定性的評価
小児の視力評価
1. 小児の視力評価とは
Section titled “1. 小児の視力評価とは”視力とは、特定距離において識別可能な最小の物体により視覚の分解能を評価するものである。屈折異常・弱視・その他の眼疾患の早期発見のため、正確な視力評価は不可欠である。
乳幼児は協力が得られにくく理解力が乏しいため、成人と同じ方法では評価が困難である。年齢に応じた検査法の選択と、検査環境の工夫が必要となる。
AAO・AAPOSは、新生児期、6ヶ月/12ヶ月、1〜3歳、3〜5歳、5歳以降の視力評価を推奨している。視標(optotype)は高コントラストで標準化されたものが望ましい1)。
| 年齢 | 正常視力の目安 |
|---|---|
| 3ヶ月 | 0.05 |
| 1歳 | 0.1〜0.2 |
| 2歳 | 0.3〜0.5 |
| 3歳 | 0.5〜0.8 |
| 6歳 | 1.0 |
検査方法によって結果が異なるため、視力値はあくまで参考値である。片眼性の不同視や微小角斜視は自覚症状に乏しく、診断が遅れやすい。
視力は生後から3歳までに急速に発達し、6〜8歳頃にほぼ完成する。この時期は視覚感受性期間と呼ばれ、弱視治療が最も有効な期間でもある。年齢ごとの正常値の目安は3ヶ月で0.05、1歳で0.1〜0.2、3歳で0.5〜0.8、6歳で1.0である。
2. 主な評価法と適用年齢
Section titled “2. 主な評価法と適用年齢”2歳未満(乳児期)
Section titled “2歳未満(乳児期)”定量的評価
- 森実式ドットカード:動物の顔の眼を指さす。30cmで検査する。2歳頃から施行可能。最小視認閾に基づく測定
- 絵視標・図形視標:動物の絵や○△□を用いる。2歳頃から。検査距離2.5mから開始
- カーディフ視力カード:消失視標の原理に基づく。1mで20/20〜20/200を評価
- ワースの象牙球検査:0.5〜2.5インチの5つのボールを使用。18フィートの距離で施行
- ベックのキャンディ検査:40cmで様々なサイズのキャンディビーズを用いる
- LEAシンボル:リンゴ・五角形・正方形・円の4視標を使用。4選択肢で幼児にも容易に施行できる1)
- HOTV検査:H・O・T・Vの4文字を使用。マッチングカードで読字が不要1)
- ランドルト環:近見30cm、遠見5mで検査する。3歳頃から施行可能。手持ちランドルト環によるマッチングが有用
- タンブリングEチャート:概念的に幼児には難しく、検査不能率が高い1)
- アレン絵指標検査:7つの白黒線画を使用するが、標準化の問題がある1)
- シェリダン文字検査:V・T・O・H・X・A・Uの文字を使用
就学後(6歳以上)
Section titled “就学後(6歳以上)”3. 検査に影響する要因と注意点
Section titled “3. 検査に影響する要因と注意点”視力検査の結果は以下の要因により変動する。
- 患児の状態:発達段階、人見知り・場所見知り、健康状態、機嫌により大きく左右される
- 検査環境:静かで落ち着いた環境が必要1)。検査は楽しい雰囲気で行い、無理強いしない
- 近見と遠見:近見視力は遠見視力に先行して発達する
- 読み分け困難(crowding phenomenon):6〜8歳まで認められ、単独視標(字ひとつ視力)と配列視標(字づまり視力)の間に差が生じる。弱視では単一視標で視力が過大評価される1)
- 片眼遮蔽の困難:小児は片眼遮蔽を嫌がることがある。アイパッチの粘着力を事前に弱くする工夫が有効
- 眼振のある患児:+レンズによるぼかしや半透明オクルーダーを使用して片眼の視力を評価する1)
- 検査法の違い:絵視標視力0.7はランドルト環視力0.7より低い評価となる。検査法を明記して記録する
字ひとつ視力は単独の視標を用いた検査であり、字づまり視力は複数の視標を配列した検査である。6〜8歳まで認められる読み分け困難(crowding phenomenon)により、字ひとつ視力の方が良好な結果を示す。弱視治療では字ひとつ視力が改善しても字づまり視力が未改善であれば、視覚の未熟性が残存していることを示す。
4. 臨床応用と保護者への指導
Section titled “4. 臨床応用と保護者への指導”年齢別推奨検査法
Section titled “年齢別推奨検査法”| 年齢 | 推奨される検査法 | 備考 |
|---|---|---|
| 新生児 | 瞬目反射、赤色反射確認 | 先天白内障の除外 |
| 3〜6ヶ月 | 固視・追視、嫌悪反応 | CSM表記で記録 |
| 6〜18ヶ月 | TAC、PL法 | 格子視力の測定 |
| 2〜3歳 | 森実式ドットカード、絵視標 | マッチング法 |
| 3〜5歳 | LEAシンボル、HOTV、ランドルト環 | 字ひとつ→字づまりへ移行 |
| 6歳以上 | ランドルト環(字づまり)、スネルン | 成人に準じた検査 |
検査上の工夫
Section titled “検査上の工夫”- 視力の出なかった方の眼から先に検査する(疲労を避けるため)
- 左右差が認められたら早めに再診する
- 発達遅滞児は暦年齢ではなく発達年齢に応じた検査法を選択する
保護者への指導
Section titled “保護者への指導”| 年齢 | 自宅で確認できること |
|---|---|
| 2歳未満 | 片眼を隠した際の嫌悪反応の有無(動画撮影が有用) |
| 2歳以降 | 片眼隠しの練習、絵視標のコピーを用いた自宅トレーニング |
- 年齢別の正常視力が異なることを説明する
- 検査法や児の機嫌により結果が変動することを伝える
- 視力不良時は調節麻痺薬下での屈折検査が必要であることを事前に説明する
2歳未満では、片方の眼を手で隠した際に嫌がる反応(嫌悪反応)があるかを観察する方法がある。動画撮影して受診時に見せるのも有用である。2歳以降は、絵視標のコピーを用いた自宅練習が可能である。ただし自宅での確認はあくまで補助的なものであり、正確な評価には眼科受診が必要である。
6. 視力発達の生理学的背景
Section titled “6. 視力発達の生理学的背景”視覚感受性期間は出生から6〜8歳頃までであり、特に生後3歳までが最も急速に発達する時期である。この期間に適切な視覚入力が得られないと、弱視が生じる。
読み分け困難のメカニズム
Section titled “読み分け困難のメカニズム”crowding phenomenon(読み分け困難)は視覚系の未熟性に起因する。周辺視標による干渉効果は6〜8歳まで認められる。弱視治療において字ひとつ視力が改善しても字づまり視力が未改善の場合は、視覚の未熟性が残存していることを意味する。
検査法による視力値の差異
Section titled “検査法による視力値の差異”VEP視力がPL法・OKN視力より高値を示す理由は、VEPが後頭葉皮質からの電気活動を直接評価するためである。眼球運動を必要としないため、運動系の未熟性や協力の問題に影響されにくい。VEPでは生後6〜12ヶ月で20/20相当の視力が測定される。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Cruz OA, Repka MX, Hercinovic A, Cotter SA, Lambert SR, Hutchinson AK, et al. Amblyopia Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2023;130(3):P136-P178. doi:10.1016/j.ophtha.2022.11.003. PMID:36526450; PMCID:PMC10701408.
- Birch EE. Amblyopia and binocular vision. Prog Retin Eye Res. 2013;33:67-84. PMID: 23201436.
- Birch EE, Jost RM, Hudgins LA, Morale SE, Donohoe M, Kelly KR. Dichoptic and Monocular Visual Acuity in Amblyopia. Am J Ophthalmol. 2022;242:209-214. PMID: 35738394.