この疾患の要点
アドオンIOL(Add-on IOL )は白内障 手術後に既存IOL の前(主に毛様溝)に追加挿入する補助的眼内レンズ であり、サプリメンタリーIOL ・ピギーバックIOLとも呼ばれる。
主な適応は術後残余屈折 誤差(球面・乱視 ずれ)と、単焦点IOL 術後の老視 矯正であり、度数や眼の条件を個別に評価して決定する。
角膜 屈折 矯正が困難な症例やIOL 交換のリスクが高い症例では、追加レンズという選択肢が利点となる。
嚢内に2枚のIOL を重ねるとレンズ間膜形成(ILO)のリスクがあるため、既存の嚢内IOL とは別に毛様溝へ専用アドオンIOLを配置する設計が用いられる4, 5, 8, 10) 。
自覚屈折 度数に基づく度数決定が可能で屈折 誤差が生じにくく、可逆性(摘出可能)がある点もIOL 交換との比較における利点である。
適応評価では十分な前房 深度と角膜内皮細胞密度 を確認し、浅前房 や内皮細胞減少例では慎重に判断する。
IOL 交換を受けた眼ではBCVA <20/60のリスクがRR=2.60(95%CI 1.13–6.02)と報告されており6) 、アドオンIOLはより低侵襲な選択肢として位置づけられる。
アドオン眼内レンズ(add-on IOL ;サプリメンタリーIOL 、ピギーバックIOL)は、白内障 手術後に既存のIOL の前に追加挿入する補助的眼内レンズ である。主に毛様溝(sulcus ciliaris)に固定され、残余屈折 誤差の矯正・老視 矯正・収差補正を目的とする。
白内障 手術は超音波水晶体乳化吸引術 とフォルダブルIOL による小切開手術でほぼ完成された術式となっている1) 。術後の「より質の高い視機能の獲得」を目指す取り組みの一環として、IOL 分野では非球面・トーリック・多焦点などの付加価値IOL が開発・認可されてきた。アドオンIOLはこの流れの中で、術後屈折 問題を後から解決する選択肢として位置づけられる。
1993年: Gaytonらが極端な遠視 眼に対し2枚のIOL を使用する「ピギーバック」の概念を初報告
1999年: Gayton & Sandersが偽水晶体 眼の屈折 矯正にピギーバックIOLを応用2)
同1999年: FindlらがピギーバックアクリルIOL 間の接触ゾーンを解析3)
2000年代: 嚢内2枚挿入によるレンズ間膜形成(ILO)が問題化4) 5) 。専用設計のアドオンIOL(HumanOptics 1stQ、Rayner Sulcoflex等)が開発され、リスクが大幅に軽減
近年: 多焦点・トーリック・EDOF 型アドオンIOLへとバリエーションが拡大
白内障 手術後の残余屈折 誤差や老視 矯正の希望に対して、角膜 屈折 矯正手術(LASIK 等)が困難な症例ではアドオンIOLがIOL 交換の代替として検討されることがある8, 9, 10) 。現時点では自費診療となる場合が多く、術前に費用・適応について十分な説明が必要である。
Q
アドオンIOLは保険が使えますか?
A
アドオンIOLは現時点で保険適用外となる場合が多く、自費診療として施行される。費用は施設や使用するIOL の種類によって異なるため、術前に医療機関で詳細を確認する必要がある。
アドオン眼内レンズの前眼部OCT像。主眼内レンズの前方に追加レンズが見える。
Englisch CN, et al. Descemet membrane endothelial keratoplasty combined with secondary sulcus hydrophobic intraocular lens implantation. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025. Figure 3. PM
CI D: PMC12336521. License: CC BY.
前眼部OCT で、主
眼内レンズ の前方に追加挿入されたアドオン眼内レンズが描出されている。2枚の
IOL と
虹彩 の位置関係が分かり、対象患者に実際に追加レンズが留置されている所見を示す。
アドオンIOLの主な適応は残余屈折 誤差の矯正と老視 矯正の2つに大別される。
白内障 術後残余屈折 誤差(球面・乱視 )の矯正:自覚屈折 度数をもとに追加度数を決められるため、球面度数ずれや乱視 ずれに対応しやすい。
角膜 屈折 矯正(LASIK 等)が困難な症例:角膜 厚不足・角膜 疾患合併例
老視 矯正:単焦点IOL 挿入眼に多焦点アドオンを追加して近方・中間視力 を付加
極端な遠視 眼で単独IOL の度数範囲を超える場合1)
症例によりネガティブ・ディスフォトプシア など術後光視症 状への対応として検討される場合がある
IOL 交換が困難な症例(嚢とIOL の癒着が強固な場合)の代替的屈折 矯正
評価項目 適応 非適応 前房 深度(ACD)十分な前房 深度 浅前房 毛様溝の状態 虹彩 ・毛様溝に異常なし虹彩 萎縮・毛様体 損傷あり術後経過 術後3か月以降(屈折 安定確認後) 屈折 未安定の時期既存IOL 主に単焦点IOL 挿入眼 多焦点IOL (原則)・前房 型IOL 角膜内皮 細胞十分な密度あり 高度の角膜内皮 細胞減少
Q
すでに多焦点IOLが入っている目にアドオンIOLは入れられますか?
A
アドオンIOLは主に単焦点IOL 挿入眼を対象とする。多焦点IOL 挿入眼へのアドオン追加は光学的干渉を招く可能性があり、原則として適応外である。残余屈折 誤差の矯正には角膜 屈折 矯正手術が先に検討されることが多く、アドオンIOLの適否は専門医による個別評価が必要である。
アドオンIOLは目的別に以下のように分類される。
屈折矯正型(単焦点)
用途 :残余球面度数・乱視 度数の補正。
特徴 :自覚屈折 度数に基づいて度数決定が可能。屈折 誤差が生じにくい。
代表製品 :Sulcoflex Aspheric(Rayner)、1stQ AddOn Mono(Teleon)。
老視矯正型(多焦点)
用途 :単焦点IOL 挿入眼に近方・中間視力 を追加付与。
特徴 :既存単焦点IOL と組み合わせて老視 を矯正する。
代表製品 :Sulcoflex Multifocal(Rayner)、1stQ AddOn Multifocal(Teleon)、LENTIS Mplus LS-313 MF(Oculentis)。
トーリック型
用途 :乱視 矯正に特化。球面と柱面を同時補正可能。
特徴 :軸設定の精度が最終屈折 結果に直結する。
代表製品 :Sulcoflex Toric(Rayner)、1stQ AddOn Toric(Teleon)。
収差補正型
用途 :球面収差・高次収差の補正。
特徴 :波面収差解析に基づきカスタム設計。球面IOL 由来の球面収差への対応が主な適応。
代表的なアドオンIOLの特徴を以下に示す。
製品名 メーカー 種類 固定位置 設計特徴 Sulcoflex(各種) Rayner 単焦点/多焦点/トーリック 毛様溝 親水性アクリル、vault構造で既存IOL との接触を防止8) 10) 1stQ AddOn(各種) HumanOptics/Teleon 単焦点/多焦点/トーリック 毛様溝 4ハプティック設計、回転安定性が高い9) LENTIS Mplus LS-313 MF Oculentis 多焦点 毛様溝 非対称屈折 型(セクタタイプ)
専用アドオンIOLは以下の設計的工夫を持つ。
vault構造(後面凹面) :後面が凹型で既存嚢内IOL との接触を防止し、ILOリスクを低減する
大径設計 :全径14mm前後で毛様溝に安定固定できる(通常の嚢内IOL は全径11〜13mm)
4ハプティック構造 (一部製品):回転安定性に優れトーリック軸のずれを防ぐ
自覚屈折 度数による度数決定 :角膜 曲率・眼軸長 ではなく自覚屈折 度数から度数を算出するため、屈折 誤差が生じにくい
アドオンIOL挿入前に以下の検査を系統的に行う。
検査項目 目的 備考 自覚的屈折 検査(球面・乱視 ・軸) 度数決定の基礎データ 最終的な度数算出の基準となる 他覚的屈折 検査(オートレフ) 客観的屈折 値 自覚値との照合 前房 深度(ACD)測定適応評価(≧2.8mm) IOL マスターまたは超音波Aモード角膜内皮細胞密度 術前ベースライン・安全性確認 スペキュラーマイクロスコピー 角膜形状解析 乱視 軸・角膜 不整の確認トーリックアドオン選択時に必須 隅角検査 閉塞隅角 の除外 毛様溝固定の前提として必要 前眼部OCT / UBM 毛様溝径・IOL 位置の評価 アドオンIOLサイズ選択の参考
アドオンIOLの度数決定は通常の白内障 IOL 計算とは異なる。
自覚屈折 度数をそのまま参照し、vertex distance(角膜 〜眼鏡間距離)を補正して度数を算出する
各メーカー提供のオンライン計算ツール(Rayner Sulcoflex Calculator等)を使用する
トーリックアドオンの場合、矯正対象は「角膜 全乱視 」ではなく「残余屈折 乱視 (自覚検査値)」とする
Q
アドオンIOLの度数はどのように決めますか?
A
アドオンIOLの度数は、術後に安定した自覚屈折 度数をもとに決定する。通常の白内障 IOL 計算式(角膜 曲率・眼軸長 依存)は使用せず、自覚屈折 値を直接活用できるため屈折 誤差が生じにくい。各メーカーの専用計算ツールに眼鏡処方 値を入力することで度数を算出する。
アドオンIOL挿入術は以下の手順で行われる。
散瞳 (トロピカミド・フェニレフリン点眼)
ポビドンヨードによる結膜 囊および周囲皮膚の消毒
点眼麻酔(塩酸オキシブプロカイン0.4%等)または前房 内麻酔
切開 :2.2〜2.8mm角膜 切開(使用IOL のサイズに応じて選択)
粘弾性物質 注入 :ヒアルロン酸ナトリウム(ヒーロン等)を前房 内に充填し、既存IOL および角膜内皮 を保護する作業空間を確保
アドオンIOL挿入 :インジェクターで折りたたんだIOL を前房 内に誘導
毛様溝への固定 :ハプティックを毛様溝に配置(虹彩 下・既存IOL 前面)。嚢内に2枚を重ねず、既存嚢内IOL とは別に毛様溝へ配置することでILOリスクを低減する4, 5, 8, 10)
粘弾性物質 の完全除去 :吸引で前房 ・後房の粘弾性物質 を完全に除去(残留すると術後眼圧 上昇の原因となる)
創口閉鎖 :ストローマル水和で自己閉鎖、必要に応じてナイロン縫合
抗菌薬点眼 :レボフロキサシン0.5%点眼 1日4回(術後1〜2週間)
ステロイド 点眼 :ベタメタゾン0.1%点眼または酢酸プレドニゾロン1%点眼 1日4回(漸減)
眼圧 モニタリング :毛様溝刺激による一過性眼圧 上昇に注意し、翌日・1週に測定
観察スケジュール :術翌日・1週・1か月・3か月・6か月
術後屈折 検査 :術後1か月に屈折 安定性を確認。目標屈折 との差が大きい場合はIOL 位置の精査を行う
IOL 交換は嚢や既存IOL への操作を伴うため、癒着が強い症例では侵襲や合併症リスクを考慮する必要がある。IOL 交換後の視機能低下リスクも報告されており6) 、嚢やIOL への侵襲を避ける観点からアドオンIOLが選択されることがある。
嚢内に2枚のIOL を挿入した場合に生じやすい合併症であり、両レンズ間に混濁が発生して視力 を低下させる4) 5) 。専用設計アドオンIOLを毛様溝に固定する方法では、発生リスクが大幅に低下する1) 。嚢内IOL 1枚+毛様溝アドオン1枚の配置が基本原則である。
ハプティックによる虹彩 後面への持続的な擦過が原因で、ぶどう膜炎 (uveitis)・緑内障 (glaucoma)・前房出血 (hyphema)を呈するUGH症候群 を引き起こすことがある。専用設計アドオンIOLではハプティック径が最適化されリスクが低減している。術後に眼圧 上昇・前房 フレアの増加が継続する場合は本症候群を疑う。
虹彩 とアドオンIOLの間で房水 流出が阻害される急性緑内障発作 。術中に周辺虹彩 切開を併施することで予防できる。
毛様溝径とアドオンIOLのサイズ不一致が主因。前眼部OCT またはUBM による術前毛様溝径評価により、適切なサイズを選択することが予防につながる。
前房 深度が浅い場合は角膜内皮 とIOL の距離が近くなりリスクが増す。術前に前房 深度と角膜内皮細胞密度 を評価し、使用するIOL の条件に合うか個別に判断する。
アドオンIOLは結果が不満足な場合や合併症が生じた場合に摘出できる。この可逆性はIOL 交換に対する重要な利点の一つである。長期成績はIOL 設計、毛様溝固定の安定性、定期的な術後観察に左右される。
代表的な臨床成績として以下が報告されている。
SulcoflexアドオンIOLでは、術後屈折 が±0.5D以内に入る割合が高いことが報告されている8)
1stQ AddOn Monoなどの補助IOL でも、残余屈折 誤差の改善が報告されている9, 10)
トーリックアドオンIOLでは、軸ずれ管理を含めた術前計画により残余乱視 の改善が期待される
小眼球(posterior microphthalmos)に対するピギーバック:一次挿入と同等の屈折 精度7)
Q
アドオンIOLはあとから取り出すことができますか?
A
アドオンIOLは毛様溝に固定されており、嚢内IOL とは独立した位置にあるため、必要な場合には摘出が可能である。この可逆性は永続的な変更を伴うIOL 交換や角膜 屈折 矯正手術と比べた利点の一つである。ただし摘出にも手術が必要であり、合併症リスクがゼロではない点を術前に説明しておく必要がある。
光調節型IOL (Light Adjustable Lens: LAL )との比較 :LAL は術後に紫外線照射で度数を微調整できるIOL であり、一次挿入時から残余屈折 誤差を最小化できる選択肢として注目されている。アドオンIOLの代替となりうるが、各国での承認状況が限定的である
収差補正型アドオンの発展 :波面収差解析と連動したカスタムアドオンIOLの研究が進んでおり、高次収差の個別補正への応用が期待される
EDOF 型アドオンIOL :Extended Depth of Focus(焦点深度拡張型)のアドオンIOLが開発中であり、従来の多焦点アドオンよりグレア・ハローが少ない老視 矯正の実現が目指されている
逆光学捕獲(reverse optic capture)との比較 :ネガティブ・ディスフォトプシア 対策としてピギーバックと逆光学捕獲の比較検討が報告されており、症例選択指針の整備が進んでいる
アドオンIOLの適応判断では、残余屈折 誤差の原因、既存IOL の位置、前房 深度、内皮細胞数を総合して評価する流れが重視されている
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