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小児眼科・斜視

小児の点眼指導(Pediatric Eye Drop Administration)

小児への点眼は、非協力・恐怖心による眼瞼閉鎖・全身への薬剤吸収リスクなど成人と異なる困難を伴い、年齢に合わせた手技・工夫と保護者指導が不可欠である。保護者のアドヒアランス(点眼継続率)が治療成績を大きく左右する。

小児点眼が必要となる主な臨床場面は以下の通りである。

  • 弱視治療(アトロピンペナリゼーション・散瞳薬検査)
  • アレルギー性結膜炎(抗アレルギー薬・ステロイド
  • 感染性結膜炎(抗菌薬)
  • 近視進行抑制(低濃度アトロピン: リジュセア®ミニ0.025%)
  • 術前・術後管理(抗菌薬・ステロイド散瞳薬

点眼1滴の量は30〜50μLであり、結膜嚢容積は最大約30μLである。1滴でも結膜嚢からあふれるが、結膜嚢に入れば眼表面に広がるため、1滴の点眼で十分である。

2. 小児で用いられる主な点眼薬と注意点

Section titled “2. 小児で用いられる主な点眼薬と注意点”

調節麻痺薬

代表薬:アトロピン硫酸塩水和物(日点アトロピン1%)、シクロペントラート塩酸塩(サイプレジン®1%)、トロピカミド/フェニレフリン(ミドリンP®)

注意:全身副作用リスクが最も高い。添付文書は幼児小児に0.25%推奨だが、実際には0.5%と1%の使用施設がほとんどである1)

用途屈折検査(調節麻痺下)、弱視治療(ペナリゼーション)

ステロイド点眼

代表薬:フルオロメトロン(フルメトロン®0.02%/0.1%)、ベタメタゾン(リンデロン®)

注意:小児はステロイドレスポンダーの割合が高い。0.1%フルオロメトロンでも眼圧上昇報告あり2)眼圧測定困難な乳幼児では特に注意が必要。

散瞳薬・調節麻痺薬の薬理パラメータ

Section titled “散瞳薬・調節麻痺薬の薬理パラメータ”
薬剤散瞳発現散瞳消失調節麻痺持続調節麻痺消失
アトロピン硫酸塩水和物30〜40分約10日間3〜5日7〜12日
シクロペントラート塩酸塩点眼後45分48〜72時間45分〜2時間約24時間
トロピカミド(ミドリンM/P)15〜30分5〜8時間弱い
フェニレフリン(ネオシネジコーワ)40〜60分5時間なし
  • 低濃度アトロピン(リジュセア®ミニ0.025%)近視進行抑制の国内初承認薬(2024年12月)。就寝前点眼。5歳未満は慎重投与3)

3. 小児の薬物動態と全身副作用リスク

Section titled “3. 小児の薬物動態と全身副作用リスク”

乳幼児は成人と比較して全身吸収が起こりやすい構造的特徴を持つ。

  • 涙液量が成人より少ない→同量の点眼薬でも眼表面濃度が高い
  • 鼻涙管が短く太い→全身吸収が起こりやすい
  • 体重あたりの吸収量が多い→毒性リスクが成人より高い

点眼1滴は30〜50μL、結膜嚢容積は最大約30μL、涙液約7μL。余剰分は鼻涙管に流出し、鼻粘膜から全身循環に入る。

アトロピンは鼻涙管→鼻粘膜→全身循環→ムスカリン受容体を遮断する経路で全身作用をきたす。

  • 症状:発熱・顔面紅潮・口渇・頻脈。重篤例では興奮・幻覚・痙攣
  • 発汗抑制→体温上昇(特に夏場)
  • 散瞳・調節麻痺:毛様体筋の副交感神経遮断。完全回復に2〜3週間
  • 実際の副作用発現頻度はそれほど多くなく、顔面紅潮だけのことが多い1)

シクロペントラートの全身副作用

Section titled “シクロペントラートの全身副作用”

一過性の精神神経症状:めまい・運動失調・見当識障害・眠気・幻覚。転倒のリスクがあるため保護者は目を離さないようにしなければならない。

ステロイドレスポンダー:成人で約30%2)。小児はレスポンダーの割合がさらに高い。眼圧測定が困難な乳幼児では特に注意が必要である。

  • 手を洗い、目薬の名前を確認する
  • 容器の先端が眼瞼・睫毛に触れないようにする
  • 結膜嚢に入れば眼表面に広がるため角膜中央への滴下は不要
  • 点眼は1滴で十分

乳幼児(0〜2歳)

固定法:おくるみ固定法。大人2人いる場合は1人が抱っこして子どもの脚を大人の両脚の間にはさみこみ、もう1人が点眼する。大人1人の場合は馬乗り法(太ももで固定)またはプロレス法(腕の上に脚を伸ばして固定)。

閉瞼点眼法:閉じた眼の内眼角(目頭)に1滴落とす。まばたき時に薬液が浸透する。

就寝時点眼:号泣すると薬液が流れてしまうため、寝入りばなに行う。

幼児(2〜5歳)

体位:保護者の膝上に頭を置く体位。

誘導法:「目を上に向けて」「顔を上に向けて」と言葉で誘導する。

注意そらし:おやつや手遊びで気を引きながら実施する。ご褒美制(シールなど)で動機付けを行う。

学童(6歳以上)

自己点眼練習:鏡を使いながら練習する。保護者依存からの段階的移行が目標。

げんこつ法:点眼瓶を持つ手を額に当てて安定させる手技。

Q 子どもが泣いてしまい点眼できない場合はどうすればよいか?
A

就寝中に目頭に滴下する方法が有効である。号泣すると涙で薬液が洗い流される。恐怖心が原因であれば、点眼瓶を見せない位置から実施するか閉瞼点眼法を試みる。

涙嚢閉塞法(nasolacrimal occlusion: NLO)

Section titled “涙嚢閉塞法(nasolacrimal occlusion: NLO)”

点眼後に内眼角(涙嚢部)を1〜2分圧迫する。全身吸収を最大70%減少させることができる4)。アトロピン注意書きでは「目頭を30〜40秒押さえる」と記載する。

点眼後数分間目を閉じる。涙嚢部圧迫と同等の効果がある4)。まばたきが多いと涙点から薬液が鼻→咽頭に流出してしまう。

ティッシュで押さえる程度(ゴシゴシこすらない)。特に抗緑内障薬(PG系)は眼周囲の副作用が出やすいため洗顔も有効である。

アトロピンは風邪・下痢・発熱時には点眼しない。体温調節障害がさらに悪化するリスクがある。

Q 涙嚢閉塞法は小児に本当に効果があるか?
A

小児は鼻涙管が成人に比べ短く太いため全身吸収が起こりやすく、涙嚢閉塞法の効果はむしろ小児でより重要である。点眼後30〜40秒以上の圧迫を習慣化するよう保護者に指導する。

6. アトロピン点眼の指導と保護者説明

Section titled “6. アトロピン点眼の指導と保護者説明”

アトロピンは劇薬であるため、外来で必ず保護者に説明する。副作用が生じた際に受診できるように点眼は平日の朝から開始する。効果は中止後も2〜3週間持続する。

  1. ピントが合わなくなり、近くが見にくくなる
  2. 瞳が大きくなる(羞明
  3. 点眼後は目頭を30〜40秒押さえる(鼻涙管経由の全身吸収予防)
  4. 体調の悪い時(かぜ・下痢・発熱)は点眼しない
  5. 目薬は子どもの手の届かない場所に保管する
  6. アトロピンは本人以外は絶対に使わない
  7. 余ったアトロピンは受診後返却する

口頭説明のみとせず、注意書きを手渡すことが推奨されており、ほとんどの医療機関で注意書きを手渡している1)

  • アトロピン法:1日2回で7日間自宅点眼後に来院する
  • サイプレジン法:5分間隔で2回点眼、初回から45〜60分後に検査3)
  • 内斜視がある場合はアトロピンを選択(サイプレジンより0.30〜1.00D調節麻痺が強い)1)

弱視治療におけるアトロピンペナリゼーション

Section titled “弱視治療におけるアトロピンペナリゼーション”

健眼に1日1回点眼する5)。パッチングの代替手段として、眼鏡装用下でアトロピンにより健眼の視力を低下させる方法である。

低濃度アトロピン(近視進行抑制)の保護者説明

Section titled “低濃度アトロピン(近視進行抑制)の保護者説明”

リジュセア®ミニ点眼液0.025%(参天製薬、2024年12月承認)の保護者説明事項3)

  • 近視を改善するものではない
  • 視力矯正機能はない→眼鏡併用が必要
  • 10代後半まで毎日継続が望ましい
  • 中止後のリバウンド(進行加速)のリスクがある
  • 就寝前に点眼する(羞明軽減)
Q アトロピン点眼で副作用が出たらどうすればよいか?
A

直ちに点眼を中止する。発熱・顔面紅潮・興奮・幻覚などの症状がある場合はすぐに眼科を受診する。点眼を平日の朝から開始していれば、副作用発生時に日中に受診できる。症状が軽微(顔面紅潮のみ)であれば次回受診時に報告し、医師の指示に従う。

  • 点眼の順番:水性→懸濁→ゲル化→軟膏の順
  • 点眼間隔:5分以上あける(眼表面から消失するのに約5分)
  • ゲル化する点眼薬は前後に10分以上あける
  • 水性が複数ある場合は効果を上げたい薬を後にする
  • 開封後は1か月以内に廃棄(特に防腐剤フリーの使い捨て製品は開封後すぐに廃棄)
  • 冷所保存が必要な薬剤の確認(例:キサラタン®等の抗緑内障薬)
  • 遮光が必要な薬剤は遮光袋を使用
  • 目薬は子どもの手の届かない場所に保管(アトロピンは劇薬、誤飲リスク)
  • 余ったアトロピンは受診後に返却する
Q 点眼薬の順番を間違えたらどうなるか?
A

懸濁液やゲル化点眼薬を先にさすと後の薬の吸収が妨げられる可能性があるが、致命的ではない。5分以上の間隔をあけていれば大きな問題にはならない。正しい順序を習慣化することが重要である。


  1. 若林暁美, 野村耕治, 仁科幸子, 他. 調節麻痺薬の使用に関する施設基準および副作用に関する調査:多施設共同研究. 日眼会誌. 2017;121(7):529-534.
  2. Armaly MF. Statistical attributes of the steroid hypertensive response in the clinically normal eye. I. The demonstration of three levels of response. Invest Ophthalmol. 1965;4:187-197.
  3. 低濃度アトロピン点眼液を用いた近視進行抑制治療の治療指針作成委員会. 低濃度アトロピン点眼液を用いた近視進行抑制治療の手引き. 日眼会誌. 2025;129(10):851-854.
  4. Zimmerman TJ, Kooner KS, Kandarakis AS, Ziegler LP. Improving the therapeutic index of topically applied ocular drugs. Arch Ophthalmol. 1984;102(4):551-553.
  5. Repka MX, Kraker RT, Holmes JM, et al. Atropine vs patching for treatment of moderate amblyopia: follow-up at 15 years of age of a randomized clinical trial. JAMA Ophthalmol. 2014;132(7):799-805.

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