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白内障・前眼部

アドオン眼内レンズ(Add-on IOL)

アドオン眼内レンズ(add-on IOL;サプリメンタリーIOL、ピギーバックIOL)は、白内障手術後に既存のIOLの前に追加挿入する補助的眼内レンズである。主に毛様溝(sulcus ciliaris)に固定され、残余屈折誤差の矯正・老視矯正・収差補正を目的とする。

白内障手術は超音波水晶体乳化吸引術とフォルダブルIOLによる小切開手術でほぼ完成された術式となっている1)。術後の「より質の高い視機能の獲得」を目指す取り組みの一環として、IOL分野では非球面・トーリック・多焦点などの付加価値IOLが開発・認可されてきた。アドオンIOLはこの流れの中で、術後屈折問題を後から解決する選択肢として位置づけられる。

  • 1993年: Gaytonらが極端な遠視眼に対し2枚のIOLを使用する「ピギーバック」の概念を初報告
  • 1999年: Gayton & Sandersが偽水晶体眼の屈折矯正にピギーバックIOLを応用2)
  • 同1999年: FindlらがピギーバックアクリルIOL間の接触ゾーンを解析3)
  • 2000年代: 嚢内2枚挿入によるレンズ間膜形成(ILO)が問題化4)5)。専用設計のアドオンIOL(HumanOptics 1stQ、Rayner Sulcoflex等)が開発され、リスクが大幅に軽減
  • 近年: 多焦点・トーリック・EDOF型アドオンIOLへとバリエーションが拡大

白内障手術後の残余屈折誤差や老視矯正の希望に対して、角膜屈折矯正手術(LASIK等)が困難な症例ではアドオンIOLがIOL交換の代替として検討されることがある8, 9, 10)。現時点では自費診療となる場合が多く、術前に費用・適応について十分な説明が必要である。

Q アドオンIOLは保険が使えますか?
A

アドオンIOLは現時点で保険適用外となる場合が多く、自費診療として施行される。費用は施設や使用するIOLの種類によって異なるため、術前に医療機関で詳細を確認する必要がある。

アドオン眼内レンズの前眼部OCT像。主眼内レンズの前方に追加レンズが見える。
アドオン眼内レンズの前眼部OCT像。主眼内レンズの前方に追加レンズが見える。
Englisch CN, et al. Descemet membrane endothelial keratoplasty combined with secondary sulcus hydrophobic intraocular lens implantation. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025. Figure 3. PMCID: PMC12336521. License: CC BY.
前眼部OCTで、主眼内レンズの前方に追加挿入されたアドオン眼内レンズが描出されている。2枚のIOL虹彩の位置関係が分かり、対象患者に実際に追加レンズが留置されている所見を示す。

アドオンIOLの主な適応は残余屈折誤差の矯正と老視矯正の2つに大別される。

  • 白内障術後残余屈折誤差(球面・乱視)の矯正:自覚屈折度数をもとに追加度数を決められるため、球面度数ずれや乱視ずれに対応しやすい。
  • 角膜屈折矯正(LASIK等)が困難な症例:角膜厚不足・角膜疾患合併例
  • 老視矯正:単焦点IOL挿入眼に多焦点アドオンを追加して近方・中間視力を付加
  • 極端な遠視眼で単独IOLの度数範囲を超える場合1)
  • 症例によりネガティブ・ディスフォトプシアなど術後光視症状への対応として検討される場合がある
  • IOL交換が困難な症例(嚢とIOLの癒着が強固な場合)の代替的屈折矯正
評価項目適応非適応
前房深度(ACD)十分な前房深度浅前房
毛様溝の状態虹彩・毛様溝に異常なし虹彩萎縮・毛様体損傷あり
術後経過術後3か月以降(屈折安定確認後)屈折未安定の時期
既存IOL主に単焦点IOL挿入眼多焦点IOL(原則)・前房IOL
角膜内皮細胞十分な密度あり高度の角膜内皮細胞減少
Q すでに多焦点IOLが入っている目にアドオンIOLは入れられますか?
A

アドオンIOLは主に単焦点IOL挿入眼を対象とする。多焦点IOL挿入眼へのアドオン追加は光学的干渉を招く可能性があり、原則として適応外である。残余屈折誤差の矯正には角膜屈折矯正手術が先に検討されることが多く、アドオンIOLの適否は専門医による個別評価が必要である。

アドオンIOLは目的別に以下のように分類される。

屈折矯正型(単焦点)

用途:残余球面度数・乱視度数の補正。

特徴:自覚屈折度数に基づいて度数決定が可能。屈折誤差が生じにくい。

代表製品:Sulcoflex Aspheric(Rayner)、1stQ AddOn Mono(Teleon)。

老視矯正型(多焦点)

用途単焦点IOL挿入眼に近方・中間視力を追加付与。

特徴:既存単焦点IOLと組み合わせて老視を矯正する。

代表製品:Sulcoflex Multifocal(Rayner)、1stQ AddOn Multifocal(Teleon)、LENTIS Mplus LS-313 MF(Oculentis)。

トーリック型

用途乱視矯正に特化。球面と柱面を同時補正可能。

特徴:軸設定の精度が最終屈折結果に直結する。

代表製品:Sulcoflex Toric(Rayner)、1stQ AddOn Toric(Teleon)。

収差補正型

用途:球面収差・高次収差の補正。

特徴:波面収差解析に基づきカスタム設計。球面IOL由来の球面収差への対応が主な適応。

代表的なアドオンIOLの特徴を以下に示す。

製品名メーカー種類固定位置設計特徴
Sulcoflex(各種)Rayner単焦点/多焦点/トーリック毛様溝親水性アクリル、vault構造で既存IOLとの接触を防止8)10)
1stQ AddOn(各種)HumanOptics/Teleon単焦点/多焦点/トーリック毛様溝4ハプティック設計、回転安定性が高い9)
LENTIS Mplus LS-313 MFOculentis多焦点毛様溝非対称屈折型(セクタタイプ)

専用アドオンIOLは以下の設計的工夫を持つ。

  • vault構造(後面凹面):後面が凹型で既存嚢内IOLとの接触を防止し、ILOリスクを低減する
  • 大径設計:全径14mm前後で毛様溝に安定固定できる(通常の嚢内IOLは全径11〜13mm)
  • 4ハプティック構造(一部製品):回転安定性に優れトーリック軸のずれを防ぐ
  • 自覚屈折度数による度数決定角膜曲率・眼軸長ではなく自覚屈折度数から度数を算出するため、屈折誤差が生じにくい

アドオンIOL挿入前に以下の検査を系統的に行う。

検査項目目的備考
自覚的屈折検査(球面・乱視・軸)度数決定の基礎データ最終的な度数算出の基準となる
他覚的屈折検査(オートレフ)客観的屈折自覚値との照合
前房深度(ACD)測定適応評価(≧2.8mm)IOLマスターまたは超音波Aモード
角膜内皮細胞密度術前ベースライン・安全性確認スペキュラーマイクロスコピー
角膜形状解析乱視軸・角膜不整の確認トーリックアドオン選択時に必須
隅角検査閉塞隅角の除外毛様溝固定の前提として必要
前眼部OCT / UBM毛様溝径・IOL位置の評価アドオンIOLサイズ選択の参考

アドオンIOLの度数決定は通常の白内障IOL計算とは異なる。

  • 自覚屈折度数をそのまま参照し、vertex distance(角膜〜眼鏡間距離)を補正して度数を算出する
  • 各メーカー提供のオンライン計算ツール(Rayner Sulcoflex Calculator等)を使用する
  • トーリックアドオンの場合、矯正対象は「角膜乱視」ではなく「残余屈折乱視(自覚検査値)」とする
Q アドオンIOLの度数はどのように決めますか?
A

アドオンIOLの度数は、術後に安定した自覚屈折度数をもとに決定する。通常の白内障IOL計算式(角膜曲率・眼軸長依存)は使用せず、自覚屈折値を直接活用できるため屈折誤差が生じにくい。各メーカーの専用計算ツールに眼鏡処方値を入力することで度数を算出する。

アドオンIOL挿入術は以下の手順で行われる。

  • 散瞳(トロピカミド・フェニレフリン点眼)
  • ポビドンヨードによる結膜囊および周囲皮膚の消毒
  • 点眼麻酔(塩酸オキシブプロカイン0.4%等)または前房内麻酔
  1. 切開:2.2〜2.8mm角膜切開(使用IOLのサイズに応じて選択)
  2. 粘弾性物質注入:ヒアルロン酸ナトリウム(ヒーロン等)を前房内に充填し、既存IOLおよび角膜内皮を保護する作業空間を確保
  3. アドオンIOL挿入:インジェクターで折りたたんだIOL前房内に誘導
  4. 毛様溝への固定:ハプティックを毛様溝に配置(虹彩下・既存IOL前面)。嚢内に2枚を重ねず、既存嚢内IOLとは別に毛様溝へ配置することでILOリスクを低減する4, 5, 8, 10)
  5. 粘弾性物質の完全除去:吸引で前房・後房の粘弾性物質を完全に除去(残留すると術後眼圧上昇の原因となる)
  6. 創口閉鎖:ストローマル水和で自己閉鎖、必要に応じてナイロン縫合
  • 抗菌薬点眼:レボフロキサシン0.5%点眼 1日4回(術後1〜2週間)
  • ステロイド点眼:ベタメタゾン0.1%点眼または酢酸プレドニゾロン1%点眼 1日4回(漸減)
  • 眼圧モニタリング:毛様溝刺激による一過性眼圧上昇に注意し、翌日・1週に測定
  • 観察スケジュール:術翌日・1週・1か月・3か月・6か月
  • 術後屈折検査:術後1か月に屈折安定性を確認。目標屈折との差が大きい場合はIOL位置の精査を行う

IOL交換は嚢や既存IOLへの操作を伴うため、癒着が強い症例では侵襲や合併症リスクを考慮する必要がある。IOL交換後の視機能低下リスクも報告されており6)、嚢やIOLへの侵襲を避ける観点からアドオンIOLが選択されることがある。

レンズ間膜形成(Interlenticular Opacification: ILO)

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嚢内に2枚のIOLを挿入した場合に生じやすい合併症であり、両レンズ間に混濁が発生して視力を低下させる4)5)。専用設計アドオンIOLを毛様溝に固定する方法では、発生リスクが大幅に低下する1)。嚢内IOL1枚+毛様溝アドオン1枚の配置が基本原則である。

ハプティックによる虹彩後面への持続的な擦過が原因で、ぶどう膜炎(uveitis)・緑内障(glaucoma)・前房出血(hyphema)を呈するUGH症候群を引き起こすことがある。専用設計アドオンIOLではハプティック径が最適化されリスクが低減している。術後に眼圧上昇・前房フレアの増加が継続する場合は本症候群を疑う。

虹彩とアドオンIOLの間で房水流出が阻害される急性緑内障発作。術中に周辺虹彩切開を併施することで予防できる。

毛様溝径とアドオンIOLのサイズ不一致が主因。前眼部OCTまたはUBMによる術前毛様溝径評価により、適切なサイズを選択することが予防につながる。

前房深度が浅い場合は角膜内皮IOLの距離が近くなりリスクが増す。術前に前房深度と角膜内皮細胞密度を評価し、使用するIOLの条件に合うか個別に判断する。

アドオンIOLは結果が不満足な場合や合併症が生じた場合に摘出できる。この可逆性はIOL交換に対する重要な利点の一つである。長期成績はIOL設計、毛様溝固定の安定性、定期的な術後観察に左右される。

代表的な臨床成績として以下が報告されている。

  • SulcoflexアドオンIOLでは、術後屈折が±0.5D以内に入る割合が高いことが報告されている8)
  • 1stQ AddOn Monoなどの補助IOLでも、残余屈折誤差の改善が報告されている9, 10)
  • トーリックアドオンIOLでは、軸ずれ管理を含めた術前計画により残余乱視の改善が期待される
  • 小眼球(posterior microphthalmos)に対するピギーバック:一次挿入と同等の屈折精度7)
Q アドオンIOLはあとから取り出すことができますか?
A

アドオンIOLは毛様溝に固定されており、嚢内IOLとは独立した位置にあるため、必要な場合には摘出が可能である。この可逆性は永続的な変更を伴うIOL交換や角膜屈折矯正手術と比べた利点の一つである。ただし摘出にも手術が必要であり、合併症リスクがゼロではない点を術前に説明しておく必要がある。

  • 光調節型IOL(Light Adjustable Lens: LAL)との比較LALは術後に紫外線照射で度数を微調整できるIOLであり、一次挿入時から残余屈折誤差を最小化できる選択肢として注目されている。アドオンIOLの代替となりうるが、各国での承認状況が限定的である
  • 収差補正型アドオンの発展:波面収差解析と連動したカスタムアドオンIOLの研究が進んでおり、高次収差の個別補正への応用が期待される
  • EDOF型アドオンIOL:Extended Depth of Focus(焦点深度拡張型)のアドオンIOLが開発中であり、従来の多焦点アドオンよりグレア・ハローが少ない老視矯正の実現が目指されている
  • 逆光学捕獲(reverse optic capture)との比較:ネガティブ・ディスフォトプシア対策としてピギーバックと逆光学捕獲の比較検討が報告されており、症例選択指針の整備が進んでいる
  • アドオンIOLの適応判断では、残余屈折誤差の原因、既存IOLの位置、前房深度、内皮細胞数を総合して評価する流れが重視されている
  1. Miller KM, Oetting TA, Tweeten JP, et al. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2022;129(1):P1-P126. doi:10.1016/j.ophtha.2021.10.006. PMID: 34780842.
  2. Gayton JL, Sanders V, Van der Karr M, Raanan MG. Piggybacking intraocular implants to correct pseudophakic refractive error. Ophthalmology. 1999;106:56-59.
  3. Findl O, Menapace R, Rainer G, Georgopoulos M. Contact zone of piggyback acrylic intraocular lenses. J Cataract Refract Surg. 1999;25:860-862.
  4. Werner L, Shugar JK, Apple DJ, et al. Opacification of piggyback IOLs associated with an amorphous material attached to interlenticular surfaces. J Cataract Refract Surg. 2000;26:1612-1619.
  5. Shugar JK, Keeler S. Interpseudophakos intraocular lens surface opacification as a late complication of piggyback acrylic posterior chamber lens implantation. J Cataract Refract Surg. 2000;26:448-455.
  6. Abdalla Elsayed MEA, Ahmad K, Al-Abdullah AA, et al. Incidence of intraocular lens exchange after cataract surgery. Sci Rep. 2019;9:12877.
  7. Elhofi A, Helaly HA, Said A. Comparison between refractive outcome of primary piggyback intraocular lens versus secondary lens iris claw lens in posterior microphthalmos. J Ophthalmol. 2019;2019:1356982. doi:10.1155/2019/1356982. PMID: 30895155; PMCID: PMC6393910.
  8. Falzon K, Stewart OG. Correction of undesirable pseudophakic refractive error with the Sulcoflex intraocular lens. J Refract Surg. 2012;28(9):614-619.
  9. Kahraman G, Amon M. New supplementary intraocular lens for refractive enhancement in pseudophakic patients. J Cataract Refract Surg. 2010;36(7):1090-1094. doi:10.1016/j.jcrs.2009.12.045. PMID: 20610084.
  10. Khan MI, Muhtaseb M. Performance of the Sulcoflex piggyback intraocular lens in pseudophakic patients. J Refract Surg. 2011;27(9):693-696.

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