らかになりつつある2)
  • **TLR3(Toll様受容体3)**活性化を介した炎症経路の関与も報告されている2)
  • 遺伝子型-表現型相関:2つの機能喪失型アレルでは早期発症の重症cone-rod dystrophy / RP様表現型、機能喪失型+軽度変異では古典的STGD11)
  • rapid-onset chorioretinopathy(ROC):10歳以下で発症し急速に後極全体の萎縮に進行する特殊型15)
Q フェロトーシスとはどのような細胞死か?
A

フェロトーシスは鉄依存性の脂質過酸化による調節性細胞死である。A2E蓄積によりRPE細胞の酸化ストレスが増大し、フェロトーシスが誘導されると考えられている。2)フェロトーシス阻害剤はスターガルト病の新たな治療標的として研究されている。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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Zampattiら(2023)はABCA4に変異を持たないスターガルト病患者においてRDH8の複合ヘテロ接合変異を世界初同定した。2)この発見はビジュアルサイクルの第2段階(all-trans-レチナールの還元)におけるRDH8の重要性を示し、フェロトーシス経路・TLR3活性化を新たな治療標的として提唱した。2)

  • レンチウイルスベクター(SAR422459):第I/II相試験が実施されたが終了。有効性データ未公表1)
  • Dual AAV戦略:ABCA4 cDNA(6.8 kb)はAAVの搭載容量を超えるため、2ベクターによる分割導入が開発されている。Abca4ノックアウトマウスでリポフスチン蓄積の減少を確認1)
  • AON(アンチセンスオリゴヌクレオチド)療法:深部イントロン変異による異常スプライシングの補正に有効。ABCA4の複数の深部イントロン変異に対するAONの有効性がin vitroで実証されている1)。CEP290変異によるLCAでは硝子体内投与AONの臨床試験で肯定的中間結果が報告されている12)
  • CRISPR/Cas9:変異特異的修復アプローチが前臨床段階で検討されている1)

ヒトESC由来RPE細胞移植の第I/II相試験では、安全性が確認され9例の大半で対側眼と比較して視機能改善の傾向が示された。13)ただしABCA4は主に光受容体で発現するため、RPE細胞のみの補充では長期効果が限定的である可能性があり、RPE+光受容体の複合シート移植が今後の方向性として検討されている。1)

  • ALK-001(重水素化ビタミンA):ビタミンA二量体形成を抑制しリポフスチン蓄積を減少。Abca4ノックアウトマウスでA2E形成減少が実証されており、第II相試験が進行中1)
  • エミクススタット塩酸塩RPE65イソメラーゼ阻害薬。ビジュアルサイクルを減速させる。第III相多施設試験が進行中1)
  • サフラン(カロテノイド成分):31例のクロスオーバー試験で忍容性確認。短期的な視機能改善は示されず14)
  • DHA:11例のクロスオーバー試験で視機能改善は認められなかった1)
  • Zimura(avacincaptad pegol)補体C5阻害アプタマー。AMD適応から展開1)
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