この疾患の要点
涙嚢瘤(るいのうりゅう)は先天鼻涙管閉塞により涙嚢が嚢胞状に拡張する新生児期の疾患である。
内眥靭帯下方の青みがかった腫脹が典型的な初発所見であるが、非典型例では青紫色腫脹を欠くことがある。
91%が片側性で、最大30%が両側性である。
大きな鼻腔内嚢胞では呼吸窮迫をきたす場合があり、緊急処置が必要となる。
保存療法(涙嚢マッサージ+予防的抗菌薬点眼)が第一選択。改善しない場合は鼻内視鏡下嚢胞開窓術が有効である。
感染性涙嚢炎 に進展すると蜂窩織炎・敗血症・髄膜炎などの重篤合併症を生じうる。
涙嚢瘤(dacryocele/dacryocystocele)は、先天鼻涙管閉塞(NLDO )の結果として涙嚢が拡張し嚢腫を形成する疾患である。別名として涙嚢嚢腫・羊水瘤(amniotocele)・粘液嚢胞(mucocele)とも呼ばれる。ICD-10分類ではQ10.5に該当する。
発生頻度は先天鼻涙管閉塞児の約3%であり、報告により1.25〜12.5%とされる1) 。91%が片側性であり最大30%が両側性を呈する1) 。23%の症例が手術介入を要する1) 。
先天鼻涙管閉塞は胎生8か月で鼻涙管下部が開口しないことで生じる。自然治癒率は生後3か月で約70%、6か月で約80%、12か月で80〜100%に達する。先天鼻涙管閉塞の主症状は出生直後からの流涙と眼脂である。
Q
涙嚢瘤はどのくらいの頻度で起こりますか?
A
先天鼻涙管閉塞を持つ乳児の約3%に発生し、報告により1.25〜12.5%とされる1) 。91%が片側性であるが、最大30%は両側性を呈する。先天鼻涙管閉塞自体は生後1年以内に80〜100%が自然治癒する。
内眥の青紫色腫脹 :出生時または生後数日以内に内眥やや下方・鼻側に青みがかった腫脹を呈する。
粘膿性分泌物 :眼脂・起床時の睫毛付着が認められる。
流涙 :持続的な涙あふれ(流涙)を生じる。
呼吸困難 :両側性・大きな鼻腔内嚢胞では授乳時の呼吸困難、重症例では急性呼吸窮迫をきたす。
嚢胞状腫瘤 :内眥靭帯下方、鼻涙管領域の青みがかった嚢胞状腫瘤を触知する。
内眥の上方偏位 :腫瘤の圧排により内眥が上方偏位することがある。
圧迫排出 :腫瘤を圧迫すると涙点から粘膿性分泌物が排出される。
鼻腔内進展 :鼻粘膜が拡張し鼻腔内に進展する。鼻内視鏡で下鼻甲介下に嚢胞として確認される。
非典型例 :青紫色腫脹が初発症状でない場合がある1) 。流涙のみで受診した場合も、CT・内視鏡検査を考慮する。
涙嚢瘤発生の根本原因は鼻涙管遠位側(膜様部)の先天的閉塞である。
Hasner弁の閉鎖 :鼻涙管の鼻腔開口部にあるHasner弁が閉鎖することで、鼻涙管が袋状となる。
液体の閉じ込め :涙嚢杯細胞からの粘液・羊水が鼻涙管内に封入される。溶解した中胚葉・粘液・羊水・涙液・細菌コロニー形成が腫脹に寄与する1) 。
二方向閉塞 :涙嚢拡張により総涙小管 入口が屈曲・閉鎖する。Rosenmüller弁が近位側の一方向弁として逆流を制限する。
主なリスク要因は先天鼻涙管閉塞であり、特定の外因による予防は困難である。
Q
涙嚢瘤は予防できますか?
A
先天的な涙道の解剖学的異常(Hasner弁の閉鎖)が原因であるため、特定の予防策はない。出生後の早期発見と適切な管理(涙嚢マッサージや感染予防)が重要である。
臨床診察が基本である。涙嚢部の指マッサージで液体が涙点から排出されるかを確認する。涙管通水検査では生理食塩水の完全逆流により閉塞を確認できる。
超音波検査 :B-scanで中空円形空洞を確認できる。A-scanでは高反射壁と低内部反射が認められる。非侵襲的であり他疾患との鑑別に有用1) 。
鼻内視鏡 :鼻腔内嚢胞の有無を評価し、呼吸への影響を確認する。
CT/MRI :涙道系から下鼻道へ進展する嚢胞状腫瘤を描出する。必須ではないが鼻腔内嚢胞合併時や非典型例で有用1) 。
内眥部腫瘤の主な鑑別疾患を以下に示す。
疾患 特徴 血管腫 出生時不在、頭位変換でサイズ変化 皮様嚢腫 可動性あり、内眥靭帯上方 脳瘤 内眥靭帯上方に位置 横紋筋肉腫 急速進行、出生時不在
涙嚢マッサージ :内眼角と鼻根部の間(涙嚢部)および鼻翼部を愛護的にマッサージする。涙嚢への圧力で閉塞部の開通を促す1) 。
予防的抗菌薬点眼 :感染予防のために抗菌薬点眼を併用する1) 。
自然開通の期待 :先天性涙嚢ヘルニアは自然治癒する例も少なくなく、生後6か月頃までは自然開通の可能性がある。
適応 :生後1〜2週間以内に保存療法で改善しない場合、または感染兆候(急性涙嚢炎 )が出現した場合。
プロービング
鼻涙管ブジー(プロービング) :閉塞部を金属ブジーで穿破する。プロービングの時期は乳児の免疫力の観点から生後6か月以降が推奨される。膿貯留が多い場合は4〜6か月での実施もありうる。約25%の症例では完全治癒に至らない。
内視鏡下手術
鼻内視鏡下嚢胞開窓術 :鼻涙管ブジーと組み合わせた鼻腔内嚢胞開窓術の成功率は95%以上。鼻内視鏡を用いて鼻腔内から鉗子などで嚢胞壁を破く方法が効果的である。小児耳鼻咽喉科専門医がベッドサイドで実施可能。術翌日には症状消失が確認される例もある1) 。
急性呼吸窮迫時 :緊急の鼻内視鏡下嚢胞除去が必要となる。
治療における注意点
感染性涙嚢瘤に対する皮膚切開による排膿は、持続的瘻孔形成のリスクがあるため推奨されない。
感染がある場合は手術前に全身性抗菌薬を投与する。
早期手術介入により、蜂窩織炎・敗血症・髄膜炎・脳膿瘍などの重篤合併症を回避できる1) 。
Q
涙嚢瘤は手術せずに治ることがありますか?
A
保存療法(涙嚢マッサージ+予防的抗菌薬点眼)で改善する例があり、生後6か月頃までは自然開通の可能性もある。しかし改善しない場合や感染兆候が出現した場合は速やかに手術介入が必要である。鼻内視鏡下嚢胞開窓術の成功率は95%以上と報告されている。
涙嚢瘤の発生は鼻涙管下部開口部の先天的閉塞(Hasner弁膜の遺残)を起点とする。
液体の封入 :涙嚢杯細胞が分泌する粘液と羊水が遠位側閉塞で閉じ込められる。
二弁機序による液体貯留 :Rosenmüller弁(近位側)が一方向弁として逆流を制限し、Hasner弁(遠位側)の閉塞と相まって液体が涙嚢内に貯留・拡張する。
総涙小管 の圧迫 :涙嚢の拡張が総涙小管 入口を屈曲・閉鎖させ、液体の出口が完全に消失する。
涙道の解剖学的数値を以下に示す。
部位 計測値 涙嚢の高さ 9.8〜11.0mm 涙嚢の前後径 7.5mm 鼻涙管の長さ 15〜18mm(骨性部12mm)
涙嚢壁には海綿状構造と涙道関連リンパ組織(免疫システム)が存在する。鼻涙管骨性入口は漏斗型で閉塞発生率が高い。
Han LP, Wang FX, Zhang CY. Special congenital dacryocystocele. Pakistan journal of medical sciences. 2023;39(2):608-610. doi:10.12669/pjms.39.2.6819. PMID:36950401; PMCI D:PMC10025701.
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Wasserman BN, Schnall BM, Levin AV. Sequential bilateral dacryocele. Arch Ophthalmol. 2011;129(1):104-5. PMID: 21220638.
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