転換型
自覚症状: 患者自身が強く訴える。視力低下、視野障害を主訴に来院する。
視力: 検査ごとに変動しやすい。励ましにより改善する例がある。
代表的訴え: 発症が比較的急激で、心理的誘因が見出されやすい。
機能性視覚障害(Functional Visual Loss; FVL)は、視路に器質的な異常を認めないにもかかわらず、視力低下、視野障害などの視覚症状を呈する疾患群である。機能性神経障害(Functional Neurological Disorder; FND)のサブタイプと位置づけられる。1)
非器質性視覚障害(Non-Organic Visual Loss; NOVL)、心因性視覚障害、転換性障害とも呼ばれる。DSM-5では身体症状症、ICD-11では身体的苦痛症に分類される。
大きく3つに分類される。
日本の眼科臨床では、眼心身症と転換型視覚障害(ヒステリー)に大別して扱われることが多い。
| 非転換型(眼心身症) | 転換型 | |
|---|---|---|
| 好発年齢 | 6〜15歳 | 20〜30歳代と全年齢 |
| 罹患眼 | 両眼が多い | 片眼性もある |
| 視力低下の自覚 | 乏しい | 明確にある |
| 心理的ストレス | 自覚していないことが多い | 自覚されていることが多い |
機能性視覚障害では、患者は視覚症状を無意識的に体験しており、意図的な虚偽はない。詐病は金銭、免責などの外的利得を目的に意図的に症状を偽るもので、検査への非協力的な態度や診断書の要求を伴うことが多い。詐病との鑑別は「診断と検査方法」の項で詳述する。
転換型は自ら視力低下を訴える例が多いのに対し、非転換型(眼心身症)は自覚症状に乏しく、学校健診で視力低下を指摘されて来院する例が多い。
転換型
自覚症状: 患者自身が強く訴える。視力低下、視野障害を主訴に来院する。
視力: 検査ごとに変動しやすい。励ましにより改善する例がある。
代表的訴え: 発症が比較的急激で、心理的誘因が見出されやすい。
非転換型(眼心身症)
自覚症状: 乏しいことが多い。学校健診や他の疾患の検査中に発見される。
視力: 両眼性で矯正0.3以下が多い。屈折は数ジオプトリーにわたって変動する。
代表的訴え: 小学3〜4年生に多い。眼鏡願望が背景にあることがある。
すべての型に共通する重要な臨床所見を以下に示す。
通常の視野は検査距離が遠くなると漏斗状に広がるが、トンネル状視野では検査距離を変えても視野の大きさがほとんど変わらない。らせん状視野やクローバー状視野とともに、機能性視覚障害に特徴的な所見である。
機能性視覚障害の本質は、患者が訴えたくても訴えることができない心の葛藤がある場合の「自分には訴えたいことがある」というメッセージとして理解できる。しかし、訴えたい内容を患者本人も自覚していないことが多い。
眼鏡願望はこの病態の良いモデルである。「眼鏡をかけたい」という気持ちと「親には言えない」という葛藤が解決されないまま、「見えない」というメッセージとして身体症状に変換される。この転換過程は患者本人も意識していない。
機能性視覚障害の誘因は家庭環境、学校環境に関連するものが7割を占める。
FVLの診断は、器質的疾患を除外するだけでなく、FVLを積極的、陽性的に診断することが重要である。1)
全患者にMRIを推奨する。脳卒中、多発性硬化症、腫瘍、後部皮質萎縮症の除外に不可欠である。1)基本検査として、調節麻痺薬を用いた屈折、視力、眼圧、対光反射、眼位眼球運動、両眼視機能、細隙灯、眼底、OCTを行う。
以下の器質疾患を必ず除外する。
心因性視覚障害と詐病の主な鑑別点を以下に示す。
| 項目 | 心因性視覚障害 | 詐病 |
|---|---|---|
| 検査への態度 | 協力的 | 非協力的 |
| 外的利得 | なし | あり |
| 診断書の要求 | 少ない | 多い |
| 症状の一貫性 | 変動しやすい | 一定に保とうとする |
治療の根本は心因の解決と除去である。患者との信頼関係を築くことが最重要であり、受診すること自体が治療の一環となる。
説明の基本原則を以下に示す。
小児の場合は、心因性であることを本人に明確には伝えず、回復を保証する。保護者には診断の時点で説明する。
小児の治療
暗示用眼鏡の処方: 眼鏡願望がある場合、度数なしの眼鏡を処方する。過矯正とならないよう注意する。
プラセボ点眼(抱っこ点眼法): 生理食塩水を暗示的に点眼する。親子のスキンシップを兼ねた方法であり、コミュニケーション改善にも有効である。
経過観察: 改善が得られるまで必ず経過観察を継続する。1年以内に85%で症状が消失するとの報告がある。
成人・共通の治療
信頼関係の構築: 患者との会話を重ね、安心感を与えることが改善につながる。
診断テストの治療的活用: OKNドラム、雲霧法、鏡テストを用いて「脳は見えている」ことを患者に示す。検査自体が治療として機能する。1)
精神科、心療内科との連携: うつ病、不安障害、PTSDが合併する場合は専門医への紹介を検討する。心療眼科の概念で多職種連携が重要である。
サングラス着用は一時的な対症になるが、長期使用は光過敏を強化する可能性がある。段階的な光への脱感作(サングラスの段階的減量)が推奨される。1)
器質的疾患がないことや心因性であることの告知が有効な場合がある。成人では「機能性視覚障害」という診断名を告知し、予後を説明することで改善が促されることがある。1)
器質的疾患が明らかでなければ安易に診断書を書くべきではない。自覚的所見と他覚的所見が一致しないことを説明し、症状固定の判断には一定期間の経過観察が必要であることを伝える。
まず眼鏡願望がないかを確認し、ある場合は度数なしの暗示用眼鏡を処方する。プラセボ点眼を用いた暗示療法も有効である。心因性であることを本人に直接伝えるのではなく、「治る」という保証と安心感を与えながら経過観察を継続する。小児では1年以内に85%で症状が消失するとされるが、改善が得られるまで受診を継続することが重要である。
現在最も支持されているモデルは「予測処理(Predictive processing)モデル」である。1)
脳は過去の経験をもとに視覚情報を「予測」して知覚を構築している。FVLでは、脳が「見えない」という状態を強く予測するあまり、正常な視覚入力による予測の更新を無視する。結果として、眼、視路が正常に機能しているにもかかわらず「見えない」という状態が生じる。
この機序は幻肢痛と類似しており、FND全般に共通する「行為主体性、注意、情動に関する脳ネットワークの異常」の一表現とされる。1)
機能的MRIを用いたFVL患者5例の研究では、以下の所見が報告されている。1)
眼鏡願望モデルでは、「眼鏡をかけたい」という気持ちと「親には言えない」という葛藤が解決されないまま、「見えない」というメッセージとして身体症状に変換される。この転換過程は患者本人も意識していない。
素因、誘因、持続因子のモデルでは以下のように整理される。1)
予測処理モデルで説明される。脳は視覚情報を処理する際に、過去の経験に基づく「予測」を重視する。FVLでは「見えない」という予測が優位になり、眼から正常に入力される視覚信号を知覚に反映しなくなる。トップダウンの予測がボトムアップの視覚入力を上回る状態と言える。意図的な詐称ではない。1)
後頭葉への経頭蓋磁気刺激(TMS)は、FVLの新規治療として注目されている。
Parain and Chastan(2014)は10例のFVL患者にTMSを施行し、9例で改善が得られたことを報告した。1)後頭葉TMSにより視覚野でリン光視(phosphene)が誘発されることで、視覚皮質に機能が残存していることを患者自身が体験できる。
催眠療法はFND全体の文献で30以上の研究が存在し、うち5件はRCTである。FVL患者8名に対する連続症例でも、暗示課題により改善が得られたことが報告されている。1)
小児では暗示療法の有効性を示す報告がある。Abe and Suzuki(2000)は小児FVL患者33例を対象に暗示療法を施行し、28例が回復したことを報告した。1)
診断に用いる検査を治療として活用するアプローチが注目されている。1)
| 治療法 | 証拠の状況 | 対象 |
|---|---|---|
| TMS | 症例シリーズ(10例、回復9例) | 主に成人 |
| 催眠療法 | RCT含む30以上の研究(FND全般) | 成人、小児 |
| 暗示療法(小児) | 33例シリーズ(回復28例) | 小児 |