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網膜・硝子体

網膜色素線条(Angioid Streaks)

網膜色素線条(Angioid Streaks; AS)は、先天性素因により全身の弾力線維の変性を生じる疾患である。Bruch膜の弾力線維も変性して断裂を生じる結果、視神経乳頭から放射状に色素沈着を伴った白色の線状変化を特徴とした眼底像を呈する。

全身の弾性線維の変性に起因する結合組織疾患で、Bruch膜の脆弱化により断裂が生じ色素線条がみられる。1889年にDoyneが初めて報告し、1892年にKnappが「angioid streaks」と命名した。

疫学的にはPXEの有病率は1:25,000〜1:100,000と報告されており、PXE患者の85〜100%にASが出現する。2) ASは両眼性に認められ男性に多い。

関連する全身疾患の覚え方としてPEPSIが知られる。

  • P弾性線維性仮性黄色腫(Pseudoxanthoma elasticum; PXE
  • E:エーラース・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome)
  • P:Paget病(骨ペーゲット病、AS合併率8〜15%2)
  • S鎌状赤血球症(Sickle cell disease)
  • I:特発性(Idiopathic)

PXEは最も頻度の高い関連疾患であり、PXEに網膜色素線条が合併した病態はGrönblad-Strandberg症候群と呼ばれる。PXEはABCC6遺伝子の変異により発症し、眼・皮膚・心血管系の3臓器に病変を来す全身疾患である。3) 近年、エーラース・ダンロス症候群との合併率は再評価されており、実際には1%未満と考えられている。2)

厚生労働省PXE診断基準PXEは2015年に指定難病として医療費助成の対象となった。

診断項目内容
①皮膚病変屈曲部の黄色斑、皮膚弛緩など
②皮膚病理弾力線維に石灰化を伴う変性
③眼底所見網膜色素線条の存在
④遺伝子ABCC6遺伝子変異
  • 確診:(①または②)かつ③
  • 疑診:(①または②)のみ、または③のみ
  • 疑診例に④遺伝子変異を証明できた場合は確実とする
Q 網膜色素線条はどのような全身疾患と関連するか?
A

PXE弾性線維性仮性黄色腫)が最も多く、次いでPaget病・鎌状赤血球症・特発性が続く。覚え方として「PEPSI」(PXE、Ehlers-Danlos、Paget、Sickle cell、Idiopathic)が用いられる。PXE患者では85〜100%に網膜色素線条が認められる。2)

網膜色素線条の眼底写真
Penas SC, et al. Central serous chorioretinopathy and angioid streaks: coincidental?. BMC Ophthalmol. 2022. Figure 1. PMCID: PMC9442979. License: CC BY.
右眼のカラー眼底写真モンタージュである。乳頭から放射する褐色の網膜色素線条が複数みられ、中心黄斑に小さな漿液性剥離、耳側中間周辺部にpeau d’orangeを認める。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う網膜色素線条に対応する。

網膜色素線条は通常無症状であり、偶然発見されることも多い。CNVが生じるまで自覚症状を伴わないことが多く、偶発的な眼科受診や皮膚科受診で指摘されることもある。

CNVを合併すると以下の症状が出現する。

  • 変視症(ものが歪んで見える)CNV形成の早期から出現する。
  • 中心暗点:中心視野に暗い部分が生じる。
  • 急激な視力低下CNV黄斑部に及ぶと急速に進行する。

いったんCNVを生じると治療に抵抗性を示し、再発を繰り返すことが多い。

細隙灯顕微鏡および眼底検査で以下の所見が認められる。

色素線条視神経乳頭周囲から放射状(ヒトデ状)に伸びる不規則な線状変化である。通常、線条は色素沈着を伴った白色を呈する。形態は火炎状やヒトデ型をとることがある。通常両眼性である。

**梨子地眼底(peau d’orange fundus)**はPXEに特徴的な所見で、後極部から中間周辺部にかけて粗糙な顆粒状色素沈着と周辺部の黄白色斑点が混在する眼底像を呈する。その他、乳頭周囲脈絡網膜萎縮・視神経乳頭ドルーゼンの合併が多い。

AS単独

乳頭周囲放射状線条視神経乳頭から放射状(ヒトデ状)に伸びる線状変化。色素沈着を伴った白色。

梨子地眼底:顆粒状色素沈着と黄白色斑点。PXEに特徴的。

乳頭周囲萎縮:脈絡網膜萎縮が乳頭周囲に形成される。

症状:通常無症状。視力は正常に保たれる。

CNV合併

灰白色隆起病変RPE上に新生血管が形成される(type 2 CNV、Gass type 2)。黄斑部に好発し中心窩に向かって進展する。

網膜下出血CNV破綻により黄斑部に出血。漿液性網膜剥離RPE剥離を伴うこともある。

症状変視症中心暗点・急激な視力低下が出現する。

経過:自然予後は非常に不良。短期間で黄斑に進展。治療に抵抗性で再発を繰り返す。

症例報告として、Manduraら(2021)が報告した27歳女性PXE患者では、両眼視力20/20・眼圧正常・CNVおよび網膜下出血なしという所見が確認されており、PXE患者においてもCNVを伴わない経過が存在することが示されている。1)

Q 網膜色素線条だけで視力は低下するか?
A

網膜色素線条単独では通常視力低下は起こらない。中心窩から離れた病変では視力は正常に保たれる。1) 視力障害は主にCNV合併時に生じる。CNV合併の有無については、定期的な眼科受診で評価を受けることが重要である。

網膜色素線条の基盤病態はBruch膜の石灰化と脆弱化であり、最大の関連疾患はPXEである。PXEはABCC6遺伝子変異を原因とし、3つの遺伝型が知られている。常染色体劣性遺伝が最も一般的である。3)

PXEの各遺伝型の臨床像を以下に示す。

遺伝型臨床像
AR型(常染色体劣性)最も一般的な遺伝型。眼・皮膚・心血管系の3臓器に病変
AD type 1(常染色体優性)屈曲部皮疹・狭心症・高血圧・重篤な脈絡網膜
AD type 2(常染色体優性)斑状皮疹・軽度網膜変性

ABCC6遺伝子のp.R1268Q変異は網膜色素線条の早期発症と関連することが報告されている。3)

ABCC6は肝臓・腎臓で高発現するMRP6(multidrug resistance-associated protein 6)をコードし、抗石灰化因子(無機ピロリン酸・フェチュインA等)の血中への放出に関与する。遺伝子変異により抗石灰化因子が欠乏し、全身の弾性組織にカルシウムが沈着する。4)

Paget病(骨ターンオーバー亢進→血清ALP上昇)ではAS合併率が8〜15%に達する。2) 鎌状赤血球症ではヘモグロビンS→赤血球変形→Bruch膜への鉄沈着→脆弱化の機序が関与する。2) また鈍的外傷がBruch膜断裂を促進し、CNV発症リスクを高める。2)

Q PXE患者が眼を守るためにできることは?
A

外傷によるBruch膜断裂を予防することが最も重要である。スポーツ時は硬質アイプロテクターを装着し、眼部への直接衝撃を避ける。強膜圧迫は控え、定期的な眼科受診でCNVの早期発見に努めることが推奨される。2)

診断は主に眼底検査による臨床診断であり、視神経乳頭周囲から放射状に伸びる特徴的な線条の確認が基本となる。

各種画像検査の主な所見を以下に示す。

検査主な所見
FA蛍光眼底造影色素線条部: window defect + 組織染 → 明瞭な過蛍光。色素沈着部: blockによる低蛍光。CNV: classic CNV所見
ICGA(インドシアニングリーン造影)色素線条部が後期に組織染による過蛍光で最も明瞭。鑑別診断で重要な役割
OCT扁平なCNVが横に広がる症例が多い。活動性高い時期は網膜下フィブリン・網膜下出血・網膜浮腫。en face OCTで線条病変の層別評価が有用5)
FAF眼底自発蛍光他の観察方法より広範なRPE障害を検出。病変範囲の評価に有用
  • OCTACNVの微細血管構造を非侵襲的に可視化できる。CNV活動性のモニタリングや治療効果判定に補助的に有用。6)

黄斑部の病変だけに注意を払っていると加齢黄斑変性AMD)やポリープ状脈絡膜血管症PCV)と誤診しやすい。乳頭周囲の観察が鑑別の鍵となる。

  • AMDPCV:高齢者・単眼性の場合との誤診に注意。AS-CNVAMDより若年で発症し、両眼性が多い点が鑑別の鍵。
  • Lacquer cracks(漆器亀裂)強度近視に伴うBruch膜亀裂。眼軸長屈折値・皮膚生検で鑑別。
  • 脈絡膜破裂:眼外傷後に生じる。受傷の既往から鑑別する。

ASを疑った場合は皮膚の視診を行うことが重要であり、PXEの合併が疑われる場合には皮膚科にコンサルトし皮膚生検を検討する。PXEが確認できた場合には心血管系の異常の精査も欠かせない。

  • 皮膚生検PXE診断のゴールドスタンダード。弾性線維石灰化の確認。
  • ALP・Ca/P:Paget病のスクリーニング。2)
  • ヘモグロビン電気泳動鎌状赤血球症の確認。2)
Q 網膜色素線条はどのようにして見つかるか?
A

多くは無症状のため、定期眼科検診や皮膚科受診(PXEの診断時)で偶然発見される。Paget病・鎌状赤血球症患者のスクリーニング眼科受診で検出される場合もある。変視症視力低下が出現した時点ではすでにCNVを伴っていることが多いため、ハイリスク患者では症状がなくても定期受診が重要である。

AS単独(CNV非合併)には特定の治療は不要であり、定期的な経過観察が基本となる。患者への外傷回避カウンセリングを行う。2)

乳頭黄斑間にCNVが形成された場合、比較的短期間のうちに黄斑部へと進行する傾向がある。自然経過での予後は非常に悪く、速やかな治療開始が必要である。

旧来の治療(効果限定的)新生血管抜去術、レーザー光凝固術、光線力学療法(PDT)、ステロイド局所投与が行われてきたが、治療効果は限定的で再発も多く、難渋することが多かった。

現在の第一選択:抗VEGF薬硝子体内注射

  • ラニビズマブ 0.5mg/0.05mL:前向き研究(12か月)で平均視力安定〜改善。平均注射回数は年3〜5回。7)
  • ベバシズマブ 1.25mg/0.05mL(適応外):6〜12か月で中心窩厚の減少と視力安定化が報告されている。8)
  • アフリベルセプト 2mg/0.05mL:12か月で視力維持〜改善・中心窩厚の有意な減少。9)
  • 導入期として毎月1回×3回、以降PRN法が一般的。7), 8)

長期予後は再発率が高く、数年にわたる注射継続が必要な症例が多い。黄斑萎縮の進行により長期視力予後は限定的との報告がある。10)

PDTは抗VEGF時代以前に中心窩CNVに施行されたが、現在は抗VEGF単独が主流。2)

Q 脈絡膜新生血管が生じた場合の治療効果はどの程度か?
A

抗VEGF硝子体内注射ラニビズマブベバシズマブアフリベルセプト)により12か月で視力安定〜改善が報告されている。7), 8), 9) ただし再発率が高く、加齢黄斑変性より多くの追加投与が必要となる場合が多い。長期的には黄斑萎縮が進行し視力予後が限定的となる症例も存在する。10)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

Bruch膜はエラスチンとコラーゲンを豊富に含む5層構造であり、脈絡毛細血管とRPEの間に位置して代謝産物や栄養素の輸送を担う。2)

PXEではABCC6遺伝子変異によりMRP6が機能欠損し、肝臓からの無機ピロリン酸・フェチュインA等の抗石灰化因子の分泌が低下する。その結果、全身の弾性組織にカルシウムが沈着し、Bruch膜も石灰化・脆弱化して断裂に至る。4)

Bruch膜の断裂部・RPE障害部を通してtype 2 CNVが生じる。Bruch膜の肥厚・石灰化は胎児側胎盤でも認められることから、代謝性変化が疑われている。

網膜色素線条の病態は段階的に進行する。

初期

Bruch膜肥厚:石灰化が始まり膜が厚くなる。

色素顆粒減少RPEの色素顆粒が減少する。

症状:この段階では無症状。

進行期

色素剥離RPEが部分的に剥離する。

色素斑形成:乳頭周囲から放射状の線条として眼底に出現する。

症状:線条のみでは通常無症状。

末期

CNV発生:断裂部からtype 2 CNVが侵入する(RPE上)。黄斑部に好発し中心窩に向かって進展。

網膜下出血CNV破綻により出血が生じる。

円板状瘢痕:最終的に黄斑部に瘢痕が形成される。視力の著しい低下を来す。

全身疾患との関連PXEはABCC6遺伝子変異を原因として皮膚・心血管系・消化管・胎盤など全身の弾力線維に進行性障害を生じる。心血管系疾患(狭心症・高血圧・末梢動脈疾患・消化管出血)を合併することもあり、皮膚科に加えて循環器内科での精査も検討する。2)

病理学的には、Bruch膜の広範な石灰化と肥厚が認められる。断裂部ではRPEが菲薄化し、線維血管組織が侵入して網膜下出血・CNV・円板状瘢痕を形成する。2)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

AS-CNVAMD-CNVと比較して再発率が高く、より積極的な投与レジメンの必要性が議論されている。長期(5年超)の成績では黄斑萎縮の進行により視力予後が限定的となる症例も多く、萎縮進行を抑制する治療法の開発が今後の課題である。10)

OCTAの進歩によりCNVの微細構造評価が可能となり、治療効果判定や再発検出の精度向上が期待されている。6) en face OCTを用いた色素線条病変の層別評価も報告されている。5)

抗石灰化治療(分子標的アプローチ)

Section titled “抗石灰化治療(分子標的アプローチ)”

ABCC6遺伝子変異によるPXEに対し、無機ピロリン酸補充・エチドロネートなどの抗石灰化治療の臨床試験が報告されている。

Kranenburgら(2018)は、エチドロネート(bisphosphonate)がPXE患者の異所性石灰化進行を抑制する効果をRCTで検証した。11) 石灰化の一部で進行抑制が確認されたが、有効性の確立には更なる研究が必要である。

マウスモデル(Abcc6-/-)を用いたPXE病態解析が進んでおり、遺伝子治療・分子標的治療の基礎研究も展開されている。4)

  1. Mandura RA, Radi RE. Angioid streaks in pseudoxanthoma elasticum. Cureus. 2021;13(6):e15720. doi:10.7759/cureus.15720. PMID:34277296; PMCID:PMC8286068.
  2. Georgalas I, Papaconstantinou D, Koutsandrea C, Kalantzis G, Karagiannis D, Georgopoulos G, et al. Angioid streaks, clinical course, complications, and current therapeutic management. Therapeutics and clinical risk management. 2009;5(1):81-9. PMID:19436620; PMCID:PMC2697526.
  3. Chassaing N, Martin L, Calvas P, Le Bert M, Hovnanian A. Pseudoxanthoma elasticum: a clinical, pathophysiological and genetic update including 11 novel ABCC6 mutations. Journal of medical genetics. 2005;42(12):881-92. doi:10.1136/jmg.2004.030171. PMID:15894595; PMCID:PMC1735972.
  4. Li Q, Jiang Q, Pfendner E, et al. Pseudoxanthoma elasticum: clinical phenotypes, molecular genetics and putative pathomechanisms. Exp Dermatol. 2009;18(1):1-11. doi:10.1111/j.1600-0625.2008.00795.x. PMID:19054062; PMCID:PMC3349969.
  5. Takeuchi T, Hirai H, Ogata N, Ueda T. En-Face Optical Coherence Tomography Is Useful for Assessing Striated Lesions in Angioid Streaks: A Case Report. Cureus. 2023;15(9):e45983. doi:10.7759/cureus.45983. PMID:37900525; PMCID:PMC10601347.
  6. Corbelli E, Carnevali A, Marchese A, et al. Optical coherence tomography angiography features of angioid streaks. Retina. 2018;38(11):2128-2136. doi:10.1097/IAE.0000000000001859. PMID:28961674.
  7. Ladas ID, Kotsolis AI, Ladas DS, Niskopoulou M, Georgalas I, Papakonstantinou D, et al. Intravitreal ranibizumab treatment of macular choroidal neovascularization secondary to angioid streaks: one-year results of a prospective study. Retina (Philadelphia, Pa.). 2010;30(8):1185-9. doi:10.1097/IAE.0b013e3181d2f11d. PMID:20539257.
  8. Tilanus MA, Cuypers MH, Bemelmans NA, et al. Intravitreal bevacizumab in the treatment of choroidal neovascularization associated with angioid streaks. Acta Ophthalmol. 2007;85(8):918-920.
  9. Esen E, Sizmaz S, Demircan N. Intravitreal aflibercept for management of subfoveal choroidal neovascularization secondary to angioid streaks. Indian journal of ophthalmology. 2015;63(7):616-8. doi:10.4103/0301-4738.167121. PMID:26458482; PMCID:PMC4652255.
  10. Gliem M, Finger RP, Fimmers R, et al. Treatment of choroidal neovascularization due to angioid streaks: a comprehensive review. Retina. 2013;33(7):1300-1314. doi:10.1097/IAE.0b013e3182914d2b. PMID:23719398.
  11. Kranenburg G, de Jong PA, Bartstra JW, Lagerweij SJ, Lam MG, Ossewaarde-van Norel J, et al. Etidronate for Prevention of Ectopic Mineralization in Patients With Pseudoxanthoma Elasticum. Journal of the American College of Cardiology. 2018;71(10):1117-1126. doi:10.1016/j.jacc.2017.12.062. PMID:29519353.

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