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眼外傷

頬骨上顎複合骨折(ZMC骨折)

1. 頬骨上顎複合骨折(ZMC骨折)とは

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ZMC骨折(Zygomaticomaxillary Complex Fracture / 頬骨上顎複合骨折)は、頬骨が隣接する骨と接合する4箇所が同時に骨折する顔面外傷である。骨折が起こる4つの接合部位は以下の通りである。

  • 頬骨弓(きょうこつきゅう):頬骨と側頭骨をつなぐアーチ状の骨
  • 前頭頬骨縫合:頬骨と前頭骨の接合部
  • 眼窩下縁(上顎骨との接合部):眼の下の眼窩
  • 眼窩:眼球を支える眼窩の底部

この4箇所が同時に損傷するため、眼窩底骨折を必然的に伴う。眼窩底骨折が生じると眼窩内容が副鼻腔へ脱出し、眼球陥凹外眼筋嵌頓による複視が生じる。このため、ZMC骨折は顔面外科的な問題であるとともに、眼科的管理が不可欠な外傷でもある。

ZMC骨折は頬部への直達外力によって生じる。交通事故・暴力行為・スポーツ外傷・転落が主な受傷機転である。顔面骨折全体の中でも比較的頻度が高く、成人男性に多い。

交通事故など激しい顔面打撲では、鼻骨骨折や頬骨弓の骨折、頭蓋底骨折など頭蓋・顔面骨骨折が合併することがあり、耳鼻咽喉科・脳神経外科との連携が重要である。ZMC骨折では以下の診療科が関与する。

  • 形成外科・耳鼻咽喉科:頬骨の骨格整復(プレート固定・頬骨弓挙上)を担当する主科
  • 眼科眼窩底骨折の整復・眼球保護・眼球運動の評価と経過観察を担当
  • 脳神経外科:頭蓋底骨折・頭蓋内損傷の合併がある場合に関与
Q ZMC骨折と眼窩底骨折はどう違うのか?
A

眼窩底骨折眼窩の下壁のみが骨折した状態を指す。ZMC骨折は頬骨が接合する4箇所(頬骨弓・前頭頬骨縫合・眼窩下縁・眼窩底)が同時に骨折する複合骨折であり、眼窩底骨折はZMC骨折に含まれるひとつの要素である。ZMC骨折では眼科的問題に加えて開口障害・顔面変形など形成外科的問題も生じるため、多診療科連携が必須となる。

ZMC骨折の症状は、眼科的症状と顔面外科的症状の2種類に大別される。

眼科的所見

複視眼窩底骨折による下直筋嵌頓・眼窩脂肪の骨折部への嵌頓で生じる。垂直方向の眼球運動で増強する。

眼球陥凹眼窩底骨折により眼窩内容が副鼻腔へ脱出し、眼窩容積が拡大することで眼球が後方へ移動する。受傷直後の浮腫が消退するにつれて顕著になる。

眼瞼腫脹・皮下出血:受傷直後に生じる。浮腫が消退すると眼球陥凹複視が明瞭化する。

眼球運動障害外眼筋または眼窩脂肪内隔壁の骨折部への嵌頓により生じる。特に下方視・上方視が制限される。

顔面外科的所見

開口時痛・開口障害:頬骨弓骨折により陥没した骨折片が側頭筋・咬筋を圧迫することで生じる。

頬部の感覚異常眼窩下神経(三叉神経第2枝の末梢部)の損傷により、患側の頬部から上口唇にかけて知覚低下・知覚異常が生じる。

頬部平坦化:頬骨が内側・下方に陥没することで、正面からみた頬部の突出が消失する。高い頬骨が消えたような外観を呈する。

眼窩気腫:鼻をかむと副鼻腔内の空気が眼窩に流入し、眼瞼の腫脹や眼球運動障害が悪化する。

眼球心臓反射(迷走神経反射)

Section titled “眼球心臓反射(迷走神経反射)”

外眼筋または眼窩内組織の絞扼(骨折部への強い嵌頓)がある場合、垂直方向の眼球運動で吐き気・徐脈・失神が誘発されることがある。特に小児で顕著であり、頭蓋内圧亢進と誤診されることがあるため注意を要する。

ZMC骨折は頬部への直達外力によって生じる。頬骨は側頭骨・前頭骨・上顎骨との4箇所の縫合で固定されているが、強い外力が加わると4箇所の縫合が同時に離断され、頬骨全体が内側・下方に陥没する。

主な受傷機転は以下の通りである。

  • 交通事故:自動車・バイク・自転車事故による顔面への強い衝撃
  • 暴力行為:拳による頬部への打撃が最多の受傷機転のひとつ
  • スポーツ外傷:コンタクトスポーツ(格闘技・ラグビー・アイスホッケー等)
  • 転落:高所からの転落による顔面着地

リスク要因としては、コンタクトスポーツへの参加・自動車運転・アルコール関連外傷が挙げられる。

頬骨上顎複合骨折(ZMC骨折)の眼窩部CT画像。軸位断2面と冠状断で骨折部の偏位と眼窩底への影響を示す。
頬骨上顎複合骨折(ZMC骨折)の眼窩部CT画像。軸位断2面と冠状断で骨折部の偏位と眼窩底への影響を示す。
Gerbino G, et al. Zygomaticomaxillary Complex Fracture. ePlasty. 2014;14:ic27. Figure 1. PMCID: PMC4145677. License: CC BY.
頬骨上顎複合骨折(ZMC骨折)の術前CT画像(4分割表示)。左上の軸位断では頬骨の陥没と突出消失を、右上の軸位断では蝶形骨頬骨縫合部の離断を、左下・右下の冠状断では頬骨上顎縫合部および眼窩底の骨折を示す。本文「4. 診断と検査方法」の項で扱う眼窩部CTによるZMC骨折の多断面診断に対応する。

ZMC骨折の診断は画像検査と眼科的機能評価の組み合わせで行う。眼球破裂網膜剥離など視機能を脅かす合併症を最初に除外することが重要である。

確定診断には眼窩部CTが必須である。CT撮影では以下の3方向の断面を評価する。

撮影断面主な評価内容
水平断(軸位断)頬骨弓・前頭頬骨縫合の骨折、眼窩外側壁の損傷
冠状断眼窩底骨折の範囲・眼窩内容脱出・外眼筋嵌頓の有無
矢状断眼窩底骨折の前後方向の範囲・眼窩容積変化の評価
  • 骨条件CT:微細な骨折線・骨折片の偏位を評価する
  • 軟部条件CT:骨折部への軟部組織(外眼筋眼窩脂肪)の嵌頓・脱出を評価する
  • 3D-CT再構成:骨折パターンの立体的把握と手術計画立案に有用である

眼窩内容積が13%以上増加すると眼球陥凹のリスクが高い。

  • Hessチャート:眼球運動を他覚的に評価し、外眼筋麻痺の部位・程度を記録する
  • 両眼単一視野検査複視の範囲を定量的に評価する
  • 眼球牽引試験外眼筋嵌頓の有無を確認する。覚醒下では疼痛を伴うため積極的に行うべき検査ではない

耳鼻咽喉科による鼻中隔・副鼻腔の評価、脳神経外科による頭蓋内合併症の除外、形成外科による骨格整復の計画立案が必要となる。

  • 眼窩底単独骨折(吹き抜け骨折:頬骨弓の損傷がなく開口障害を伴わない
  • Le Fort骨折:より広範な顔面骨骨折で、咬合不全・顔面中央部の不安定性を伴う
  • 鼻篩骨骨折:鼻根部の陥没・内眦靭帯の断裂を伴う
  • 頬骨弓単独骨折眼窩底骨折を伴わない孤立した頬骨弓の骨折
Q CT以外にどのような検査が必要か?
A

CTによる画像診断に加えて、眼球運動の機能的評価(Hessチャート・両眼単一視野検査)が重要である。眼球牽引試験は外眼筋嵌頓の確認に用いられるが、画像所見と臨床所見で判断可能な場合が多い。また、耳鼻咽喉科・形成外科・脳神経外科との連携評価を通じて、頭蓋内合併症・副鼻腔損傷・骨格整復の適応を包括的に判断する必要がある。

ZMC骨折の治療は、眼科的管理(眼窩底骨折の整復)と形成外科的管理(頬骨骨格の整復)の両者を組み合わせて行う。

眼窩底骨折の管理については、外眼筋絞扼の有無と症状の程度により手術時期を決定する。

状況推奨される対応
外眼筋絞扼型(閉鎖型)骨折受傷後24時間以内の緊急整復手術
眼窩脂肪嵌頓・持続する複視眼球陥凹2週間以内の早期整復手術
軽度の複視・軽微な眼球陥凹経過観察(自然改善を期待)
顔面変形・開口障害が著明形成外科・耳鼻咽喉科による骨格整復(時期は症状により判断)

受傷後2週間で浮腫が軽快し眼球陥凹が顕著となるため、あらかじめ患者への説明が重要である。

全身麻酔下で施行する。経皮的(下眼瞼睫毛下皮膚切開)または経結膜的(下方円蓋部結膜切開)に眼窩縁骨膜に到達し、脱出した軟部組織をすべて眼窩内に整復する。整復後は眼球牽引試験で嵌頓解除を確認する。

骨折部の修復は可能な場合は骨折片で行い、粉砕骨折ではシリコーンプレートや吸収プレート(ポリ-L/D-乳酸製)で眼窩底を再建する。

耳鼻咽喉科・形成外科が担当する骨格整復術では、頬骨全体を正常位置に挙上し、プレートとスクリューで固定する。主なアプローチとしてギリエス法(側頭部からの頬骨弓挙上)や、直視下でのプレート固定法が行われる。

  • 鼻かみ禁止:術後4〜6週間は鼻をかまない(眼窩気腫の悪化防止)
  • 眼球運動の経過観察:Hessチャートで定期的に評価する
  • 抗菌薬:周術期予防投与としてアモキシシリン・クラブラン酸などが用いられる
  • ステロイド:浮腫の軽減を目的として短期投与(プレドニゾン0.75〜1.0 mg/kg/日、3〜5日間)が行われる場合がある
Q ZMC骨折の手術は眼科で行うのか?
A

ZMC骨折の手術は多診療科で分担して行う。頬骨全体の骨格整復(プレート固定・頬骨弓挙上)は形成外科または耳鼻咽喉科が主科として担当する。眼科は眼窩底骨折の整復・再建と眼球保護を担当し、脳神経外科は頭蓋内合併症がある場合に関与する。各施設の専門体制により役割分担は異なるが、いずれかひとつの診療科が単独で担当することは少なく、チームアプローチが基本となる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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頬骨は顔面の突出部に位置し、4つの骨と縫合・関節で接合している。この4箇所の接合部は外力に対して弱点となり得る。

  • 前頭頬骨縫合:頬骨と前頭骨の縫合(眼窩の外側上角)
  • 頬骨上顎縫合:頬骨と上顎骨の縫合(眼窩下縁に相当)
  • 頬骨弓:頬骨から後方に延びて側頭骨と接合するアーチ状の構造
  • 眼窩底(頬骨眼窩部)眼窩底の外側部分を形成

頬部への直達外力が加わると、頬骨は4箇所の縫合部で同時に離断され、内側・下方に移動(陥没)する。この際、以下の変化が連鎖的に生じる。

  1. 眼窩底骨折の発生:頬骨が下方に押し込まれることで眼窩底が骨折する
  2. 眼窩内容脱出:骨折部から眼窩脂肪・場合によっては下直筋が上顎洞へ脱出する
  3. 眼窩容積拡大眼窩内容の脱出により眼窩の実効容積が増大し、眼球が後方へ移動して眼球陥凹が生じる
  4. 眼窩下神経損傷眼窩下溝を走行する眼窩下神経(三叉神経第2枝)が骨折部で損傷し、頬部から上口唇の知覚異常が生じる

頬骨弓が陥没すると、骨折片が下顎骨の筋突起(側頭筋の付着部)や側頭筋・咬筋に干渉する。これにより開口運動が機械的に妨げられ、開口障害・開口時痛が生じる。

眼窩内には眼窩脂肪内に走行する隔壁(orbital septa)が存在し、外眼筋近傍の隔壁が骨折部で捕捉されるだけでも眼球運動制限が生じる。特に下直筋の嵌頓は垂直方向の複視を引き起こし、眼球心臓反射(迷走神経反射)を誘発することがある。若年者・小児では骨が弾性に富むため、骨折片が元に戻る閉鎖型(trapdoor型)骨折が生じやすく、外眼筋が骨折部にはさみ込まれた状態で骨が復位する危険がある。この場合は筋壊死の危険があり、24時間以内の緊急手術が必要となる。

  • 整復手術の時期:早期整復(特に24時間以内)で複視・顔面変形の改善率が高い
  • 眼窩内容脱出量眼窩内容積が13%以上増大すると長期的な眼球陥凹のリスクが高まる
  • 眼窩下神経損傷の程度:軽症例は自然回復するが、重症例では知覚異常が永続することがある
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