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腫瘍・病理

ブルーラバーブレブ母斑症候群

1. ブルーラバーブレブ母斑症候群とは

Section titled “1. ブルーラバーブレブ母斑症候群とは”

ブルーラバーブレブ母斑症候群は、皮膚および内臓(最多は消化管)に多発する静脈奇形(venous malformation, VM)を特徴とする、まれな全身性血管疾患である。Bean症候群とも呼ばれる。

1860年にGascoyenが初報告し、1958年にBeanが現在の病名で命名した。

疫学的には極めてまれであり、文献報告は約200〜350例規模にとどまる4)10)。全人種で報告されており、性別による明らかな偏りはない4)

皮膚症状は出生時〜幼児期早期に顕在化し、内臓病変は成人期早期に明らかになることが多い。成人期に診断される割合は4%未満と報告されている4)。大部分は孤発性であるが、一部に常染色体優性遺伝(9p連鎖)が報告されている。

Q BRBNSはどのくらいまれな疾患か?
A

世界の文献報告が200〜350例規模にとどまる極めてまれな疾患である。成人期に診断される割合は4%未満と報告されており、多くは幼児期〜小児期に発症する。

  • 黒色便:消化管病変からの慢性出血による。最も頻度の高い消化器症状。
  • 貧血症状:めまい・息切れ・倦怠感。重篤な鉄欠乏性貧血に伴う。Hb 1.7 g/dL3)やHb 2 g/dL5)に至る例も報告されている。
  • 皮膚病変の疼痛:通常は無症状だが、圧迫時に疼痛・圧痛を生じることがある。
  • 眼症状眼窩痛・視力低下・眼瞼下垂眼窩結膜・眼内への病変波及による。
  • 神経症状:中枢神経系の病変を伴う場合にてんかんや麻痺を生じることがある6)

皮膚病変

外観:青赤色・薄壁の嚢胞状病変。ゴム様の質感を呈する。

圧迫反応:圧迫で虚脱(空虚化)し、除圧後に緩徐に再充満する。この所見が診断的に特徴的である。

サイズ・数:1〜30 mm。1個〜数百個まで多様。臓器関与頻度(120例)では皮膚93%。

消化管病変

好発部位:小腸が最多。胃・十二指腸・大腸にも多発する。

内視鏡所見:青紫色の結節性病変。胃8・10・14 mm、十二指腸15 mm、大腸6〜8 mmの病変が報告されている3)

特殊例:皮膚病変を欠く消化管孤立型が7%未満で報告される4)8)

眼科的所見

関与頻度:眼病変はまれだが、結膜などの静脈奇形が報告されている。

病変部位眼窩周囲・眼瞼・結膜虹彩網膜の血管腫。結膜の静脈奇形の報告あり7)

臨床症状眼球突出眼球陥凹眼瞼下垂・縮瞳・眼圧上昇・結膜下出血眼窩内出血。眼窩病変は海綿状血管腫に類似した画像所見を呈する。

カサバッハ・メリット症候群:血管腫内に血小板が捕捉され播種性血管内凝固症候群(DIC)が生じる重篤な合併症。血小板減少・フィブリン分解産物(FDP) > 150 μg/mL・フィブリノゲン32 mg/dLに至った症例が報告されており、ヘモグロビン2 g/dLの重篤な貧血を伴った5)

Q 皮膚に病変がなくてもBRBNSの可能性はあるか?
A

可能性はある。皮膚病変を認めない消化管孤立型も少数ながら報告されている。原因不明の消化管出血や難治性鉄欠乏性貧血では、皮膚症状がなくてもBRBNSを鑑別診断に挙げることが重要である。

Q BRBNSで眼に症状が出ることはあるか?
A

まれに眼窩・眼瞼・結膜虹彩網膜に静脈奇形が生じ、眼球突出眼瞼下垂視力低下・眼圧上昇などを呈することがある。眼窩病変は画像上、海綿状血管腫との鑑別が必要になる場合もある。

BRBNSの主要な病因はTEK遺伝子(TIE2受容体チロシンキナーゼをコードする)の体細胞性活性化変異である2)

  • TEK遺伝子変異:c.596A>C変異をはじめとする体細胞性活性化変異が同定されている2)。TIE2受容体はアンジオポエチンの受容体であり、変異によりリガンド非依存的に恒常活性化する。
  • PI3K/AKT/mTOR経路の活性化:TEK変異によりPI3K/AKT/mTOR経路が恒常活性化し、異常な血管新生・血管増殖が生じる2)。この経路の関与がシロリムス(mTOR阻害薬)の有効性の根拠となっている。
  • 関連遺伝子:粘膜類天疱瘡9・NOTCH3・PRSS1・PDGFRA・CCM2・TSC2・TNFAIP6などの遺伝子変異との関連も報告されている2)
  • 遺伝形式:大部分は孤発性。一部に常染色体優性遺伝(9p連鎖)が報告されている。GLMN生殖細胞系列変異の可能性も示唆されている。
  • 病変分類(Sobletの分類):1型=病変10個未満で10 mm超、2型=病変10個以上で2 cm未満と分類される1)

特徴的な皮膚病変(青赤色・ゴム様の圧迫空虚化する結節)に消化管出血または他臓器関与を組み合わせた臨床診断が基本となる。

単層内皮細胞に裏打ちされた血液充満空間・線維性隔壁・異栄養性石灰化が特徴的な所見である8)。粘膜下層を中心とした拡張した薄壁血管腔が確認される。

  • MRI:T1低信号・T2高信号・SWI(磁化率強調画像)でのヘモジデリン沈着が特徴的。造影後に増強効果を認める1)
  • CT:消化管内の散在性石灰化および造影増強を認める1)
  • カプセル内視鏡:小腸病変評価の第一選択3)
  • 超音波内視鏡(EUS):病変の深達度評価に有用3)
  • 術中内視鏡:手術中の小腸病変の局在確認に用いられる9)

重篤な鉄欠乏性貧血を呈することが多い。ヘモグロビン1.7 g/dL・フェリチン2.0 ng/mL・鉄16 mg/dLの例が報告されている3)

類似疾患との鑑別が重要である。

疾患名鑑別ポイント
オスラー・ウェーバー・ランデュ病毛細血管拡張・動静脈奇形が主体
クリッペル・トレノーネイ症候群静脈瘤・軟部組織肥大・骨肥大の三徴
マフッチ症候群軟骨腫を伴う血管腫
スタージ・ウェーバー症候群顔面血管腫・軟膜血管腫・緑内障
カポジ肉腫HHV-8関連の血管肉腫

BRBNSに対する根治療法は確立されておらず、症状の程度・病変分布に応じた集学的治療が行われる。

鉄剤補充・輸血が貧血管理の基本となる。経過観察のみで対応可能な症例もある3)10)

以下の薬物療法が報告されている。

薬剤特徴・エビデンス
シロリムス(mTOR阻害薬)消化管・皮膚病変を中心に、病変縮小・出血抑制の報告あり1)3)10)
ランレオチド(月1回)7か月間の出血再発抑制を報告4)
オクトレオチド内臓血流低下・抗血管新生作用による出血抑制
その他インターフェロンα、β遮断薬、ビンクリスチン、ベバシズマブ、サリドマイドなど10)

シロリムスはPI3K/AKT/mTOR経路の阻害薬であり、BRBNSの主要な分子病態に直接作用する。消化管・皮膚病変を中心に有効性が報告されており、現時点で最も有望な薬物療法と位置づけられる。

**ソマトスタチンアナログ(ランレオチド・オクトレオチド)**は内臓血流低下と抗血管新生作用を介して出血を抑制する。ランレオチドの月1回投与で7か月間の出血再発抑制が報告されている4)

消化管病変に対しては以下の内視鏡的治療が選択される。

  • アルゴンプラズマ凝固(APC)ポリペクトミー:小病変に対して10)
  • 内視鏡的粘膜切除術(EMR):粘膜病変の切除に使用3)
  • ハイブリッド内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD):14 mmの病変をen bloc切除した報告がある3)
  • バンド結紮術:出血病変への応用1)
  • シアノアクリレート注入:小腸虚血(腸間膜静脈塞栓)の合併症が報告されており慎重な適応判断が必要9)

内視鏡的治療が困難な多発病変や大量出血には外科的切除が適用される。

  • 腹腔鏡下切除:病変の範囲に応じて、限局病変を切除した報告がある3)
  • 小腸切除:内視鏡治療が困難な多発・出血病変で検討される8)9)

確立された管理法は存在しない。眼窩結膜病変では視機能障害や眼圧上昇の有無を評価し、全身病変の治療方針と合わせて眼科と内科が連携する。

Q シロリムスはどのような効果が期待できるか?
A

シロリムスはBRBNSの主要な分子病態であるPI3K/AKT/mTOR経路を阻害することで、病変の縮小と出血抑制効果が期待できる。消化管・皮膚病変を中心に報告が蓄積している。ただし標準的な用量・投与期間は確立されておらず、専門的な管理下での使用が必要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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BRBNSの中核的な病態はTEK遺伝子の体細胞性活性化変異によるTIE2受容体の恒常活性化である2)

Xingら(2025)は全エクソーム解析によりBRBNS症例にTEK c.596A>C変異(T1105N-T1106Pダブルシス変異を含む)を同定し、PI3K/AKT/mTOR経路の恒常活性化が異常な血管新生を駆動することを示した2)。また、単巣性静脈奇形の約20%にはPIK3CA変異が関与することも報告されている。

TIE2はアンジオポエチン(Ang-1, Ang-2)の受容体チロシンキナーゼであり、血管内皮の恒常性維持に必須の役割を担う。TEK変異によりリガンド非依存的なシグナル活性化が起こり、血管平滑筋の欠如した異常に拡張した薄壁血管腔が形成される。

BRBNSに関連するとして同定された遺伝子は粘膜類天疱瘡9・NOTCH3・CCM2・PDGFRA・TSC2など多岐にわたる2)。特にTSC2変異はmTOR経路の上位調節因子であり、結節性硬化症とBRBNSの合併例における共通分子病態の存在を示唆する6)

カサバッハ・メリット症候群の機序

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血管腫内での血小板の機械的捕捉が慢性消費性凝固障害の引き金となる。さらに炎症をはじめとするsecond hitが加わることでDICが進展すると考えられている5)

Jitsuikiら(2022)はBRBNSにカサバッハ・メリット症候群と心不全を合併した症例を報告した5)。ヘモグロビン2 g/dL・血小板10.7万・フィブリン分解産物 > 150 μg/mL・フィブリノゲン32 mg/dLの重篤な状態を呈し、治療後に左室駆出率が30%から55%まで回復した。ガレン大静脈瘤の合併も確認された。

ソマトスタチンアナログの作用機序

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ソマトスタチンアナログは内臓血流低下作用と抗血管新生作用の双方を介して消化管病変からの出血を抑制すると考えられている4)

Q BRBNSの原因遺伝子変異は何か?
A

主な原因はTEK遺伝子(TIE2受容体をコードする)の体細胞性活性化変異である。変異によりPI3K/AKT/mTOR経路が恒常活性化し、異常な血管形成が引き起こされる。関連遺伝子として粘膜類天疱瘡9・NOTCH3・TSC2なども同定されており、遺伝的多様性が示唆されている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

シロリムスを用いた症例報告・小規模研究が蓄積している。消化管出血や重症貧血の制御を目的としたmTOR阻害療法の標準化に向け、用量・投与期間・再発予防に関する知見の蓄積が続いている2)10)

全エクソーム解析による遺伝子同定

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Xingら(2025)は複数のBRBNS症例に全エクソーム解析を施行し、TEK変異以外にも粘膜類天疱瘡9・NOTCH3・PRSS1・PDGFRA・CCM2・TNFAIP6を含む広範な遺伝子異常を同定した2)。BRBNSの遺伝的不均一性の解明が進むことで、個別化医療への応用が期待される。

Mithanthayaら(2023)は抗凝固療法中にもかかわらず消化管出血を来したBRBNS患者において、静脈血栓塞栓症のリスクという新たな問題を提起した4)。200個以上の小腸病変を有するこの患者では、ランレオチド月1回投与が7か月間の出血再発抑制に有効であった。BRBNSにおける抗凝固・抗血栓管理は今後の検討課題である。

結節性硬化症合併例のmTOR経路共有

Section titled “結節性硬化症合併例のmTOR経路共有”

結節性硬化症とBRBNSの合併例が報告されており6)、mTOR経路に着目した治療戦略の検討につながる可能性がある。

術中内視鏡とシアノアクリレートの合併症

Section titled “術中内視鏡とシアノアクリレートの合併症”

Lekamalageら(2024)は術中内視鏡でBRBNS小腸病変を確認し、シアノアクリレート注入後に腸間膜静脈塞栓による小腸虚血が発生した症例を報告した9)。内視鏡的治療の適応と手技の安全性に関する検討が必要である。


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