この疾患の要点
偽偽フォスター・ケネディ症候群(PPFKS)は、頭蓋内腫瘤による視神経萎縮 と、対側の虚血性視神経症 (NAION )が独立して偶然合併した稀な症候群である。
フォスター・ケネディ症候群 (FKS)は頭蓋内腫瘤による同側視神経萎縮 +対側乳頭浮腫 であり、偽FKS(PFKS)は両側連続性非動脈炎性前部虚血性視神経症 による類似所見である。
PPFKSの最も一般的な原因となる頭蓋内腫瘤は髄膜腫である。
診断にはCT・MRIによる神経画像検査が必須であり、頭蓋内腫瘤と虚血性視神経症 の両方を同定する必要がある。
50歳以上では巨細胞性動脈炎 (GCA)の除外のためESR・CRP 検査を行う。
治療は原因に依存し、髄膜腫に対する外科的切除が主体となる。
巨細胞動脈炎が疑われる場合はステロイド を即座に開始し、失明を防ぐ必要がある。
偽偽フォスター・ケネディ症候群(Pseudo-Pseudo Foster Kennedy Syndrome; PPFKS)は、FKSと同様の眼底所見(一側の視神経萎縮 +対側の乳頭浮腫 )を呈するが、その成因が2つの独立した病態の偶然の合併であるきわめて稀な疾患である。
この疾患を理解するには、まず関連する3つの症候群の定義を整理する必要がある。
FKS
フォスター・ケネディ症候群 :前頭葉・鞍周囲の頭蓋内腫瘤が同側の視神経 を直接圧迫して萎縮させ、頭蓋内圧亢進により対側に乳頭浮腫 を生じる古典的症候群。タイプ1(圧迫による直接損傷)が最も知られている。
原因 :前頭葉腫瘍、髄膜腫、頭蓋咽頭腫 、下垂体腺腫 など。
PFKS
偽フォスター・ケネディ症候群 :頭蓋内腫瘤は存在せず、両眼に連続して生じる非動脈炎性前部虚血性視神経症 により、先に発症した側の視神経萎縮 +後から発症した側の乳頭浮腫 が同時期に観察される状態。
特徴 :一方の非動脈炎性前部虚血性視神経症 による突然の視力 低下の既往が鑑別に重要。
PPFKS
偽偽フォスター・ケネディ症候群 :頭蓋内腫瘤による一方の視神経萎縮 と、それとは無関係の対側非動脈炎性前部虚血性視神経症 (虚血性視神経症 )による乳頭浮腫 が偶然合併した稀な症候群。
特徴 :2つの独立した病態の合併であり、FKSともPFKSとも異なる。
PPFKSの初報告はGelwanらによる(1988年)[¹]。80歳女性の症例で、左眼に非動脈炎性前部虚血性視神経症 +右眼に鞍結節髄膜腫(tuberculum sellae meningioma)による視神経萎縮 が確認された。その後Limayeらは前部虚血性視神経症 の既往眼に対側の非基底部神経膠腫による乳頭浮腫 を呈したPFKS類似例を報告している[²]。
Q
FKS・PFKS・PPFKSはどう違うのか?
A
FKSは頭蓋内腫瘤が唯一の原因であり、同側の圧迫性視神経萎縮 と対側の頭蓋内圧亢進による乳頭浮腫 が一連の病態から生じる。PFKSは頭蓋内腫瘤なしで両側連続性の虚血性視神経症 (典型的には非動脈炎性前部虚血性視神経症 )によって類似所見を呈する。PPFKSはこれら2つとは異なり、頭蓋内腫瘤(視神経 圧迫)と非動脈炎性前部虚血性視神経症 という2つの独立した病態が偶然に同時存在することで生じる。
PPFKSの症状は、頭蓋内腫瘤と虚血性視神経症 の2つの病態が複合する。
急激な片眼の視力 低下 :非動脈炎性前部虚血性視神経症 側に生じる。多くの患者(70%以上)が起床時に視力 低下に気付く。
頭痛 :頭蓋内圧亢進に伴う症状。
悪心・嘔吐 :頭蓋内圧亢進に続発する。
複視 :腫瘍による脳神経への侵襲に伴い生じることがある。
一過性視力 障害 :頭蓋内圧亢進により断続的に生じる視力 の変動。
眼底所見は「一方の視神経萎縮 +対側の乳頭浮腫 」という非対称的な乳頭所見が特徴的である。
視神経萎縮 側(腫瘤圧迫側) :視神経乳頭 の蒼白化・菲薄化。視力 低下は緩徐に進行することが多い。
乳頭浮腫 側(非動脈炎性前部虚血性視神経症 側) :乳頭の発赤・腫脹、乳頭縁の出血(火炎状出血)。非動脈炎性前部虚血性視神経症 側では急激な視力 低下が先行する。
視野欠損 :暗点形成や生理的盲点の拡大が見られる。
「disk at risk」 :非動脈炎性前部虚血性視神経症 発症のリスクとなる小さく混み合った視神経乳頭 (小乳頭)の存在。
複視 :腫瘍による脳神経侵襲に続発する場合がある。
非動脈炎性前部虚血性視神経症 側の視力 は、10/10〜光覚まで多様である。初診時に10/10を呈する割合は20〜33%、5/10以上を呈する割合は50%以上、1/10以下は20〜33%とされる。
Q
PPFKSでは両眼とも視力が低下するのか?
A
必ずしも両眼とも低下するわけではない。非動脈炎性前部虚血性視神経症 側では急激な視力 低下が生じるが、腫瘤圧迫側は緩徐な進行であり、初診時には視力 が保たれている場合もある。視力 の経過は基礎疾患の性質と進行状況に依存する。
PPFKSの成立には、2つの独立した病態がそれぞれの機序で視神経 に影響を及ぼす必要がある。
頭蓋内腫瘤(視神経 圧迫側)の原因:
髄膜腫 :最も多い。クモ膜細胞(meningothelial cells)から発生し、15のサブタイプが存在する。大半が良性・非浸潤性であり、緩徐に発育する。
頭蓋咽頭腫 :鞍上部に生じる良性腫瘍。
下垂体腺腫 :視交叉 ・視神経 への圧迫を生じる。
神経芽細胞腫 、前頭葉膿瘍、動脈瘤 :その他の原因として報告されている。
非動脈炎性前部虚血性視神経症 (虚血性視神経症 側)のリスク要因:
「disk at risk」 :小乳頭(小さく混み合った視神経乳頭 )は視神経乳頭 虚血の最大の構造的リスク因子である。
視神経乳頭ドルーゼン :50歳未満の若年非動脈炎性前部虚血性視神経症 症例ではドルーゼン との関連が報告されている。
血管障害リスク因子 :高血圧、糖尿病、脂質異常症、虚血性心疾患、睡眠時無呼吸症候群などが非動脈炎性前部虚血性視神経症 のリスクとして大規模メタ解析で確認されている[⁵]。
PPFKSの確定診断には、頭蓋内腫瘤と虚血性視神経症 の両方を証明することが必須である。
神経画像(CT・MRI) :視神経 を圧迫する頭蓋内腫瘤の同定が必須。造影・非造影の頭部/眼窩 CT・MRIを施行する。髄膜腫は造影で均一な増強効果を示す。
眼窩 CT :眼窩 内病変の除外、視神経 への圧迫評価に用いる。
包括的視機能検査 :視力 、視野、色覚、相対的求心性瞳孔異常 (RAPD )の評価。
完全な神経学的診察 :脳神経障害の有無、錐体路症状の確認。
血液検査(GCA除外目的) :50歳以上の患者では、動脈炎性虚血性視神経症 (AAION)と非動脈炎性前部虚血性視神経症 の鑑別のためESR・CRP ・血小板数を測定する。
以下の表に非動脈炎性前部虚血性視神経症 とAAIONの主な検査値の違いを示す。
検査項目 非動脈炎性前部虚血性視神経症 AAION(巨細胞性動脈炎 ) ESR 正常 上昇 CRP 正常 上昇 血小板数 正常 上昇
側頭動脈生検 :50歳以上で巨細胞動脈炎が疑われる場合に施行する。スキップ病変のため生検の約5%で偽陰性となりうる。
PPFKSの診断確定には以下との鑑別が必要となる。
FKS :頭蓋内腫瘤のみが原因。対側の乳頭浮腫 は頭蓋内圧亢進によるもので、虚血性視神経症 は伴わない。FKSの臨床病型・画像評価・治療方針についてはStatPearlsの総説が体系的にまとめている[⁴]。
PFKS :頭蓋内腫瘤なし。両眼に連続して生じる非動脈炎性前部虚血性視神経症 の前後差として出現する。突然の視力 低下の既往が重要。Patilらの観察研究では7症例のPFKSで両眼発症の平均間隔は約12.7ヶ月(範囲2〜30ヶ月)と報告されている[³]。
視神経炎 :若年・女性・良好な初期視力 ・眼球運動時痛・充血 性乳頭浮腫 ・中心暗点 が鑑別点となる。
圧迫性視神経症 :緩徐進行性の視力 低下、眼球突出 ・眼球運動異常を伴い、乳頭浮腫 が4〜6週以降も持続する。
偽乳頭浮腫 :視神経乳頭ドルーゼン (しばしば両側性・非対称性、視機能は通常正常)、高度遠視 ・強度近視 、傾斜乳頭、網膜有髄神経線維 。これらは視機能が保たれる点で非動脈炎性前部虚血性視神経症 と区別される。
外傷性視神経症 、糖尿病性乳頭症 、微小血管炎 :個々の症例で除外が必要。
Q
なぜ巨細胞動脈炎の血液検査が必要なのか?
A
50歳以上では動脈炎性虚血性視神経症 (AAION)が非動脈炎性前部虚血性視神経症 と臨床的に類似した所見を呈することがある。巨細胞動脈炎によるAAIONは対側眼への進展リスクが高く、迅速なステロイド 治療が失明予防に必須である。ESR・CRP ・血小板を測定し、巨細胞動脈炎を積極的に除外する必要がある。
PPFKSの治療は根本原因に応じて行う。2つの独立した病態が存在するため、それぞれに対して適切な対応が必要である。
全身性ステロイド :巨細胞動脈炎疑い時に即座に開始する。
側頭動脈生検 :確定診断のために施行する。スキップ病変により約5%で偽陰性となるため、陰性でも巨細胞動脈炎を除外できない場合がある。
外科的切除 :髄膜腫に対する主要な治療法。腫瘍を摘出することで視神経 への圧迫を解除する。
副腎皮質ステロイド :術前に腫瘍周囲浮腫および頭蓋内圧を軽減する目的で使用する。
定位放射線治療・放射線手術 :高齢者や手術を希望しない患者、外科的リスクが高い場合に非外科的選択肢として考慮される。
占拠性病変の摘出術 :腫瘍摘出による頭蓋内圧亢進の解消が基本。
脳室腹腔(VP)シャント術 :水頭症を伴う場合に考慮する。
アセタゾラミド (ダイアモックス ) :特発性頭蓋内圧亢進症 に対して使用される。
マンニトール :急性期の頭蓋内圧亢進に対して使用される。
Q
髄膜腫が原因の場合、手術以外の選択肢はあるか?
A
定位放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフなど)や通常の放射線治療が非外科的選択肢として存在する。特に高齢者や全身状態が不良で外科的リスクが高い場合、または患者が手術を希望しない場合に考慮される。放射線治療は腫瘍の増殖抑制を目的とするが、腫瘍の縮小効果は外科的切除に劣ることが多い。
FKSの機序(1つの病態から生じる):
頭蓋内腫瘤(前頭葉・鞍周囲)が視神経 を直接圧迫する。
圧迫側の視神経 が萎縮する(同側視神経萎縮 )。
腫瘤の増大により慢性的な頭蓋内圧亢進が生じる。
頭蓋内圧亢進が対側の視神経乳頭 に浮腫を引き起こす(対側乳頭浮腫 )。
2つの眼所見(萎縮と浮腫)は1つの病態の結果である。
PPFKSの機序(2つの独立した病態の偶然の合併):
頭蓋内腫瘤が一方の視神経 を圧迫し、萎縮を引き起こす。
それとは全く無関係に、対側眼で非動脈炎性前部虚血性視神経症 が発症する。
非動脈炎性前部虚血性視神経症 は視神経乳頭 の虚血により乳頭浮腫 を生じる。
「視神経萎縮 +対側乳頭浮腫 」という外見上FKSに類似した所見が偶然成立する。
2つの眼所見は、それぞれ独立した病因から生じる。
非動脈炎性前部虚血性視神経症 は視神経乳頭 の虚血を本態とする疾患である。「disk at risk」(小さく混み合った視神経乳頭 )という構造的リスク因子を持つ患者では、視神経 内の血管が圧迫されやすく虚血が生じやすい。視神経乳頭ドルーゼン を有する患者では、特に50歳未満において非動脈炎性前部虚血性視神経症 との関連が指摘されている。
髄膜腫はクモ膜細胞(meningothelial cells)から発生する。15のサブタイプが存在し、大半が良性かつ非浸潤性の緩徐増殖性腫瘍である。視神経 を包む硬膜・くも膜に近接した部位(蝶形骨縁、鞍結節、嗅窩など)に発生した場合、視神経 を直接圧迫してFKSまたはPPFKSの一側要素を引き起こす。
予後は基礎疾患に依存する。AAIONは非動脈炎性前部虚血性視神経症 と比較して視覚的予後が不良とされる。また腫瘤圧迫による視神経萎縮 は、圧迫の早期解除により一部改善する可能性があるが、完全回復は困難なことが多い。
Gelwan MJ, Seidman M, Kupersmith MJ. Pseudo-pseudo-Foster Kennedy syndrome. J Clin Neuroophthalmol. 1988;8(1):49-52. PMID: 2972751
Limaye SR, Adler J. Pseudo-Foster Kennedy syndrome in a patient with anterior ischemic optic neuropathy and a nonbasal glioma. J Clin Neuroophthalmol. 1990;10(3):188-192. PMID: 2144536
Patil A, Takkar A, Goyal M, Singh R, Lal V. Sequential NAION presenting as pseudo Foster Kennedy syndrome. J Neurol Sci. 2017;376:49-51. doi:10.1016/j.jns.2017.02.002. PMID: 28431627
Musa MJ, Zeppieri M. Foster Kennedy Syndrome. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2026 Jan-. Last Update: 2023 May 11. PMID:35881754. Bookshelf ID: NBK582149. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK582149/
Liu B, Yu Y, Liu W, Deng T, Xiang D. Risk Factors for Non-arteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy : A Large Scale Meta-Analysis. Front Med (Lausanne). 2021;8:618353. doi:10.3389/fmed.2021.618353. PMID: 34671609
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