中枢性
薬剤誘発性:最も一般的な原因。ジギタリス・PDE5阻害薬・TXAなど多数の薬剤が関与する。
脳血管障害:後頭葉の舌状回・紡錘状回の障害で大脳性色覚障害を生じる。
精神疾患関連:シャルル・ボネ症候群や不思議の国のアリス症候群に伴い出現することがある。
心因性:10歳前後の女児に多い。非典型的な検査結果を示し再現性がない。

色視症(chromatopsia)は、色フィルタを通して見たときと同様に、視界全体に特定の色合いがついて見える状態である。後天色覚異常の一範疇に属し、色の識別が低下する色覚異常(dyschromatopsia)や色覚が消失する全色盲(achromatopsia)とは区別される。
色視症には以下の5型が知られている。
黄視症と青視症は多くの薬剤・疾患との関連が報告されており比較的頻度が高い。赤視症もある程度みられるが、緑視症と紫視症はまれである。薬剤誘発性が色視症の最も一般的な原因とされる1)。
色視症は環境の色合いが増強して見える状態であり、色覚異常は色の識別能力が低下または欠如した状態である。色視症では特定の色がついて見えるのに対し、色覚異常では色の区別がつきにくくなる。両者は正反対の方向性をもつ色覚障害といえる。
色視症の主症状は、視界全体に特定の色合いがついて見えることである。
自覚症状の発現時期は原因によって異なる。薬剤性では投与開始後数日から数週で出現することが多く、トラネキサム酸(TXA)では内服開始翌日に発症した報告がある2)。
原因によって眼科所見は大きく異なる。
色視症は発生部位に基づき、中枢性(脳性)・光学性・網膜性の3群に分類される。
中枢性
薬剤誘発性:最も一般的な原因。ジギタリス・PDE5阻害薬・TXAなど多数の薬剤が関与する。
脳血管障害:後頭葉の舌状回・紡錘状回の障害で大脳性色覚障害を生じる。
精神疾患関連:シャルル・ボネ症候群や不思議の国のアリス症候群に伴い出現することがある。
心因性:10歳前後の女児に多い。非典型的な検査結果を示し再現性がない。
光学性
白内障術後:水晶体除去により短波長光の透過が増加し、青視症や赤視症を生じる。
黄疸:血中ビリルビンの増加により黄視症を生じる。
フルオレセイン造影後:一過性の黄視症を生じることがある。
角膜混濁:光の散乱・吸収による色調変化を生じる。
網膜性
色視症を引き起こす代表的な薬剤を以下に示す。
ジギタリス製剤(黄視症)、PDE5阻害薬のシルデナフィル等(青視症)、トラネキサム酸、利尿薬(ヒドロクロロチアジド等)、駆虫薬のサントニンなどが代表的である。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。
色視症の診断では、まず原因薬剤のスクリーニングが重要である。
薬剤性が最も一般的な原因であるため、服薬歴の問診が診断の第一歩となる。眼科検査では色覚検査と錐体網膜電図がジギタリス中毒の診断に有用であり、眼底検査・OCTで網膜性原因を検索する。
色視症は基礎疾患の結果であるため、治療は原因の除去が原則である。
| 原因 | 治療方針 |
|---|---|
| ジギタリス中毒 | 速やかに中止・濃度調整 |
| PDE5阻害薬 | 軽度なら経過観察 |
| TXA | 中止し代替薬へ変更 |
| 網膜出血 | 原因疾患の治療 |
| 大脳性 | 脳血管障害の治療 |
薬剤性色視症の予後は概ね良好である。ジギタリスでは投与中止後数日から数週で症状が消失することが多いが、色覚異常が改善しなかったという報告もある。TXAでは中止後に速やかに回復した2)。網膜出血や脳血管障害に伴う場合は、基礎疾患の予後に依存する。
薬剤性の場合は原因薬の中止・濃度調整により多くは回復する。ジギタリスでは数日から数週で改善することが多い。ただし、網膜出血や脳血管障害が原因の場合は基礎疾患の転帰に依存する。
ヒトの網膜には3種類の錐体が存在する。L錐体(長波長)、M錐体(中波長)、S錐体(短波長)がそれぞれ赤・緑・青の光を受容する。これが三色型色覚(trichromacy)である1)。
錐体からの信号は「色対立」(colour opponency)として処理される。青/黄、赤/緑、黒/白の3組の対立チャネルが形成され、一方の活性化が他方を抑制する1)。網膜神経節細胞はこの色対立様式で応答する。
ジギタリスの作用機序であるNa⁺-K⁺ ATPase阻害が、網膜視細胞の暗電流を障害する。錐体細胞のNa⁺-K⁺ ATPaseは杆体のものよりジギタリス感受性が高く、また細胞体のサイズの差もあり、錐体機能が選択的に障害される。その結果、錐体機能不全症候群の臨床像を呈する。発現は濃度依存性が大きい。
シルデナフィル等のPDE5阻害薬は、錐体特異的ホスホジエステラーゼ(PDE6)を交差阻害する。PDE6は細胞内cGMP濃度を調節し、光応答特性を制御する酵素である1)。この阻害により錐体の光応答が変化し、青視症が生じる。PDE5は脈絡膜・網膜血管にも存在し、血流動態への影響も加わる可能性がある。
網膜出血では、脱ヘモグロビン化に伴い鉄イオンが周囲の網膜に放出される。S錐体は鉄介在性の酸化ストレスに対してM錐体・L錐体より脆弱であり、S錐体の選択的障害が赤視症の原因となりうる1)。
黄斑部傍中心窩はS錐体の密度が高い領域であり、この部位の出血ではS錐体障害のリスクが高まる1)。また、青-黄対立経路は赤-緑対立経路と形態学的・分子的に異なり、疾患や薬剤に対して固有の脆弱性をもつ可能性が指摘されている1)。
後頭葉腹内側の舌状回・紡錘状回(V4野およびV8野)は色知覚に重要な領域である。この領域の障害では色彩が消失し灰色や白黒に見える大脳性全色盲(cerebral achromatopsia)を生じる。片側性病変では半側視野のみが白黒に見えることがある。
一方、脳性色視症はシャルル・ボネ症候群のように、視覚野が感覚を奪われた領域を「埋め合わせ」ようとする幻肢様の機序で生じるとも考えられている。
網膜出血からの鉄イオンが周囲の錐体細胞に酸化ストレスを与える。青色を感受するS錐体は他の錐体より鉄酸化に脆弱であり、S錐体が選択的に障害されると青-黄対立経路が損なわれ、赤方向への色知覚偏移(赤視症)が生じると考えられている1)。
Vaphiadesら(2021)は、65歳女性の右眼黄斑部脱ヘモグロビン化網膜内出血に伴う赤視症の症例を報告した1)。OCTで内網膜の高反射病変を認め、外層への影響も示唆された。著者らは、出血部位の黄斑に約90%存在する矮小神経節細胞のうち、青-黄対立経路が赤-緑対立経路と異なる固有の脆弱性をもつ可能性を提唱した。S錐体の組織学的特徴による脆弱性や、傍中心窩でのS錐体高密度も機序に関与しうるとした。
Kiserら(2021)は、第VII因子欠乏症の7歳女児がTXA経口投与(10mg/kg 1日3回)開始翌日に色視症を発症した症例を報告した2)。計4回の投与(総量2,600mg)後に中止したところ症状は消失した。眼科検査では異常所見を認めなかった。TXA経口投与による色視症の報告は小児では初例であり、TXAの錐体細胞への薬理作用が推定されているが、詳細な機序は未解明である。