この疾患の要点
近接共同運動反射痙攣は、調節痙攣・急性内斜視 ・縮瞳の三徴を特徴とする病態である。
多くは心因性(転換性障害 )であり、不安や精神的苦痛が誘因となる。
器質的原因(頭部外傷、多発性硬化症 、脳腫瘍など)の除外が必須である。
単眼ひき運動で外転制限と縮瞳が消失することが、外転神経麻痺 との重要な鑑別点である。
調節麻痺下屈折 検査により偽近視 (縮瞳を伴う見かけ上の近視 化)を確認できる。
心因性の場合、ほとんどの症例で自然軽快する。
近接共同運動反射痙攣(spasm of the near synkinetic reflex)は、調節痙攣(accommodation spasm)・急性内斜視 (acute convergent strabismus)・縮瞳(miosis)の三徴を特徴とする病態である。
近見反応けいれん(spasms of the near reflex)、輻湊けいれん(convergence spasm)とも呼ばれる。発作性に両眼が内転し持続する状態であり、近見反応の3要素(輻湊・調節・縮瞳)が核上性の両眼性連合運動として同時に生じる。これらは意識的に分離することができない。
本疾患は機能性と器質性に大別される。1)
機能性(心因性) :最も一般的。不安や精神的苦痛が主な誘因。転換性障害 として位置づけられる。
器質性 :頭部外傷、多発性硬化症 3) 、代謝性脳症、Arnold-Chiari奇形、腫瘍など。中脳背側レベルの輻湊中枢の被刺激性亢進や器質的病変(pseudo sixth nerve palsy)により生じることもある。
Q
近接共同運動反射痙攣は子供にも大人にも起こるのか?
A
本疾患は小児眼科領域に分類されるが、成人発症例も報告されている。2) 機能性の場合は健康な個人にも発症し、年齢を問わず不安や精神的苦痛が誘因となる。
霧視 :一過性の視界のぼやけ。
複視 :遠方視時の同側性複視 (眼球の内転偏位により生じる)。
眼精疲労 :目の疲れや不快感。
視力 低下 :近視 化に伴う視力 低下。
眼科以外の症状 :悪心、嘔吐、頭痛、眼痛 を伴うこともある。
急性内斜視 :発作性に両眼同時の高度内斜視 が持続する。両眼の極端な内転位が特徴的所見である。
縮瞳 :両眼同時の縮瞳を伴う。
外転制限 :外転制限を伴う変動のある急性内斜視 として観察される。
輻湊角の変動 :輻湊角が大きく変動することが特徴である。
偽近視 :調節麻痺薬を使用しない屈折 検査(dry refraction)で縮瞳を伴う見かけ上の近視 化を認める。
再発性 :本質的に再発性であり、不安を感じる時期に悪化する。
鑑別のポイント :単眼ひき運動では外転制限が消失し、縮瞳も消失する。
機能性(心因性)
頻度 :最も一般的な原因。
誘因 :不安や精神的苦痛。
機序 :転換性障害 (ヒステリー)のメカニズムが関与する。
特徴 :心理的に安定すると軽快することが多い。
器質性
頭部外傷 :外傷後に輻湊中枢が刺激されて発症。
多発性硬化症 :中枢神経の脱髄による輻湊中枢への影響。3)
代謝性脳症・腫瘍 :中脳背側レベルの器質的病変。
Arnold-Chiari奇形 :後頭蓋窩の先天奇形による関与。
Q
ストレスや不安で本当に目の症状が出るのか?
A
心因性の近見反応けいれんでは、転換性障害 のメカニズムにより不安や精神的苦痛が輻湊・調節・縮瞳の反射的な亢進を引き起こすと考えられている。この場合、眼球や神経に器質的な病変はなく、心理的なアプローチで軽快することが多い。
診断は通常、臨床的に行う。
調節麻痺下屈折 検査(cycloplegic refraction) :必須の検査である。遠視 化(hyperopic shift)または既存の近視 の軽減が認められる。dry refractionとの差により一過性の調節けいれんを確認できる。
ひき運動(versions)の評価 :両眼ひき運動では外転制限を示すが、単眼ひき運動では制限が消失し縮瞳も消失する。これが輻湊けいれんの特徴的鑑別所見である。
輻湊角の測定 :輻湊角が大きく変動することを確認する。
画像検査 :神経学的所見・全身所見がある場合、または閉鎖性頭部外傷の既往がある場合に実施する。
波面センサー :近見反応の3要素(調節・縮瞳・輻湊)を同時測定でき、病態把握に有用とされる。
以下の疾患との鑑別が重要である。
疾患 鑑別ポイント 両側外転神経麻痺 縮瞳・調節障害を伴わない。左右差あり 開散不全(開散麻痺) 調節障害・瞳孔異常 を随伴しない 重症筋無力症 4) 眼瞼下垂 ・易疲労性。縮瞳・調節痙攣なし多発性硬化症 3) その他の神経学的所見を伴う
輻湊けいれんは「高度内斜視 +縮瞳+調節けいれん」の三徴が特徴である。外転神経麻痺 との鑑別では単眼ひき運動の実施が鍵となる。
Q
外転神経麻痺とどのように区別するのか?
A
外転神経麻痺 では縮瞳や調節障害を伴わず、外転制限は片眼性で変動しない。輻湊けいれんでは単眼ひき運動を行うと外転制限が消失し、縮瞳も消失する。また輻湊角が大きく変動することも特徴である。詳細は「診断と検査方法」の項 を参照。
原因疾患の治療を優先する。
心理的サポート :患者の不安を除去し、心理的な安心感を提供することが基本である。
片眼遮閉 :輻湊けいれんの除去に有効なことがある。
調節麻痺薬の点眼 :輻湊けいれんが持続する場合に行う(アトロピンなど)。
プラスレンズ(凸レンズ) :調節負荷を軽減する目的で使用する。二重焦点レンズ(bifocals)が選択されることもある。
自然軽快 :ほとんどの症例で自然軽快する。
Q
治療しなくても自然に治るのか?
A
心因性の場合、ほとんどの症例で自然軽快する。ただし器質性の場合は原因疾患の治療が必要であり、放置すると改善しないことがある。精神的ストレスが誘因の場合は、ストレスの軽減と心理的サポートが重要である。
近見反応(near reflex)とは、近くを見る際に輻湊・調節・縮瞳が連合運動として同時に生じる生理的反応である。核上性支配による両眼性連合運動であり、意識的に各要素を分離することはできない。
近見反応のEdinger-Westphal核(EW核)への核上性線維は、対光反射の求心線維が通る中脳視蓋前域や後交連より腹側を走行する。毛様神経節における対光反射と調節反応に関わる神経細胞の比は3:97であり、調節に関わる細胞が圧倒的多数を占める。
輻湊けいれんの発症機序は原因によって異なる。
心因性 :転換性障害 のメカニズムが関与する。精神的苦痛が近見反応の反射亢進を引き起こすと考えられる。
器質性 :中脳背側レベルの輻湊中枢の被刺激性亢進や器質的病変(pseudo sixth nerve palsy)により生じる。腫瘍・外傷・脱髄など、中脳背側から被蓋にかけての病変が原因となりうる。
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