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神経眼科

色視症

色視症(chromatopsia)は、色フィルタを通して見たときと同様に、視界全体に特定の色合いがついて見える状態である。後天色覚異常の一範疇に属し、色の識別が低下する色覚異常(dyschromatopsia)や色覚が消失する全色盲(achromatopsia)とは区別される。

色視症には以下の5型が知られている。

  • 黄視症(xanthopsia):視界が黄色がかって見える。ジギタリス製剤との関連が最も有名である
  • 青視症(cyanopsia):視界が青みがかって見える。白内障術後やPDE5阻害薬で生じる
  • 赤視症(erythropsia):視界が赤みがかって見える。網膜出血との関連が多い
  • 緑視症(chloropsia):視界が緑がかって見える。まれな型である
  • 紫視症(ianthinopsia):視界が紫がかって見える。最もまれな型である

黄視症と青視症は多くの薬剤・疾患との関連が報告されており比較的頻度が高い。赤視症もある程度みられるが、緑視症と紫視症はまれである。薬剤誘発性が色視症の最も一般的な原因とされる1)

Q 色視症と色覚異常(色盲)はどう違うのか?
A

色視症は環境の色合いが増強して見える状態であり、色覚異常は色の識別能力が低下または欠如した状態である。色視症では特定の色がついて見えるのに対し、色覚異常では色の区別がつきにくくなる。両者は正反対の方向性をもつ色覚障害といえる。

色視症の主症状は、視界全体に特定の色合いがついて見えることである。

  • 色のついた視界:黄色・青色・赤色など、見える色の種類は原因によって異なる
  • 両眼性または片眼性:薬剤性では通常両眼性である。片眼性の場合は網膜出血などの眼局所病変を示唆する1)
  • 霧視羞明中心暗点:ジギタリス中毒に伴う錐体機能障害の症状として出現する

自覚症状の発現時期は原因によって異なる。薬剤性では投与開始後数日から数週で出現することが多く、トラネキサム酸(TXA)では内服開始翌日に発症した報告がある2)

原因によって眼科所見は大きく異なる。

  • 薬剤性(ジギタリス等):眼底に異常を認めないことが多い。瞳孔反応も正常であり、問診が極めて重要となる。色覚検査で異常を認め、錐体網膜電図の反応低下がみられる
  • 網膜出血由来眼底検査黄斑部の出血を認める。光干渉断層計(OCT)では網膜内に高反射病変を確認できる1)視力低下や色覚検査異常を伴う
  • TXA関連:眼科検査で異常所見を認めない場合がある2)視神経・網膜に明らかな異常なく、薬理作用による機能的変化と推測される
  • 大脳性同名半盲(多くは上1/4半盲)を合併しやすい。相貌失認や地誌的失見当識を伴うことがある

色視症は発生部位に基づき、中枢性(脳性)・光学性・網膜性の3群に分類される。

中枢性

薬剤誘発性:最も一般的な原因。ジギタリス・PDE5阻害薬・TXAなど多数の薬剤が関与する。

脳血管障害:後頭葉の舌状回・紡錘状回の障害で大脳性色覚障害を生じる。

精神疾患関連シャルル・ボネ症候群不思議の国のアリス症候群に伴い出現することがある。

心因性:10歳前後の女児に多い。非典型的な検査結果を示し再現性がない。

光学性

白内障術後水晶体除去により短波長光の透過が増加し、青視症や赤視症を生じる。

黄疸:血中ビリルビンの増加により黄視症を生じる。

フルオレセイン造影後:一過性の黄視症を生じることがある。

角膜混濁:光の散乱・吸収による色調変化を生じる。

網膜性

網膜出血:ヘムの蓄積による錐体細胞への鉄介在性酸化損傷が原因となる1)。赤視症が多い。

黄斑浮腫:錐体細胞の機能障害を引き起こす。

中心性漿液性脈絡網膜症:緑視症の原因として報告されている。

色視症を引き起こす代表的な薬剤を以下に示す。

  • ジギタリス製剤(ジゴキシン等):黄視症が代表的。中毒例の95%に眼症状が出現する。血中濃度の治療域と中毒域が近接しており過剰投与になりやすい
  • PDE5阻害薬(シルデナフィル・バルデナフィル・タダラフィル):錐体ホスホジエステラーゼの阻害により青視症(彩視症)を引き起こす
  • トラネキサム酸(TXA):経口投与・静脈内投与いずれでも色視症の報告がある2)
  • 利尿薬(ヒドロクロロチアジド・トリクロルメチアジド):黄視症を生じることがある
  • ジソピラミド:黄視症との関連が報告されている
  • ベルテポルフィン光線力学的療法に用いられ、色覚異常を生じうる
  • サントニン(駆虫薬):古典的な黄視症の原因薬として知られる
Q どのような薬が色視症を引き起こすのか?
A

ジギタリス製剤(黄視症)、PDE5阻害薬のシルデナフィル等(青視症)、トラネキサム酸、利尿薬(ヒドロクロロチアジド等)、駆虫薬のサントニンなどが代表的である。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。

色視症の診断では、まず原因薬剤のスクリーニングが重要である。

  • 服薬歴:ジギタリス製剤・PDE5阻害薬・利尿薬・抗菌薬などの使用歴を確認する。薬剤性が最も一般的な原因であり、問診が診断の第一歩となる
  • 発症時期・経過:片眼性か両眼性か、急性か緩徐か、随伴症状の有無を聴取する
  • 全身症状:ジギタリス中毒では悪心・嘔吐・全身倦怠感・頭痛を伴いうる
  • 散瞳下眼底検査:網膜出血・黄斑浮腫などの網膜性原因の検索に必須である
  • 色覚検査:仮性同色表(石原色覚検査表)、パネルD-15テスト、100hueテストを用いる。後天色覚異常は左右差があるため片眼ずつ検査を行う
  • 錐体網膜電図:ジギタリス中毒の診断に有用。錐体系網膜電図の反応低下を検出する
  • OCT:網膜出血の部位・範囲の評価に有用である1)。錐体細胞の機能障害に関する情報も得られる
  • 細隙灯顕微鏡検査:前眼部の異常(角膜混濁・白内障など)の評価を行う
  • 血中薬物濃度:ジゴキシンでは2ng/mL以上で頻度・重症度が増加する。ジギトキシンでは35ng/mL以上が基準となる
  • 神経画像検査:皮質性色視症が疑われる場合にMRI・CTを施行する。大脳性色覚障害では半側視野ずつの色覚検査も必要である
Q 色視症の検査では何が最も重要か?
A

薬剤性が最も一般的な原因であるため、服薬歴の問診が診断の第一歩となる。眼科検査では色覚検査と錐体網膜電図がジギタリス中毒の診断に有用であり、眼底検査・OCTで網膜性原因を検索する。

色視症は基礎疾患の結果であるため、治療は原因の除去が原則である。

原因治療方針
ジギタリス中毒速やかに中止・濃度調整
PDE5阻害薬軽度なら経過観察
TXA中止し代替薬へ変更
網膜出血原因疾患の治療
大脳性脳血管障害の治療
  • ジギタリス製剤:速やかに処方医に連絡し投与を中止する。濃度調整により多くは回復する。腎障害・脱水・低カリウム血症はジギタリスの蓄積を促進するため、これらの予防・是正も重要である。高齢者や透析患者では特に注意を要する
  • PDE5阻害薬:色覚異常の程度が軽度であれば経過観察となる
  • TXA:投与を中止し、代替の抗線溶薬(アミノカプロン酸など)への変更を検討する2)
  • その他の薬剤:原則として被疑薬の中止が治療の基本である

薬剤性色視症の予後は概ね良好である。ジギタリスでは投与中止後数日から数週で症状が消失することが多いが、色覚異常が改善しなかったという報告もある。TXAでは中止後に速やかに回復した2)。網膜出血や脳血管障害に伴う場合は、基礎疾患の予後に依存する。

Q 色視症は治るのか?
A

薬剤性の場合は原因薬の中止・濃度調整により多くは回復する。ジギタリスでは数日から数週で改善することが多い。ただし、網膜出血や脳血管障害が原因の場合は基礎疾患の転帰に依存する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

ヒトの網膜には3種類の錐体が存在する。L錐体(長波長)、M錐体(中波長)、S錐体(短波長)がそれぞれ赤・緑・青の光を受容する。これが三色型色覚(trichromacy)である1)

錐体からの信号は「色対立」(colour opponency)として処理される。青/黄、赤/緑、黒/白の3組の対立チャネルが形成され、一方の活性化が他方を抑制する1)網膜神経節細胞はこの色対立様式で応答する。

ジギタリスによる錐体機能障害

Section titled “ジギタリスによる錐体機能障害”

ジギタリスの作用機序であるNa⁺-K⁺ ATPase阻害が、網膜視細胞の暗電流を障害する。錐体細胞のNa⁺-K⁺ ATPaseは杆体のものよりジギタリス感受性が高く、また細胞体のサイズの差もあり、錐体機能が選択的に障害される。その結果、錐体機能不全症候群の臨床像を呈する。発現は濃度依存性が大きい。

シルデナフィル等のPDE5阻害薬は、錐体特異的ホスホジエステラーゼ(PDE6)を交差阻害する。PDE6は細胞内cGMP濃度を調節し、光応答特性を制御する酵素である1)。この阻害により錐体の光応答が変化し、青視症が生じる。PDE5は脈絡膜・網膜血管にも存在し、血流動態への影響も加わる可能性がある。

網膜出血では、脱ヘモグロビン化に伴い鉄イオンが周囲の網膜に放出される。S錐体は鉄介在性の酸化ストレスに対してM錐体・L錐体より脆弱であり、S錐体の選択的障害が赤視症の原因となりうる1)

黄斑部傍中心窩はS錐体の密度が高い領域であり、この部位の出血ではS錐体障害のリスクが高まる1)。また、青-黄対立経路は赤-緑対立経路と形態学的・分子的に異なり、疾患や薬剤に対して固有の脆弱性をもつ可能性が指摘されている1)

後頭葉腹内側の舌状回・紡錘状回(V4野およびV8野)は色知覚に重要な領域である。この領域の障害では色彩が消失し灰色や白黒に見える大脳性全色盲(cerebral achromatopsia)を生じる。片側性病変では半側視野のみが白黒に見えることがある。

一方、脳性色視症はシャルル・ボネ症候群のように、視覚野が感覚を奪われた領域を「埋め合わせ」ようとする幻肢様の機序で生じるとも考えられている。

Q なぜ網膜出血で赤く見えるのか?
A

網膜出血からの鉄イオンが周囲の錐体細胞に酸化ストレスを与える。青色を感受するS錐体は他の錐体より鉄酸化に脆弱であり、S錐体が選択的に障害されると青-黄対立経路が損なわれ、赤方向への色知覚偏移(赤視症)が生じると考えられている1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Vaphiadesら(2021)は、65歳女性の右眼黄斑部脱ヘモグロビン化網膜内出血に伴う赤視症の症例を報告した1)。OCTで内網膜の高反射病変を認め、外層への影響も示唆された。著者らは、出血部位の黄斑に約90%存在する矮小神経節細胞のうち、青-黄対立経路が赤-緑対立経路と異なる固有の脆弱性をもつ可能性を提唱した。S錐体の組織学的特徴による脆弱性や、傍中心窩でのS錐体高密度も機序に関与しうるとした。

小児におけるTXA経口投与と色視症

Section titled “小児におけるTXA経口投与と色視症”

Kiserら(2021)は、第VII因子欠乏症の7歳女児がTXA経口投与(10mg/kg 1日3回)開始翌日に色視症を発症した症例を報告した2)。計4回の投与(総量2,600mg)後に中止したところ症状は消失した。眼科検査では異常所見を認めなかった。TXA経口投与による色視症の報告は小児では初例であり、TXAの錐体細胞への薬理作用が推定されているが、詳細な機序は未解明である。


  1. Vaphiades MS, Grondines BD, Curcio CA. Erythropsia and Chromatopsia: Case Study and Brief Review. Neuro-Ophthalmology. 2021;45(1):56-60.
  2. Kiser AS, Cooper GL, Napier JD, Howington GT. Color vision disturbances secondary to oral tranexamic acid. JACEP Open. 2021;2:e12456.

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