この疾患の要点
後発白内障 (PCO)は白内障 手術後に最も頻度の高い合併症であり、残存した水晶体 上皮細胞の移動・増殖によって起こる。
術後5年以上の長期経過では、少なくとも4人に1人以上に何らかの後発白内障 が発生するとされる。
主な症状はかすみ・視力 低下・コントラスト感度 低下であり、視機能への影響はコントラスト感度 から先に始まる。
Nd:YAGレーザー後嚢切開術が標準治療であり、外来で施行可能だが、眼圧 上昇・黄斑浮腫 ・網膜剥離 などの合併症リスクがある。
シャープエッジ光学部眼内レンズ や前嚢の完全重なりが後発白内障 の予防に有効であるが、長期(10年以上)では効果が減弱する。
後方光学部ボタンホール固定は後嚢の混濁を実質的に根絶できる手術手技として注目されている。
術前の眼科検査(有水晶体 眼か偽水晶体 眼かの確認)の徹底が、誤った眼へのレーザー照射などの医療事故防止に不可欠である。
後発白内障 (aftercataract)は、白内障 手術後の水晶体嚢 内に残存した水晶体 上皮細胞(lens epithelial cells, LECs)が増殖・移動し、後嚢が混濁する状態である。臨床的には瞳孔 領にかかった場合を後嚢混濁(posterior capsule opacification, PCO)と呼ぶ。
白内障 手術後の最も頻度の高い合併症であり、術後5年以上の経過をみると少なくとも4人に1人以上に何らかの後発白内障 が発生するとされる。海外のメタアナリシスでは、後発白内障 の発生率は術後1年で約11.8%、3年で約20.7%、5年で約28.4%と報告されている。発症率は使用する眼内レンズ の素材・デザインや患者背景因子(糖尿病・ぶどう膜炎 ・アトピー性皮膚炎・先天白内障 ・強度近視 など)によっても異なる。
Nd:YAGレーザー後嚢切開術は外来で施行可能な標準的治療だが、米国では毎年数十万件以上が施行されており、社会的・経済的な負担が大きい。近年、シングルピース疎水性アクリル眼内レンズ の普及やエッジ設計の変化に伴い、YAGレーザー 施行率が再び増加傾向にある。
Q
白内障手術後にまた目がかすむのはなぜか?
A
白内障 手術で水晶体 を摘出しても、水晶体 上皮細胞が嚢内に残存する。この細胞が術後に後嚢上で増殖し、後嚢が混濁することで視力 が低下する(後発白内障 )。Nd:YAGレーザー後嚢切開術によって多くの場合、速やかに視力 が回復する。
後発白内障 の症状は混濁の種類と程度によって異なる。
かすみ(霞視感) :最初にコントラスト感度 が低下するため、視力 は正常でも「かすむ」と訴えることが多い。
視力 低下 :混濁が視軸中央を占めると顕著な視力 低下が生じる。
光のにじみ・まぶしさ (グレア) :特にElschnig真珠型の後発白内障 では前方散乱が強く、グレアが著明である。
コントラスト感度 低下 :視力 低下に先行してコントラスト感度 が低下するため、視力 のみでは視機能障害を過小評価しやすい。
Elschnig真珠
外観 :後嚢上にカエルの卵状・真珠状の細胞増殖を認める。徹照法で境界鮮明な小粒状として観察される。
原因 :赤道部のソェンメリング輪から後嚢中央へ移動した再生水晶体 線維。
特徴 :入射光を前方散乱させるため視機能障害が強い。眼内レンズ が嚢内固定された場合に主に形成される。
線維性混濁
外観 :コラーゲンを主とした線維状の混濁。境界不鮮明で皺状に見える。前後嚢が接した部分から広がる。
特徴 :後方散乱が主体で障害は軽い。眼内レンズ の嚢外固定や非対称固定に多い。
液状後発白内障 :眼内レンズ と後嚢の間に乳白色の液体が貯留する型。Elschnig真珠を伴うことが多い。
後発白内障 の診断は細隙灯顕微鏡の徹照法が基本である。散瞳 後に後嚢を徹照してタイプと程度を確認する。視機能への影響は視力 だけでなく、コントラスト感度 やグレア検査も参考にする。
白内障 手術後、水晶体嚢 内に残存した水晶体 上皮細胞が増殖・移動し、後嚢上へと侵入する。眼内レンズ の光学部後方エッジによる「バリア効果」が初期は有効だが、術後3〜5年でゼンメリング輪が形成されると、以前形成されていた嚢の屈曲が消失し、休止していた水晶体 上皮細胞が再活性化して光学部後方空間へのアクセスが可能になる(遅発性二次バリア不全)。
患者側因子 :若年者(細胞活性が高い)、糖尿病、ぶどう膜炎 、アトピー性皮膚炎、網膜色素変性 、強度近視
眼内レンズ デザイン :ラウンドエッジの眼内レンズ はシャープエッジより高リスク6)
素材 :親水性アクリル(ハイドロフィリック)はシャープエッジであっても疎水性(ハイドロフォビック)より高リスク6)
術式 :水晶体嚢 外摘出術は超音波乳化吸引 術より高リスク6)
前嚢重なりの有無 :前嚢縁が光学部全周を覆う(capsulorrhexis-optic overlap)状態で後発白内障 の発生率が低い6)
前嚢研磨の影響 :嚢内固定の眼内レンズ では前嚢研磨がバリア効果を損なう可能性がある6)
予防・日常のケア
白内障 手術後は定期的な眼科検査を続ける。視力 が回復した後でも、数年後に再びかすみが出ることがある。
「かすみ」「グレア」「ぼやけ」が出てきたら眼科に相談する。多くの場合、外来でのレーザー治療 で速やかに改善する。
白内障 手術を受ける際は、使用する眼内レンズ の種類についても担当医に相談するとよい。
未散瞳 での観察 :後嚢混濁を疑う場合、まず未散瞳 で確認する。
散瞳検査 :散瞳 後に細隙灯顕微鏡の徹照法でタイプ(Elschnig真珠・線維化・液状後発)と程度を確認する。
視機能評価 :視力 のみでなく、コントラスト感度 ・グレア検査も行う。視機能に対する影響を正確に把握してから治療の適否を判断する。
眼底透見性の確認 :90Dレンズなどを用いて眼底透見性を確認し、後嚢混濁の視機能への影響を補完的に評価する。
後発白内障 による視機能障害が患者の日常生活上の機能要求を満たさない程度に達した場合、または後発白内障 が眼底の観察を妨げる場合にNd:YAGレーザー後嚢切開術が適応となる6) 。透明な後嚢に対する予防的レーザー照射は行わない6) 。多焦点眼内レンズ 眼では低コントラスト条件での機能的影響が大きいため、早期に適応を検討することがある6) 。
Nd:YAGレーザー後嚢切開術は外来で施行されることが多く、有水晶体 眼に誤照射する医療事故が稀ながら報告されている 。後嚢下白内障 が後発白内障 と誤認された事例が複数ある4,5) 。
完全散瞳 下での眼内レンズ 有無の確認を必ず行う
術前タイムアウト(患者確認・手術眼・術式の三点確認)の厳格な実施
散瞳 が不完全な状態では後嚢下白内障 が後発白内障 に類似して見える点に注意する
Moshirfar ら(2022)は、高齢女性の有水晶体 眼に後嚢下白内障 を後発白内障 と誤認してYAGレーザー を照射した事例を報告した4) 。その後に施行した白内障 手術では後嚢破嚢の状態での摘出が必要となり、術後の最高矯正視力 は最終的に20/20を達成した。
Kodama ら(2025)は同様の事例を報告し、有水晶体 眼への誤照射後に外科的白内障 手術と硝子体手術 を施行した5) 。プレオペレーションタイムアウトの徹底がこのような「never event」の防止に必須と強調している。
Q
白内障手術を受けていない目に誤ってレーザーが照射されることはあるか?
A
稀ながら報告されている。後嚢下白内障 は後発白内障 と外見が類似しており、散瞳 不完全・術眼確認の不備・記録の誤読などによって誤照射が起こりうる。術前の十分な散瞳 と患者確認の徹底が不可欠である4,5) 。
後発白内障 に対する第一選択治療。外来で施行可能で、視機能回復効果が高い。
手技の選択:
十字切開 :後嚢片が浮遊しにくく、照射数が少ない。ただし視軸近傍にpit/crackを生じる可能性がある。
円形切開 :視軸近傍へのレーザー照射を回避できるため安全性が高い。後嚢片による飛蚊症 ・炎症が出ることがある。
液状後発白内障 :下方周辺部に照射して孔を開け、貯留した白色液状物を硝子体 内へ流出させる。
Nd:YAGレーザーの注意点と合併症
一過性眼圧 上昇 :最も多い合併症。緑内障 患者ではアプラクロニジンなどの予防的点眼を検討する。
嚢胞様黄斑浮腫 :稀だが発症しうる。前部硝子体 接着(vitreomacular adhesion)がある場合は黄斑円孔 のリスクがある2) 。
網膜剥離 :強度近視 眼では特に注意が必要。
眼内レンズ 損傷・眼内レンズ 偏位 :照射エネルギーと部位に注意する。眼内レンズ が毛様溝固定の場合は瞳孔 捕獲(optic capture)が起こることがある。
虹彩 上皮剥離 :稀な合併症として報告されている3) 。
有水晶体 眼への誤照射 :患者確認と散瞳 確認の徹底が必須4,5) 。
Ohashi ら(2021)は、両眼同時にNd:YAGレーザー後嚢切開を施行した67歳女性において、硝子体 黄斑 接着が残存していた左眼のみに全層黄斑円孔 が形成された事例を報告した2) 。照射エネルギーは1.2 mJ/pulse(合計25.2 mJ)と比較的低く、レーザーパルス波そのものよりも硝子体 の収縮牽引が黄斑円孔 形成の主因と考察された。
「Optic Capture」とは広義に、眼内レンズ 光学部が所定の位置(嚢内または前嚢切開縁)から離れて捕獲・拘束された状態、またはその状態を意図的に作る手術手技を指す。
術中意図的Optic Capture(後方光学部ボタンホール固定):
後嚢の連続円形切開(posterior capsulorhexis)の開口部を通して眼内レンズ 光学部を後嚢後方に嵌入させる技術(後方光学部ボタンホール固定)。支持部は嚢の赤道部に配置する。光学部後方への水晶体 上皮細胞の侵入を遮断し、後発白内障 を実質的に根絶できる。
偶発的・術後のOptic Capture(瞳孔 捕獲):
強膜 縫合固定眼内レンズ や術後の眼内レンズ 偏位により、眼内レンズ 光学部が虹彩 前方に前方転位する状態(瞳孔 捕獲)。視力 低下・眼圧 上昇・ぶどう膜炎 ・血色素沈着緑内障 ・嚢胞様黄斑浮腫 などを引き起こす1) 。
Q
術後に眼内レンズが虹彩の前に出てしまったらどうなるか?
A
強膜 縫合固定眼内レンズ で生じる瞳孔 捕獲では、視力 低下・眼不快感・瞳孔 偏位などが起こる。多くは手術室で眼内レンズ を後方に押し戻す処置が必要だが、外来での30G針によるパラセンテーシス技術で安全に管理できる場合もある1) 。
白内障 手術後、赤道部に残存した水晶体 上皮細胞はソェンメリング輪を形成する。これらの細胞が後嚢上を移動してElschnig真珠を形成する。一方、上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition)を起こした水晶体 上皮細胞がコラーゲンを含む細胞外基質を産生して線維化を引き起こす。
眼内レンズ のシャープエッジと前嚢重なりによる物理的バリアは、水晶体 上皮細胞の移動を阻止することで初期の後発白内障 予防に効果的だが、術後3〜5年で赤道部のゼンメリング輪が拡大すると後嚢への牽引力が変化し、バリア効果が減弱する。長期臨床研究では、シャープエッジ疎水性アクリル眼内レンズ でも10年後のYAGレーザー 施行率が42%に達することが示されている。
研究によって示されているエビデンスを以下に整理する6) :
シャープエッジ眼内レンズ はラウンドエッジ眼内レンズ と比較して後発白内障 スコアが有意に低い(複数のランダム化比較試験・メタアナリシス)
2013年のメタアナリシスでは、疎水性シャープエッジ眼内レンズ が親水性シャープエッジ眼内レンズ よりも後発白内障 率・YAGレーザー 施行率が低いことが示された
シリコン・ポリメチルメタクリレート・アクリルのシャープエッジ眼内レンズ 間ではYAGレーザー 施行率に差がない
ただし、シャープエッジ疎水性眼内レンズ の保護効果は長期(12年)ではラウンドエッジと同等になるとする研究もある
後方光学部ボタンホール固定では光学部が後嚢の連続円形切開の開口部に嵌入することで、後嚢が光学部の前方と後方の両側に存在する状態(嚢と眼内レンズ の隔壁)を形成する。この隔壁により:
水晶体 上皮細胞が光学部後方へ侵入できないため後嚢の後発白内障 が根絶される
前嚢と光学部の直接接触面積が減少し、前嚢線維化(anterior capsular opacification)も抑制される
追加の前嚢研磨と組み合わせると線維化をさらに低減できる
硝子体 が除去されると、硝子体 による眼内レンズ 支持が失われ不安定になる。加えて、水晶体嚢 を欠くことによる虹彩 の弛緩性(iridodonesis/flaccid iris)が虹彩 の前後方向の動きを増大させ、拡瞳時に光学部が虹彩 前方に脱出しやすくなる(瞳孔 捕獲)1) 。
強膜 縫合位置が輪部 から2mm後方での固定例では、2mm未満の例と比較して瞳孔 捕獲の再発頻度 が統計学的に有意に少なかった(p=0.025)1) 。
後方光学部ボタンホール固定は後発白内障 を実質的に根絶できる外科技術として研究・実践が進んでいる。連続1000例の4〜6年追跡研究では網膜剥離 発生率0.2%と良好な安全性が報告されており、標準的な嚢内固定に代わるルーチン手技としての確立が期待されている。ただし、不十分な散瞳 とチン小帯 不全が禁忌であり、手術者の十分なトレーニングが必要である。
陰性異常光視症 (negative dysphotopsia)に対して、眼内レンズ 光学部を前嚢切開縁の前方に配置するリバースキャプチャーが一部の症例で症状改善に有効と報告されている6) 。ただし議論が続いており、標準化されたプロトコールはない。
Kokame ら(2022)は、強膜 縫合固定眼内レンズ の術後瞳孔 捕獲に対し、30G針を用いた外来でのパラセンテーシス技術を開発した1) 。495眼中18眼(3.6%)に瞳孔 捕獲が発生し、54回の外来処置がすべて麻酔下(点眼麻酔)で疼痛なく施行された。手術室への緊急搬入なしに管理できたことは、手術室アクセスが制限される状況(COVID-19パンデミック等)でも有効な代替手段として評価されている。
Kokame GT, Card K, Pisig AU, Shantha JG. In office management of optic capture of scleral fixated posterior chamber intraocular lenses. American journal of ophthalmology case reports. 2022;25:101356. doi:10.1016/j.ajoc.2022.101356. PMID:35146208; PMCI D:PMC8819374.
Ohashi T, Fujiya A, Kojima T. Macular hole after Nd-YAG laser capsulotomy with OCT findings. Clinical case reports. 2021;9(5):e04267. doi:10.1002/ccr3.4267. PMID:34026205; PMCI D:PMC8123743.
Jakobsen TS, Kaya MY, Hjortdal JØ, Ivarsen AR. Iris epithelium detachment - An uncommon complication of Nd:YAG laser capsulotomy. American journal of ophthalmology case reports. 2021;23:101122. doi:10.1016/j.ajoc.2021.101122. PMID:34095609; PMCI D:PMC8167814.
Moshirfar M, Tukan AN, Bundogji N. Cataract extraction after inadvertent Nd:YAG laser capsulotomy in a phakic eye. SAGE Open Med Case Rep. 2022;10:2050313X221097775. doi:10.1177/2050313x221097775.
Kodama PO, Cassoni LL, Nunomura CY, Jorge R. Complication after inadvertent Nd:YAG laser capsulotomy in a phakic eye. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025;40:102468. doi:10.1016/j.ajoc.2025.102468.
Miller KM, Oetting TA, Tweeten JP, et al.; American Academy of Ophthalmology Preferred Practice Pattern Cataract/Anterior Segment Panel. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2022;129(1):P1-P126. doi:10.1016/j.ophtha.2021.10.006. PMID:34780842..
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