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神経眼科

シャルコー・マリー・トゥース病

1. シャルコー・マリー・トゥース病とは

Section titled “1. シャルコー・マリー・トゥース病とは”

シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease; CMT)は遺伝性運動感覚ニューロパチー(hereditary motor and sensory neuropathy; HMSN)の総称である。遺伝的に不均一な一連の疾患群であり、末梢神経の機能を維持する髄鞘・軸索タンパク質をコードする遺伝子の変異によって生じる。

最も頻度の高い遺伝性神経筋疾患であり、有病率は約1/2,500と推定される4)。米国で推定126,000人、世界中で約260万人が罹患する。

分類は電気生理学的所見と神経生検所見に基づく。

  • CMT1(脱髄型・常染色体優性):神経伝導速度(NCV)の著明な低下と神経生検における髄鞘異常を特徴とする。上肢運動伝導速度(MCV)が38 m/s未満で脱髄型と分類される4)
  • CMT2(軸索型):伝導速度は正常(MCV 38 m/s以上)だが振幅が低下し、慢性軸索変性を呈する4)
  • CMT3(デジュリーヌ・ソッタ病):幼児期発症の重度の劣性遺伝型。
  • CMT4(脱髄型・常染色体劣性)常染色体劣性遺伝の脱髄型。
  • 中間型(DICMTG):脱髄型と軸索型の中間的特徴を示す(MCV 35〜45 m/s)8)

CMT症例の約半数はCMT1Aであり、第17染色体17p11.2の部分重複によるPMP22過剰発現が原因である。

Q CMTは遺伝する病気ですか?家族に患者がいない場合も発症しますか?
A

CMTは基本的に遺伝性疾患であり、常染色体優性・劣性・X連鎖の遺伝形式をとる。ただしTRPV4・MORC2・CADM3などではde novo変異(新たに生じた変異)による孤発例も報告されており1,5,6)、家族歴がなくても発症しうる。

CMTは緩徐に進行し、通常は足部から症状が始まる。

  • 足部の変形・筋力低下:ハンマートゥや凹足(pes cavus)を生じる。足趾・足首周囲の内在筋群の萎縮が先行する。
  • 歩行障害:下腿筋萎縮が進行すると、足先が上がらない「鶏歩」様の歩容となる。
  • 近位への進行:下腿から大腿下部、さらに手・前腕へと進行する。
  • 感覚障害:感覚消失と深部腱反射低下が運動症状と同じ遠位から近位への進行パターンをとる。
  • 疼痛:MPZ変異CMTでは神経障害性疼痛(灼熱痛・電撃様感覚・遊走性の疼痛・異常感覚)が主症状となる稀な表現型があり、文献上21例中14/20例が成人発症であった3)

CMTは末梢神経疾患だが、眼科的所見を伴うことがある。

  • 視神経萎縮:CMTにおける主要な眼病変である。CMT2A(MFN2変異)患者の9〜20%に出現し、HMSN-VIに分類される2)。両側性・対称的・緩徐進行性の視力低下、色覚異常視神経乳頭蒼白を呈する。レーバー遺伝性視神経症(LHON)と類似する徴候を示し、CMT2Aの初発症状となることもある。
  • 眼球運動障害:脳神経への脱髄効果は不顕性のことが多い。非対称な動眼神経麻痺がCMT1Aの初発症状であった症例報告がある。
  • 瞳孔異常瞳孔不同、光・薬物に反応しない縮瞳、アーガイル・ロバートソン様瞳孔が生じうる。
  • 網膜徴候:網膜層の菲薄化、黄斑部色素変化、色素性網膜症(通常は外層を侵さない)。中心暗点・傍中心暗点。VEP網膜電図は通常正常。
  • 角膜所見:CMT1Aでは角膜知覚低下、角膜神経線維密度・長の減少が報告されている。
  • 若年性老視、赤緑軸の色覚異常も認められることがある。

遺伝子型によって特有の全身所見を伴う場合がある。

  • CMT2C(TRPV4変異):声帯麻痺が高頻度(文献レビュー37/48例、77%)、難聴(12/42例、29%)、側弯(10/37例、27%)1)
  • CMT2Z(MORC2変異):小児例で筋緊張低下、全身性筋力低下、発達遅延、聴力障害、白内障、錐体路徴候がありうる6)
  • NEFL変異:pes cavus、感覚性失調、聴力障害、痙性対麻痺、知的障害が併存しうる8)
Q CMTで目に症状が出ることはありますか?
A

CMT2A(MFN2変異)では視神経萎縮が患者の9〜20%に出現し、緩徐進行性の視力低下・色覚異常を引き起こす2)。その他に眼球運動障害・瞳孔異常・網膜変化が生じうる。CMT2Cでは難聴(29%)も合併する1)。眼科的症状はCMTの初発症状となることもあるため、注意が必要である。

CMTは末梢神経の機能を維持する遺伝子の変異によって生じ、現在80以上の遺伝子が関与するとされる。分子標的検査で確定された個人の約90%がPMP22・MPZ・GDAP1・MFN2・GJB1に変異を持つ。

主要な原因遺伝子と亜型の対応を以下に示す。

遺伝子亜型遺伝形式
PMP22(17p11.2重複)CMT1A(全CMTの約50%)常染色体優性
MFN2CMT2A2(CMT2中最頻)常染色体優性
GJB1CMT1XX連鎖
MPZCMT1B・CMT2I・CMT2J常染色体優性
SORDCMT2・dHMN常染色体劣性
  • TRPV4 → CMT2C/SPSMA/dHMN。変異はARD領域に多く、p.R316C変異が最多1)。de novo変異例あり。
  • SORD(ソルビトール脱水素酵素)→ CMT2の約10%に関与。中国コホートでCMT全体の1.39%(3/215)、CMT2の7.5%(3/40)を占め、MFN2(37.5%)に次ぐ第2位4)。c.757delG(p.A253Qfs*27)が最頻変異。
  • MORC2 → CMT2Z。通常10〜20歳で発症。de novo変異の報告あり6)
  • CADM3 → CMT2(新規遺伝子)。Tyr172Cys変異による上肢優位の非典型的表現型5)
  • NEFL → CMT1F・CMT2E・DICMTG。34種類の病原性変異が174例で報告。体細胞モザイクの初報告あり8)
  • MPZ → 神経障害性疼痛が主症状となる稀な表現型を含む3)
  • 常染色体優性:CMT1、CMT2の大部分。
  • 常染色体劣性:CMT4、SORD変異CMT2。
  • X連鎖:GJB1変異(CMT1X)。
  • de novo変異:TRPV4・MORC2・CADM3で報告あり1,5,6)
Q CMTの原因遺伝子はどのように特定されますか?
A

まず神経伝導速度検査で脱髄型・軸索型を判別した後、分子標的検査(遺伝子検査)を行う。約90%の症例はPMP22・MPZ・GDAP1・MFN2・GJB1の検査で原因変異が同定される。次世代シーケンシング(NGS)や全エクソーム解析(WES)の進歩により、SORD・CADM3・NEFLなど新規原因遺伝子の発見が続いている4,5,8)

CMTの診断は段階的に進める。

  1. 病歴聴取と身体診察:表現型を記述し亜型分類の方向性を定める。
  2. 家族歴の確認:遺伝形式の特定と眼科的徴候の早期発見に有用。
  3. 電気生理学的検査:神経伝導速度(NCV)の測定が必須。MCV <38 m/s → 脱髄型、≧38 m/s → 軸索型4)。中間型は35〜45 m/s3)
  4. 遺伝子検査:原因変異の確定と遺伝カウンセリングに必須。NGSによる多遺伝子パネル、未診断例ではWESが有用5)
  5. 神経生検:ほとんどの症例では不要。実施時は有髄線維密度低下・偽オニオンバルブ等を評価する。
  • 眼底検査:視神経萎縮、乳頭周囲血管の細径化、色素性網膜症、網膜神経線維層(RNFL)菲薄化を評価する。
  • VEP・網膜電図:通常正常。視神経萎縮例では変化が生じうる。
  • MRI:CMT2A2では視神経路萎縮、皮質下白質・中小脳脚〜小脳白質のFLAIR高信号を認めることがある2)
  • CMT自体の異なる型(型間に実質的重複あり)
  • 他の遺伝性ニューロパチー、遠位型ミオパチー、下位運動ニューロン疾患
  • 痙性対麻痺、遺伝性運動失調症、ミトコンドリア脳筋症
  • Leigh症候群(CMT2Z/MORC2変異でMRI所見が類似)6)
  • 慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)、重症筋無力症(眼筋型)、筋強直性ジストロフィ

現時点でCMTに対する疾患修飾薬(disease-modifying drug therapy)は存在しない。治療は対症療法・支持療法が中心であり、多職種連携アプローチが重要である。

  • 理学療法(リハビリテーション):筋力維持・関節可動域確保・歩行機能維持を目的とする。
  • 装具療法(AFO:足関節装具):足関節の安定化と歩行改善に有用5)
  • 外科的矯正:腱移行術・骨固定術などによる骨変形の矯正5)
  • 多職種連携:主治医・外科医・装具士・理学療法士・遺伝カウンセラーによるチームアプローチが理想的。

ベストプラクティスは確立されていないため、個々の患者の症状・進行度に応じた個別化対応が求められる。

Q CMTに効く薬はありますか?
A

現時点では疾患修飾薬は存在せず、対症療法・支持療法が中心である。リハビリテーション・装具療法・外科的矯正を組み合わせた多職種連携アプローチが基本となる。アスコルビン酸(ビタミンC)のランダム化比較試験では有意な効果は示されなかった。治療可能性の研究はSOLD変異に対するアルドース還元酵素阻害薬など複数進行中であり、「最新の研究と今後の展望」の項を参照されたい。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

CMTは遺伝子型によって病態機序が大きく異なる。

末梢髄鞘の産生・維持の欠陥が神経伝導速度低下をもたらす。PMP22の過剰発現(CMT1A)やMPZ変異(CMT1B)による髄鞘構造異常が基本病態である。

ミトコンドリア障害

MFN2変異(CMT2A2):ミトコンドリア外膜のミトフシン2の異常によりミトコンドリア融合が障害される。

剖検所見:末梢神経・視神経のミトコンドリアが異常凝集・円形化する2)

系統変性パターン:長経路ほど変性が高度で、末梢から近位へと「近位-遠位勾配」が逆転する様式を呈する2)

イオンチャネル異常

TRPV4変異(CMT2C):非選択的Ca²⁺透過性カチオンチャネルのgain-of-function変異。

機序:Ca²⁺チャネル活性亢進とPI(4,5)P2結合の消失 → Ca²⁺過負荷 → 軸索ミトコンドリア輸送障害と軸索変性1)。神経障害変異はRhoA結合を障害し神経突起伸長を阻害する1)

軸索-グリア相互作用

CADM3変異:軸索のCADM3とシュワン細胞のCADM4の結合が軸索-グリア主要接着を媒介する。

Tyr172Cys変異:新規ジスルフィド結合を生成し蛋白質構造を変化させる。変異蛋白は小胞体に滞留し細胞表面発現が低下する5)

ソルビトール代謝障害(SORD変異)

Section titled “ソルビトール代謝障害(SORD変異)”

ソルビトール脱水素酵素の機能喪失によりソルビトールが蓄積する。糖尿病マウスモデルでも坐骨神経にソルビトール蓄積によるニューロパチーが誘導される4)。一部の症例では筋生検でデスミン陽性封入体(余剰蛋白ミオパチー様所見)が確認されており、表現型スペクトラムはミオパチーにまで及ぶ7)

クロマチンリモデリング障害(MORC2変異・CMT2Z)

Section titled “クロマチンリモデリング障害(MORC2変異・CMT2Z)”

MORC2はDNA依存性ATPaseをコードし、エピジェネティックサイレンシング・クロマチンリモデリング・DNA修復・転写調節に関与する。一部の変異ではMRI上Leigh症候群様病変を呈するが、末梢血ミトコンドリア機能は正常であり、ミトコンドリア病とは異なる機序によるものである6)

ニューロフィラメント異常(NEFL変異)

Section titled “ニューロフィラメント異常(NEFL変異)”

ニューロフィラメント軽鎖は軸索の構造的安定性・径の維持に必須である。優性変異はgain-of-functionでニューロフィラメント集合と細胞内小器官輸送を障害し、劣性変異はloss-of-functionでNFネットワークを欠如させる8)

視覚経路の変性(CMT2A2の剖検所見)

Section titled “視覚経路の変性(CMT2A2の剖検所見)”

Hayashiら(2023)はMFN2 p.Arg364Trp変異を持つ2例の剖検で、視神経の著明な萎縮と髄鞘化線維の喪失、外側膝状体の重度神経細胞脱落、一次視覚野IV層の大型神経細胞の中等度脱落を確認した2)。末梢神経だけでなく視覚経路全体の系統変性が示された。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Rebeloら(2021)はCADM3遺伝子変異が上肢優位の非典型的CMT2を引き起こすことを報告した5)。軸索のCADM3とシュワン細胞のCADM4の相互作用を介した軸索-グリア接着障害という新たな病態メカニズムを示し、この経路が新規治療戦略の基盤となりうると指摘している。

SORD変異に対する薬物療法・遺伝子治療

Section titled “SORD変異に対する薬物療法・遺伝子治療”
  • アルドース還元酵素阻害薬:ソルビトール蓄積を抑制することで神経障害を改善する可能性がある7)
  • 塩基編集遺伝子治療:c.757delG変異のような特定バリアントに対する遺伝子レベルでの修正が検討されている4)

NEFLモザイクと遺伝カウンセリングへの示唆

Section titled “NEFLモザイクと遺伝カウンセリングへの示唆”

Della Marinaら(2024)はNEFL変異の15%体細胞モザイクが神経筋症状を引き起こすことを初めて報告した8)。体細胞モザイクでも臨床的に発症しうるという知見は、遺伝カウンセリングにおける病的意義の評価に重要な示唆を与える。

MFN2変異CMT2A2の剖検研究により、末梢神経だけでなく視覚経路・脊髄後索など多系統の中枢神経変性が明らかになった2)。CMTを末梢神経疾患としてのみ捉えることへの再考を促す知見である。

実験的治療(動物モデル・in vitro)

Section titled “実験的治療(動物モデル・in vitro)”

プロゲステロン拮抗薬、神経栄養因子、アスコルビン酸(ビタミンC)、クルクミンが実験モデルで調査されているが、アスコルビン酸のランダム化比較試験では有意な効果は示されていない。


  1. Chen H, Sun C, Zheng Y, et al. A TRPV4 mutation caused Charcot-Marie-Tooth disease type 2C with scapuloperoneal muscular atrophy overlap syndrome and scapuloperoneal spinal muscular atrophy in one family: a case report and literature review. BMC Neurol. 2023;23:250.

  2. Hayashi H, Saito R, Tanaka H, et al. Clinicopathologic features of two unrelated autopsied patients with Charcot-Marie-Tooth disease carrying MFN2 gene mutation. Acta Neuropathol Commun. 2023;11:207.

  3. Gemignani F, Percesepe A, Gualandi F, et al. Charcot-Marie-Tooth Disease with Myelin Protein Zero Mutation Presenting as Painful, Predominant Small-Fiber Neuropathy. Int J Mol Sci. 2024;25:1654.

  4. Yuan RY, Ye ZL, Zhang XR, et al. Evaluation of SORD mutations as a novel cause of Charcot-Marie-Tooth disease. Ann Clin Transl Neurol. 2021;8:266-270.

  5. Rebelo AP, Cortese A, Abraham A, et al. A CADM3 variant causes Charcot-Marie-Tooth disease with marked upper limb involvement. Brain. 2021;144:1197-1213.

  6. Yang H, Yang S, Kang Q, et al. MORC2 gene de novo mutation leads to Charcot-Marie-Tooth disease type 2Z: a pediatric case report and literature review. Medicine. 2021;100:e27208.

  7. Massucco S, Gemelli C, Bellone E, et al. Skeletal muscle involvement in biallelic SORD mutations: case report and review of the literature. Acta Myol. 2023;42:113-117.

  8. Della Marina A, Hentschel A, Czech A, et al. Novel Genetic and Biochemical Insights into the Spectrum of NEFL-Associated Phenotypes. J Neuromuscul Dis. 2024;11:625-645.

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