ORA System
術中アベロメトリー
1. 術中アベロメトリーとは
Section titled “1. 術中アベロメトリーとは”術中アベロメトリー(intraoperative aberrometry, IWA)は、白内障手術中に波面収差を測定し、眼内レンズ(IOL)度数の確認・最適化やトーリック眼内レンズの軸合わせを行う技術である。術前の計測値と公式に基づく眼内レンズ度数決定に加え、手術室内で無水晶体眼および偽水晶体眼の屈折状態をリアルタイムに評価できる追加ツールとして位置づけられる。
眼内レンズ度数は術中アベロメトリーを用いて無水晶体眼・偽水晶体眼の両状態で確認・調整が可能である。トーリック眼内レンズの軸合わせにも有用とされる1)。一方、術中アベロメトリーが常に術後成績を向上させるかどうかは明確ではない1)。
2. 波面収差の原理と測定技術
Section titled “2. 波面収差の原理と測定技術”波面収差の基本概念
Section titled “波面収差の基本概念”波面(wavefront)とは光線の伝播面を指す。理想的な眼では波面は網膜上に正確に収束するが、実際の眼の光学的不規則性により歪みが生じる。この歪みが収差(aberration)である。
収差は以下の2種類に分類される。
- 低次収差:プリズム、球面デフォーカス(近視・遠視)、乱視を含む。眼鏡やコンタクトレンズで矯正可能であり、臨床的に最も重要な収差である。
- 高次収差:トレフォイル(三つ葉収差)やコマ収差など。角膜の不規則性に起因し、通常の眼鏡では矯正できない。
高次収差の評価には瞳孔径を規定する必要がある。4 mmは明所視機能を、6 mmは暗所視機能を反映する。通常、瞳孔径を4 mmから6 mmに拡大すると高次収差は約2倍に増大する。球面収差はハロー現象と、コマ収差はグレアやスターバースト現象と関連づけて解釈されることが多い。
波面収差はゼルニケ多項式(Zernike polynomial)で数学的に記述される。ピラミッド状の配列で重要な低次収差が底部に、高次収差が頂点に配置される。結果は二乗平均平方根(RMS)として報告され、実際の波面と理論上の平面波面との平均的な差を単一の数値で表す。
現在、臨床で使用されている主な術中アベロメトリー装置を以下に示す。
HOLOS IntraOp
ORA Systemは2012年にORangeの後継機として登場し、光学系・インターフェース・アルゴリズムが改良された。2014年にAlcon社がWaveTec社を買収した。
波面センサーの種類
Section titled “波面センサーの種類”術中装置の基盤となる波面センサーには複数の方式がある。
- Hartmann-Shack型:測定が高速で採用メーカーが多い。涙液の乱れや眼瞼による遮蔽に注意が必要である。
- スリットスキャン型:屈折を測定して逆算で収差を算出する。測定範囲は広いが時間がかかる。
- チャーニング型:網膜像を直接解析する方式。
3. 臨床的有用性
Section titled “3. 臨床的有用性”通常の白内障手術
Section titled “通常の白内障手術”ORangeを用いた初期の研究では、術後の球面誤差が0.36±0.30 Dと良好であった。しかし合併症のない眼において、術中アベロメトリーが従来の計算式よりも優れているかどうかは研究結果が決定的ではない。一般的な白内障手術における術中アベロメトリーの有用性にはコンセンサスが得られていない。
屈折矯正手術の既往眼
Section titled “屈折矯正手術の既往眼”LASIK・PRKなどの屈折矯正手術の既往眼は、眼内レンズ度数決定において特有の課題を有する。
術中アベロメトリーは屈折矯正手術(PRKやLASIK)の既往眼で有用とされるが、放射状角膜切開術後の眼ではその有用性は低い1)。
白内障手術後のLASIK施行眼では、正視から±0.5 D以内に収まったのは55%未満であり、屈折矯正手術を受けていない眼の70%と比べ劣る成績であった。ORAを用いた近年の研究では改善が報告されており、ORAの誤差絶対値の中央値が0.35 D、67%が±0.5 D以内、94%が±1.0 D以内であった。
| 計算手法 | 誤差絶対値中央値 |
|---|---|
| ORA | 0.35 D |
| 術者選択 | 0.6 D |
| Haigis-L | 0.53 D |
| Shammas | 0.51 D |
トーリック眼内レンズの軸合わせ
Section titled “トーリック眼内レンズの軸合わせ”トーリック眼内レンズは軸合わせに高い精度を要する。10度の軸ずれごとに乱視矯正効果の3分の1が失われるためである。
術中アベロメトリーは無水晶体状態で正確な軸を提供し、偽水晶体状態でアライメントの確認が可能である。術中アベロメトリーガイド下のトーリック眼内レンズ配置では、術後の平均残存屈折乱視が0.5 D未満となる可能性が2.4倍高まると報告されている。
屈折矯正手術後の眼における術中アベロメトリーガイド下トーリック眼内レンズ配置の研究では、ORAの平均予測誤差は0.43であり、IOLMaster(0.77)やASCRS計算機(0.61)を上回った。ORA使用時に80%の眼が球面度数±0.75 D以内であったのに対し、術前測定のみでは53%にとどまると推定された。
角膜輪部減張切開
Section titled “角膜輪部減張切開”ORangeを用いた角膜輪部減張切開(LRI)のガイドでは、術後の平均残余屈折乱視が5.7倍減少したとの報告がある。ただし、この傾向は統計的に有意ではなかった。
10度の軸ずれごとに乱視矯正効果の約3分の1が失われる。正確な軸合わせが術後の視機能に直結するため、術中アベロメトリーによるリアルタイム確認が有用である。
4. 測定精度に影響する変動要因
Section titled “4. 測定精度に影響する変動要因”術中アベロメトリーの測定値には複数の変動要因が関与する。精度を最大化するためには、これらの要因を制御する必要がある。
- 開瞼器の圧迫:開瞼器が眼球に圧力を加え、形状を変化させる。適切な配置により影響を最小限に抑える。
- 眼圧の変動:測定前に眼圧を生理的範囲に戻す必要がある。前房内の粘弾性物質や灌流液量が影響する。
- 角膜実質の水和(ストロマルハイドレーション):術中の角膜浮腫が屈折値に影響する。
- 切開による変化:角膜切開創が術中と術後で異なる乱視を惹起する。
- 術直後と術後の差:術直後と術後1週間では乱視値に有意差がある。
術直後と術後1週間では乱視値に有意差がある。切開創の変化、角膜実質の水和、眼圧変動などが原因である。術中の測定値はあくまで参考値であり、最終的な屈折値との若干の乖離が生じうる。
5. 角膜アベロメトリーと眼内レンズ選択
Section titled “5. 角膜アベロメトリーと眼内レンズ選択”角膜アベロメトリーの測定は眼内レンズ選択に有用であり、多焦点眼内レンズなどの高機能レンズの適応判断に役立つ可能性がある1)。
加齢に伴い水晶体の球面収差が正の方向に変化し、角膜の正の球面収差と加算されてコントラスト感度が低下する。非球面眼内レンズはこの球面収差を補正し、薄暮下・暗所のコントラスト感度と視機能を改善する1)。
多焦点眼内レンズ挿入眼の波面収差評価には注意を要する。屈折型多焦点眼内レンズでは瞳孔内の屈折が急激に変化するため高次収差の値が大きくなる。回折型では近赤外光の回折効率低下により、遠方焦点部分のみの結果が表示される。
6. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “6. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”測定技術の進化
Section titled “測定技術の進化”HOLOS IntraOpに代表される新世代装置では、MEMSミラー技術により毎秒最大90回の高速測定が実現している。測定速度の向上は術中のワークフロー効率化に寄与すると期待される。
アルゴリズムの改良
Section titled “アルゴリズムの改良”ORAではAnalyzORプラットフォームが統合され、術前・術中・術後のデータを統合的に比較・分析できるようになった。蓄積データに基づくアルゴリズムの継続的な改良により、予測精度の向上が期待される。
通常眼における有用性の検証
Section titled “通常眼における有用性の検証”合併症のない通常の白内障手術における術中アベロメトリーの付加価値については、依然としてコンセンサスが得られていない。大規模前向き研究による有用性の検証が今後の課題である。
屈折矯正手術の既往眼やトーリック眼内レンズ使用時にはすでに広く活用されている。通常の白内障手術における有用性はまだ確立されておらず、さらなるエビデンスの蓄積が必要である。
7. 参考文献
Section titled “7. 参考文献”- Miller KM, Oetting TA, Tweeten JP, Carter K, Lee BS, Lin S, et al. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2022;129(1):P1-P126. doi:10.1016/j.ophtha.2021.10.006. PMID:34780842.