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神経眼科

セリアック病の神経眼科的臨床像

1. セリアック病の神経眼科的臨床像とは

Section titled “1. セリアック病の神経眼科的臨床像とは”

セリアック病(celiac disease; CD)は、小麦・ライ麦・大麦に含まれるグルテンに対する免疫介在性反応による自己免疫疾患である。別名としてセリアック・スプルー(celiac sprue)、グルテン感受性腸症(gluten-sensitive enteropathy)とも呼ばれる。

CDの世界的な血清学的有病率は、抗tTG抗体または抗EMA抗体陽性で1.4%、生検確認で0.7%と推定される。研究地域・診断法により有病率は0.15〜2.67%の幅がある1)。発症率はここ数十年で世界的に増加しており、アフリカ・アジア・中南米でも報告が増えている。

CDは単なる消化管疾患ではなく、多臓器疾患として認識されている。約50%が腸管外症状を経験し、最大約40%が神経疾患またはグルテン・ニューロパチーを経験する。未治療CDにおける小腸機能不全は、鉄・亜鉛・マグネシウム・ビタミンB12・B6・B1・B2・D・葉酸・脂溶性ビタミン(A・D・E・K)など多くの栄養素の欠乏を招く。これらの栄養欠乏が神経眼科的臨床像の主要な原因となる。新規診断CD患者ではビタミン・ミネラル欠乏の頻度が高い2)

重要なのは、CD関連の眼所見がCDの初発症状として現れることがある点である。消化器症状が前景に立たない場合でも、眼科医はCDを念頭に置いた鑑別が求められる。

Q セリアック病の眼の症状が消化器症状より先に現れることはあるか?
A

CDに関連する眼所見がCDの初発症状となることがある。消化器症状が目立たない「非典型例」や「無症候性」のCDも存在するため、原因不明の視神経症・眼筋麻痺・ドライアイを診る際にはCDを鑑別に含めることが重要である。

欠乏するビタミンの種類によって出現する症状は異なる。

  • 夜盲:VitA欠乏によりロドプシン合成が障害される。暗所での視力低下が初期症状となる。
  • 頭痛・一過性視覚暗黒発作・複視・視野異常:VitA欠乏による偽脳腫瘍(頭蓋内圧亢進)に伴う症状。
  • 視力低下視神経症(VitB12・B1欠乏等)による中心視力喪失、または白内障の形成による。
  • 眼球運動障害複視:VitB1(チアミン)・B2・B12・E欠乏による眼筋麻痺。
  • 眼瞼下垂:VitE欠乏に伴う眼筋・筋疾患の症状。
  • 眼振・運動失調・精神状態変化:ウェルニッケ脳症(VitB1欠乏)の三徴。特にアルコール乱用を伴う場合に顕著。
  • ドライアイ症状(乾燥感・異物感):CD72例の解析でドライアイが32%と最多の眼合併症であった3)

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

欠乏ビタミン別の主な眼所見を以下に示す。

VitA欠乏

夜盲:ロドプシン構成障害による暗所視力低下。

眼球乾燥(xerophthalmia):杯細胞減少による涙液不安定。VitA欠乏は杯細胞減少・角膜点状表層角膜炎を引き起こす1)

Bitot斑・角膜軟化症:長期欠乏→上皮化生・角化→Bitot斑形成。さらに進行すると角膜穿孔に至ることがある1)。VitA欠乏は世界で小児失明の主要原因である1)

乳頭浮腫(偽脳腫瘍):VitA欠乏→クモ膜顆粒障害→CSF吸収障害→頭蓋内圧亢進→乳頭浮腫視野欠損羞明・一過性視力喪失。

VitB1(チアミン)欠乏

ウェルニッケ脳症の眼球運動障害:外転制限・側方注視眼振・第1眼位での垂直眼振が特徴的。核間麻痺・1½症候群・水平垂直眼球運動制限から完全眼球運動障害に移行する例もある。ほとんどの症例で両眼性だが左右差を認める。

病変部位:眼球運動核・前庭神経核・視床傍側脳室部・視床下部・中脳水道周囲灰白質・小脳虫部(グルコース代謝依存性の部位)。

角膜上皮障害・視神経萎縮:チアミン欠乏による眼表面・視神経障害。

VitB12・葉酸欠乏

栄養欠乏性視神経症:中心視力喪失・中心暗点/盲中心暗点視神経萎縮。B12はミエリン合成に必須であり、欠乏で脊髄症・末梢神経障害・視神経萎縮が生じる1)

全身所見:悪性貧血・亜急性連合性脊髄変性症(歩行障害・感覚障害)・認知症。

米国の有病率:B12欠乏は20〜39歳3%、40〜59歳4%、60歳以上6%1)

VitE欠乏・ドライアイ

VitE欠乏:眼筋麻痺・眼瞼下垂複視。筋疾患・頭部振戦・感覚神経障害・関節位置覚消失・小脳性運動失調・錐体外路障害・認知症を伴う。

ドライアイ(自己免疫機序):CD36例vs健常対照35例(横断研究)で角膜内皮細胞密度低下および前房深度変化を確認4)。小児CDでSchirmer値・BUT低下が報告されている5)。成人CDでも同様のドライアイ所見に加え、結膜上皮の扁平上皮化生・杯細胞密度低下が認められる6)

Q どのビタミン欠乏がもっとも眼に影響を与えるか?
A

VitA欠乏(夜盲症・角膜軟化症・偽脳腫瘍)、VitB1欠乏(ウェルニッケ脳症→眼球運動障害)、VitB12欠乏(栄養欠乏性視神経症)が3大原因として挙げられる。ドライアイは自己免疫機序でも生じ、CD患者の眼合併症として最も多い3)

CDには強い遺伝的背景がある。

  • HLA-DQ2:CD患者の最大90%が保有(一般人口の約1/3が保有)。
  • HLA-DQ8:CD患者の約5%が保有。
  • 非HLA遺伝子:炎症・免疫反応に関与する遺伝子も素因を高める。

以下に該当する者ではCDのスクリーニングを検討する。

  • CDと診断された患者の第一度近親者(親・兄弟・子)
  • HLA-DQA1/DQB1変異の保有者
  • 鉄欠乏性貧血・骨減少症・1型糖尿病・ダウン症候群・ターナー症候群・自己免疫性甲状腺疾患・疱疹状皮膚炎の既往・合併

CDに関連する自己免疫疾患として、1型糖尿病・甲状腺炎・シェーグレン症候群・IgA腎症が知られている。

未治療CD患者におけるビタミン欠乏頻度

Section titled “未治療CD患者におけるビタミン欠乏頻度”

新規診断CD患者ではビタミン・ミネラル欠乏の頻度が高く2)、眼合併症発症リスクを高める。

ビタミン・栄養素欠乏頻度の目安
VitA7.5〜32.5%
VitD20〜60%
VitB128〜41%
葉酸20〜30%
鉄(貧血のみ)約40%
Q セリアック病の家族がいる場合、自分もリスクがあるか?
A

CDと診断された患者の第一度近親者(親・兄弟・子)は高リスク群に含まれる。HLA-DQ2/DQ8遺伝子保有が素因となるため、家族歴がある場合は血清学的スクリーニング(抗tTG抗体検査)を検討すべきである。

血清学的スクリーニング

  • IgA抗組織トランスグルタミナーゼ抗体(tTG)が第一のスクリーニングツール。
  • 抗筋内膜抗体(anti-endomysial antibody)も有病率評価に使用される。

確定診断

  • 上部内視鏡検査による複数の腸生検が必要(2023年ACGガイドライン)。
  • 十二指腸下行脚(第二部)・近位空腸が診断部位(最もグルテンに曝露されるため)。
  • 組織学的所見と血清学的所見の両方が陽性で確定する。

Marsh–Oberhuber分類による組織学的評価

分類組織学的特徴
Marsh I上皮内リンパ球浸潤のみ
Marsh II上皮内リンパ球浸潤+陰窩肥大
Marsh III上皮内リンパ球浸潤+陰窩肥大+絨毛萎縮

その他の組織学的徴候として、CD8+ Tリンパ球の増加、免疫細胞(形質細胞・肥満細胞・好酸球)の増加が認められる。

CDと診断された患者に神経眼科症状がある場合、または眼合併症の精査が必要な場合には以下を検討する。

  • 頭部・眼窩MRI(造影あり/なし):偽脳腫瘍(頭蓋内圧亢進)・眼窩筋炎の評価。視神経脊髄炎の除外にも有用。
  • 完全な神経眼科的検査視力・視野・眼球運動・乳頭所見の詳細評価。
  • 栄養評価:血清ビタミン(A・B1・B12・E)・葉酸・鉄・微量元素の測定。

神経眼科的症状の鑑別として以下を考慮する。

  • 炎症性腸疾患(IBD):CDと眼合併症のプロファイルが類似するため鑑別が重要。
  • 栄養障害性視神経症:VitB12・B1不足による視神経症はまれだが、栄養障害性も鑑別に含める必要がある。虚血性視神経症は高年齢・生活習慣病の有無・視神経乳頭の部分的蒼白浮腫で鑑別する。
  • 感染性・虚血性・炎症性・腫瘍性・副腫瘍性疾患:代替病因の系統的な検索が必要。

根本治療:グルテンフリー食(GFD)

Section titled “根本治療:グルテンフリー食(GFD)”

CDの唯一の根本治療は、生涯にわたるGFDである。厳格なGFD遵守により腸管炎症が改善し、栄養素吸収が回復する。予後は正しい診断と厳格なGFD遵守で良好となる。ただし食品中のグルテンの普及・汚染・表示不備によりコンプライアンスにばらつきがある。

難治性CDは最大2〜5%に存在する。定義は「厳格なGFDを少なくとも6〜12ヶ月間継続しても吸収不良が持続し生検陽性かつ悪性腫瘍の徴候なし」であり、難治性CDでは二次性リンパ腫・消化管腺癌のリスクが上昇する。

GFDの開始とともに、確認された栄養欠乏に対してビタミン・サプリメントを補充する。貧血・栄養欠乏症については長期的なモニタリングが必要である。

チアミン(VitB1)欠乏(ウェルニッケ脳症)

  • チアミン100〜1,000mgを投与する。
  • 眼球運動障害はチアミン投与により急速に改善するが、完全回復には数週間を要する。
  • マグネシウム欠損が併存する場合はマグネシウム補充も必要である。

VitA欠乏(角膜軟化症)

  • ビタミンA内服(チョコラA 20万単位/日から漸減)で治療する。
  • 眼局所では抗菌薬点眼を併用する。

VitB12欠乏(視神経症

  • メコバラミン1,500μg/日の内服(保険適用外)で経過観察が可能である。

GFDにより眼表面炎症が軽減する可能性がある1)。ただし現時点では高レベルエビデンスは未確立であり、症例報告レベルにとどまる。

Q グルテンフリー食を続ければ眼の症状は改善するか?
A

GFDの厳格な遵守とビタミン補充により、ビタミン欠乏に起因する眼合併症は改善が期待できる。GFDによる眼表面炎症軽減の報告もある1)。ただし高レベルエビデンスは未確立であり、難治性CDの2〜5%ではGFD単独では十分な効果が得られない場合もある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

CDの原因成分はグルテン中のタンパク質画分であるグリアジンである。グルテン摂取後、小腸内腔・刷子縁の加水分解酵素でα-グリアジンなどのペプチドが形成される。

自然免疫応答

  • グリアジンペプチドがIL-15などの炎症性サイトカイン発現を刺激する。
  • NKG2D受容体を持つCD8+上皮内T細胞の増殖を招く。
  • ストレス下で腸細胞がMIC-Aを発現し、NKG2D陽性CD8+ T細胞が腸細胞を攻撃する。

獲得免疫応答

  • 腸細胞損傷により粘膜固有層へグリアジンが侵入する。
  • 組織トランスグルタミナーゼ(tTG)によるグリアジンの脱アミド化が生じる。
  • HLA-DQ2/DQ8がグリアジンを提示→CD4+ T細胞活性化→サイトカイン産生→小腸の炎症性損傷へと至る。

典型例・非典型例

典型例(腸管症状):下痢・脂肪便・体重減少を主体とした吸収不良症状。

非典型例(腸管外症状):貧血・ニューロパチー・運動失調・骨粗鬆症・不妊症・肝機能障害等。眼合併症はこの範疇に含まれる。

無症候性(亜臨床的):血清学陽性+絨毛萎縮あり、症状なし。

潜在性・難治性

潜在性:血清学陽性+正常生検→将来的に絨毛萎縮が出現する可能性がある。

潜在的(potential):血清学陽性+生検陰性(絨毛萎縮前段階)。

難治性:厳格なGFDを6〜12ヶ月以上継続しても吸収不良が持続かつ生検陽性。悪性腫瘍(二次性リンパ腫・消化管腺癌)の徴候がないことが条件。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

CDにおけるドライアイの自己免疫機序

Section titled “CDにおけるドライアイの自己免疫機序”

Martinsら(2021)はドイツ病院データベース解析(272,873例)の中からCDの72例の眼合併症プロファイルを評価した3)ドライアイが32%と最多であり、VitA欠乏を認めた症例はなかった。この結果はCDのドライアイが栄養欠乏よりも自己免疫機序に起因することを示唆しており、眼合併症のプロファイルが炎症性腸疾患(IBD)と類似することも報告されている。

Donmez Gunら(2021)はCD36例と健常対照35例を対象とした横断研究において、CD患者群で角膜内皮細胞密度の低下と前房深度の変化を確認した4)。この所見はCDの全身性の自己免疫炎症が眼内構造に影響を及ぼすことを示唆している。

Karatepe Hashasら(2017)の小児CDコホート研究では、Schirmer値・BUT(涙液破壊時間)が対照群に比べ有意に低下しており、若年からのドライアイ素因が確認された5)

Hazarら(2021)の成人CDコホートでも同様のドライアイ所見に加え、結膜上皮の扁平上皮化生および杯細胞密度低下が確認された6)

人口ベースコホート研究では、VitB12欠乏がドライアイリスクを1.6倍に増加させることが報告された1)。CDに合併するVitB12欠乏がドライアイ発症に関与する経路を示唆する知見である。

GFDによる眼合併症の改善可能性

Section titled “GFDによる眼合併症の改善可能性”

Tuncerら(2010)は、結膜腫瘍を有するCD患者においてGFD実施後に腫瘍の退縮が認められたことを報告した7)。グルテン除去が眼表面炎症を軽減する可能性があるものの1)、現時点では高レベルエビデンスは確立されておらず、症例報告レベルにとどまる。


  1. Markoulli M, Ahmad S, Arcot J, Arita R, Benitez-Del-Castillo J, Caffery B, et al. TFOS Lifestyle: Impact of nutrition on the ocular surface. The ocular surface. 2023;29:226-271. doi:10.1016/j.jtos.2023.04.003. PMID:37100346.

  2. Wierdsma NJ, van Bokhorst-de van der Schueren MA, Berkenpas M, Mulder CJ, van Bodegraven AA. Vitamin and mineral deficiencies are highly prevalent in newly diagnosed celiac disease patients. Nutrients. 2013;5(10):3975-92. doi:10.3390/nu5103975. PMID:24084055; PMCID:PMC3820055.

  3. Martins TGDS, Miranda Sipahi A, Dos Santos FM, Schor P, Anschütz A, Mendes LGA, et al. Eye disorders in patients with celiac disease and inflammatory bowel disease: A study using clinical data warehouse. European journal of ophthalmology. 2021. doi:10.1177/11206721211012849. PMID:33896218.

  4. Raziye Dönmez Gün, Ayşin Tuba Kaplan, Nilüfer Zorlutuna Kaymak, Emine Köroğlu, Erdi Karadağ, Şaban Şimşek. The impact of celiac disease and duration of gluten free diet on anterior and posterior ocular structures: Ocular imaging based study. Photodiagnosis and Photodynamic Therapy. 2021;34:102214. doi:10.1016/j.pdpdt.2021.102214.

  5. Karatepe Hashas AS, Altunel O, Sevınc E, Duru N, Alabay B, Torun YA. The eyes of children with celiac disease. Journal of AAPOS : the official publication of the American Association for Pediatric Ophthalmology and Strabismus. 2017;21(1):48-51. doi:10.1016/j.jaapos.2016.09.025. PMID:28087348.

  6. Hazar L, Oyur G, Atay K. Evaluation of Ocular Parameters in Adult Patients with Celiac Disease. Current eye research. 2021;46(1):122-126. doi:10.1080/02713683.2020.1780266. PMID:32508197.

  7. Tuncer S, Yeniad B, Peksayar G. Regression of conjunctival tumor during dietary treatment of celiac disease. Indian journal of ophthalmology. 2010;58(5):433-4. doi:10.4103/0301-4738.67071. PMID:20689203; PMCID:PMC2992923.

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