ミトコンドリア障害
MFN2変異(CMT2A2):ミトコンドリア外膜のミトフシン2の異常によりミトコンドリア融合が障害される。
剖検所見:末梢神経・視神経のミトコンドリアが異常凝集・円形化する2)。
系統変性パターン:長経路ほど変性が高度で、末梢から近位へと「近位-遠位勾配」が逆転する様式を呈する2)。

シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease; CMT)は遺伝性運動感覚ニューロパチー(hereditary motor and sensory neuropathy; HMSN)の総称である。遺伝的に不均一な一連の疾患群であり、末梢神経の機能を維持する髄鞘・軸索タンパク質をコードする遺伝子の変異によって生じる。
最も頻度の高い遺伝性神経筋疾患であり、有病率は約1/2,500と推定される4)。米国で推定126,000人、世界中で約260万人が罹患する。
分類は電気生理学的所見と神経生検所見に基づく。
CMT症例の約半数はCMT1Aであり、第17染色体17p11.2の部分重複によるPMP22過剰発現が原因である。
CMTは基本的に遺伝性疾患であり、常染色体優性・劣性・X連鎖の遺伝形式をとる。ただしTRPV4・MORC2・CADM3などではde novo変異(新たに生じた変異)による孤発例も報告されており1,5,6)、家族歴がなくても発症しうる。
CMTは緩徐に進行し、通常は足部から症状が始まる。
CMTは末梢神経疾患だが、眼科的所見を伴うことがある。
遺伝子型によって特有の全身所見を伴う場合がある。
CMT2A(MFN2変異)では視神経萎縮が患者の9〜20%に出現し、緩徐進行性の視力低下・色覚異常を引き起こす2)。その他に眼球運動障害・瞳孔異常・網膜変化が生じうる。CMT2Cでは難聴(29%)も合併する1)。眼科的症状はCMTの初発症状となることもあるため、注意が必要である。
CMTは末梢神経の機能を維持する遺伝子の変異によって生じ、現在80以上の遺伝子が関与するとされる。分子標的検査で確定された個人の約90%がPMP22・MPZ・GDAP1・MFN2・GJB1に変異を持つ。
主要な原因遺伝子と亜型の対応を以下に示す。
| 遺伝子 | 亜型 | 遺伝形式 |
|---|---|---|
| PMP22(17p11.2重複) | CMT1A(全CMTの約50%) | 常染色体優性 |
| MFN2 | CMT2A2(CMT2中最頻) | 常染色体優性 |
| GJB1 | CMT1X | X連鎖 |
| MPZ | CMT1B・CMT2I・CMT2J | 常染色体優性 |
| SORD | CMT2・dHMN | 常染色体劣性 |
まず神経伝導速度検査で脱髄型・軸索型を判別した後、分子標的検査(遺伝子検査)を行う。約90%の症例はPMP22・MPZ・GDAP1・MFN2・GJB1の検査で原因変異が同定される。次世代シーケンシング(NGS)や全エクソーム解析(WES)の進歩により、SORD・CADM3・NEFLなど新規原因遺伝子の発見が続いている4,5,8)。
CMTの診断は段階的に進める。
現時点でCMTに対する疾患修飾薬(disease-modifying drug therapy)は存在しない。治療は対症療法・支持療法が中心であり、多職種連携アプローチが重要である。
ベストプラクティスは確立されていないため、個々の患者の症状・進行度に応じた個別化対応が求められる。
現時点では疾患修飾薬は存在せず、対症療法・支持療法が中心である。リハビリテーション・装具療法・外科的矯正を組み合わせた多職種連携アプローチが基本となる。アスコルビン酸(ビタミンC)のランダム化比較試験では有意な効果は示されなかった。治療可能性の研究はSOLD変異に対するアルドース還元酵素阻害薬など複数進行中であり、「最新の研究と今後の展望」の項を参照されたい。
CMTは遺伝子型によって病態機序が大きく異なる。
末梢髄鞘の産生・維持の欠陥が神経伝導速度低下をもたらす。PMP22の過剰発現(CMT1A)やMPZ変異(CMT1B)による髄鞘構造異常が基本病態である。
ミトコンドリア障害
MFN2変異(CMT2A2):ミトコンドリア外膜のミトフシン2の異常によりミトコンドリア融合が障害される。
剖検所見:末梢神経・視神経のミトコンドリアが異常凝集・円形化する2)。
系統変性パターン:長経路ほど変性が高度で、末梢から近位へと「近位-遠位勾配」が逆転する様式を呈する2)。
イオンチャネル異常
TRPV4変異(CMT2C):非選択的Ca²⁺透過性カチオンチャネルのgain-of-function変異。
機序:Ca²⁺チャネル活性亢進とPI(4,5)P2結合の消失 → Ca²⁺過負荷 → 軸索ミトコンドリア輸送障害と軸索変性1)。神経障害変異はRhoA結合を障害し神経突起伸長を阻害する1)。
軸索-グリア相互作用
CADM3変異:軸索のCADM3とシュワン細胞のCADM4の結合が軸索-グリア主要接着を媒介する。
Tyr172Cys変異:新規ジスルフィド結合を生成し蛋白質構造を変化させる。変異蛋白は小胞体に滞留し細胞表面発現が低下する5)。
ソルビトール脱水素酵素の機能喪失によりソルビトールが蓄積する。糖尿病マウスモデルでも坐骨神経にソルビトール蓄積によるニューロパチーが誘導される4)。一部の症例では筋生検でデスミン陽性封入体(余剰蛋白ミオパチー様所見)が確認されており、表現型スペクトラムはミオパチーにまで及ぶ7)。
MORC2はDNA依存性ATPaseをコードし、エピジェネティックサイレンシング・クロマチンリモデリング・DNA修復・転写調節に関与する。一部の変異ではMRI上Leigh症候群様病変を呈するが、末梢血ミトコンドリア機能は正常であり、ミトコンドリア病とは異なる機序によるものである6)。
ニューロフィラメント軽鎖は軸索の構造的安定性・径の維持に必須である。優性変異はgain-of-functionでニューロフィラメント集合と細胞内小器官輸送を障害し、劣性変異はloss-of-functionでNFネットワークを欠如させる8)。
Hayashiら(2023)はMFN2 p.Arg364Trp変異を持つ2例の剖検で、視神経の著明な萎縮と髄鞘化線維の喪失、外側膝状体の重度神経細胞脱落、一次視覚野IV層の大型神経細胞の中等度脱落を確認した2)。末梢神経だけでなく視覚経路全体の系統変性が示された。
Rebeloら(2021)はCADM3遺伝子変異が上肢優位の非典型的CMT2を引き起こすことを報告した5)。軸索のCADM3とシュワン細胞のCADM4の相互作用を介した軸索-グリア接着障害という新たな病態メカニズムを示し、この経路が新規治療戦略の基盤となりうると指摘している。
Della Marinaら(2024)はNEFL変異の15%体細胞モザイクが神経筋症状を引き起こすことを初めて報告した8)。体細胞モザイクでも臨床的に発症しうるという知見は、遺伝カウンセリングにおける病的意義の評価に重要な示唆を与える。
MFN2変異CMT2A2の剖検研究により、末梢神経だけでなく視覚経路・脊髄後索など多系統の中枢神経変性が明らかになった2)。CMTを末梢神経疾患としてのみ捉えることへの再考を促す知見である。
プロゲステロン拮抗薬、神経栄養因子、アスコルビン酸(ビタミンC)、クルクミンが実験モデルで調査されているが、アスコルビン酸のランダム化比較試験では有意な効果は示されていない。
Chen H, Sun C, Zheng Y, et al. A TRPV4 mutation caused Charcot-Marie-Tooth disease type 2C with scapuloperoneal muscular atrophy overlap syndrome and scapuloperoneal spinal muscular atrophy in one family: a case report and literature review. BMC Neurol. 2023;23:250.
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