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眼形成

涙点狭窄・閉塞(Punctal Stenosis and Occlusion)

涙点(punctum)は上下眼瞼の内眼角側にそれぞれ1つずつ存在する、直径約0.5mmの開口部である。涙液排出系の入口にあたり、涙液を涙小管→涙囊→鼻涙管の順に鼻腔へ排出する「涙液ポンプ」の起点として機能する。この開口部が狭小化(狭窄)または完全に閉鎖(閉塞)すると、涙液が結膜囊に貯留して流涙症(epiphora)を生じる。

涙点狭窄・閉塞は発症機序と原因によって先天性と後天性に大別される。先天性は胎生期の涙点形成不全による。後天性は炎症・瘢痕・薬剤・加齢・外傷など多様な原因で生じる。

閉塞部位が涙点のみの場合が涙点閉塞症(punctal occlusion)であり、涙小管以下が開存していても涙点で流入が阻まれる。鼻涙管閉塞症など涙道の下流閉塞とは病態が異なり、鑑別が重要である(詳細は「診断と検査方法」の項を参照)。

以下に閉塞の型別分類を示す。

主な原因
先天性涙点欠損胎生期の涙点形成不全(胎生6か月で開口)
炎症性・瘢痕性閉塞Stevens-Johnson症候群眼類天疱瘡・慢性炎症
薬剤性閉塞緑内障点眼薬・S-1(ティーエスワン®)・IDU
加齢性・特発性狭窄加齢による涙点縮小
外傷性熱傷・化学腐食後の瘢痕
Q 涙点狭窄と鼻涙管閉塞はどう違いますか?
A

涙点狭窄は涙液排出路の入口(涙点)の狭小化であり、鼻涙管閉塞は排出路の出口側(鼻涙管)の閉塞である。いずれも流涙を生じるが、涙点狭窄は細隙灯顕微鏡で涙点を直接観察して診断し、鼻涙管閉塞は涙道洗浄で通過障害を確認して診断する。涙点が開存しているかどうかが最初の鑑別ポイントとなる。

涙点狭窄・閉塞の主症状は持続的な流涙(epiphora)である。

  • 流涙(epiphora):涙がこぼれる、まつ毛が濡れる感覚。屋外・風・寒冷刺激で増悪しやすい。
  • 視界のぼやけ結膜囊に貯留した涙液が光学系を乱すことによる。瞬目で一時的に改善する。
  • 眼脂の少なさ:先天涙点欠損では流涙はあるが感染を伴わないため眼脂はみられない。後天性炎症性の場合は眼脂を伴うことがある。

なお、涙液分泌減少型ドライアイを合併している場合は、涙点閉塞によって眼表面の涙液メニスカスが安定し、流涙症状が出にくいことがある。こうした症例では涙点閉塞の診断が見逃されやすいため注意が必要である。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 涙液メニスカス高位:涙液が排出されず下眼瞼縁に貯留し、メニスカス高さが増大する。細隙灯顕微鏡で観察される。
  • 涙点の縮小・消失・膜閉鎖:上下眼瞼の内眼角部を細隙灯顕微鏡で観察すると、涙点開口部の縮小や膜様物による閉鎖を確認できる。完全閉塞では開口部が確認できない。
  • 先天涙点欠損:内眼角部に涙点開口部が確認できない。流涙は持続するが感染眼脂はない。

涙点は胎生6か月で開口し、出生時には下鼻道へ開通する。この過程に障害が生じると先天涙点欠損となる。上下の涙点が1つまたは複数欠損した状態を示し、欠損パターンは多様である。涙道系の他の部位は正常に発達していることが多い。

後天性涙点閉塞の原因は炎症性・薬剤性・加齢性・外傷性に分類される。慢性眼瞼炎は既報で最も頻度の高い原因であり、ある前向き研究では45%を占めると報告されている(Kashkouli ら, 2003 PMID: 14644218)。包括的な疫学・病因のレビューは Tawfik & Ali, 2024 PMID: 38336342 を参照されたい。

炎症性・瘢痕性

Stevens-Johnson症候群:急性期の眼表面炎症が重篤な場合、涙点周囲の瘢痕形成が生じ涙点閉塞をきたす。眼類天疱瘡も同様の機序で慢性炎症→瘢痕が進行する。

慢性眼表面炎症:慢性アレルギー性結膜炎・感染性結膜炎の長期化も涙点周囲の線維化を招くことがある。

薬剤性

緑内障点眼薬:チモロール、ドルゾラミド、ピロカルピンなどは上部涙道閉塞の危険因子とされる。長期点眼により涙道上皮に慢性炎症を引き起こす。

S-1(ティーエスワン®):抗癌治療中の涙点・涙小管閉塞は重症化することが多く、早期のチューブ挿入術が推奨される。

IDU(抗ウイルス薬):ヘルペス眼疾患の局所治療に使用される点眼薬(ヨードデオキシウリジン)も上部涙道閉塞の危険因子である。

加齢性・外傷性

加齢性・特発性狭窄:加齢とともに涙点が縮小し、特発性の狭窄が生じることがある。閉塞というより開口部の縮小が主体で、拡張処置で改善しやすい。

外傷性:熱傷・化学腐食後の瘢痕形成により涙点が閉鎖する。損傷の程度によっては完全閉塞をきたす。

S-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)による涙道障害は、その代謝産物(5-fluorouracil; 5-FU)が涙液中に分泌されることで生じる。5-FUが涙道上皮に直接的な化学的刺激を与え、局所炎症→線維化→瘢痕形成が進行する。投与量と投与期間に依存して進行するとされており、早期介入が重要である。

Q 緑内障の目薬で涙点が閉塞することがありますか?
A

チモロール、ドルゾラミド、ピロカルピンなどの緑内障点眼薬は上部涙道閉塞の危険因子とされている。長期使用により涙道上皮に慢性炎症が生じ、涙点の線維性狭窄をきたすことがある。長期使用中に流涙症状が出現した場合は、涙点の細隙灯顕微鏡観察を受けることが推奨される。

Q 抗癌剤S-1で涙が止まらなくなるのはなぜですか?
A

S-1の代謝産物(5-FU)が涙液中に分泌され、涙道上皮に化学的刺激を与えて炎症・瘢痕形成を引き起こす。重症化しやすいため、流涙が出現した段階で早期に眼科を受診し、涙管チューブ挿入の適否を検討することが推奨される。抗癌剤使用継続中はチューブを留置したまま経過観察することが望ましい。

涙点狭窄・閉塞の診断は、まず涙点そのものを細隙灯顕微鏡で直接観察することから始まる。涙点の開存・形態を確認したうえで、涙道洗浄で涙小管以下の通過性を評価する。

  • 細隙灯顕微鏡検査:上下眼瞼の内眼角部を高倍率で観察する。涙点開口部の縮小・膜閉鎖・消失を直接評価できる。涙液メニスカス高位の有無も同時に確認する。
  • フルオレセイン染色消失試験(FDDT)フルオレセイン点眼後の涙液クリアランスを経時的に評価する。涙道閉塞があるとクリアランスが遅延し、5分後も蛍光が残存する。
  • 涙道洗浄(通水検査):涙点から細い針を挿入し生理食塩水を注入する。涙点閉塞では針の挿入自体が困難または不能である。涙点は開存するが下流で閉塞する鼻涙管閉塞との鑑別に有用。
  • 涙点ゲージによるサイズ計測:治療計画(プラグ選択)のために涙点径を計測する。
  • 涙道造影:先天涙点欠損の場合、上下涙点のどちらかから造影剤を注入し、涙道の走行・解剖を確認する。

流涙症には多様な原因があり、涙点狭窄・閉塞以外の疾患との鑑別が必要である。

鑑別疾患鑑別ポイント
涙液分泌過多(反射性流涙)結膜炎角膜炎が原因。涙点は正常。Schirmer値正常〜高値
涙小管閉塞涙点は開存するが涙道洗浄で通過障害あり
鼻涙管閉塞涙点は開存するが涙道洗浄で通過障害あり。涙囊部腫脹を伴うことがある
ドライアイ涙液分泌減少→反射性流涙。Schirmer値低下。BUT短縮

涙点が細隙灯顕微鏡で明らかに開存しているにもかかわらず流涙がある場合は、涙道の下流閉塞(涙小管閉塞・鼻涙管閉塞)やドライアイによる反射性流涙を考慮する。

後天性涙点閉塞・狭窄に対しては、段階的なアプローチを行う。

Step 1:涙点拡張・切開

手技:点眼麻酔下に涙点拡張針(punctal dilator)または尖刃(細いメス)で涙点を切開・拡張する。

適応:後天性涙点狭窄・閉塞の第一選択。膜閉鎖型の涙点には特に有効。

注意:手技は外来で短時間で施行可能。

Step 2:涙点プラグ留置

手技:拡張後の再閉塞予防として、2〜4週間涙点プラグを挿入したのちに抜去する。

目的:拡張した涙点を開存した状態で維持し、瘢痕による再狭窄を防ぐ。

プラグ選択:涙点ゲージで涙点径を計測し、適したサイズを選択する。

Step 3:シリコンチューブ留置

適応:Step 1後に再閉塞をきたした症例。

手技:涙点を再切開した後、涙小管シリコンチューブを挿入・留置する。1〜2か月後に抜去する。

目的:チューブが涙点開口部を物理的に維持し、瘢痕形成を抑制する。

治療の選択には炎症性基礎疾患の活動性が重要で、Stevens-Johnson症候群眼類天疱瘡の活動期では再閉塞率が高い。基礎疾患の炎症コントロールを並行して行うことが治療成績の改善につながる。

先天性の涙点閉塞・欠損では、欠損パターンによって治療法が異なる。

  • 涙点の膜閉鎖・部分閉塞:ブジー(涙道拡張子)または涙点切開が有効。涙道系は存在するが入口部が膜様物で閉鎖されている場合に適応となる。
  • 上下涙点がすべて欠損:涙点入口部が完全に存在しないため、既存の涙道系を使った治療は困難。結膜涙囊吻合術(conjunctivodacryocystorhinostomy; CDCR)が唯一の治療法となるが、治療成績はよくない。長期的に流涙が続くことが多く、術前に十分な説明が必要である。

S-1投与中に涙点・涙小管閉塞が生じた場合は、重症化しやすいため早期のチューブ挿入術が推奨される。抗癌剤使用継続中にチューブを抜去すると再閉塞しやすいため、S-1投与期間中はチューブ留置を維持することが望ましい。

手技/方法内容主な適応
涙点拡張・切開点眼麻酔下、涙点拡張針または尖刃後天性涙点狭窄の第一選択
涙点プラグ留置(2〜4週間)拡張後の再閉塞予防涙点切開後の維持療法
涙小管シリコンチューブ(1〜2か月)涙小管内留置後抜去再閉塞例
ブジー・涙点切開涙道拡張先天性膜閉鎖型
CDCR結膜涙囊吻合術)ガラス管による排出路造設先天性全涙点欠損
Q 涙点を拡張した後にまた狭くなることはありますか?
A

涙点拡張・切開後の再閉塞は起こりうる。特にStevens-Johnson症候群眼類天疱瘡などの炎症性疾患の活動期では再閉塞率が高い。再閉塞例にはシリコンチューブ留置を行い、1〜2か月間涙点の開存を維持する。基礎疾患の活動性をコントロールすることが再閉塞の予防に重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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涙点は上下眼瞼の内眼角側約6mmの眼瞼縁に位置する。直径約0.5mmの開口部が乳頭状隆起(涙丘)上に存在し、涙小管につながる。瞬目運動に伴う眼輪筋の収縮が涙液を涙点から吸い込む「涙液ポンプ」機能を担っている。涙点が閉塞するとこのポンプ機能が失われ、涙液が結膜囊に貯留して流涙をきたす。

後天性涙点閉塞の共通した発症機序は「炎症→線維化→瘢痕形成」である。

涙点周囲に炎症が起こると、炎症性サイトカインや成長因子が線維芽細胞を活性化し、コラーゲン産生が亢進する。涙点開口部の粘膜下組織が線維性に置換されることで、開口部が徐々に縮小・閉鎖していく。Stevens-Johnson症候群では急性期の激烈な炎症が短期間で不可逆的な瘢痕を形成し、眼類天疱瘡では自己免疫機序による慢性炎症が緩徐に進行する。いずれも基礎疾患の活動期には治療後の再閉塞が起こりやすい。

S-1の主成分テガフールは体内で5-FUに変換される。5-FUは涙液中に分泌され、涙道上皮細胞に直接的な細胞毒性を示す。上皮障害→炎症→粘膜下線維化という経路で涙点および涙小管の瘢痕閉塞が進行する。投与量・投与期間と閉塞の重症度には相関があるとされており、長期・高用量投与ほどリスクが高い(Esmaeli ら, 2005 PMID: 16086962;Kim ら, 2012 PMID: 22589332)。Kim らの胃癌患者を対象とした前向き研究では、S-1投与中18%が流涙を発症し、そのうち88%に涙道閉塞が認められたと報告されている。

涙道系は胎生期に外胚葉の陥入・管化によって形成される。涙点は胎生6か月ごろに開口し、出生時には下鼻道へ通じる涙道系が完成する。この管化・開口の過程に障害が生じると先天涙点欠損となる。涙道系自体が存在しない場合(高度欠損)と、涙道系は形成されているが入口部のみが膜で閉鎖されている場合(膜閉鎖型)があり、後者は治療成績が良好である。

  • 後天性(炎症性):基礎疾患の活動期には涙点拡張後の再閉塞率が高い。炎症のコントロールにより再閉塞頻度が減少する。シリコンチューブ留置で一定期間の開存維持が可能。
  • 薬剤性(S-1):早期のチューブ挿入で不可逆的閉塞を防げる場合がある。投薬継続中のチューブ継続留置が有効。
  • 先天性全涙点欠損:外科的治療(CDCR)の成績は不良で、長期的に流涙が続くことが多い。

涙点狭窄・閉塞の治療は確立された手技が存在するが、いくつかの領域で研究が進められている。

涙点拡張術式の比較:one-snip法(涙点後縁を1か所切開)とtwo-snip法(涙点後縁と水平部を2か所切開)、さらに3-snip punctoplastyの手技比較が報告されており、再狭窄率や合併症の差について検討が続いている。Murdock ら(2015)は、primary three-snip punctoplastyで86%の症状改善率を報告している(PMID: 25906237)。最新の治療成績・合併症のレビューは Tawfik & Ali Part II(PMID: 38796110)を参照されたい。最適な切開範囲と再狭窄抑制法の確立が今後の課題である。

S-1関連涙道閉塞の予防的介入:S-1投与開始前から予防的にシリコンチューブを挿入する戦略や、投与開始後の定期的涙点評価プロトコールの有用性が検討されている。涙道閉塞の発生頻度とその投与量・期間依存性のデータ集積が進んでいる。

涙点プラグの素材と長期成績:シリコン系プラグ(スーパーイーグル™プラグ、パンクタルプラグ®F)とアテロコラーゲン系プラグ(キープティア®)の長期留置成績、自然脱落率、迷入リスクの比較研究が行われている。

外科的涙点閉鎖術(ドライアイ治療)の長期成績ドライアイ治療として行う意図的涙点閉鎖術(電気凝固・縫合による永久閉鎖)の長期再疎通率や最適な手技についての検討が続いている。

  1. Tawfik HA, Ali MJ. A major review of punctal stenosis: Updated anatomy, epidemiology, etiology, and clinical presentation. Surv Ophthalmol. 2024;69(3):441-455. PMID: 38336342
  2. Tawfik HA, Ali MJ. A major review on punctal stenosis: Part II: Updated therapeutic interventions, complications, and outcomes. Surv Ophthalmol. 2024;69(5):756-768. PMID: 38796110
  3. Kashkouli MB, Beigi B, Murthy R, Astbury N. Acquired external punctal stenosis: etiology and associated findings. Am J Ophthalmol. 2003;136(6):1079-1084. PMID: 14644218
  4. Esmaeli B, Golio D, Lubecki L, Ajani J. Canalicular and nasolacrimal duct blockage: an ocular side effect associated with the antineoplastic drug S-1. Am J Ophthalmol. 2005;140(2):325-327. PMID: 16086962
  5. Kim N, Park C, Park DJ, et al. Lacrimal drainage obstruction in gastric cancer patients receiving S-1 chemotherapy. Ann Oncol. 2012;23(8):2065-2071. PMID: 22589332
  6. Murdock J, Lee WW, Zatezalo CC, Ballin A. Three-Snip Punctoplasty Outcome Rates and Follow-Up Treatments. Orbit. 2015;34(3):160-163. PMID: 25906237

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