この疾患の要点
小児への点眼は非協力・眼瞼閉鎖・全身副作用リスクなど成人と異なる困難がある。
乳幼児の涙液量は少なく鼻涙管は短く太いため、全身への薬剤吸収が成人より多い。
年齢別に工夫が必要: 乳幼児は閉瞼点眼法や就寝時点眼、幼児は膝上体位で保護者が実施、学童は自己点眼を練習する。
アトロピン点眼は劇薬であり、注意書きを手渡して平日の朝から開始する。
涙嚢閉塞法(点眼後に内眼角を30〜40秒圧迫)で全身吸収を最大70%減少できる。
シクロペントラート(サイプレジン®)は一過性の運動失調・幻覚があり転倒に注意する。
ステロイド 点眼は小児で眼圧 上昇しやすく、定期的な眼圧測定 が必要である。
小児への点眼は、非協力・恐怖心による眼瞼閉鎖・全身への薬剤吸収リスクなど成人と異なる困難を伴い、年齢に合わせた手技・工夫と保護者指導が不可欠である。保護者のアドヒアランス(点眼継続率)が治療成績を大きく左右する。
小児点眼が必要となる主な臨床場面は以下の通りである。
弱視 治療(アトロピンペナリゼーション・散瞳薬 検査)
アレルギー性結膜炎 (抗アレルギー薬・ステロイド )
感染性結膜炎 (抗菌薬)
近視 進行抑制(低濃度アトロピン: リジュセア®ミニ0.025%)
術前・術後管理(抗菌薬・ステロイド ・散瞳薬 )
点眼1滴の量は30〜50μLであり、結膜 嚢容積は最大約30μLである。1滴でも結膜 嚢からあふれるが、結膜 嚢に入れば眼表面に広がるため、1滴の点眼で十分である。
調節麻痺薬
代表薬 :アトロピン硫酸塩水和物(日点アトロピン1%)、シクロペントラート塩酸塩(サイプレジン®1%)、トロピカミド/フェニレフリン(ミドリンP®)
注意 :全身副作用リスクが最も高い。添付文書は幼児小児に0.25%推奨だが、実際には0.5%と1%の使用施設がほとんどである1) 。
用途 :屈折 検査(調節麻痺下)、弱視 治療(ペナリゼーション)
ステロイド点眼
代表薬 :フルオロメトロン(フルメトロン®0.02%/0.1%)、ベタメタゾン(リンデロン®)
注意 :小児はステロイド レスポンダーの割合が高い。0.1%フルオロメトロンでも眼圧 上昇報告あり2) 。眼圧測定 困難な乳幼児では特に注意が必要。
薬剤 散瞳 発現散瞳 消失調節麻痺持続 調節麻痺消失 アトロピン硫酸塩水和物 30〜40分 約10日間 3〜5日 7〜12日 シクロペントラート塩酸塩 点眼後45分 48〜72時間 45分〜2時間 約24時間 トロピカミド(ミドリンM/P) 15〜30分 5〜8時間 弱い — フェニレフリン(ネオシネジコーワ) 40〜60分 5時間 なし —
低濃度アトロピン(リジュセア®ミニ0.025%) :近視 進行抑制の国内初承認薬(2024年12月)。就寝前点眼。5歳未満は慎重投与3)
乳幼児は成人と比較して全身吸収が起こりやすい構造的特徴を持つ。
涙液量が成人より少ない→同量の点眼薬でも眼表面濃度が高い
鼻涙管が短く太い→全身吸収が起こりやすい
体重あたりの吸収量が多い→毒性リスクが成人より高い
点眼1滴は30〜50μL、結膜 嚢容積は最大約30μL、涙液約7μL。余剰分は鼻涙管に流出し、鼻粘膜から全身循環に入る。
アトロピンは鼻涙管→鼻粘膜→全身循環→ムスカリン受容体を遮断する経路で全身作用をきたす。
症状:発熱・顔面紅潮・口渇・頻脈。重篤例では興奮・幻覚・痙攣
発汗抑制→体温上昇(特に夏場)
散瞳 ・調節麻痺:毛様体 筋の副交感神経遮断。完全回復に2〜3週間
実際の副作用発現頻度はそれほど多くなく、顔面紅潮だけのことが多い1)
一過性の精神神経症状:めまい・運動失調・見当識障害・眠気・幻覚。転倒のリスクがあるため保護者は目を離さないようにしなければならない。
ステロイド レスポンダー:成人で約30%2) 。小児はレスポンダーの割合がさらに高い。眼圧測定 が困難な乳幼児では特に注意が必要である。
手を洗い、目薬の名前を確認する
容器の先端が眼瞼・睫毛に触れないようにする
結膜 嚢に入れば眼表面に広がるため角膜 中央への滴下は不要
点眼は1滴で十分
乳幼児(0〜2歳)
固定法 :おくるみ固定法。大人2人いる場合は1人が抱っこして子どもの脚を大人の両脚の間にはさみこみ、もう1人が点眼する。大人1人の場合は馬乗り法(太ももで固定)またはプロレス法(腕の上に脚を伸ばして固定)。
閉瞼点眼法 :閉じた眼の内眼角(目頭)に1滴落とす。まばたき時に薬液が浸透する。
就寝時点眼 :号泣すると薬液が流れてしまうため、寝入りばなに行う。
幼児(2〜5歳)
体位 :保護者の膝上に頭を置く体位。
誘導法 :「目を上に向けて」「顔を上に向けて」と言葉で誘導する。
注意そらし :おやつや手遊びで気を引きながら実施する。ご褒美制(シールなど)で動機付けを行う。
学童(6歳以上)
自己点眼練習 :鏡を使いながら練習する。保護者依存からの段階的移行が目標。
げんこつ法 :点眼瓶を持つ手を額に当てて安定させる手技。
就寝時点眼のコツ
寝入りばなに目頭に1滴落とし、目尻部分を外側(耳側)にそっと引っぱったり下眼瞼を下に引くと薬液が眼表面に広がります。
号泣している最中は点眼薬が涙で洗い流されてしまいます。どうしても難しい場合は就寝中の点眼を試みましょう。
Q
子どもが泣いてしまい点眼できない場合はどうすればよいか?
A
就寝中に目頭に滴下する方法が有効である。号泣すると涙で薬液が洗い流される。恐怖心が原因であれば、点眼瓶を見せない位置から実施するか閉瞼点眼法を試みる。
点眼後に内眼角(涙嚢部)を1〜2分圧迫する。全身吸収を最大70%減少させることができる4) 。アトロピン注意書きでは「目頭を30〜40秒押さえる」と記載する。
点眼後数分間目を閉じる。涙嚢部圧迫と同等の効果がある4) 。まばたきが多いと涙点から薬液が鼻→咽頭に流出してしまう。
ティッシュで押さえる程度(ゴシゴシこすらない)。特に抗緑内障 薬(PG系)は眼周囲の副作用が出やすいため洗顔も有効である。
アトロピンは風邪・下痢・発熱時には点眼しない。体温調節障害がさらに悪化するリスクがある。
Q
涙嚢閉塞法は小児に本当に効果があるか?
A
小児は鼻涙管が成人に比べ短く太いため全身吸収が起こりやすく、涙嚢閉塞法の効果はむしろ小児でより重要である。点眼後30〜40秒以上の圧迫を習慣化するよう保護者に指導する。
アトロピンは劇薬 であるため、外来で必ず保護者に説明する。副作用が生じた際に受診できるように点眼は平日の朝から開始 する。効果は中止後も2〜3週間持続する。
ピントが合わなくなり、近くが見にくくなる
瞳が大きくなる(羞明 )
点眼後は目頭を30〜40秒 押さえる(鼻涙管経由の全身吸収予防)
体調の悪い時(かぜ・下痢・発熱)は点眼しない
目薬は子どもの手の届かない場所に保管する
アトロピンは本人以外は絶対に使わない
余ったアトロピンは受診後返却する
口頭説明のみとせず、注意書きを手渡すことが推奨 されており、ほとんどの医療機関で注意書きを手渡している1) 。
アトロピン法 :1日2回で7日間自宅点眼後に来院する
サイプレジン法 :5分間隔で2回点眼、初回から45〜60分後に検査3)
内斜視 がある場合はアトロピンを選択(サイプレジンより0.30〜1.00D調節麻痺が強い)1)
健眼に1日1回点眼する5) 。パッチングの代替手段として、眼鏡装用下でアトロピンにより健眼の視力 を低下させる方法である。
リジュセア®ミニ点眼液0.025%(参天製薬、2024年12月承認)の保護者説明事項3) :
近視 を改善するものではない
視力 矯正機能はない→眼鏡併用が必要
10代後半まで毎日継続が望ましい
中止後のリバウンド(進行加速)のリスクがある
就寝前に点眼する(羞明 軽減)
Q
アトロピン点眼で副作用が出たらどうすればよいか?
A
直ちに点眼を中止する。発熱・顔面紅潮・興奮・幻覚などの症状がある場合はすぐに眼科を受診する。点眼を平日の朝から開始していれば、副作用発生時に日中に受診できる。症状が軽微(顔面紅潮のみ)であれば次回受診時に報告し、医師の指示に従う。
点眼の順番 :水性→懸濁→ゲル化→軟膏の順
点眼間隔 :5分以上あける(眼表面から消失するのに約5分)
ゲル化する点眼薬は前後に10分以上あける
水性が複数ある場合は効果を上げたい薬を後にする
開封後は1か月以内に廃棄(特に防腐剤フリーの使い捨て製品は開封後すぐに廃棄)
冷所保存が必要な薬剤の確認(例:キサラタン®等の抗緑内障 薬)
遮光が必要な薬剤は遮光袋を使用
目薬は子どもの手の届かない場所に保管(アトロピンは劇薬、誤飲リスク)
余ったアトロピンは受診後に返却する
Q
点眼薬の順番を間違えたらどうなるか?
A
懸濁液やゲル化点眼薬を先にさすと後の薬の吸収が妨げられる可能性があるが、致命的ではない。5分以上の間隔をあけていれば大きな問題にはならない。正しい順序を習慣化することが重要である。
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