この疾患の要点
神経節膠腫(GG)は中枢神経系腫瘍全体の0.4〜1.7%を占めるまれな低悪性度腫瘍である。
眼症状は腫瘍の発生部位によって異なり、鞍上部では視力 低下・視野障害、松果体部では上方注視麻痺(パリノー症候群)、後頭蓋窩では乳頭浮腫 ・複視 が生じる。
鞍上部GGの文献レビューでは19例中15例に視機能障害が認められ、視神経 ・視交叉 ・視索の浸潤が確認されている。
松果体部では閉塞性水頭症による頭蓋内圧亢進が両側乳頭浮腫の主因となる。
BRAF V600E変異は低悪性度GGに高頻度に認められ、退形成性転換に際してCDKN2A/B欠失が加わる。
退形成性GGの予後は不良であり、中央生存期間は24.7〜29ヶ月とされるが、肉眼的全摘後は44ヶ月に延長する。
BRAF阻害薬(ダブラフェニブ+トラメチニブ)は退形成性転換例に対する研究段階の治療選択肢として注目されている。
神経節膠腫(ganglioglioma; GG)は、異形性神経細胞とグリア細胞の双方を含む混合性腫瘍である。WHO分類でGrade 1〜2の低悪性度腫瘍が大半を占める。
中枢神経系腫瘍全体に占める割合は0.4〜1.7%であり、年間発生率は一般型で約0.06〜0.02件/百万人ときわめてまれな腫瘍である。1)2) 成人GGの約19%は後頭蓋窩に発生する。3)
神経眼科的徴候は、腫瘍が視路・眼球運動に関与する構造を直接圧迫・浸潤する場合、または頭蓋内圧亢進を介して生じる場合がある。発生部位と眼症状の対応を理解することが診断の鍵となる。
Q 神経節膠腫はどの年齢に多いか?
A 小児・若年成人に多い傾向があるが、成人例・高齢者例も報告されている。75歳2) や76歳3) の小脳GGが報告されており、発症年齢に上限はない。極めて緩徐に成長することがあり、小児期に発見されたGGが約60年にわたり無症候であった症例も存在する。3)
神経節膠腫による神経眼科的自覚症状は部位により異なる。
視力低下・視野障害 :鞍上部病変で視神経・視交叉・視索が侵された場合に生じる。
複視(二重視) :外転神経麻痺 など眼球運動障害 を示す。頭蓋内圧亢進でも生じる。
頭痛 :水頭症による頭蓋内圧亢進に伴う。乳頭浮腫の出現前から訴えることが多い。
視野の欠け・霞み :視路圧迫・乳頭浮腫に伴う慢性視力障害として自覚される。
発生部位によって眼科的所見が異なる。
鞍上部病変
視神経浸潤 :視力低下・求心性視野狭窄。直接浸潤が5例報告されている。7)
視交叉浸潤 :両耳側半盲 。鞍上部GG19例のレビューで9例に確認。7)
視索浸潤 :同名半盲 パターン。文献上1例報告。7)
松果体部病変
パリノー症候群 :上方注視麻痺・輻輳障害・瞳孔 光解離を呈する。松果体部腫瘍による中脳背側圧迫が原因。
両側乳頭浮腫 :閉塞性水頭症による頭蓋内圧亢進が主因。痙攣を伴うこともある。4)
後頭蓋窩病変
乳頭浮腫 :閉塞性水頭症に伴う両側性乳頭浮腫。
外転神経麻痺 :頭蓋内圧亢進による偽局在徴候として生じる。複視が主訴となる。
Li らは鞍上部GGの文献19例をレビューし、15/19例(79%)に視機能障害を認めたと報告した。7) 内訳は視神経浸潤5例、視交叉浸潤9例、視索浸潤1例であり、腫瘍が視路を直接侵すことが視力・視野障害の主因であることを示した。
Q パリノー症候群とはどのような状態か?
A パリノー症候群は中脳背側(上丘)の圧迫・障害により生じ、上方注視麻痺・輻輳障害・瞳孔光解離の三徴を呈する。松果体部腫瘍に特徴的な眼科所見であり、神経節膠腫を含む松果体部腫瘍では閉塞性水頭症と併存することが多い。4)
神経節膠腫の確立された環境的リスク因子は明らかでない。遺伝子変異が腫瘍形成に関与することが示されている。
BRAF V600E変異 :低悪性度GGに高頻度に認められる driver mutation である。
CDKN2A/B欠失 :退形成性転換に際して追加される遺伝子変化として報告されている。5)
H3F3A K27M変異・NF 1変異 :脊髄GGで報告された分子変化であり、退形成性経過と関連する。8)
退形成性転換率は報告により異なり、0.6〜14.5%とされている。1) 退形成性GGは再発・転移リスクが高い。
神経節膠腫の診断は神経画像と病理組織検査の組み合わせによる。
MRIが診断の中心となる。
T1強調像 :嚢胞を伴う壁在結節が典型像。造影効果は様々である。
T2強調像 :嚢胞成分は高信号を呈する。
石灰化 :単純CTで6〜30%に認められる。6)
鞍上部GG :第三脳室底から発生し、視路への浸潤を評価するためMRI視路撮影が有用。7)
神経眼科的評価として以下を実施する。
眼底検査 ・光干渉断層計 (OCT) :乳頭浮腫の有無・程度を評価する。
視力・視野検査 :視路障害のパターン(単眼性・両耳側・同名性)を特定する。
眼球運動検査 :外転神経麻痺・上方注視麻痺の有無を確認する。
瞳孔反応 :直接対光反射消失(求心性障害)や光解離(松果体部病変)を評価する。
小脳GGでは毛様細胞性星細胞腫との鑑別が特に困難であり、病理組織学的確認が必要である。6)
部位 主な鑑別疾患 鞍上部 クラニオファリンジオーマ、視路膠腫 松果体部 胚細胞腫、松果体細胞腫 小脳 毛様細胞性星細胞腫、髄芽腫
確定診断は組織診断による。BRAF V600E変異の確認は治療選択に直結するため、現在では必須の検索項目とされている。5)
肉眼的全摘(GTR)が第一選択である。
低悪性度GGのGTR後は良好な予後が期待できる。5年生存率90%以上との報告がある。6)
退形成性GGでは、GTR後の中央生存期間は44ヶ月であり、不完全切除例の全体中央生存(24.7ヶ月)を上回る。1)
鞍上部GGでは視路保護のため完全切除が困難な場合がある。
退形成性GGや残存腫瘍例では術後放射線治療が行われる。
側頭葉退形成性GGへの亜全摘+放射線60Gy+テモゾロミド120mg/日投与が24ヶ月生存を達成した症例がある。1)
小脳退形成性GGへのGTR+強度変調放射線治療(IMRT)40Gy/15分割が6ヶ月再発なしを達成した報告がある。2)
退形成性GGの生存期間を以下に示す。
条件 中央生存期間または生存率 退形成性GG全体 24.7〜29ヶ月1)8) GTR後(退形成性GG) 44ヶ月1) 2年生存率(退形成性GG) 約40%2) 2年生存率(一般型GG) 約90%2)
治療における注意点
退形成性GGは再発・転移のリスクが高く、集学的治療が必要である。
松果体部病変では閉塞性水頭症に対する緊急処置(脳室腹腔シャント術など)が必要となることがある。4)
脊髄退形成性GGでは術後6ヶ月以内に転移をきたした症例が報告されており、注意を要する。8)
Q 退形成性神経節膠腫の予後はどのくらいか?
A 退形成性GGの中央生存期間は24.7〜29ヶ月とされる。1)8) 肉眼的全摘が達成された場合は44ヶ月に延長するとの報告がある。1) 低悪性度GGの2年生存率が約90%であるのに対し、退形成性GGでは約40%と予後が大きく異なる。2)
神経節膠腫は分化した神経細胞とグリア細胞が混在する腫瘍であり、その神経眼科的影響は以下の機序による。
直接浸潤 :鞍上部GGでは視神経・視交叉・視索への直接浸潤により視路障害が生じる。7) 腫瘍の増大に伴い浸潤範囲が拡大する。
圧迫効果 :後頭蓋窩・松果体部では第四脳室・中脳水道の閉塞が閉塞性水頭症を引き起こし、頭蓋内圧亢進による乳頭浮腫・偽局在の外転神経麻痺が生じる。
中脳背側圧迫 :松果体部腫瘍が上丘・後交連を圧迫することでパリノー症候群が発現する。
分子レベルでは、BRAF V600E変異がRAF-MEK-ERK経路を恒常的に活性化し、腫瘍細胞の増殖を促進する。低悪性度GGがこの変異のみを持つ場合、緩徐な経過をとることが多い。退形成性転換にはCDKN2A/B欠失などの追加変異が関与することが示されており5) 、悪性化の機序として注目されている。
Vizcaino らはBRAF V600E変異GGの退形成性転換3例を病理・分子・エピジェネティクスの観点から解析し、CDKN2A/B欠失の獲得が転換に重要であることを示した。5)
BRAF V600E変異を標的とした分子標的治療が退形成性GGに適用されている。
Vizcaino らはBRAF V600E変異を持つ退形成性転換GG3例に対して、ダブラフェニブ(BRAF阻害薬)+トラメチニブ(MEK阻害薬)の併用療法を施行し、17〜31ヶ月にわたる病勢安定を達成したと報告した。5)
ベムラフェニブ(別のBRAF阻害薬)についても退形成性GGへの適用が言及されている。2) これらの分子標的薬は切除不能・再発例における新たな治療選択肢として研究が進んでいる。
Q BRAF阻害薬は神経節膠腫に標準的に使えるか?
A 現時点では研究段階であり標準治療ではない。ダブラフェニブ+トラメチニブの組み合わせが退形成性転換GGの3症例で17〜31ヶ月の病勢安定を達成したと報告されているが5) 、大規模臨床試験による検証が必要である。BRAF V600E変異の確認が前提となる。
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