鼻外法(経皮的DCR)
アプローチ:内眼角からの皮膚切開
骨窓サイズ:約1×1cm(大きく確保可能)
再閉塞率:10%以下と安定した成績
整容:皮膚瘢痕が残ることがある
適応:標準的な鼻涙管閉塞、鼻腔解剖が複雑な症例
涙囊鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy: DCR)は、鼻涙管閉塞による流涙・涙囊炎に対して、涙囊と鼻腔の間の骨に窓を形成し、涙液の新しい排出路を作成する根治的手術である。
涙液は上涙点・下涙点から涙小管を経て涙囊に集まり、鼻涙管を通って鼻腔へ排出される。この経路が鼻涙管レベルで閉塞すると、涙液と分泌物が涙囊内に貯留し、流涙・眼脂・涙囊炎を引き起こす。DCRはこの閉塞部位をバイパスする新しい排出路を外科的に作成することで、根本的な解決を図る手術である。
鼻涙管閉塞に対する治療としては涙管チューブ挿入術もあるが、これは閉塞部位を一時的に拡張・開存させる処置に過ぎず、チューブ抜去後の再閉塞率は高い。一方、DCRは解剖学的に新しい排出路を作成するため、根治性が高い。成功率は90〜99%に及ぶとの報告がある2)。
DCRには大きく鼻外法と鼻内法の2種類のアプローチがある。
**鼻外法(経皮的DCR)**は内眼角(目頭)から皮膚切開を加えて涙囊に到達する古典的術式である。直視下に操作でき骨窓を大きく確保できるため、成功率が高い。皮膚切開を要するため術後に皮膚瘢痕が残ることがある。
**鼻内法(内視鏡的DCR)**は鼻内視鏡下に鼻腔側から涙囊の側壁にアプローチする低侵襲術式である。皮膚切開が不要で整容面に優れるが、骨窓がやや小さくなりやすく、成績がやや劣るとする報告もある3, 4)。
涙囊と鼻腔の間の骨に窓を開け、涙液の新しい排出路を作る手術である。鼻涙管閉塞による流涙・涙囊炎に対する根治的手術であり、成功率は90〜99%と高い。皮膚を切開する鼻外法と、鼻の中からアプローチする鼻内法がある。涙管チューブ挿入術と異なり、解剖学的に新しい排出路を作成するため根治性が高い。
涙囊炎は涙道通過障害により涙囊内で細菌感染が成立した炎症性疾患であり、急性と慢性に大別される。
| 分類 | 主な症状 | 特徴 |
|---|---|---|
| 急性涙囊炎 | 涙囊部発赤・腫脹・疼痛、流涙・眼脂 | 消炎後にDCR計画。眼窩蜂窩織炎への進展に注意 |
| 慢性涙囊炎 | 流涙・眼脂、涙囊圧迫で膿逆流 | 抗菌薬のみでは完治困難。根治にはDCRが必要 |
急性涙囊炎は涙囊から周囲組織への急性化膿性炎症が波及した状態である。内眼角(目頭)やや下方の著明な発赤・腫脹・疼痛を主症状とし、触れると激痛を伴う。高熱・全身倦怠感を伴うこともある。重症例では眼窩蜂窩織炎(眼窩の深部感染)に進展し、眼球突出・眼球運動障害・視力低下を来す場合がある。
急性期は全身抗菌薬と局所抗菌薬で消炎させ、消炎後にDCRを計画する。
慢性涙囊炎は涙囊・鼻涙管の狭窄・閉塞により老廃物・粘液が貯留し、細菌が異常増殖した状態である。持続性の流涙と眼脂が主症状である。涙囊圧迫または涙管通水検査において涙点から膿の逆流が確認される。
難治性慢性結膜炎を繰り返す場合、慢性涙囊炎が背景にある可能性を考慮する。
鼻涙管閉塞の多くは原因不明の特発性(加齢性)であるが、感染・外傷・副鼻腔疾患・放射線照射・薬剤(点眼薬含む)なども誘因となる。閉塞部位として鼻涙管入口部が最多である。
涙囊炎の起炎菌として黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が最も多く、次いでコリネバクテリウム(Corynebacterium spp.)・肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)等が検出される7, 8)。
後天性鼻涙管閉塞は高齢女性に多く、鼻涙管の解剖学的な狭小さが女性優位に関連していると考えられている2)。
慢性涙囊炎は抗菌薬の投与を漫然と続けても完治は困難であり、涙道閉塞の解除こそが根治治療となる。慢性涙囊炎の合併症として角膜潰瘍・内眼手術後の眼内炎がある。内眼手術の感染リスク低減のためにも、手術前には涙囊炎を治癒させておくことが重要である。
涙管チューブ挿入術(涙道内視鏡下チューブ留置)の成功率はチューブ抜去後1年で70〜87%であり、長期再発リスクが残存する1)。一方、DCRは根治性が高く、涙道チューブ挿入術より優れた長期成績を示すため、慢性涙囊炎の根治手術として第一選択となる。
涙道の状態を術前に詳細に評価する。
**涙囊部圧迫テスト(Crigler法)**は内眼角下方の涙囊部を圧迫し、涙点からの膿・粘液の逆流を確認する。逆流が認められれば涙囊炎がほぼ確定する。
涙管通水検査は涙点から生理食塩水を注入し、通水状態と逆流の性状(膿・粘液・涙液)を評価する。通水なしで膿の逆流が認められれば鼻涙管閉塞を伴う涙囊炎と診断できる。
涙道内視鏡検査は涙点から内視鏡を挿入し、涙小管・涙囊・鼻涙管の内腔を直接観察する。涙囊の拡大・炎症所見・閉塞部位を詳細に評価でき、術前の病態把握に有用である1)。
術前CT検査では眼窩・涙囊窩・鼻腔の形状と副鼻腔炎の有無を確認する。骨窓を作成する涙囊窩の広さ・鼻中隔の位置・鼻腔ポリープ等を術前に把握することで、安全な手術計画が可能となる。
長年にわたる流涙・眼脂症状があり患者に手術希望がある場合が主な適応となる。急性涙囊炎では、まず切開排膿・抗菌薬点滴・内服で消炎させ、消炎後に手術計画を立てる。急性炎症が残存する状態での手術は出血・感染リスクが高まるため推奨されない。
慢性涙囊炎は抗菌薬投与を漫然と続けるべきではなく、根治手術であるDCRを積極的に検討する。
チューブ挿入術とDCRの使い分けでは、涙管チューブ挿入術(涙道内視鏡下)は低侵襲で外来処置が可能という利点があり、全身状態や術者の経験を考慮して選択される。しかし根治性ではDCRが優れる。
| Step | 手技 | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 麻酔 | 全身麻酔(局麻も可) | 出血時の喉頭垂れ込みリスクに備える |
| 2. 術前鼻内処置 | ボスミン®+2%キシロカイン®を1:1混合 | 出血最小化に不可欠 |
| 3. 皮膚切開 | 前涙囊稜に沿った切開(円刃使用) | 内眼角腱上縁→鼻涙管入口部 |
| 4. 骨窓作成 | 涙囊窩に約1×1cmの骨窓 | ノミ+槌または電動ドリル |
| 5. 粘膜弁縫合 | H型切開→two flap縫合 | フラップなし術式でも成績に大差なし |
| 6. ステント留置 | チューブ+ポッド+ベスキチン®留置 | 抜去: ベスキチン1週・ポッド1か月・チューブ2か月 |
全身麻酔が基本である。大量出血時に血液が喉頭へ垂れ込む場合や、骨窓作製時の振動で患者が不穏に陥る場合があるため、気管内挿管による全身麻酔が安全性の面で推奨される。全身麻酔のリスクが高い患者では局所麻酔下でも手術は可能である。
ボスミン®(アドレナリン)と2%キシロカイン®(リドカイン)を1:1に混合し、ガーゼに浸して耳鼻科用鑷子で骨窓作製部の鼻粘膜へ挿入・充填する。十分な術前鼻内処置は術中の鼻粘膜からの出血を最小限に抑えるために不可欠であり、手術成績に影響する重要なステップである。
内眼角腱上縁から鼻涙管入口部まで、前涙囊稜に沿った皮膚切開線を描き、円刃(メス)で皮膚切開を行う。切開線の設定が骨窓へのアクセスと術後瘢痕の目立ちに影響するため、正確な位置への切開が重要となる。
涙囊窩(前涙囊稜と後涙囊稜の間の骨性陥凹)に約1×1cm程度の骨窓を開ける。平坦ノミ・丸型ノミと槌を組み合わせて用いるか、電動式ドリルで行う。骨窓のサイズはDCRの成功に直結するため、できる限り大きく確保することが望ましい。
涙囊および鼻腔粘膜にH型切開を加え、縫合用の粘膜弁を作製する。原則として前後それぞれのtwo flap(2枚の粘膜弁)を縫合する。ただし鼻粘膜と涙囊を可能な範囲で大きく切除しフラップを作製しない術式でも、手術成績に大差はないと報告されている。
シリコンチューブと網膜剝離用シリコンポッドを骨窓に留置する。ベスキチン®(キチン系止血材)の併用は骨窓の空間確保と止血の点で有用である。シリコンポッドはその頭側を内眼角腱に縫合する。
| 素材 | 抜去時期 | 備考 |
|---|---|---|
| ベスキチン® | 術後1週 | 骨窓の空間確保・止血目的 |
| シリコンポッド | 術後1か月 | 鼻から抜去 |
| シリコンチューブ | 術後2か月 | 涙点間から抜去 |
鼻外法(経皮的DCR)
アプローチ:内眼角からの皮膚切開
骨窓サイズ:約1×1cm(大きく確保可能)
再閉塞率:10%以下と安定した成績
整容:皮膚瘢痕が残ることがある
適応:標準的な鼻涙管閉塞、鼻腔解剖が複雑な症例
鼻内法(内視鏡的DCR)
アプローチ:鼻内視鏡下、鼻腔側からアプローチ
骨窓サイズ:鼻外法よりやや小さくなりやすい
再閉塞率:やや劣るとする報告もある3, 4)
整容:皮膚切開不要で瘢痕なし
適応:整容を重視する症例、鼻外法が困難な症例
鼻内法は鼻内視鏡を用いて鼻腔側から涙囊の側壁にアプローチする術式である。皮膚切開が不要で整容的に優れる。骨窓が鼻外法より小さくなりやすい点が課題であり、成績がやや劣るとする報告がある一方で4)、術者の習熟によっては鼻外法と同等の成績が得られるとの報告も増えている3)。電動器具(powered endonasal DCR)の導入により内視鏡下での骨切除精度が向上している5)。
急性涙囊炎に対してはまず切開排膿と抗菌薬(点滴・内服)で消炎させる。消炎が確認された後にDCRを計画・施行する。急性炎症期のDCRは出血量増加・感染リスクがあるため避ける。
鼻外法は骨窓を大きく確保でき、再閉塞率は10%以下と安定した成績を示す。鼻内法は皮膚瘢痕がなく整容面で優れるが、骨窓がやや小さく成績が劣るとする報告もある3, 4)。鼻腔構造・副鼻腔炎の有無・整容への希望・術者の経験を総合的に考慮して選択する。近年は内視鏡技術の向上により鼻内法の成績も改善しつつある。
術後は抗菌薬点眼と経口抗菌薬を処方し、感染予防を図る。鼻粘膜への刺激を避けるよう生活指導を行う。ステントの抜去スケジュール(ベスキチン®1週・シリコンポッド1か月・シリコンチューブ2か月)に従って外来で順次抜去する。
チューブ抜去後も定期的に涙道通水検査を行い、骨窓の開存状態を確認する。
出血は術中・術後に生じる可能性がある。術中の鼻粘膜出血は術前鼻内処置(ボスミン®+キシロカイン®)で最小化できる。術後鼻出血が生じた場合は圧迫止血を行う。
再閉塞は鼻外法では再閉塞率10%以下と報告される。肉芽形成・瘢痕収縮・骨窓の縮小が主な原因である。術後の経過観察でステロイド局所投与が有効な場合がある10)。
皮膚瘢痕は鼻外法特有の合併症で、内眼角部に線状瘢痕が残る可能性がある。適切な皮膚縫合と術後管理で目立ちにくくすることが可能である。鼻内法では皮膚瘢痕は生じない。
涙小管損傷は皮膚切開や器具操作時にまれに発生する。涙小管が損傷した場合は修復術が必要となることがある。
髄膜炎は骨窓作製時に脳硬膜を損傷した場合に極めてまれに発生する可能性がある。
慢性涙囊炎放置による合併症: 慢性涙囊炎の状態で内眼手術(白内障手術等)を施行した場合、眼内炎・角膜潰瘍のリスクが増加する。DCRによる涙囊炎の事前治癒が内眼手術安全性向上の鍵となる。
鼻外法での再閉塞率は10%以下と低い。再閉塞の主な原因は骨窓部での肉芽形成や瘢痕収縮である。術後のステント留置(チューブ2か月・ポッド1か月)と適切な経過観察が再閉塞予防に重要である。再閉塞した場合は再手術(revisional DCR)または涙道内視鏡下の処置を検討する。
涙液の排出路は上・下涙点 → 涙小管(垂直部2mm・水平部8mm)→ 総涙小管 → 涙囊(長さ約12mm)→ 鼻涙管(長さ約12mm)→ 下鼻道へと連続する。涙囊は骨性の涙囊窩(前涙囊稜と後涙囊稜の間)に収まっており、DCRでは涙囊窩の骨を削除して鼻腔との吻合を行う。
鼻涙管閉塞は粘膜の慢性炎症による瘢痕化・管腔狭窄が最も一般的な機序である。閉塞部位として鼻涙管入口部が最多であり、加齢に伴う粘膜萎縮・線維化が主な誘因と考えられる。
閉塞が生じると閉塞近位側の涙囊に涙液・分泌物が貯留する。ここに黄色ブドウ球菌やコリネバクテリウム等の細菌が異常増殖することで涙囊炎が発症する。慢性炎症が持続すると涙囊粘膜の肥厚・線維化が進行し、閉塞が悪化する悪循環に陥る。
DCRは閉塞した鼻涙管をバイパスし、涙囊と鼻腔の間に直接の排出路を作成する。骨窓を通じた粘膜吻合により、新たな排液経路が形成される。骨窓サイズが大きいほど再閉塞のリスクが低下するため、鼻外法でより大きな骨窓を確保できることが成功率の高さに直結する。
再閉塞予防を目的としたマイトマイシンC(MMC)の術中局所投与は、線維芽細胞増殖を抑制することで骨窓周囲の瘢痕形成を減少させる可能性が報告されている。システマティックレビューではMMC投与群で統計的優位な効果は確立されておらず10)、現時点での標準的使用は限定的である。
電動器具(powered endonasal DCR)の導入やマイクロデブリッダーを用いた精密な粘膜処理により、鼻内法の骨窓サイズが向上し成績改善が報告されている5)。鼻外法と内視鏡下DCRの成績を直接比較したRCTでは、プライマリー成功率に有意差がないとするデータも蓄積されてきている6)。
外傷性・医原性鼻涙管閉塞は一般的な加齢性閉塞と病態が異なり、骨折・術後瘢痕による閉塞が主因となる。これらの症例ではより広範な骨切除や鼻粘膜の状態評価が重要となる。
**CDCR(結膜涙囊鼻腔吻合術)**は涙小管が閉塞した症例(涙小管閉塞+涙囊炎)への選択肢であり、Jones tube(ガラス管)を結膜嚢から鼻腔に留置することで涙液排出路を確保する1)。
**涙囊移動術(結膜涙囊吻合術)**は涙囊を前転させて結膜嚢に吻合する新しい術式として解説されている9)。