コンテンツにスキップ
角膜・外眼部疾患

デモデックス(顔ダニ)眼瞼炎(Demodex Blepharitis)

デモデックス眼瞼炎は、ヒトの毛包や脂腺に常在するダニ(Demodex 属)の過剰寄生によって生じる慢性の眼瞼縁炎である。前部眼瞼炎(睫毛根部中心)と後部眼瞼炎マイボーム腺中心)のいずれの病型もとりうる。睫毛根部を取り囲む**円筒状落屑(cylindrical dandruff)**が病的意義の高い徴候として知られ、臨床診断の出発点となる1)2)

眼瞼縁炎(marginal blepharitis)は眼瞼縁の睫毛根部や腺の慢性炎症であり、毛瘙性(ブドウ球菌性・潰瘍性)眼瞼縁炎、脂漏性眼瞼縁炎、後部眼瞼縁炎(MGD)、および両者の混合型に分類される。デモデックス眼瞼炎はこれらのいずれにも重複して出現しうる病型であり、独立疾患というよりは「原因の一つ」として認識されてきた経緯がある。

Demodex 属は 1842 年に Henle により初めて記載され、1963 年に Post と Juhlin がヒト眼瞼炎との関連を報告した1)。長らく病原性の強さは議論の対象であったが、2000 年代以降の疫学研究・免疫学的解析・治療応答性の検討により、一定数の慢性眼瞼縁炎・再発性霰粒腫・ブレファロ角結膜炎症例に直接関与することが明らかにされつつある1)6)

ヒトに寄生する Demodex は主に2種類である。

  • Demodex folliculorum:体長 0.3〜0.4 mm。睫毛を含む毛包内に複数集合して寄生する。角化細胞を摂食し、眼瞼縁では前部眼瞼炎の主因と考えられている1)6)
  • Demodex brevis:体長 約 0.2 mm。マイボーム腺・Zeis 腺の腺管内に単独で寄生する傾向があり、後部眼瞼炎MGD 様所見の原因となる1)5)6)

両者は生活環が約 14〜18 日で、夜間に皮膚表面で交尾し卵→幼虫→成虫と成長する1)

デモデックス寄生率は加齢に伴い著明に上昇する1)

  • 20〜30 歳:約 20〜30%
  • 60 歳以上:80% 以上
  • 70 歳以上:ほぼ 100%

慢性眼瞼炎患者の約 30〜74% にデモデックス寄生が認められる1)。米国ではデモデックス眼瞼炎の推計患者数が約 2,500 万人に上るとされ、患者の 80% が日常生活への支障を訴え、47% が夜間運転困難、34% がコンタクトレンズ装用や化粧の制限を経験するという報告もある1)

日本のマイボーム腺機能不全診療ガイドライン 2023 は、MGD を対象とした住民調査(Hirado-Takushima Study)に基づく有病率データを掲載しており、40 代で 21.6%、60 代で 41.9%、80 代で 63.9% とされる4)MGD と Demodex は病態が重なり合うため、これら高齢者の一定割合にデモデックスが関与している可能性が指摘されている4)

国際的に統一された公的な診断基準はまだ存在しない。日本でも独立疾患としての診断基準は確立されておらず、慢性眼瞼縁炎と MGD の枠組みの中で臨床判断がなされている1)4)

Q デモデックス眼瞼炎はどれくらい多い疾患ですか?
A

慢性眼瞼炎患者の約 30〜74% に Demodex の寄生が確認され、米国では約 2,500 万人の潜在患者がいると推計される1)。寄生率は加齢とともに増加し、20 代で 20〜30%、60 歳以上では 80% 以上、70 歳以上ではほぼ 100% に達する1)。日本のマイボーム腺機能不全診療ガイドライン 2023 に掲載された住民調査では、MGD の有病率が 40 代で 21.6%、60 代で 41.9%、80 代では 63.9% に達しており、これらの症例の一部に Demodex が関与していると考えられる4)

デモデックス眼瞼炎の顕微鏡画像。睫毛毛包に付着したDemodex虫体と卵が見える。
デモデックス眼瞼炎の顕微鏡画像。睫毛毛包に付着したDemodex虫体と卵が見える。
Huo Y, et al. First case of Phthirus pubis and Demodex co-infestation of the eyelids: a case report. BMC Ophthalmol. 2021. Figure 2. PMCID: PMC7937296. License: CC BY.
患者の右眼におけるデモデックスの顕微鏡所見であり、aは睫毛濾胞に伴う虫体の集団と卵、bは卵(矢印)、3対の脚を持つ幼虫(矢頭)、4対の脚を持つ成虫(*)を示す。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う顕微鏡検査による虫体の検出に対応する。

典型的な訴えは慢性の眼瞼縁の掻痒感・灼熱感・異物感である。掻痒は朝方と夜間に強くなる傾向があり、患者はしばしば「目の縁がむず痒い」「睫毛の根元がチクチクする」と表現する1)。眼脂・流涙・羞明霧視を伴うこともあり、症状は寛解と増悪を繰り返す。

デモデックス眼瞼炎患者の QOL への影響は小さくない。報告によれば 80% の患者が日常生活に影響を受け、47% が夜間運転困難を、34% がコンタクトレンズや化粧の制限を経験している1)。睫毛束感、睫毛脱落、化粧品がすぐに落ちる、といった訴えも特徴的である1)

デモデックス眼瞼炎の診断は細隙灯顕微鏡によるディフューザー併用観察が基本である。以下の所見に注目する1)2)4)

  • 円筒状落屑(cylindrical dandruff, CD):睫毛根部を取り囲む透明〜白色の硬いカラー状鱗屑。Demodex 寄生の強い示唆所見で、診断的価値が最も高い1)2)
  • 眼瞼縁発赤・毛細血管拡張
  • 睫毛の脱落・乱生・不規則配列
  • マイボーム腺開口部の閉塞(plugging, pouting, ridge)、配列の乱れ、粘膜皮膚移行部の前後方向移動、眼瞼縁不整4)
  • 結膜充血点状表層角膜症
  • 島崎分類で grade 2 以上の meibum 質的異常4)

Lee らは 9 例のデモデックス眼瞼炎を解析し、全例で D. folliculorum を検出した。特筆すべきは 5 歳・13 歳・14 歳の小児例が含まれていたことで、これらの症例では角膜潰瘍角膜新生血管を伴う重症ブレファロ角結膜炎BKC)を呈していた2)。再発性の小児角膜炎では Demodex の関与を疑う必要がある。

Zhang と Liang は 46 歳男性の症例を報告している。患者は 1 か月前からの右眼視力低下を主訴に受診し、睫毛根部の dandruff、眼瞼縁毛細血管拡張、マイボーム腺開口部閉塞、点状表層角膜症が認められた5)。抜去睫毛では Demodex が検出されなかったが、眼瞼縁の抗菌処理後に meibum を圧出して顕微鏡観察したところ、15 匹の D. brevis が確認された。ティーツリーオイルによる眼瞼清拭で症状は改善した。この症例は、外表所見を欠きながら meibum 内のみに D. brevis が存在するデモデックス眼瞼炎の存在を示している5)

前部デモデックス眼瞼炎

主因Demodex folliculorum

特徴所見:睫毛根部の円筒状落屑、眼瞼縁前部発赤、毛細血管拡張、睫毛脱落・乱生

自覚症状:朝方の掻痒感、睫毛根部のチクチク感

検出法:抜去睫毛の光学顕微鏡検査で成虫・幼虫が同定されやすい

後部デモデックス眼瞼炎

主因Demodex brevis

特徴所見マイボーム腺開口部閉塞、眼瞼縁不整、粘膜皮膚移行部の移動、MGD 様所見、meibum 質異常

自覚症状:眼不快感、圧迫感、乾燥感、「ねちゃねちゃする感じ」

検出法:睫毛抜去で陰性でも、meibum 圧出で直接観察すると検出できることがある

混合型/合併型

特徴:前部・後部所見が併存、実臨床で最も多い病型

合併疾患MGD、蒸発亢進型ドライアイ、再発性霰粒腫再発性角膜びらん点状表層角膜症、小児ブレファロ角結膜炎BKC

注意点:外表所見が軽微でも meibum 内 D. brevis が潜む症例があり、治療抵抗例では積極的な検出検査を考慮する

Q 円筒状落屑(cylindrical dandruff)とは何ですか?
A

円筒状落屑は、睫毛根部を取り囲むようにカラー状に付着する透明〜白色の硬い鱗屑である1)。Demodex が毛包内で増殖する際、宿主の角化細胞が反応性に過角化し、形成されたケラチンがダニの糞や残骸とともに睫毛の根元に付着して生じる1)。ブドウ球菌性眼瞼炎でみられる collarettes と形状は類似するが、円筒状落屑は Demodex 寄生に対する特異度が高い所見とされ、認めた場合は積極的に Demodex の関与を疑う根拠となる1)2)

デモデックス眼瞼炎の病因は、Demodex の過剰寄生とそれに対する宿主反応の組み合わせである。

Demodex folliculorumDemodex brevis はともにヒトの皮膚常在エクトパラサイトであり、健常者にも一定の割合で寄生している1)6)。両者の違いを整理する。

項目D. folliculorumD. brevis
体長約 0.3〜0.4 mm約 0.2 mm
主な寄生部位睫毛を含む毛包マイボーム腺・Zeis 腺
寄生様式集団寄生(1毛包に複数)単独寄生
関連病型前部眼瞼炎後部眼瞼炎MGD
生活環約 14〜18 日約 14〜18 日
検出のしやすさ抜去睫毛で検出容易抜去睫毛では検出困難、meibum 圧出で確認

Demodex の過剰寄生と眼瞼炎化に関与する因子として、以下が報告されている1)4)6)

  • 加齢:寄生率は加齢とともに上昇し、70 歳以上ではほぼ全員に寄生が認められる1)
  • 酒皶(rosacea):皮膚の酒皶患者では Demodex 密度が健常者の数倍に増加する。眼症状を伴う酒皶(ocular rosacea)は Demodex 眼瞼炎の重要な背景である1)
  • マイボーム腺機能不全MGD:日眼会誌マイボーム腺機能不全診療ガイドライン 2023 は Demodex を MGD の発症リスク因子として位置づけており、相互に増悪する関係にある4)
  • 免疫機能低下:HIV 感染、糖尿病、長期ステロイド投与、化学療法中の患者で寄生密度が増加する1)
  • アンドロゲン減少・閉経マイボーム腺機能低下と関連する4)
  • コンタクトレンズ装用:眼瞼縁の衛生環境変化と関連する4)
  • 眼表面疾患:慢性眼瞼炎、再発性霰粒腫ドライアイなどの存在
  • 環境因子:眼瞼清拭の不足、化粧品の残存、睫毛エクステンション

デモデックス眼瞼炎は以下の疾患との合併率が高い1)2)

日本 MGD 診療ガイドライン 2023 は、Demodex folliculorumマイボーム腺内に観察された病理組織学的報告と、Demodex と MGD の関連を示唆する疫学研究を紹介しつつ、「未だ不明な点が多い」と慎重に記載している4)

Q デモデックスは誰にでもいるのですか?
A

はい。Demodex folliculorumDemodex brevis はヒト皮膚の常在エクトパラサイトで、健康な成人の多くに一定数寄生している1)。若年者では寄生率は低いものの、加齢とともに上昇し、70 歳以上ではほぼ全員に寄生が認められるとの報告がある1)。病的になるのは、過剰寄生により物理的閉塞・炎症反応・眼表面障害が生じた場合であり、寄生の有無そのものが病気を意味するわけではない1)6)

デモデックス眼瞼炎の診断は、臨床所見(特に円筒状落屑)と Demodex の直接検出を組み合わせて行う。国際的に統一された公的診断基準はまだ存在せず、治療応答性を含めた総合判断が必要である1)

慢性の眼瞼縁の掻痒感(特に朝方悪化)、異物感、睫毛脱落、再発性霰粒腫の既往、酒皶の有無、既存の眼瞼炎治療への反応の悪さなどを聴取する。化粧品・コンタクトレンズ・睫毛エクステンション・温泉やプール使用歴も確認する。

日眼会誌マイボーム腺機能不全診療ガイドライン 2023 は、ディフューザーを併用した細隙灯観察を MGD 診療の基本として推奨しており、Demodex 関連眼瞼炎でも同じアプローチが用いられる4)

  • 眼瞼縁:発赤・毛細血管拡張・粘膜皮膚移行部の移動・眼瞼縁不整
  • 睫毛:円筒状落屑の有無、睫毛脱落・乱生、束状配列
  • マイボーム腺開口部:plugging、pouting、ridge、配列の乱れ
  • meibum 圧出:島崎分類で grade 2 以上を異常と判定4)
  • 眼表面結膜充血フルオレセイン染色による角結膜上皮障害

抜去睫毛の光学顕微鏡検査

手法:上下眼瞼から各 4 本程度の睫毛を抜去し、カバーガラス下で光学顕微鏡下に観察する。Lee らの研究では全9例で D. folliculorum の成虫・幼虫が同定された2)

判定基準:4 睫毛あたり 2 匹以上を病的と見なす報告が多い1)

限界D. brevis は毛包より深層(マイボーム腺)に寄生するため、睫毛抜去では検出されないことがある1)5)

meibum 直接観察

手法:眼瞼縁の抗菌処理後、瞼板を圧迫して meibum を搾出し、スライドグラスに採取して顕微鏡観察する。

有用性:Zhang と Liang は 46 歳男性例で抜去睫毛陰性ながら meibum 内に 15 匹の D. brevis を検出した5)

適応:後部眼瞼炎MGD 様所見を呈するが抜去睫毛では Demodex が検出されない難治例

in vivo confocal microscopy

手法角膜共焦点顕微鏡を用い、生体のまま睫毛毛包内のダニを非侵襲的に可視化する。

利点:反復観察が可能、抜去不要

課題:機器の普及度とコスト、評価の標準化が課題1)

日眼会誌マイボーム腺機能不全診療ガイドライン 2023 では以下の検査が CQ として検討されている4)

検査法目的GL での推奨
マイボグラフィ(赤外線)マイボーム腺の脱落・短縮・拡張の評価実施を推奨4)
涙液層破壊時間BUT涙液脂質層の不安定性評価評価項目として記載4)
フルオレセイン染色結膜上皮障害の評価実施を推奨4)
meibum 圧出(島崎分類)MGD 診断基準の閉塞所見項目実施を推奨4)
インターフェロメトリ涙液油層の定量評価補助的に有用4)

分泌減少型 MGD の日本の診断基準は、自覚症状あり、開口部周囲所見(血管拡張・粘膜皮膚移行部移動・眼瞼縁不整のいずれか)、開口部閉塞所見(plugging)かつ島崎分類 grade 2 以上、の 3 項目がすべて陽性であることを条件とする4)。デモデックス眼瞼炎はこの MGD 診断基準を併せ持つ症例が多い。

  • ブドウ球菌性眼瞼縁炎(collarettes, 潰瘍性変化)
  • 脂漏性眼瞼縁炎(脂性鱗屑、脂漏性睫毛)
  • MGD 単独(Demodex を伴わない)
  • アレルギー性眼瞼炎・接触性眼瞼皮膚炎
  • アトピー性眼瞼炎
  • 酒皶性眼瞼炎
  • ヘルペス性眼瞼炎HSV・VZV)
  • 脂腺癌(難治性霰粒腫様病変・片側性・高齢で要除外)

治療抵抗性の眼瞼炎では、ブドウ球菌培養・眼瞼生検・Demodex 検出を並行して検討する1)

Q ダニはどうやって検出するのですか?
A

基本は上下各 4 本ほどの睫毛を抜去し、光学顕微鏡で成虫・幼虫を確認する方法である1)2)。ただし D. brevisマイボーム腺内に潜むため、この方法では検出されないことがある1)5)。疑わしい症例では、眼瞼縁を抗菌処理したのちに瞼板を圧迫して meibum を搾出し、顕微鏡で直接観察する。46 歳男性例では meibum から 15 匹の D. brevis が検出された報告がある5)。非侵襲的な方法として in vivo confocal microscopy もあり、生体のまま毛包内のダニを観察できるが、機器の普及度とコストが課題となる1)

デモデックス眼瞼炎は慢性経過をとり、完治を示す強力なエビデンスは得られていない。治療目標は ダニ量の減少、円筒状落屑の消失、症状の改善、合併症(MGDBKC・RCE・霰粒腫)の制御、長期的な眼表面の安定化 である1)4)6)。治療は基本眼瞼ケアを土台とし、殺ダニ作用を持つ薬剤を重層的に追加する戦略を取る。

温罨法・眼瞼清拭・meibum 圧出は MGD・眼瞼縁炎全般の基盤治療であり、日眼会誌マイボーム腺機能不全診療ガイドライン 2023 の推奨に準拠する4)

  • 温罨法:ガイドラインで「実施することを強く推奨する」と記載されている4)。市販の温熱アイマスクを用い、1 日 2 回・5 分以上を目安に行う。マイボーム腺脂質の融点まで眼瞼温度を上げて meibum の溶解と分泌を促進する。
  • 眼瞼清拭:「実施することを弱く推奨する」4)。水で湿らせた綿球や市販の眼瞼クレンジング剤を用い、綿棒で睫毛根部を丁寧に清拭する。自覚症状、マイボーム腺開口部所見、meibum grade、BUT、角結膜上皮障害の改善が期待される一方、用いるクレンジング剤によっては眼刺激感などの有害事象が生じる可能性がある4)
  • meibum 圧出:閉塞性 MGD を合併する症例に対し「弱く推奨」されている4)。有田式マイボーム腺圧出鑷子などの専用器具を用い、外来で定期的に実施する。

ティーツリーオイル(TTO)療法

Section titled “ティーツリーオイル(TTO)療法”

ティーツリーオイルは Melaleuca alternifolia から抽出される精油で、主成分のテルピネン-4-ol(T4O)が殺ダニ作用を発揮する7)8)。作用機序はアセチルコリンエステラーゼ阻害によるダニの神経麻痺と考えられている1)6)

  • 50% TTO 週 1 回のクリニック清拭 + 10% TTO 自宅毎日清拭 を 1 か月行うことで、ダニの駆除、眼瞼縁・結膜角膜の炎症軽減、涙液 IL-1β・IL-17 濃度の低下、眼表面刺激症状の改善が報告されている6)7)10)
  • 5% TTO 軟膏 を毎日眼瞼に塗布する在宅療法でも、4 週でダニ数の有意な減少と掻痒改善が得られている6)
  • T4O 単剤製剤 Cliradex® は、軽症例に 1 日 1 回、中等症以上には 1 日 2 回、初期 2 か月のレジメンが提案されている6)

日本 MGD 診療ガイドライン 2023 でもティーツリーオイル含有クレンジング剤を用いた RCT が 1 編採用されており、自覚症状・マイボーム腺開口部所見・meibum grade・BUT・角結膜上皮障害の改善が示されている4)。一方で、同ガイドラインは有害事象として TTO 含有クレンジング剤使用群の 52.5%(40 例中 21 例)に眼刺激感が認められたことも記載しており、使用にあたっては濃度と頻度の調整、皮膚過敏の既往確認が重要である4)

薬物療法

経口イベルメクチン:200 μg/kg を Day 0 と Day 7 の 2 回投与するレジメンが用いられる9)。24 眼 12 例の難治性後部眼瞼炎を対象とした検討では D. folliculorum 数の有意減少、Schirmer I 値の改善、BUT の改善が報告された9)。ダニの GABA 受容体作動で麻痺を誘導する1)

外用イベルメクチンクリーム 1%:メトロニダゾール併用で殺ダニ・抗炎症効果が増強される1)

メトロニダゾール:ニトロラジカルによる DNA 損傷と抗炎症作用を併せ持ち、経口または外用で用いられる1)

0.25% povidone-iodine / DMSO 配合製剤:1 日 2 回の局所塗布で、前部・後部デモデックス眼瞼炎の症状と所見を改善した症例報告がある11)

1.5% アジスロマイシン水和物点眼MGD ガイドラインで自覚症状・マイボーム腺開口部所見・meibum grade を改善するとして弱く推奨されている4)

0.1% フルオロメトロン点眼:炎症が強い症例に短期併用。MGD ガイドラインで弱く推奨されており、本邦では眼瞼炎合併時のみ保険適用である4)

ミノサイクリン塩酸塩 100 mg/日 内服:抗炎症・脂質調節作用を目的に MGD 標準治療の一部として用いられる4)

機械的・物理療法

マイクロブレファロエクスフォリエーション(BlephEx):回転式マイクロスポンジで眼瞼縁の円筒状落屑・デブリ・ダニを機械的に除去する外来処置である1)。細菌バイオフィルムの破壊効果も期待され、ティーツリーオイル療法との併用で OSDI とダニ数の改善が報告されている1)

マイボーム腺プロービング:閉塞性 MGD を合併するデモデックス眼瞼炎で meibum 排出を改善する6)

LipiFlow® 熱パルセーション:内面加熱と外面圧出を組み合わせた 12 分間の処置で、meibum 分泌・TBUT・自覚症状の改善が報告されている6)

IPL(Intense Pulsed Light)療法:広帯域光による熱作用でダニを死滅させる(in vitro で約 49℃まで上昇)。マイボーム腺血管拡張の減少とダニ数低下、自覚症状改善が報告されている1)。日本 MGD 診療ガイドライン 2023 ではエビデンスは強いが本邦で医療機器として未承認・保険適用外のため「弱く推奨」にとどまる4)

治療法作用機序代表的レジメン備考
ティーツリーオイル(T4O)AChE 阻害・直接殺ダニ1)8)50% 週 1 回+10% 毎日 × 1 か月7)10)眼刺激感 52.5% 報告あり4)
経口イベルメクチンGABA 受容体阻害1)200 μg/kg × Day 0, Day 79)重症・難治例に
外用イベルメクチン+メトロニダゾール殺ダニ+DNA 損傷1)連日塗布1)酒皶合併例に有用
0.25% povidone-iodine/DMSO酸化作用・抗ダニ作用11)1 日 2 回塗布11)症例報告レベル
BlephEx機械的除去1)外来処置+在宅ケアTTO 併用で効果増強
IPL光熱作用・殺ダニ1)2〜4 週間隔で 3〜4 回1)本邦未承認4)
  • MGD:温罨法・圧出・アジスロマイシン点眼を強化する4)
  • 蒸発亢進型ドライアイ:人工涙液・ヒアルロン酸ナトリウム点眼。ジクアホソルナトリウム点眼は MGD 単独には保険適用外でありガイドラインでも MGD 単独には実施しないことを弱く推奨している4)
  • 再発性角膜びらん点状表層角膜症:眼軟膏、治療用ソフトコンタクトレンズ、必要に応じ自己血清点眼
  • 小児ブレファロ角結膜炎BKC:全身抗菌薬、眼軟膏、治療用コンタクトレンズを併用。Lee らの報告した小児例では、重症角膜炎に対し積極的な駆虫治療と角膜治療の並行が必要であった2)
Q 自宅でできるケアを教えてください。
A

基本は温罨法・眼瞼マッサージ・眼瞼清拭の 3 つである4)6)。清潔なタオルや市販の温熱アイマスクを眼瞼に当て、1 日 2 回・5 分以上温める4)。次に上下の眼瞼をやさしく垂直方向にマッサージし、マイボーム腺の分泌を促す。最後に水で湿らせた綿球または専用クレンジング剤で睫毛根部を丁寧に清拭する4)。ティーツリーオイル配合製剤は週 1 回程度、濃度に注意しながら追加する方法が報告されている7)10)。過度な擦過は避け、化粧品や睫毛エクステンションの衛生管理にも留意してください。急性期が落ち着いた後も毎日の継続が再発予防の鍵となります。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

デモデックス眼瞼炎の病態生理は、物理的機序免疫学的機序細菌ベクター仮説、そして MGD 病態との重複 という複数の経路で整理される1)4)6)

1. 物理的機序

Demodex folliculorum は睫毛毛包内で複数集合し、基底部の角化細胞を摂食する1)6)。これにより局所の細胞損傷と反応性の過角化が生じ、形成されたケラチンがダニの糞や残骸とともに睫毛の根元に集積して 円筒状落屑(cylindrical dandruff) を形成する1)。毛包周囲の慢性炎症は睫毛脱落・乱生・毛包破壊の一因となる。

一方、Demodex brevisマイボーム腺および Zeis 腺の腺管内に単独で寄生し、腺腔を物理的に閉塞する1)5)6)。組織学的には肉芽腫様反応、腺房の萎縮、脂質分泌の質的・量的低下がみられ、MGD 様の臨床所見や霰粒腫様変化を呈する5)6)。Zhang と Liang の症例では、マイボーム腺開口部の閉塞と毛細血管拡張、表層角膜症を呈した 46 歳男性の meibum 内から 15 匹の D. brevis が検出され、外表所見が軽微でも腺内に寄生が潜む症例の存在が示された5)

2. 免疫学的機序

Demodex の排泄物・分泌物・死骸は宿主の遅延型過敏反応を誘発する1)。この反応は酒皶患者で特に顕著で、眼型酒皶と Demodex 眼瞼炎の高い合併率を説明すると考えられている1)

涙液サイトカインプロファイルには IL-1β、IL-17、MMP-9 の増加が報告されており、ティーツリーオイル治療後にはこれらサイトカインの低下が確認されている6)。Toll-like receptor 2(TLR2)の発現亢進も報告されており、自然免疫経路を介した炎症増幅が示唆される1)

3. 細菌ベクター仮説

Demodex の表面や消化管に付着する細菌が独立した炎症トリガーとして働く可能性が指摘されている1)6)。候補菌として Bacillus oleronius、黄色ブドウ球菌、Acinetobacter baumanniiStreptococcus pneumoniae が挙げられており、これらの抗原に対する宿主免疫反応が眼表面の慢性炎症を悪化させるとする仮説である1)。酒皶患者では B. oleronius 抗原に対する血清反応性が健常者より有意に高いことが報告されている1)

4. MGD 病態生理との重複

日眼会誌マイボーム腺機能不全診療ガイドライン 2023 は、分泌減少型 MGD の病態生理を 二つのコアメカニズム として提唱している4)。すなわち、導管上皮の過角化 によるマイボーム腺開口部の閉塞と、meibocyte の変化 による分化異常・腺房萎縮・meibum 質低下の 2 経路である4)。ガイドラインはこれらの上流因子として、加齢、性ホルモン(アンドロゲン)、細菌感染、Demodex、炎症・アレルギー、神経因子、血管因子、薬剤、瞬目不全などを挙げている4)

したがってデモデックス眼瞼炎は、MGD の病態カスケードの入口側で導管・腺房への物理化学的ストレスを加え、MGD の進展を促す位置づけとなる。実臨床ではデモデックス眼瞼炎と MGD は相互に増悪するため、両者を同時に治療することが原則となる4)6)

5. 酒皶との関連

皮膚の酒皶患者では Demodex 密度が健常者の数倍に上昇する1)ドキシサイクリン経口や局所イベルメクチンなどの酒皶治療は、Demodex 密度と眼症状の同時改善をもたらしうる1)。このため、慢性で治療抵抗性のデモデックス眼瞼炎を診る際には、皮膚科と連携して全身の酒皶を評価することが有用である。

Lotilaner はイソキサゾリン系の寄生虫駆除薬で、ダニの GABA 作動性クロライドチャネルおよびグルタミン酸作動性クロライドチャネルを特異的に阻害し、痙性麻痺を誘導して死滅させる1)3)。宿主の哺乳類ではこれらのチャネル感受性が低いため、安全性プロファイルが良好である3)

第 3 相ピボタル試験 Saturn-1 は、Demodex 眼瞼炎患者 421 例を対象とした無作為化・ビヒクル対照・二重盲検試験で、Lotilaner 点眼液 0.25% を 1 日 2 回 6 週間投与したところ、円筒状落屑消失率 56%、ダニ駆除率(4 本中 0〜1 匹)51.8%、眼瞼縁紅斑消失率 31.1% を達成した3)。忍容性は 90.7% で良好と評価され、副作用は灼熱感・軽度視力低下など軽微なものが主体であった1)3)。後続の Saturn-2 試験でも同様の結果が確認された1)

2023 年 7 月、米国 FDA は Lotilaner 点眼液 0.25%(商品名 XDEMVY®、旧称 TP-03)を Demodex 眼瞼炎に対する初の承認薬 として認可した1)。欧州での承認は 2027 年頃と見込まれている1)。2026 年時点で日本では未承認であり、PMDA における承認申請・審査状況は注視する必要がある1)

Czepińska-Myszura らは「新規治療のうち大規模臨床試験で高い有効性が実証されているのは Lotilaner 点眼液のみであり、IPL やマイクロブレファロエクスフォリエーションは限定的な患者群での検証にとどまる」と総説レビューで述べている1)

マイクロブレファロエクスフォリエーション(BlephEx)

Section titled “マイクロブレファロエクスフォリエーション(BlephEx)”

BlephEx は回転式マイクロスポンジを用いて眼瞼縁の円筒状落屑・デブリ・ダニ・細菌バイオフィルムを機械的に除去する外来処置である1)。ティーツリーオイル療法との併用で OSDI とダニ数の有意な改善が報告されているが、長期的有効性や再発抑制効果の検証にはさらなる研究が必要とされる1)

天然精油の殺ダニ活性が相次いで報告されている1)

  • セージオイル:in vitro で 7 分以内に Demodex を死滅
  • ペパーミントオイル:in vitro で 11 分以内に死滅
  • ヒマシ油、ベルガモットオイル、ニゲラ種子オイル:ティーツリーオイルとの相乗効果

これらはいずれも予備研究段階であり、臨床応用にはさらなる検証が必要である1)

in vivo confocal microscopy(IVCM)は非侵襲的に毛包内のダニを可視化でき、反復評価も可能である1)。今後 PCR ベースの分子検出や画像自動解析が臨床に応用されれば、Demodex の標準化された定量評価が可能となる見込みである。

Lee らの 9 例解析では、5 歳・13 歳・14 歳の小児例が含まれ、全例が角膜潰瘍新生血管を伴うブレファロ角結膜炎として発症していた2)。小児の再発性角膜炎では Demodex の関与を積極的に疑う必要がある2)

また Zhang と Liang は外表所見を欠きながら meibum 内のみに D. brevis が潜んだ 46 歳男性例を報告しており、難治例では瞼縁清拭後の meibum 直接観察が診断に寄与することを示している5)

Q Lotilaner(XDEMVY)は日本で使用できますか?
A

2026 年時点で Lotilaner 点眼液 0.25%(XDEMVY®)は米国 FDA により承認されていますが、日本および欧州では未承認です1)3)。欧州では 2027 年頃の承認が見込まれています1)。日本における承認状況は今後の PMDA 審査次第となります。現時点ではティーツリーオイル含有製剤、イベルメクチン(経口・外用)、メトロニダゾール、マイクロブレファロエクスフォリエーションなどによる治療が主体となります1)6)

  1. Czepińska-Myszura A, Kozioł MM, Rymgayłło-Jankowska B. Pharmacotherapy of Demodex-Associated Blepharitis: Current Trends and Future Perspectives. Pharmacy (Basel). 2025;13(5):148.
  2. Lee YI, Seo M, Cho KJ. Demodex Blepharitis: An Analysis of Nine Patients. Korean J Parasitol. 2022;60(6):429-432.
  3. Yeu E, Wirta DL, Karpecki P, Baba SN, Holdbrook M; Saturn I Study Group. Lotilaner Ophthalmic Solution, 0.25%, for the Treatment of Demodex Blepharitis: Results of a Prospective, Randomized, Vehicle-Controlled, Double-Masked Pivotal Trial (Saturn-1). Cornea. 2023;42(4):435-443.
  4. マイボーム腺機能不全診療ガイドライン作成委員会. マイボーム腺機能不全診療ガイドライン. 日眼会誌. 2023;127(2):109-228.
  5. Zhang N, Liang L. Demodex in Meibum. Ophthalmology. 2024.
  6. Sabeti S, Kheirkhah A, Yin J, Dana R. Management of Meibomian Gland Dysfunction: a Review. Surv Ophthalmol. 2020;65(2):205-217.
  7. Gao Y-Y, Di Pascuale MA, Li W, et al. In vitro and in vivo killing of ocular Demodex by tea tree oil. Br J Ophthalmol. 2005;89(11):1468-1473.
  8. Tighe S, Gao Y-Y, Tseng SCG. Terpinen-4-ol is the most active ingredient of tea tree oil to kill Demodex mites. Transl Vis Sci Technol. 2013;2(7):Article 2.
  9. Holzchuh FG, Hida RY, Moscovici BK, et al. Clinical treatment of ocular Demodex folliculorum by systemic ivermectin. Am J Ophthalmol. 2011;151(6):1030-1034.e1.
  10. Koo H, Kim TH, Kim KW, Wee SW, Chun YS, Kim JC. Ocular surface discomfort and Demodex: effect of tea tree oil eyelid scrub in Demodex blepharitis. J Korean Med Sci. 2012;27(12):1574-1579.
  11. Pelletier JS, Capriotti K, Stewart KS, Capriotti JA. Demodex Blepharitis Treated With a Novel Dilute Povidone-Iodine and DMSO System: A Case Report. Ophthalmol Ther. 2017;6(2):361-366.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます