マイトマイシンCの毒性
血管内皮阻害:MMCは上強膜血管の毛細血管内皮細胞増殖を阻害し、血管配列の乱れ・虚血・壊死を引き起こす1)
術後投与の問題:MMC 0.02%を1日4回・2〜5日間術後点眼(洗浄なし)する方法は、累積曝露が過大となる1)
合併症リスク:高濃度(0.1%)や長時間使用で強膜融解・角膜融解・虹彩炎・白内障の発生率が上昇する4)
美容目的の広範囲結膜切除術(cosmetic wide conjunctivectomy)は、審美的目的で結膜充血を軽減する非治療的な手術手技である。一般に**「美容的眼球美白術(cosmetic eye whitening)」**と呼ばれる。球結膜およびテノン嚢を切除し、露出した強膜にマイトマイシンC(MMC)を塗布して血管再生を抑制する。
2000年代初頭に韓国で、点眼薬に反応しない持続的結膜充血の治療目的に開発された。初期報告では患者満足度が高く合併症率も低いとされたため、韓国全土およびアジアの一部地域で急速に普及した。しかし2012年の大規模研究で、患者の91.7%が少なくとも1つの術後合併症を経験したと報告された。壊死性強膜炎など視力喪失につながる重篤な合併症が明らかとなり、韓国保健福祉部はこの手術を正式に禁止した1)。
この決定にもかかわらず、I-BRITEという商標名で米国に導入された1)。米国での採用は限定的だったが、韓国と同様の深刻な合併症が報告されている1)。現在、この手術が実施されることは稀であるが、米国では正式な禁止措置はとられていない。
結膜手術(眼球美白術を含む)は医原性ドライアイ、炎症、瘢痕形成を引き起こし眼表面を損なう可能性がある2)。

術前の主訴は慢性的な結膜充血による美容上の不満である。局所血管収縮薬、人工涙液、抗炎症薬などに抵抗性の場合に手術が検討されていた。
術後合併症として、疼痛・羞明・霧視・視力低下が出現する。Azar et al.の症例では術後9年で両眼に激しい疼痛・羞明・霧視が発症した1)。
術後合併症は多岐にわたり、多くは術後数週間〜数年の遅発性に出現する。
強膜関連所見:
その他の所見:
1,713例の後ろ向き研究では、186例(11%)に強膜合併症が発生した。内訳は石灰化6.2%、強膜軟化4.4%、強膜炎0.2%、強膜壊死0.1%であった1)。
マイトマイシンCの毒性
血管内皮阻害:MMCは上強膜血管の毛細血管内皮細胞増殖を阻害し、血管配列の乱れ・虚血・壊死を引き起こす1)
術後投与の問題:MMC 0.02%を1日4回・2〜5日間術後点眼(洗浄なし)する方法は、累積曝露が過大となる1)
合併症リスク:高濃度(0.1%)や長時間使用で強膜融解・角膜融解・虹彩炎・白内障の発生率が上昇する4)
手術手技の問題
過度の焼灼:止血目的の過度な電気焼灼が上強膜血管を直接破壊し、創傷治癒不全と壊死を招く1)
テノン嚢の広範切除:テノン嚢は眼表面の保護と血管供給に寄与しており、過度な切除は虚血リスクを高める
創閉鎖なし:多くのプロトコルで強膜を意図的に裸露したまま閉鎖しなかった
その他のリスク要因として、コンタクトレンズ依存、既存のドライアイ、過去のMMCまたは放射線曝露歴、自己免疫性強膜炎の既往がある。LASIK後のドライアイが慢性充血を生じ、眼球美白術の契機となった症例も報告されている1)。LASIK後の涙液中粘膜類天疱瘡-9やTNF-αの上昇が強膜壊死の発症に寄与する可能性がある1)。
MMCは翼状片手術の再発抑制にも用いられるが、強膜菲薄化・潰瘍化・遅延性結膜上皮化を引き起こす場合がある3)。翼状片手術では術中0.02〜0.04%を短時間(30秒〜5分)塗布する方法が主流であり、美容結膜切除術での術後連日投与とは大きく異なる。
合併症の多くは遅発性であるため、術後の長期的フォローアップが不可欠である。報告された症例では術後3ヶ月〜9年で壊死性強膜炎が出現している1)。
眼科的評価:
全身検査:
壊死性強膜炎の鑑別では自己免疫疾患の除外が必要である。Azar et al.の症例では、抗核抗体(ANA 1:160)以外の全自己抗体が陰性であり、CRP・ESR・ACEなども正常であった1)。同様の報告においても、全身性自己免疫疾患は検出されていない1)。これは自己免疫的素因ではなく、MMCと焼灼による局所的虚血が壊死の主因であることを示唆している。
本手術の「治療」は、手術自体の施行ではなく、発生した合併症の管理が主体となる。
Azar et al.の症例では、経口プレドニゾン60 mg+局所プレドニゾロン酢酸塩1%毎時で治療を開始した1)。ステロイド減量時に再燃があり、メトトレキサート20 mg/週を追加してステロイドの漸減・中止に成功した1)。治療開始3ヶ月で症状完全寛解、視力20/20に回復した1)。メトトレキサートは2年間継続後に漸減・中止し、その後3ヶ月の時点で再燃なく安定していた1)。
Azar et al.(2023)は、I-BRITE術後9年で両眼性のSISNを発症した36歳女性を報告した。自己免疫疾患の既往はなく、免疫学的精査でも全身性自己免疫疾患は検出されなかった。メトトレキサートにより炎症が制御され、ステロイドの中止が可能となった。これは美容的眼球美白術後のSISNに対する免疫抑制療法の有効性を示す2例目の報告である。1)
重症例では以下の追加手術が必要となることがある:
はい。報告された壊死性強膜炎の症例では、手術から3ヶ月〜9年の範囲で遅発性に出現している。最長はAzar et al.の症例で術後9年後の発症であった。強膜は血管に乏しくコラーゲンのターンオーバーが遅い組織であるため、虚血と壊死の進行が緩徐であり、長期間を経て初めて臨床的に顕在化することがある。したがって、この手術を受けた患者は長期的なフォローアップが不可欠である。
MMCはStreptomyces caespitosusから培養されるアルキル化剤である1)。DNA損傷を2つの経路で引き起こす:好気条件下でのフリーラジカルによるDNA・タンパク質損傷、および嫌気条件下でのDNAアルキル化である4)。アデニンとグアニン残基間のDNA架橋を形成し、DNA合成を阻害して細胞分裂を停止させる4)。
眼科領域ではテノン嚢線維芽細胞の増殖抑制に利用されるが、同時に上強膜血管の毛細血管内皮細胞も阻害する1)。これにより血管配列の乱れ・虚血・壊死が生じる。強膜は血管に乏しく、上強膜血管と脈絡膜からの栄養供給に依存している1)。これらの血管が破壊されると、コラーゲンターンオーバーの遅い強膜は修復能力を失う。
結膜切除時の止血目的で行われる過度の電気焼灼は、上強膜血管を直接破壊する1)。MMCによる血管内皮阻害と焼灼による直接的血管破壊が相加的に作用し、不可逆的な強膜虚血を引き起こす。
遅発性の強膜壊死には、局所的自己免疫性炎症反応が関与する可能性がある1)。強膜線維芽細胞は通常HLAクラスI分子を発現するが、炎症刺激下ではHLAクラスII分子(HLA-DR, -DP, -DQ)の発現が誘導される1)。手術による組織損傷が自己抗原の曝露を引き起こし、上強膜血管への免疫複合体沈着を伴うIII型過敏反応が惹起されると考えられている1)。
このメカニズムは、全身性自己免疫疾患のない患者でもSISNが発生すること、およびメトトレキサートによる免疫抑制が有効であることを説明しうる1)。
Azar et al.(2023)は、I-BRITE術後9年でSISNを発症した症例をメトトレキサートで治療した2例目を報告した1)。SISNの病態は単なる局所血管障害にとどまらず、局所自己免疫性炎症の生成が関与していることを示唆した1)。この炎症反応を駆動するメカニズムのさらなる研究が必要とされている。
現在入手可能なエビデンスの大部分は症例報告やケースシリーズであり、大規模前向き試験は存在しない。美容外科の現場ではフォローアップが限定的であるため、晩期合併症の真の発症率は過小評価されている可能性がある。
MMCは翼状片手術3)やOSSN治療4)の補助療法として有用だが、広範囲の裸露強膜に対する連日投与は累積毒性が許容範囲を超える。翼状片手術では術中0.02%を30秒〜5分間塗布後に生理食塩水で洗浄する方法が標準であり3)、美容結膜切除術のプロトコルとは本質的に異なる。
入手可能なエビデンスは、美容目的の広範囲結膜切除術が遅発性で不可逆的な合併症の容認できないほど高いリスクを伴うことを示している。一貫して安全であると証明された術式の変法は存在しない。
Azar NS, Ruiz-Lozano RE, Quiroga-Garza ME, Soifer M, Mousa HM, Komai S, et al. Delayed presentation of surgically induced scleral necrosis after I-BRITE procedure treated with immunosuppressive therapy. Digital journal of ophthalmology : DJO. 2023;29(3):77-82. doi:10.5693/djo.02.2023.04.005. PMID:37780039; PMCID:PMC10539002.
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