この検査の要点
ワース4灯試験(W4LT)は赤緑眼鏡を用いて両眼視機能を評価する臨床検査である。
感覚性融像、抑制、異常網膜対応 (ARC)、複視 、優位眼の判定に用いられる。
3歳頃から実施可能で、小児の斜視 ・弱視 の評価に広く利用される。
赤1灯・緑2灯・白1灯の視標を近見(33cm)と遠見(6m)の両距離で検査する。
見える光の数(2〜5個)と色の配置から融像・抑制・複視 を判定する。
遠見で片眼抑制、近見で正常の場合は単眼固視症候群を示唆する。
検査距離を変えることで抑制暗点の大きさを推定できる。
ワース4灯試験(Worth Four Light Test / Worth’s Four Dot test; W4LT)は、両眼視(binocular vision)を評価するための臨床検査である。1908年にWorthが著書 Squint: Its causes, pathology and treatment で発表した。
本検査は赤緑眼鏡で両眼を分離し、以下の項目を評価する。
感覚性融像 :両眼の映像を重ね合わせて単一視できるかどうか1)
抑制 :片眼の映像が中枢で無視されていないか
異常網膜対応 :斜視 眼の中心窩 以外の網膜 部位が対応点として機能していないか
複視 :2つの像が分離して知覚されていないか
優位眼 :白色視標がどちらの眼の色で知覚されるか
赤緑フィルターにより日常視とはかけ離れた両眼分離を行う検査であり、眼位に無関係に測定できる特徴を持つ。両眼視機能検査 の中では最も簡便で、2歳後半〜3歳頃から実施可能である。小児用にはBerens 3灯検査(赤い人形・緑の象・白い円を視標とする)もある。
Q
ワース4灯試験は何歳から受けられますか?
A
3歳頃から実施可能である。視標の見え方を言葉で報告できることが条件となる。小児用には絵柄を用いたBerens 3灯検査も使用される。
検査中に患者が見える光の数と色の配置から、以下のように両眼視の状態を判定する。
正常融像
4つの光 :正位(眼位正常)の患者では正常な両眼融像を意味する。白色灯は優位眼のフィルター色(赤または緑)で知覚されるか、赤緑が混ざって見える。
抑制
2つの赤い光 :左眼抑制。緑フィルター側の映像が中枢で抑制されている。
3つの緑の光 :右眼抑制。赤フィルター側の映像が抑制されている。
交互抑制 :3つの緑と2つの赤が交互に見える状態。同時に5つ見えているのか交互なのかを確認する必要がある。
複視
5つの光(右に赤、左に緑) :同側性複視 (uncrossed diplopia)。内斜視 で予測される結果である。外斜視 患者でこの配置が出た場合は異常網膜対応 を示唆する。
5つの光(右に緑、左に赤) :交差性複視 (crossed diplopia)。外斜視 で予測される結果である。内斜視 患者でこの配置が出た場合は異常網膜対応 を示唆する。
異常網膜対応
顕性斜視 で4つの光 :調和性異常網膜対応 を示す。正位でないにもかかわらず融像が成立している。
斜視 方向と矛盾する複視 パターン :内斜視 で交差性複視 、外斜視 で同側性複視 が出た場合も異常網膜対応 を示唆する。
検査結果の解釈には眼位の把握が必須である。
正位で4灯 → 正常対応・融像あり
顕性斜視 で4灯 → 調和性異常対応
2灯または3灯 → 片眼に抑制あり
5灯 → 抑制なしで複視 あり。プリズムで矯正し4灯になるプリズム量を計測できる。他覚的斜視 角と一致すれば正常対応、異なれば異常対応と判断する
遠見で抑制あり・近見で正常 → 単眼固視症候群(monofixation syndrome)
ワース4灯試験の主な適応は以下の通りである。
斜視 :顕性斜視 における両眼視機能(融像・抑制・網膜 対応)の評価
弱視 :感覚性融像の評価に用いられる1)
術後評価 :斜視手術 後の両眼視機能回復の確認
単眼固視症候群の検出 :近見・遠見の結果の乖離から抑制暗点を推定
対象年齢は3歳以上が目安である。検査は明室で行い、距離は1mで周辺融像、5mで中心部の融像を評価する。
赤緑眼鏡 :右眼に赤フィルター、左眼に緑フィルターを配置
ワース4灯器 :懐中電灯型または壁掛け式ディスプレイ。赤1灯・緑2灯・白1灯の計4灯を菱形に配置する
視標の配置は以下の通りである。
屈折 矯正下で眼位を確認する
常用の眼鏡またはコンタクトレンズの上から赤緑眼鏡を装着する
近点(33cm)と遠点(6m)の両距離で視標を提示する
見える光の数・位置・色を報告してもらう
すべての光が同時に見えているか、交互に見え隠れするかも確認する
室内灯は融像を促進するなら点灯、解離を強めるなら消灯して検査する。
検査距離によって視標が網膜 上に投影される角度が変わる。この性質を利用して抑制暗点の大きさを推定できる。
検査距離 刺激角度 1/6 m 12度 1/3 m 6度 1/2 m 4度 1 m 2度
単眼固視症候群では通常1〜4度の中心抑制暗点が存在する。3m以上の距離では視標の光は中心網膜 に1度以下の範囲で投影されるため、抑制暗点内に入り認識されない。一方、近距離では光は暗点の外側に投影されるため両眼で認識できる。
具体例として、微小斜視 8Δ(4度)の右内斜視 では以下のようになる。
近見(1/3m) :4灯は網膜 上に6度の距離で投影される。4度の抑制暗点があっても暗点外に投影されるため4灯とも認識可能
遠見(6m) :4灯は網膜 上に1.25度の距離で投影される。4度の抑制暗点内に入るため右眼の灯は認識できず、左眼の3灯のみが見える
Q
近くと遠くで検査結果が異なるのはなぜですか?
A
検査距離によって視標の網膜 投影角度が変わるためである。近距離では投影角度が大きく抑制暗点の外に投影されやすいが、遠距離では投影角度が小さく暗点内に入りやすい。この差を利用して単眼固視症候群を検出できる。
赤と緑は補色の関係にある。赤フィルターを通すと赤色視標は見えるが緑色視標は遮断される。緑フィルターはその逆である。白色視標はいずれのフィルターを通しても見える。
この原理により、右眼(赤フィルター)は赤灯と白灯の2灯を、左眼(緑フィルター)は緑灯2つと白灯の3灯を知覚する。白灯は両眼共通の視標であり、融像が成立すれば赤と緑が重なった色として、または優位眼のフィルター色で知覚される。
両眼視機能は同時視・融像・立体視 の3機能からなる。融像はさらに感覚性融像と運動性融像に分けられる。
感覚性融像 :両眼網膜 の対応点に映った映像を重ね合わせて単一視する機能
運動性融像 :眼位ずれの顕性化を防ぎ感覚性融像を維持する機能。正常値は輻湊方向25度、開散方向5度、上下方向1〜2度、回旋方向8度程度である
ワース4灯試験は主に感覚性融像と抑制の評価を担う。運動性融像の定量にはプリズムバーや回旋プリズムを用い1) 、立体視 の評価にはランドットステレオテストなどを使用する。
ワース4灯試験は赤緑ガラスで両眼を分離するため、日常視からかけ離れた検査環境である。この両眼分離度の大きさは検査結果の解釈に影響する。
検査法 両眼分離度 特徴 Bagolini線条レンズ試験 小 日常視に近い ワース4灯試験 大 異常対応が出やすい 大型弱視鏡 大 顕性斜視 でも検査可能
両眼分離度が大きい検査ほど異常対応が検出されやすい傾向がある。ただし、日常視に近い検査で検出された網膜 異常対応が治療で正常化しやすいとは限らない点に留意が必要である。日常視に遠い検査から順に実施し、網膜 対応の異常の度合いを総合的に判定する。
Q
ワース4灯試験とBagolini線条レンズ試験の違いは何ですか?
A
Bagolini線条レンズ試験は両眼分離度が小さく日常視に近い状態で感覚性融像・抑制・網膜 対応を検査する。ワース4灯試験は赤緑ガラスで両眼を分離するため日常視からかけ離れた環境となり、異常対応が検出されやすい。両検査を組み合わせることで網膜 対応異常の程度を評価できる。
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