遠近両用SCL(同時視型)
設計:同心円型・EDOF型など。遠近両方の光が同時に網膜に届く
メリット:装用が容易。ソフト素材で異物感が少ない
デメリット:像のシャープさが単焦点に劣る。暗所コントラスト低下
処方のポイント:優位眼を遠用設定。低加入度から開始
マルチフォーカルコンタクトレンズ(Multifocal Contact Lenses, MFCL)は、遠用・近用など異なる焦点距離を1枚のレンズに統合したコンタクトレンズの総称である。主な用途は老視(加齢による調節力の低下)の矯正であるが、近視進行抑制(主に小児・若年者)にも活用される。
日本人の半数以上は近視であり、40歳を過ぎると調節力の低下を自覚する割合が急増する。老視人口(40歳以上)は日本で約5,700万人に上り、コンタクトレンズユーザーが老視へ移行する際の遠近両用CL需要は年々増加している。
遠近両用ソフトCL(SCL)は基本的に同時視型となるため、眼鏡の遠近両用レンズや遠近両用ハードCL(HCL)の交代視型と比較すると見え方の質がやや劣る。しかし遠近両用SCLを使用することで明視域が広がり、調節への負担が軽減されるため、日常生活のQOLが向上する。
近視管理のための多焦点CLは老視用とは設計思想が異なり、周辺網膜への近視性デフォーカスを意図的に作り出すことで眼軸延長を抑制する。世界の近視人口は2050年に49億人に達すると予測されており15)、近視進行抑制の公衆衛生的重要性が増大している。
近視進行抑制目的の多焦点CLとしては以下のような製品・設計が研究されている。
遠用から近用まで複数の焦点距離が1枚のレンズに組み込まれており、老視によって眼鏡なしでの近方視が困難になった方でも、遠近を裸眼に近い状態でカバーできるよう設計されています。ただし単焦点レンズに比べると像のシャープさがやや劣り、暗所でのコントラスト感度が低下するという特性があります。
遠近両用CLを必要とする患者の主な自覚症状は以下のとおりである。
遠近両用CLの処方時に確認すべき主な臨床所見は以下のとおりである。
多焦点設計の光学的特性により、暗所では単焦点レンズに比べてコントラスト感度が低下する傾向があります。夜間運転など暗所での精細な視力が必要な場面では不都合を感じることがあります。夜間運転が多い方は処方前に医師と相談し、必要に応じてバックアップの眼鏡を用意することをお勧めします。
遠近両用CLの主な適用対象は以下のとおりである。
老視矯正目的:
近視進行抑制目的:
老視は40歳代から始まり、60歳頃には調節力がほぼ消失する。調節力の半分を予備として残し、残った調節力で近方作業をカバーできるように矯正量を設定するのが老視矯正の基本原則である。日本の40歳以上人口は約5,700万人に達しており、老視矯正の需要は大きい。
遠近両用CLを含むすべてのCLは、角膜の酸素供給制限・機械的刺激・涙液変化などのリスクを持つ。
遠近両用CLを処方する前に、以下の検査を行う。
以下に処方前検査の一覧を示す。
| 検査項目 | 目的 | 主なポイント |
|---|---|---|
| 他覚的屈折検査 | 遠用矯正値の決定 | オートレフ + 自覚的矯正 |
| 調節力測定 | 加入度数の設定 | 調節量の1/2を予備残留 |
| 優位眼判定 | 遠近設定の決定 | hole-in-card / pointing test |
| 瞳孔径測定 | コントラスト感度予測 | 暗所6mm超で注意 |
| 涙液検査 | ドライアイ評価 | BUT・Schirmer法 |
| フィッティング評価 | レンズ適合確認 | プッシュアップテスト |
処方決定前に遠近両用CLを試用し、実際の日常生活での見え方を確認する。デスクワーク・読書・運転・スマートフォン操作など、患者のライフスタイルに合った状況での評価が重要である。視力の数値よりも「本人が見たいものを楽に見えるかどうか」が評価の中心となる。
ドライアイがあるとCL装用感が悪化しやすく、スマイルマーク点状表層角膜症などの上皮障害が起きやすくなります。まずドライアイの治療(人工涙液・ジクアホソルナトリウム点眼等)を行い、眼表面が安定してから遠近両用CLの処方を検討します。保水性に優れたシリコーンハイドロゲル素材のレンズを選ぶと装用感が改善する場合があります。
遠近両用SCLの設計は大別して同心円型・EDOF型がある。デザインが異なると見え方が微妙に異なるため、遠方視が安定するタイプ・中間距離が安定するタイプ・近方視が安定するタイプのどれが患者のニーズに合うかを考慮してCLタイプを選択する。
処方手順の原則:
遠近両用SCLの処方は老視矯正の目標を明確にした上で行う。
バックアップ眼鏡の指導:瞳孔径が大きくなる暗所でのコントラスト低下があるため、夜間運転時のバックアップ眼鏡を常に持ち歩くよう指導する。
近視進行抑制目的の多焦点SCL処方上の注意:
遠近両用HCLは基本的に中央に遠用、周辺に近用という設計が多い。同時視の要素を持ちながら、眼鏡のように交代視の要素もあるため、使用時の姿勢と視線の方向が重要である。
視線の使い方指導:
遠近両用HCLは視線方向でレンズのどの部分を使うかが変わる。下方視線でHCLが上方に移動し、周辺の近用部が瞳孔前に来る原理である。
遠近両用SCL(同時視型)
設計:同心円型・EDOF型など。遠近両方の光が同時に網膜に届く
メリット:装用が容易。ソフト素材で異物感が少ない
デメリット:像のシャープさが単焦点に劣る。暗所コントラスト低下
処方のポイント:優位眼を遠用設定。低加入度から開始
遠近両用HCL(交代視型)
設計:中央遠用・周辺近用が主流。視線の向きでレンズ使用部位が変わる
メリット:見え方の質が高い。視線の方向で遠近を切り替えられる
デメリット:装用への慣れが必要。姿勢・視線指導が重要
処方のポイント:視線を下に向けるとHCLが上がって近用部を使える
SCLはHCLと異なり、すべて消毒が必要である。こすり洗い・すすぎ・レンズケースの洗浄と乾燥などのケアを怠ると、角膜潰瘍などの重篤な眼障害を起こす。レンズケースは1か月ごとの交換を推奨する。
1日使い捨てレンズ(MiSight等)のケア:毎日廃棄するため感染リスクが低く、ケア用品が不要。小児への処方において衛生管理の負担が軽減される。近視管理用CLにはMiSight 1 dayのような1日使い捨てタイプが多いため、実際の使用上のケアは不要である。
定期交換型レンズのケア:
定期検査: 遠近両用CLを問わず、すべてのCL装用者は定期的な眼科受診が必要である。角膜状態・眼軸長(近視管理目的の場合)・矯正視力・フィッティング評価を6か月ごとに行う12)。
現在保有している調節力の半分を予備として残し、残りの調節力で近方作業ができるように加入度を設定します。単焦点CL使用者が切り替える場合は、処方上の加入度数にとらわれず低い加入度(+1.00〜+1.50D程度)から試し、患者の自覚的見え方を確認しながら段階的に調整するのが基本です。
近視管理用の多焦点CLでは加入度数(+ADD)の選択が治療効果に影響する。主要な臨床データを以下に整理する。
| 加入度数 | 代表製品 | 主な試験 | 眼軸抑制効果 |
|---|---|---|---|
| +2.00D | MiSight 1 day | Chamberlain 20195) | 52%(3年間) |
| +2.50D | BLINK study CL | BLINK RCT10) | 36%(3年間) |
| 高加入度 | 各社 | 複数試験4) | より高い傾向 |
加入度数が高いほど眼軸延長抑制効果が高い傾向があるが、視覚質の低下(特に暗所での不具合)も増大するため、患者の年齢・ライフスタイル・日常活動を考慮して決定する。Bullimore et al.(2021)のリスク・ベネフィット分析では、近視管理介入の安全性プロファイルが包括的に評価されており、多焦点CLは全体として良好な安全性を有するとされている8)。
Yam et al.(2025)のシステマティックレビューでは、各種近視管理介入の有効性と安全性が総括されており10)、患者に応じた最適な介入の選択が推奨されている。多焦点CLが特に適している状況は以下のとおりである。

同時視型(遠近両用SCL):遠用・近用の両方の光が同時に網膜に届く。脳が神経抑制を働かせ、視距離に応じて主要な焦点を選択する。瞳孔サイズが小さいほど焦点深度が深く、遠近両用CL効果が得られやすい。明所より暗所で瞳孔が散大すると、遠近用区域間で光が干渉しコントラストが低下する。
交代視型(遠近両用HCL):視線の向きと頭の傾きでレンズのどの部分を使うかが決まる。眼鏡の遠近両用レンズと同様の原理で、視線を下方に向けることでレンズが上方に移動し、周辺の近用ゾーンが瞳孔前に来る。
同心円型SCL:遠用部と近用部がそれぞれ弱い累進屈折力デザインになっており、その間を急峻な累進屈折力で接続するデザイン(a)と、度数が遠用から近用にかけて累進するデザイン(b)がある。中心遠用と中心近用の2種類が存在する。
EDOFタイプ(拡張焦点深度型):同心円状に累進屈折力レンズが度数を変えて非周期的に配置されており、焦点深度を拡大するよう設計されている。中心遠用・近用の概念がなく、遠方から中間距離にかけて安定した視力が得られる。
老視は水晶体の弾性低下と毛様体筋の機能低下により、加齢とともに近方への調節が困難になる状態である。40歳頃から自覚症状が現れ、60歳頃には調節力がほぼ消失する。遠近両用CLはこの調節力低下を光学的に補完するものであり、水晶体自体を治療するものではない。
一方、近視進行抑制目的の多焦点SCL(周辺近視性デフォーカス設計)は老視矯正用と全く異なる光学設計を持つ。中心部は遠用矯正、同心円状の治療ゾーンがプラス加入度数(+2.00〜+2.50D)を持つことで、周辺網膜に近視性デフォーカスを生じさせ眼軸延長を抑制する。この設計原理はオルソケラトロジーやDIMS眼鏡と同じ「周辺網膜近視性デフォーカス仮説」に基づく。Remón et al.(2020)の包括的レビューでは、二焦点・多焦点CLの老視・近視制御における設計の多様性と臨床成績への影響が詳述されている7)。

老視用の遠近両用SCLとは設計が異なる近視進行抑制目的の多焦点ソフトCLが開発・研究されている。中心遠用・周辺近用設計により網膜周辺部での遠視性デフォーカスを低減させ、近視進行を抑制するメカニズムが提唱されている。
AAO Ophthalmic Technology Assessment(Cavuoto 2024)では、12件の研究(11件Level I・1件Level II)のレビューが行われた4)。SE変化は治療群−0.22〜−0.81 D(対照群−0.50〜−1.45 D)、眼軸延長は治療群0.05〜0.39 mm(対照群0.17〜0.67 mm)で、統計的有意差が11〜12試験で確認された。重篤な有害事象は報告されていない4)。Bullimore et al.(2021)は近視管理全般のリスクとベネフィットを検討し、多焦点CLは安全性プロファイルが良好であることを確認している8)。Haarman et al.(2020)のメタ解析では近視1D増加ごとに合併症リスクが指数関数的に増加することが示されており9)、介入の医学的根拠を支持している。世界の近視人口は2050年に49億人に達すると予測されており15)、近視進行抑制の公衆衛生的重要性は増大している。
MiSight 1 day(デュアルフォーカス設計)の3年間二重盲検RCT(Chamberlain 2019)では、屈折−0.51 D(対照−1.24 D、p<0.0001)・眼軸延長0.30 mm(対照0.62 mm、p<0.0001)の有意な抑制が示された5)。
Walline et al.(2020)のCochrane systematic reviewでも近視進行抑制のための介入エビデンスが総括されており、多焦点CLは有効な選択肢として位置づけられている1)。
デジタルデバイスの普及により、遠方・中間・近方すべてをカバーするトリフォーカル設計や電子的に焦点を切り替えるスマートCLの開発が進んでいる。特に中間距離(50〜80cm、スマートフォン・PCの使用距離)への対応が重視されるようになっている2)。
Aller et al.(2016)のデュアルフォーカスCLを用いたRCTでは、1年間でSE変化−0.22 D(対照−0.79 D、p<0.001)・眼軸延長0.05 mm(対照0.24 mm、p<0.001)と有意な近視進行抑制が示されている6)。Yam et al.(2025)のシステマティックレビューでも多焦点CLの近視進行抑制における位置づけが確認されている10)。
近視管理用眼鏡レンズのガイドライン(第1版, 2025)では多分割レンズと多焦点CLの特性の違いが整理されており、年齢・ライフスタイル・コンプライアンスを考慮して選択することが推奨されている11)。近視進行が速い症例では低濃度アトロピン点眼との併用が検討されることもある12)。オルソケラトロジーとの比較では、メタ解析(Si 2015)でOKの眼軸抑制率が43%と報告されており13)、多焦点CLと並ぶ選択肢となる。Kinoshita et al.(2020)の組み合わせ療法RCTとも合わせ14)、個々の患者の状況に応じた近視管理戦略が重要である。
遠近両用CL(特にSCL)のデザインはめまぐるしく変化しており、古いデザインが終売になり新しいデザインが登場し続けている。常に最新の製品情報を更新しながら処方することが求められる。患者満足度向上のため、個々の視覚需要に応じた個別化処方(カスタマイズ処方)の研究も進んでいる3)。
Remón et al.(2020)は二焦点・多焦点CLの老視・近視制御における設計と光学特性を包括的にレビューしており、設計の選択が臨床成績に大きく影響することを論じている7)。