保存療法
涙囊マッサージ(Crigler法):1セット5〜10回、1日2〜4セット。4)
抗菌薬点眼:必要時のみ使用。耐性菌リスクに注意。4)
適応:生後6か月まで第一選択。
先天鼻涙管閉塞症(congenital nasolacrimal duct obstruction; CNLDO)は、鼻涙管尾側の開口部が先天的に下鼻道に開放されないものである。新生児の6〜20%に発生し、小児に最も頻度の高い涙器疾患である。1)
鼻涙管下端は、胎生第13週には鼻涙管上皮と鼻粘膜の癒合した膜状物が観察される。この膜状物は、胎生第32週頃からなくなり鼻涙管は鼻腔に開口するが、出生直前の胎生第38週でも20%程度は残存している。この膜が残存した状態が先天鼻涙管閉塞症である。この膜状物は生後も自然に消失し、鼻涙管は自然開口することが多く、新生児の涙道は発達の途中にあると考えられている。
約80%が片側性であり、性差や明確な遺伝的素因は認められていない。1)
自然治癒率は高く、生後3か月までに約60%、生後12か月までに約90%が自然治癒する。前向き研究では生後12か月までの自然治癒率は96%とも報告されている。4)生後1年以内の自然治癒率は89〜96%とされる。1)
生後12か月までに約90%が自然治癒する。涙囊マッサージ(Crigler法)を適切に実施することで治癒が促進される可能性がある。4)1歳を過ぎても症状が持続する場合は、プロービングなどの介入が検討される。
生後早期から認められる流涙と眼脂が主症状である。
CNLDOの最も一般的な原因は、ハスナー弁における退縮遅延による膜性閉塞である。その他の原因として骨性閉塞(鼻涙管全体の狭窄や骨性管の狭小化)や先天性近位涙道形成不全(涙点・涙小管の発育不全)がある。
CNLDOのリスク因子は以下の通りである。
重症CNLDOの内訳として、完全閉塞35%・涙点無形成15%・先天瘻10%・頭蓋顔面骨欠損5%が報告されている。1)
ダウン症候群では最大30%にCNLDOが発生するとされ、一般の新生児(6〜20%)より高頻度である。1)合併する頭蓋顔面の構造異常が関与すると考えられている。
CNLDOの診断は問診・視診・触診・色素残留試験・涙管通水試験により行う。
色素残留試験(FDDT):フローレス眼検査用試験紙を生理食塩水で濡らしてから下眼瞼結膜につけ、目をこすらないよう注意して約15分待つ。暗室でブルーライトをあてて眼表面を観察し、色素の残留があれば導涙障害と判定する。鼻汁に蛍光色素が到達していれば涙道の疎通性があるため先天鼻涙管閉塞を否定できる。4)感度90%、特異度100%と報告されている。1)
涙管通水検査:涙道閉塞の確定診断に有用であるが、小児の場合は体動制御のために固定が必要である。バスタオルで巻き、頭部を固定して行う侵襲的検査となる。4)先天鼻涙管閉塞では、通水時に膿を含んだ逆流を確認する。
CT検査:骨性閉塞が疑われる場合に施行する。
| 検査法 | 特徴 |
|---|---|
| 色素残留試験(FDDT) | 感度90%、特異度100% |
| 涙管通水検査 | 通過障害の確認。侵襲的。小児は固定が必要 |
| CT | 骨性閉塞の評価 |
以下の疾患との鑑別が必要である。4)
涙囊部分に指をあて、涙囊の内容物を涙点から出さないように鼻涙管下端に向かって押し込むように圧をかける手技である。1セット5〜10回、1日2〜4セット実施する。単純マッサージ(涙囊部を軽く押すだけ)では治癒率の改善は認められない。4)
ガイドラインの推奨はCQ1「実施することを弱く提案する」(エビデンスの強さC)である。4)
主要なRCTの結果:
既存データでは成功率85%以上と報告されている。1)明らかな弊害の報告はないが、マッサージで涙囊が破裂し蜂窩織炎となった症例の報告がある。保護者が適切に行うことは難しい場合がある。
眼脂が多い場合にはトスフロキサシン0.3%を使用する。ガイドラインCQ2では「実施することを弱く提案する」(エビデンスの強さC)とされているが、重要な留意点がある。4)
プロービングの月齢別適応の考え方は以下の通りである。
ガイドラインCQ3では、片側性に対し「生後6〜9か月頃に局所麻酔下でプロービングを行うことを弱く提案する」(エビデンスの強さC)。両側性については判定不能とされた。4)
PEDIG RCT結果:片側性163例において、即時プロービング群92%(75側中69側)vs 待機プロービング群82%(71側中58側)。有意差なし。待機期間中の自然治癒率は67側中44側(66%)。4)
年齢別プロービング成功率(メタアナリシス、17研究・7110眼):3)
| 年齢 | 成功率 |
|---|---|
| 0〜6か月 | 90.67% |
| 6〜12か月 | 85.18% |
| 12〜24か月 | 82.34% |
| 24〜48か月 | 85.33% |
| 48か月超 | 63.47% |
プロービング手技:点眼麻酔(リドカイン)で行う。大きなタオルでグルグル巻きにし、体力のある看護師が馬乗りにまたがり、肩・顎・頭を固定する(頭部は強く押さえすぎないこと)。上涙小管からのブジー挿入が有利であり、涙囊手前の抵抗(膨大部や急な屈曲)がなく涙小管を傷つける可能性が低い。鼻涙管内は末端の閉塞部まで抵抗なく進められ、閉塞部穿破時の抵抗は膜様の軽い抵抗から比較的固い抵抗まである。術後は抗菌薬の点眼と内服を処方する。汚染手術であり、ごくまれに敗血症などの全身感染症を発症するため、施行当日の発熱に十分注意する。
プロービング合併症:プロービング時に涙点より逆流する出血が約20%に認められる。4)まれな合併症として菌血症・髄膜炎・股関節炎・心内膜炎が報告されている。1)
涙道内視鏡は涙道内腔を観察しながら閉塞部を可視下に開放できる技術である。ガイドラインCQ4では「実施することを弱く提案する」(エビデンスの強さC)とされている。4)
再度の盲目的プロービングは推奨されない(ガイドラインCQ5: 「実施しないことを弱く提案する」エビデンスの強さC)。4)
再度の盲目的プロービングの治癒率は前向き研究53%・25%、後ろ向き研究61〜85.7%とばらつきが大きい。Honavar前向きコホートでは初回73.3%→2回目25.0%と低下した。4)
涙管チューブ挿入 vs 再盲目的プロービング:涙管チューブ挿入群92% vs 再プロービング群67%(後ろ向き研究、有意差あり)。涙管チューブ挿入(ステント留置)の治癒率は7篇で75〜100%。4)
涙管チューブ挿入(ステント留置):主にプロービング不成功例が対象。初回留置の成功率は90〜96%、プロービング失敗後は約84%。1)日本ではヌンチャク型チューブが主流(海外のCrawfordチューブと形状が異なる)。チューブ合併症(脱落・自己抜去が最多)が0〜31%に報告されている。4)
バルーン拡張:成功率は53〜95%と報告されているが、プロービングに対する明確な優位性は示されていない。
DCRは鼻涙管閉塞の根治手術である。上記の治療が奏効しない場合や骨性閉塞では適応となる。骨膜への侵襲を伴うため、顔面骨の成長が完成する15歳前後以降が望ましいとされるが、重症例では早期手術が必要な場合もある。
鼻外法の成功率は96%、内視鏡下DCRは82〜94%である。1)鼻内法は顔面に瘢痕を残さず骨切除量が少ない利点があるが、習熟した手技を要する。術後は8〜12週間のステント留置が行われる。
保存療法
涙囊マッサージ(Crigler法):1セット5〜10回、1日2〜4セット。4)
抗菌薬点眼:必要時のみ使用。耐性菌リスクに注意。4)
適応:生後6か月まで第一選択。
プロービング
時期:片側性は生後6〜9か月頃を提案。4)
手技:上涙小管からブジーで膜を穿破。
成功率:年齢により63〜91%。3)
内視鏡・チューブ・DCR
ガイドラインでは片側性に対し「生後6〜9か月頃に局所麻酔下でプロービングを行うことを弱く提案する」とされている。4)両側性については判定不能とされた。PEDIG RCTでは即時プロービング群と待機プロービング群で有意差は認められなかった。自然治癒の可能性を考慮し、生後12か月まで保存療法を優先する方針も選択肢となる。
再度の盲目的プロービングは推奨されない(ガイドラインCQ5)。涙道内視鏡を用いたプロービング(曲型で92.3〜100%の成功率)または涙管チューブ挿入(75〜100%)が提案される。4)これらが奏効しない場合は涙嚢鼻腔吻合術(DCR)が根治的治療として検討される。
Crigler法が推奨される。清潔な指を涙囊位置(内眼角の内側・鼻根部)にあて、涙囊の内容物を眼球側に逆流させないよう、鼻涙管下端(足側)方向に向かって押し込むように圧をかける。1セット5〜10回を1日2〜4セット実施する。4)単に涙囊部を軽く押すだけの単純マッサージでは効果が低い。皮膚が赤くなったり痛がる場合は中止し、医師に相談する。
涙道の発生は胎生3〜5週に開始する。表面外胚葉から涙溝が形成され、胎生3か月頃に管腔化が進行する。1)鼻涙管の最遠位部(ハスナー弁)は最後に開口し、通常は胎生8か月までに完成する。
胎生第13週には鼻涙管上皮と鼻粘膜の癒合した膜状物が観察される。胎生第32週頃からこの膜状物はなくなり、鼻涙管は鼻腔に開口するが、出生直前の胎生第38週でも20%程度は残存している。この膜が残存した状態が先天鼻涙管閉塞症であり、生後も自然に消失することが多いため、新生児の涙道は発達の途中にあると考えられる。
涙道の解剖は以下の通りである。
閉塞の部位と病型:
先天鼻涙管閉塞に伴って急性涙囊炎をきたす比較的まれな病態である。抗菌薬の点眼・内服、重症例では点滴で消炎をはかる。消炎後には、再発から皮膚自壊や蜂窩織炎のリスクもあるため、速やかにプロービングを行う。起因菌は黄色ブドウ球菌・インフルエンザ桿菌が多い。
内眼角の内下方に暗青色の特徴的な腫瘤性隆起がみられる比較的まれな先天異常である。涙囊炎・蜂窩織炎を合併する場合がある。大きな鼻腔内嚢胞がある症例や両側性の症例では、呼吸困難をきたすことがある。
ガイドラインCQ7のデータ:4)
先天鼻涙管閉塞が弱視の要因となるかどうかは判定不能(エビデンスの強さD)とされているが、一般的検査をできる範囲で行うことが強く推奨されている。4)日本の報告では、片側性先天鼻涙管閉塞94例中13%に弱視リスク該当の屈折異常が認められた。約5%に弱視が認められるとする報告もある。1)
Sultanbayevaら(2025)は17研究・7110眼を対象としたメタアナリシスで、年齢層別のプロービング成功率を検討した。3)0〜6か月では全体90.67%(全身麻酔下95.42%、局所88.82%)、6〜12か月では85.18%、12〜24か月では82.34%、48か月超では63.47%まで低下した。全サブグループでエビデンスの確実性は低と判定された。
Faratら(2021)のRCT4件(423名)を対象としたメタアナリシスでは、早期プロービングと晩期プロービングの解消率に有意差は認められなかった(RR 1.00; p=0.99)。2)一方、PEDIG研究では早期プロービングのほうがコスト効率的であることが示された(562ドル vs 701ドル)。
従来の盲目的プロービングに対し、内視鏡補助下での施行が検討されている。1)涙道内視鏡の使用により閉塞部位の直接観察が可能となり、医原性損傷のリスク低減と成功率の向上が期待される。小児に対して使用できる施設は現状きわめて限られており、今後の普及が課題である。4)
内視鏡下DCRの成功率向上を目的として、吻合部へのマイトマイシンC塗布が検討されている。1)肉芽形成や瘢痕性閉塞の予防効果が期待されるが、長期的な安全性については今後のデータ蓄積が必要である。