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神経眼科

視神経コロボーマ・スペクトラム

1. 視神経コロボーマ・スペクトラムとは

Section titled “1. 視神経コロボーマ・スペクトラムとは”

視神経コロボーマ・スペクトラムは、視神経乳頭に陥凹(excavation)を来す先天性疾患群の総称である。「コロボーマ」はギリシャ語の kolobōma(切断された・欠損した)に由来する。

近年は**congenital optic disc anomaly(CODA)**として統一概念も提唱されている。6)

スペクトラムに含まれる主な疾患は以下の5つである。

  • 視神経乳頭コロボーマ(ODC):胎生裂近位部の不完全閉鎖による乳頭陥凹。有病割合は3〜8/100,000。
  • モーニンググローリー症候群(MGD / MGDA:漏斗状陥凹と中央グリア塊を特徴とする。有病率は2.6/100,000で女性・白人に多い。4)
  • 乳頭周囲強膜ブドウ腫(PPS:乳頭周囲の深い漏斗状陥凹。自発的収縮運動を示すことがある。4)
  • ペドラー・コロボーマ(PC):異所性脂肪組織・平滑筋を伴う乳頭異常。眼腫瘍と誤認されるリスクがある。
  • 視神経乳頭ピット(ODP):乳頭のクレーター状陥凹。発生率は1/11,000で、性差はなく、85〜90%が片側性・単発。5)

ODCは片眼性と両眼性の割合がほぼ同程度である。人種・性別による偏りは認められない。

Q 視神経コロボーマ・スペクトラムにはどのような疾患が含まれるのか?
A

視神経乳頭コロボーマ(ODC)、モーニンググローリー症候群(MGD)、乳頭周囲強膜ブドウ腫(PPS)、ペドラー・コロボーマ(PC)、視神経乳頭ピット(ODP)の5疾患群がスペクトラムに含まれる。近年はCODA(congenital optic disc anomaly)として統一的に捉える概念も提唱されている。6)

視力や症状は疾患・重症度によって大きく異なる。

  • ODC:矯正1.0超から不良例まで多様。黄斑障害がなくても視力低下することがある。視力不良例では廃用性斜視を生じる。
  • MGD視力は通常不良(20/200〜指数弁)。約30%のみが20/40以上を維持する。4)
  • PPS黄斑の関与度によって正常から著明な視力低下まで幅がある。一過性の視力喪失を生じることがある。
  • ODP黄斑症を合併するまでは通常、自覚症状に乏しい。黄斑症合併時に視力低下をきたす。

各疾患の乳頭所見は異なる。下の比較を参照されたい。

ODC

乳頭所見:下方優位の境界鮮明な鉢状陥凹。乳頭上方リムが残存し、強膜が白色に透見される。

血管走行網膜中心動脈が乳頭後方で分岐するため、多数の動脈が乳頭縁から出現するように見える。

合併症脈絡膜コロボーマへの拡大・小眼球形成。漿液性網膜剥離の合併。

MGD

乳頭所見:漏斗状陥凹。中央にグリア組織塊を認める。乳頭周辺から放射状に広がる多数の網膜血管(annulus)を伴う。通常片側性。4)

合併症:基底脳瘤との関連が古典的に知られる。脳血管異常の合併にも注意を要する。

PPS・ODP

PPS視神経乳頭自体は通常正常。乳頭周囲に深い漏斗状陥凹。萎縮性色素変化。自発的収縮運動(contractile staphyloma)の報告あり。4)

ODP:耳側に多い灰白色の円形〜楕円形のクレーター状陥凹。OCT篩状板欠損・乳頭下液体貯留・乳頭内隔壁構造を認める。5)

Q 視神経乳頭コロボーマと緑内障性乳頭陥凹はどう区別するのか?
A

ODCによる陥凹は下方偏心性・非進行性であり、眼圧上昇や視野の進行性変化を伴わない点が緑内障との主な鑑別点である。OCT視野検査・経時的な陥凹の変化を追うことが鑑別に有用である。

すべてのスペクトラム疾患に共通する根本原因は、胎生裂(embryonal fissure)の閉鎖不全である。

眼の発達は妊娠22〜25日に視神経溝が形成されることに始まり、視胞・視茎(→視神経)へと分化する。妊娠7週までに胎生裂が正常に閉鎖しなければコロボーマが発生する。

疾患ごとの病因は以下の通りである。

  • ODC:妊娠6週の胎生裂近位部の閉鎖不全。PAX2遺伝子(アストロサイトで発現)が関与する。
  • MGD:正確な病因は未解明。胚裂閉鎖不全に類似した病態が想定される。PAX6変異との関連も報告されている。4)
  • PPS:妊娠5ヶ月の後部神経堤細胞からの強膜分化不全→乳頭周囲の構造的支持が低下→正常眼圧下で脱出。
  • ODP:胚裂上縁の不完全閉鎖。

大半は孤発性だが、家族性例の報告もある。

  • PAX2遺伝子:視茎の異常発達→乳頭腎症候群(腎低形成・高血圧・腎不全)の原因遺伝子。
  • CHD7遺伝子(第8染色体)CHARGE症候群の原因遺伝子。
  • FOXC1遺伝子:Axenfeld-Rieger異常(ARA)とODCの合併例で変異が同定されている。8)
  • 粘膜類天疱瘡19遺伝子(12q染色体):家族性陥凹性乳頭異常において6kbp三重複が既報。6)
  • ODPの遺伝形式常染色体優性遺伝の可能性が示唆される。全エキソーム解析ではPAX2・PAX6・粘膜類天疱瘡19に変異を認めなかった家系も報告されている。6)

スペクトラム疾患は重篤な全身疾患と合併することがある。下表に主な関連疾患をまとめる。

全身疾患主な特徴関連遺伝子
CHARGE症候群心奇形・後鼻孔閉鎖・成長障害CHD7
乳頭腎症候群腎低形成・高血圧・感音難聴PAX2
Aicardi症候群脳梁欠損・点頭てんかん
Meckel症候群多指趾症・腎嚢胞

MGDでは基底脳瘤(basal encephalocele)との古典的な関連が知られる。

Q この疾患は遺伝するのか?
A

大半は孤発性である。ただし家族性の報告もあり、粘膜類天疱瘡19遺伝子の三重複やODPにおける常染色体優性遺伝の可能性が示唆されている。6) PAX2変異による乳頭腎症候群は遺伝性疾患であり、腎合併症のスクリーニングが必要である。

ODCは検眼鏡所見のみで診断可能である。下方偏心性の境界鮮明な鉢状陥凹、乳頭上方リム残存、強膜白色透見が特徴的所見である。確定診断にはエコー・MRI・CT・OCTを用いる。

ODPの病態評価に特に有用である。

  • 乳頭下の低反射領域(液体貯留)
  • 乳頭内隔壁構造
  • 篩状板欠損・網膜組織のヘルニア7)
  • くも膜下腔との連通7)

swept source OCT(SS-OCT)では、ODCにおいてまばらで不規則な強膜線維と陥凹底部直後のくも膜下腔開口部が描出される。

  • 蛍光眼底造影FA:ODPで動脈相に低蛍光、静脈相に高蛍光、後期に蛍光漏出を認める。7)
  • Bスキャン超音波PPSで後極の円錐形陥凹を確認する。4)
  • 視野検査:ODPでは弓状暗点・盲点拡大。サイズ・位置により異なる。5)
  • 頭部MRI/CT:全例で頭蓋内奇形の除外を行う。MGDでは基底脳瘤の確認が必須。
鑑別疾患鑑別のポイント
緑内障性乳頭陥凹進行性・眼圧上昇・視野変化
乳頭周囲ぶどう腫乳頭自体は正常
朝顔症候群MGDの別名)放射状血管・グリア塊
乳頭部PFV/PHPV胎生硝子体動脈遺残

ODCは下鼻側、ODPは下耳側への偏在が多い点も鑑別に役立つ。5)

根本的な治療法・予防法はない。治療の主軸は弱視管理と合併症への対処である。

  • 早期発見と最適な屈折矯正を行う。
  • 感覚成熟期に診断された解剖学的奇形では、全例に遮閉療法(健眼遮蔽)を試みる。4)
  • 機能的弱視が構造的弱視に重畳している場合、遮閉療法が有効なことがある。

ODCに伴う漿液性網膜剥離(serous RD)の管理については、以下の通りである。

  • 定まった治療法はなく、自然消退例もある。数ヶ月の経過観察が可能。
  • 乳頭耳側縁へのレーザー光凝固術が選択肢となる。
  • 裂孔原性網膜剥離には手術(裂孔原性RDに準じた術式)を行う。
  • PPV硝子体切除術)とシリコンオイルタンポナーデは、バックル術より良好な転帰が得られるとの報告がある。3)

視神経乳頭ピット(ODP)黄斑症の治療

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ODP黄斑症に対する主な治療法は以下の通りである。治療法については定まった見解はなく、施設・症例によって選択が異なる。

  • レーザー光凝固:乳頭と黄斑の間に障壁を形成する目的で行う。
  • 経平坦部硝子体切除術(PPV光凝固術より成功率が高いとされる。
  • ガスタンポナーデPPVとの併用が一般的。
  • 黄斑バックル術:選択肢の一つ。
  • ヒト羊膜の使用:神経感覚剥離を伴うODPの新しい治療法として報告がある。

Nadig & Ratra(2024)は、42歳男性の二重視神経乳頭ピット症例に対してPPV + ILM flap反転術 + フィブリン糊 + SF6ガスタンポナーデを施行し、術後3ヶ月で最高矯正視力が20/60から20/30に改善、中心窩厚が879μmから482μmに減少したことを報告した。1)

PPSとODPの合併例では、PPV + PPS辺縁のレーザー光凝固 + SF6ガスタンポナーデにより視力の改善が得られた報告がある(最高矯正視力 0.2→0.7)。7)

Q 視神経乳頭ピットに伴う黄斑症にはどのような治療法があるのか?
A

PPV硝子体切除術)、レーザー光凝固術、ガスタンポナーデ黄斑バックル術、ヒト羊膜使用など複数の選択肢があるが、定まった標準治療はない。PPVレーザー光凝固術より成功率が高いとされ、PPV + ILM flap反転術の報告もある。1)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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眼の発達は妊娠22〜25日の視神経溝形成に始まる。視胞→視茎(→視神経)へと分化し、妊娠7週までに胎生裂が閉鎖するのが正常経過である。この閉鎖が不完全であることが各疾患の発生基盤となる。

PAX2遺伝子はアストロサイトで発現し、前駆アストロサイトの正常な分化・移動に関与する。PAX2変異では乳頭形成が障害され、異常な血管新生を介して網膜脈絡膜の発育が阻害される。

ODPの網膜下・網膜内への液体貯留には複数の経路が示唆されている。

  • 硝子体液の流入(主要経路の一つ)
  • くも膜下腔からのCSF(脳脊髄液)流入
  • 乳頭底部の漏出血管からの液体
  • 脈絡膜経由(Bruch膜を介した漏出)9)

圧較差メカニズムとして、脳圧低下時に硝子体液がODPに引き込まれ、脳圧上昇時に液体が眼内に押し戻されることで網膜下・網膜内を解離させる機序が提唱されている。9)

病変の進展(Lincoff sequence)は以下の通りである。

  1. 内層網膜分離(schisis様変化)
  2. 外層黄斑円孔の形成
  3. 外層網膜剥離へ進展9)

組織学的には、ODPは篩状板の欠損部を通してくも膜下腔へ伸びる網膜組織のヘルニアである。7,9)

ODCにおけるシリコンオイル移動の機序

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ODC眼にシリコンオイルを使用した場合、IOPが上昇するとコロボーマが通路として機能し、圧較差によってオイルが硝子体腔から網膜下腔へ移動する。術後14ヶ月で発生した症例も報告されており、長期的な眼圧管理の重要性が示されている。3)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

CODA(陥凹性乳頭異常)の統一概念

Section titled “CODA(陥凹性乳頭異常)の統一概念”

Betsch et al.(2021)は2組の父子ペアの家族性ODP症例を報告し、全エキソーム解析でPAX2・PAX6・粘膜類天疱瘡19に変異を検出できなかったことを示した。6) 候補遺伝子としてIGSF9、MPP4、SDHA、HMCN1、SCN3Aが挙げられているが、因果関係は未確定である。

ODC・MGD・ODPを同一スペクトラム上の疾患として扱うCODA概念の確立が進んでいる。また、粘膜類天疱瘡19遺伝子(12q染色体)の6kbp三重複がCODA家系で同定されており(Fingert 2007→Hazlewood 2015で三重複確認)、別のCODA家系では14q12-q22.1が新たな遺伝子座として報告されている。6)

Hodgkins et al.による報告では、前頭鼻異形成と基底脳瘤を有する全症例がPPSまたはMGDAを伴っており、両疾患が胚発生学的に共通の起源を持つことが示唆されている。4)

MGDAPPSが同一疾患の表現型スペクトラム上の異なる形態であるとする仮説は、症例報告の蓄積によって支持されつつある。

ODP黄斑症に対するPPV + ILM内境界膜)flap反転術は新しい外科的アプローチとして注目されている。1) また、神経感覚剥離を伴うODPへのヒト羊膜使用も報告されているが、いずれも症例数が限られる段階である。


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