SOX2
最も高頻度の原因遺伝子:重症両側性症例の10〜20%を占める1)。
遺伝形式:多くはde novo(新生)のヘテロ接合型機能喪失変異である。
SOX2無眼球症症候群:学習障害、成長遅滞、てんかん、食道閉鎖、泌尿生殖器異常を伴うことがある1)。
無眼球症(Anophthalmia)は、眼窩内に眼球組織が完全に欠損する重度の先天性眼球形成異常である。出生10万人あたり0.6〜4.2の頻度で発生する1)。推定出生有病率は約3/10万とされる2)。
臨床上は以下の2つに区別される。
無眼球症は小眼球症(Microphthalmia)と連続したスペクトラムをなす。小眼球症では低形成の眼球が眼窩内に存在する点が異なる。臨床的に重度の小眼球症と無眼球症の鑑別は困難な場合があり、画像検査による確認が必要である7)。
無眼球症は孤立性に発生することも、症候群の一部として生じることもある。53〜71%が両側性であると報告されている。全身異常の合併率は高く、32〜93%の症例で他臓器の異常を伴う2)。
無眼球症は先天性疾患であるため、患児自身の自覚症状はない。保護者が出生時に眼球の欠損に気づく。
出生後の臨床所見は以下の通りである。
両側性の場合は、陥没した眼窩と中顔面の低形成が認められる5)。
無眼球症の病因は複雑であり、遺伝的要因と環境的要因の両方が関与する。
90以上の遺伝子が無眼球症・小眼球症に関連することが報告されている2)。主な原因遺伝子は以下の通りである。
SOX2
最も高頻度の原因遺伝子:重症両側性症例の10〜20%を占める1)。
遺伝形式:多くはde novo(新生)のヘテロ接合型機能喪失変異である。
SOX2無眼球症症候群:学習障害、成長遅滞、てんかん、食道閉鎖、泌尿生殖器異常を伴うことがある1)。
OTX2
その他の重要な遺伝子として以下がある。
染色体異常では、13トリソミー、18トリソミー、モザイク型9トリソミーなどが関連する1)。14q22q23微小欠失症候群(Frias症候群)ではBMP4およびOTX2の欠失により無眼球症と下垂体異常を呈する6)。
Goyalら(2025)のレビューによれば、無眼球症・小眼球症には常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖の全メンデル遺伝様式が報告されている。ほとんどの症例はde novo変異により散発的に発生する2)。
子宮内での環境要因として以下が報告されている1)2)。
疫学的なリスク因子として以下が知られている。
無眼球症は出生前に超音波検査で検出可能である1)。
ただし、他の異常が併存しない限り出生前超音波で検出されることはまれである。
出生後の診断は以下の手順で行う。
| 画像検査 | 主な評価対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| 超音波 | 眼球の有無・眼軸長 | 非侵襲・簡便 |
| MRI | 視神経・中枢神経系異常 | 詳細な軟部組織評価 |
| CT | 眼窩骨構造 | 骨性評価に優れる |
MRIでは、眼球の完全な欠損と視神経の形成不全が確認される。外眼筋は眼球がなくても存在することがある5)。
症候群性の可能性があるため、包括的な遺伝学的精密検査が推奨される1)。
合併異常のスクリーニングとして以下を行う。
Alhubaishiら(2024)は両側性先天性無眼球症の症例で、脳MRIにてDandy-Walker変異体が疑われ、左腎盂拡張が認められたと報告している5)。無眼球症の管理には全身的な検索が重要であることを示す症例である。
出生前に超音波検査で妊娠12週頃から検出可能な場合がある。しかし、他の異常が併存しない限り出生前診断は困難であり、多くは出生後の臨床診察で発見される1)。確定診断にはMRIが有用である。
無眼球症の治療は視力回復を目的とするものではなく、眼窩の正常な発達の促進、顔面の対称性の維持、義眼の装着を可能にすることを目標とする。
生後早期からの介入が不可欠である。正常な乳児の眼球は成人サイズの約70%であり、生後12か月間で最も急速に成長する3)。この時期に眼窩への機械的刺激がなければ、眼窩の発達が遅延し顔面非対称が生じる。
最も低侵襲な初期治療であり、生後1〜2週以内に開始することが望ましい3)。
Yamashitaら(2023)は生後2か月の臨床的先天性無眼球症児に対し、熱可塑性樹脂製スプリントによる眼窩拡大を報告した。スプリントは成長に合わせ段階的に交換され、5年後に左右の眼窩にほぼ差がない良好な結果が得られた3)。外来で簡便に作製できる素材の有用性を示す報告である。
コンフォーマ導入から約2か月後に検討される。
Kato-Juniorら(2025)は片側性先天性無眼球症の3児に対し、真皮脂肪移植に上眼瞼皮膚移植を組み合わせた新しい手技を報告した。生後1か月以内に手術を行った2例ではより良好な結果が得られ、早期介入の重要性が示された4)。
コンフォーマ
侵襲性:低い。外来で装着・交換可能。
開始時期:生後1〜2週が理想的。
利点:非手術的で繰り返し拡大が可能。
欠点:頻回の交換が必要。重度例では不十分な場合がある。
眼窩インプラント
侵襲性:手術が必要。
開始時期:コンフォーマ治療後、数か月から。
利点:恒久的な眼窩容積の増加。DFGは成長とともに増大する。
欠点:露出・感染のリスク。段階的な入れ替えが必要。
眼窩が十分に拡大された後、義眼(外部プロテーゼ)を装着する。生後8か月以降に標準的な義眼への移行が可能となることがある3)。成長に合わせ年1回程度の調整が必要である。小児に対する義眼の導入に際しては、義眼の調整回数が3回以上、調整期間が6カ月以上になることも多い。なお原則として小眼球に対する義眼は保険給付の対象外であり、家族の経済的負担が大きい点にも配慮が必要である。
全体的な整容改善のため、以下の追加手術が検討される場合がある。
眼球は神経外胚葉、神経堤細胞、中胚葉、表面外胚葉に由来する組織が高度に調整された一連のステップを経て形成される。
無眼球症は発達障害の生じる時期により3型に分類される。
| 分類 | 発生時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| 一次性 | 視胞形成以前 | まれ。通常両側性 |
| 二次性 | 神経管形成期 | 前部神経管異常に続発。致死的 |
| 続発性 | 視胞形成後 | 視胞の二次的変性による |
眼球発生には複数の転写因子とシグナル経路が関与する2)。
Goyalら(2025)のレビューによれば、細胞外マトリックス(ECM)も眼球発生に重要な役割を果たす。ラミニンサブユニットの障害は眼球奇形を引き起こし、ルミカン(LUM)は眼軸長を制御する。IV型コラーゲン変異は網膜色素上皮の成長に影響する2)。
遺伝子変異に加え、エピジェネティック修飾も無眼球症の発症に関与する2)。
全エクソーム解析(WES)および全ゲノム解析(WGS)の普及により、従来検出困難であった稀な遺伝子変異の同定が可能になった2)。
Hardingら(2023)はMACコホート50例を対象とした分子診断研究で、標的遺伝子パネル・WGS・マイクロアレイCGHを用いた包括的解析により約33%で病的変異を同定した。EPHA2と小眼球症の関連やFOXE3と聴力障害・腎異常の関連など、新たな遺伝子型-表現型相関も報告された2)。
WESを出生前超音波異常の精密検査に適用する試みが進んでいる。従来の核型分析やマイクロアレイで診断困難な症例でも、WESにより6.2〜57%の追加診断が可能との報告がある2)。
人工多能性幹細胞(iPSC)を用いた研究は治療の新たな可能性を開きつつある2)。
コンピューター支援設計(CAD)と3Dプリンティングによるコンフォーマ作製のワークフローが開発され、個別化された精密な治療の実現が期待されている。
遺伝学的検査は病因の解明、合併症の予測、遺伝カウンセリングに有用である。特に両側性や症候群性が疑われる場合は推奨される1)。ただし、約67%の症例では現在の技術でも病的変異が同定されない場合があり、結果の解釈には臨床遺伝専門医の関与が重要である。
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