IC-8 眼内レンズ適応眼
ピンホール眼内レンズ
1. ピンホール眼内レンズとは
Section titled “1. ピンホール眼内レンズとは”ピンホール眼内レンズ(Pinhole Intraocular Lens, Pinhole IOL)は、ピンホール原理(stenopeic principle)を眼内レンズの面に応用したプレミアム眼内レンズである。小開口(スモールアパーチャー)を通して中心部の細い光線のみを取り込み、周辺の拡散光を排除することで、網膜上の錯乱円(circle of blur)を減少させ、焦点深度(depth of focus)を深める。
ピンホール効果は、ピンホールオクルーダーや眼鏡、虹彩の外科的縮瞳など様々な形で眼科領域で古くから用いられてきたが、近年この概念が眼内レンズに導入された。
ピンホール原理の利点と欠点:
- 利点: 焦点深度の延長により、遠方から近方まで広い視力範囲を提供
- 欠点: 輝度の低下、視野の縮小、および最適視力のわずかな低下
多焦点眼内レンズは入射光を複数の焦点に分割して近方・遠方視力を提供するが、グレアやハローが生じやすい。ピンホール眼内レンズは回折リングを持たず、ピンホール効果により焦点深度を延長するためグレアやハローが少ない。ただし、開口が光量を制限するため薄暗い環境での視力低下が生じうる。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”ピンホール眼内レンズ挿入の適応となる患者が訴える症状は以下の通りである。
- 老視症状: 近くが見えにくい(加齢に伴う調節力低下)
- 視力低下: 白内障による霞み・コントラスト感度低下
- 不正乱視による視覚障害: 円錐角膜・角膜移植後・放射状角膜切開術後などによる視力低下(Xtrafocus 眼内レンズ適応)
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”4. ピンホール眼内レンズの種類と光学特性
Section titled “4. ピンホール眼内レンズの種類と光学特性”IC-8 眼内レンズ(AcuFocus社)
Section titled “IC-8 眼内レンズ(AcuFocus社)”IC-8 眼内レンズは、カムラ・コーネアル・インレイ(KAMRA Corneal Inlay)と同様の原理を利用した単焦点ピンホール眼内レンズである。
構造の特徴:
- 折りたたみ可能なワンピース疎水性アクリルレンズ
- ポリフッ化ビニリデンおよびカーボンナノ粒子から構成される環状リングを内包
- 開口部径: 1.36mm、外径: 3.2mm、厚さ: 5μm
- カムラ・インレイより全体で15%小型化(眼内位置を考慮)
挿入方法:
視力成績:
- AcuFocus社のデータでは、40cmで20/30(0.67相当)、33cmで20/40(0.5相当)の近方視力を達成
- ±2Dのデフォーカス(defocus)範囲で平均視力が20/40(logMAR 0.3)以上を維持
- 特定の軸合わせを必要とせず、最大1.5Dまでの乱視を自動的に矯正
- 126例の多施設後ろ向き研究では、術前眼疾患を有さない患者の90%以上が遠方・中間・近方とも6/12以上の裸眼視力を達成し、過半数が眼鏡完全非依存に至った2
- 6か月時点の前向き多施設試験では、IC-8 群(n=343)が対照単焦点群と比較して同等の遠方視力に加え、中間および近方の両眼裸眼視力で有意に良好な結果を示した3
光学的利点:
- 眼の節点(nodal point)に近い位置に配置されるため、デセントレーション(光軸ずれ)による影響が少ない
- 小開口が周辺光線を遮断するためコマ収差を軽減
Xtrafocus 眼内レンズ(Morcher社)
Section titled “Xtrafocus 眼内レンズ(Morcher社)”Xtrafocus 眼内レンズは、すでに嚢内にレンズが挿入されている偽水晶体眼に対して、毛様溝へピギーバック方式で挿入する小開口眼内レンズである。2016年にCEマークを取得済みで、FDA治験中である。
構造の特徴:
- 折りたたみ可能な赤外線透過性アクリル素材(外観は黒色・不透明)
- 眼内レンズ全径: 14mm、光学部径: 6mm、中央開口部: 1.3mm
- 凹凸設計(concave-convex design)で既存眼内レンズとの接触を防止
- 傾斜付き薄型支持部(250μm、14度傾斜)でブドウ膜炎・緑内障・前房出血症候群(UGH症候群)を予防
視力成績:
- 放射状角膜切開術後、円錐角膜、全層角膜移植後による高度不正乱視を有する21例の研究では、眼内レンズ挿入後の矯正遠方視力の中央値が20/200(0.1相当)から20/50(0.4相当)に改善4
- 11例の偽水晶体眼を対象とした1年追跡の症例集積では、UDVA中央値がlogMAR 0.7から0.4へ改善し、70%以上が視機能改善や眩しさ軽減に満足したが、フローター・グレアの持続により2例で抜去を要した5
特記事項:
5. 患者選択と適応・禁忌
Section titled “5. 患者選択と適応・禁忌”IC-8 眼内レンズの適応基準
Section titled “IC-8 眼内レンズの適応基準”適応:
- 眼鏡依存をなくし広い視力範囲を希望する白内障手術患者
- 1.5D未満の軽度乱視を有する患者
- 高次収差が大きく多焦点眼内レンズが不適応となる可能性がある患者
- 不同視(anisometropia)に耐えられない患者への老視矯正
禁忌・慎重適応:
- 角膜中央部に混濁(scarring)がある患者
- 暗所瞳孔径(mesopic pupil)が6mmを超える患者
- 黄斑疾患を有する患者
- 重度の緑内障患者
Xtrafocus 眼内レンズの適応基準
Section titled “Xtrafocus 眼内レンズの適応基準”主に円錐角膜・外傷・全層角膜移植術・放射状角膜切開術後に起因する中等度から重度の不正乱視を有する患者を対象とする。小開口と不透明な光学部により周辺視野が著しく制限される可能性があるため、患者選択と十分な説明が重要である。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”ピンホール光学系の原理は、開口数(数値開口)を制限することで焦点深度を拡大するものである。瞳孔径が大きいほど収差による錯乱円は拡大するが、小開口が周辺光線(paraxial rayを外れた光線)を遮断することで焦点深度が深まる。
小開口が視覚特性に与える影響:
- 焦点深度: 小開口ほど焦点深度は深まる(ピンホール効果)
- 分解能: 瞳孔径縮小により回折限界の影響で最大分解能がわずかに低下する
- 輝度: 開口部面積に比例した光量の制限が生じる
- 収差: 周辺光線を遮断するためコマ収差・非点収差の影響が軽減する
眼の節点に近い位置に配置されることで、角膜インレイ(例:カムラインレイ)と比較してデセントレーション(光軸ずれ)に対するロバスト性が高い。これは眼内レンズの利点の一つである。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”Xtrafocus 眼内レンズのFDA治験
Section titled “Xtrafocus 眼内レンズのFDA治験”Xtrafocus 眼内レンズは2016年にCEマークを取得しているが、米国ではMorcher社によるFDA治験を待機中である。難治性の光過敏症(ウレッツ・ザバラ症候群)に対する使用報告では顕著な改善が得られており、さらなる症例集積が期待される。
ピンホール眼内レンズ後の網膜手術の可能性
Section titled “ピンホール眼内レンズ後の網膜手術の可能性”症例報告レベルではあるが、ピンホール眼内レンズを挿入した眼での網膜手術が大きな障害なく実施可能であることが示されており、今後の適応拡大が検討されている。
調節眼内レンズとの組み合わせ
Section titled “調節眼内レンズとの組み合わせ”将来的な課題として、後嚢を保存する調節眼内レンズとピンホール光学系の組み合わせが研究されている。後嚢の完全性が保たれることが調節眼内レンズの機能に不可欠であり、後発白内障の予防との両立が検討されている。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”Footnotes
Section titled “Footnotes”-
Sánchez-González JM, Sánchez-González MC, De-Hita-Cantalejo C, Ballesteros-Sánchez A. Small Aperture IC-8 Extended-Depth-of-Focus Intraocular Lens in Cataract Surgery: A Systematic Review. J Clin Med. 2022;11(16):4654. PMID: 36012888. DOI: 10.3390/jcm11164654 ↩
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Vukich J, Modi S, Fisher BL, Stonecipher K, Lin L, Michna M. Clinical Comparison of a Small-Aperture Intraocular Lens Versus a Monofocal Control. J Refract Surg. 2024;40(11):e824-e835. PMID: 39530983. DOI: 10.3928/1081597X-20240731-02 ↩
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Trindade CC, Trindade BC, Trindade FC, Werner L, Osher R, Santhiago MR. New pinhole sulcus implant for the correction of irregular corneal astigmatism. J Cataract Refract Surg. 2017;43(10):1297-1306. PMID: 29120715. DOI: 10.1016/j.jcrs.2017.09.014 ↩
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Ho VWM, Elalfy M, Hamada S, Lake D. One-year visual outcome of secondary piggyback pinhole device implantation in pseudophakic eyes with irregular corneal astigmatism and iris trauma. Eye (Lond). 2022;36(4):812-817. PMID: 33888865. DOI: 10.1038/s41433-021-01537-7 ↩
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Ang RET, Araneta MMQ, Cruz EM. Review of surgical devices using small aperture optics. Taiwan J Ophthalmol. 2022;12(3):282-294. PMID: 36248074. DOI: 10.4103/tjo.tjo_45_21 ↩