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小児眼科・斜視

小児の全身麻酔下検査(EUA)

1. 小児の全身麻酔下検査(EUA)とは

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全身麻酔下検査(Examination Under Anesthesia: EUA)とは、年少児や非協力的な患者に対して全身麻酔または鎮静薬を用いて眼科検査を実施することをいう。乳幼児は診察への協力が困難であり、正確な眼圧測定眼底検査・電気生理学的検査には十分な安静が不可欠である。そのため年少児では通常の外来診察のみでは精密評価が困難な場面が多い。

眼科手術において全身麻酔の対象となる者は小児や高齢者、長時間手術、不動化が難しい患者などである。

EUAに際しては、検査を目的とした鎮静薬・鎮痛薬を使用する処置的鎮静(procedural sedation)と、完全な意識消失を伴う全身麻酔(general anesthesia)の2段階がある。

麻酔・鎮静の深度分類:

  • 鎮静(sedation): 意識は残存し、気道反射も保たれる。経口または坐剤の鎮静薬を使用し、外来での短時間検査に適用する。
  • 全身麻酔(general anesthesia): 完全な意識消失を伴い、気道保護が必要となる。手術室での長時間・精密検査に適用する。

眼科主治医は全身麻酔を依頼する段階で麻酔に関する問題点をまとめておき、必要に応じて麻酔科・他科専門医にコンサルトを行う。

小児の全身麻酔下検査(EUA)でハンドヘルド眼圧計により眼圧を測定している場面
小児の全身麻酔下検査(EUA)でハンドヘルド眼圧計により眼圧を測定している場面
Yüksel Elgin C, et al. Validation of iCare IC200 tonometry during natural sleep in children under 3 years with glaucoma: reducing anesthesia dependence in clinical monitoring. BMC Ophthalmol. 2025. Figure 2. PMCID: PMC12797597. License: CC BY.
小児が仰臥位で麻酔用マスクを装着し、医療者が眼瞼を保持しながらハンドヘルド眼圧計で眼圧を測定している。全身麻酔下検査(EUA)で行う代表的な評価手技を具体的に示している。

EUAは以下の検査・疾患が主な適応となる。

検査理由・対象
眼底検査網膜芽細胞腫スクリーニング等、乳幼児・非協力患児の精密眼底検査
眼圧測定発達緑内障の診断・経過観察。Goldmann眼圧計・トノペン使用
屈折検査(調節麻痺下)乳児内斜視発達緑内障屈折異常評価
超音波生体計測(眼軸長測定)発達緑内障の進行評価
ERG網膜電位図)全色盲先天停在性夜盲等の網膜機能評価
VEP視覚誘発電位弱視視神経疾患の客観的評価
角膜径測定・隅角検査発達緑内障の診断・経過観察
  • 網膜芽細胞腫: 定期的な眼底スクリーニングにEUAが不可欠である。高リスク児では生後早期から繰り返しEUAが必要となる1)
  • 発達緑内障: 眼圧測定角膜径測定・隅角検査眼軸長測定を包括的に実施し、診断と経過評価を行う。
  • 先天性白内障: 術前評価と術後経過観察に用いられる。
  • ERG/VEP が必要な疾患: 全色盲先天停在性夜盲弱視の電気生理学的診断において客観的評価が可能となる。

非協力的な乳幼児、発達障害を有する患者が主な対象となる。通常の外来診察で十分な精度が確保できない場合にEUAを選択する。

眼圧値(麻酔薬による低下に留意)、角膜径、前房深度、隅角所見、眼底所見、眼軸長を系統的に評価する。発達緑内障では正常新生児の角膜径(約10 mm)・1歳時(約11.5 mm)との比較が診断の指標となる。

眼科診察室・手術室で起こりうる小児の緊急事態として、①鎮静薬・鎮痛薬による呼吸循環抑制、②全ての薬剤に対するアナフィラキシー、③眼球心臓反射OCR)による症候性徐脈・心停止、の3つが挙げられる。術前には各リスクを評価し、適切な準備を行う。

手術直前の感冒症状は気道過敏性を上昇させる。感冒改善から2〜4週間は全身麻酔を延期することが望ましい。特に小児では気道過敏性から挿管による喉頭けいれんを起こしたり、分泌物過多による呼吸状態悪化がみられる。緊急性がない場合は麻酔科と協議のうえ延期を考慮する。

気道確保困難が予想される患者では、以下の点を術前に整理して麻酔科にコンサルトする。

  • Down症候群: 小顎・巨舌・喉頭気管軟化症が合併しやすい
  • その他の染色体異常症: 個々の合併症に応じたリスク評価
  • アデノイド増殖症・扁桃肥大症: 気道狭窄による換気困難リスク
摂取物絶飲食時間
クリアウォーター2時間
母乳4時間
人工乳6時間
軽食6時間
Q 風邪をひいている場合にEUAは延期すべきか?
A

感冒症状があると気道過敏性が上昇し、挿管による喉頭けいれんや分泌物過多のリスクが高まる。緊急性がなければ感冒改善から2〜4週間の延期が望ましい。麻酔科と協議のうえ判断する。

Goldmann圧平眼圧計またはトノペンを使用する。全身麻酔薬(吸入麻酔薬・プロポフォール等)は眼圧を低下させるため、測定値の解釈に注意が必要である。発達緑内障眼圧測定では覚醒直後・浅麻酔時の測定が推奨される。

発達緑内障では角膜径の拡大が診断・経過の重要な指標となる。正常新生児の角膜径は約10 mm、1歳時で約11.5 mmを参考として評価する。

直接隅角鏡(Koeppe lens等)を使用する。発達緑内障隅角構造異常(Barkan膜等)を評価する。

散瞳下で倒像鏡を用いた広角眼底検査を実施する。網膜芽細胞腫では強膜圧迫を併用し、周辺網膜まで精査する。

Aモード超音波による眼軸長測定を行う。発達緑内障の進行評価に重要であり、経時的な測定値の比較により病状の進行を判断する。

全視野ERGにより網膜機能を客観的に評価する。全色盲先天停在性夜盲の診断に不可欠であり、安静が保てない乳幼児ではEUAが必要となる。

視覚伝導路の機能評価に用いる。弱視視神経疾患の客観的スクリーニングとして有用である。

調節麻痺下検影法により屈折異常を評価する。乳児内斜視屈折異常評価や発達緑内障の経過観察に活用される。

5-a. 鎮静薬を使わないアプローチ(第一選択)

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最も効果的な予防方法は「鎮静薬を用いない」ことである。年齢・発達状況・児の性格に応じて、家族の協力も得ながら患児の不安を取り除く工夫(インフォームドアセント・プレパレーション)が重要である。

年齢別プレパレーション:

  • 新生児・乳児早期: タオル・おくるみで包み込む、おしゃぶり使用
  • 乳児後期: 保護者の付き添い、音や光の出るおもちゃであやす
  • 学童: 検査の必要性・内容の説明、選択肢の提示

外来での短時間検査に外来処置的鎮静を選択する場合、以下の薬剤が用いられる。

薬剤商品名剤型用量
トリクロホスナトリウムトリクロリール®シロップ20〜80 mg/kg(最大2 g)
抱水クロラールエスクレ®坐剤・注腸30〜50 mg/kg(最大1.5 g)
フェノバルビタールワコビタール®坐剤4〜7 mg/kg
ヒドロキシジンアタラックス®-P注射1 mg/kg
ジアゼパムセルシン®注射0.3〜0.5 mg/kg(最大1 mg/kg)
ミダゾラムドルミカム®注射0.1〜0.3 mg/kg

手術室での精密検査・長時間検査、または鎮静では不十分な場合に全身麻酔を選択する。

吸入麻酔薬:

  • セボフルラン・デスフルランなどが使用される。GABA受容体・カリウムチャネルへのシグナル増強による神経抑制が主な機序とされる。
  • 吸入麻酔薬の禁忌・注意は以下のとおりである。
薬剤禁忌・注意
ハロセン原因不明の肝障害既往
イソフルラン重度喘息・気管支痙攣
セボフルラン腎機能障害

導入薬:

  • プロポフォール・チオペンタール・エトミデートなどが使用される。これらは眼圧低下作用を有する。

笑気(亜酸化窒素):

  • 硝子体内ガス置換後4〜6週間は使用禁忌である。

院内での経過観察は最低30分〜1時間を確保する。

Q EUAはどのような小児に必要か?
A

乳幼児で通常の診察への協力が困難な場合、網膜芽細胞腫の眼底スクリーニング、発達緑内障眼圧隅角検査ERGVEPなどの電気生理学的検査が必要な場合にEUAが適応となる。

Q 鎮静薬の副作用にはどのようなものがあるか?
A

全ての鎮静薬に呼吸抑制のリスクがある。注射薬にはさらに循環抑制作用がある。鎮静後24時間程度は興奮やふらつきが残ることがあり、帰宅後は事故に注意して児から目を離さないよう保護者に指導する。

Q 悪性高熱症の家族歴があっても全身麻酔は可能か?
A

悪性高熱症は以前は全身麻酔の禁忌とされていたが、現在ではトリガー薬剤(スキサメトニウム、吸入麻酔薬)の回避など適切な事前計画のもとで施行可能である。麻酔科と十分に協議して対応を決定する。

6. 小児の解剖学的特徴と麻酔生理

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乳幼児の気道は以下の特徴を持ち、成人と比較して管理上のリスクが高い。

  • 気道の細さ: 分泌物による閉塞リスクが高い
  • 舌根沈下: 頭部が大きく後頸部が短いため舌根沈下が起こりやすい
  • 喉頭の高位: 喉頭がC3-4レベルに位置するため誤嚥リスクがある

これらの特徴から、小児の全身麻酔では気道管理に特別な注意が必要である。

眼球や眼窩への圧迫・牽引が三叉神経(眼枝V1)を求心路として刺激し、迷走神経中枢を介して心臓抑制(徐脈・不整脈・心停止)を引き起こす反射弧を形成する。小児では成人より高頻度・強度に発現する。

対策としてアトロピン0.02 mg/kgの前投与または発生時投与を行う。眼球・眼窩への操作を中止することで通常速やかに回復するが、重症例ではアトロピン投与が必要となる。テノン嚢下へのブピバカイン注入がOCRの発生率低下に寄与するとの報告もある。

導入薬(プロポフォール・チオペンタール・エトミデート)および吸入麻酔薬(セボフルラン等)は眼圧を低下させる。発達緑内障眼圧測定では覚醒直後・浅麻酔時の測定が望ましい理由はこの薬理作用によるものである。正確な眼圧評価のためには測定タイミングの選択が重要となる。

繰り返し全身麻酔を要する疾患への配慮

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網膜芽細胞腫など繰り返しEUAが必要な疾患では、鎮静後の院内経過観察(最低30分〜1時間)を毎回実施する。累積される麻酔リスクについて定期的に麻酔科と協議することが重要である。

麻酔薬の小児神経発達への影響

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乳幼児期の繰り返し全身麻酔が神経発達に影響する可能性が議論されている。網膜芽細胞腫など繰り返しEUAが必要な疾患では特に考慮すべき課題であり、今後のエビデンス蓄積が求められる。

発達障害・自閉スペクトラム症などの特殊なニーズを持つ患者への眼科検査の工夫が研究されている。行動療法的アプローチや感覚過敏への配慮など、EUAを回避するための取り組みが進んでいる。

手持ち型眼底カメラやポータブルERG機器の普及により、EUAを要する頻度を減らせる可能性がある。外来でのより精密な検査が可能となることで、全身麻酔リスクを低減できると期待される。


  1. American Academy of Ophthalmology. Adult Strabismus Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2020.
  2. American Academy of Ophthalmology. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2022;129(4):S1-S126.
  3. Gupta Y, Shanmugam C, K P, Mandal S, Tandon R, Sharma N. Pediatric keratoconus. Surv Ophthalmol. 2025;70(2):296-330. PMID: 39396644.

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