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腫瘍・病理

眼瞼悪性黒色腫

眼瞼悪性黒色腫(malignant melanoma of the eyelid)は、眼瞼皮膚のメラノサイト(メラニン細胞)の悪性増殖に起因する腫瘍である。新規(de novo)に発生する場合と、既存の母斑(nevus)から発生する場合がある。

全皮膚悪性黒色腫の1%未満、頭頸部黒色腫の7%未満、全眼瞼悪性腫瘍の約1%を占める稀な疾患である。頭頸部黒色腫の発症ピークは50〜80歳であり、他部位の皮膚黒色腫より約20年遅い。最も好発する部位は下眼瞼であり、上眼瞼の約2.6倍の頻度で発生する。

Q 眼瞼の悪性黒色腫は上眼瞼と下眼瞼のどちらに多いか?
A

下眼瞼が上眼瞼の約2.6倍の頻度で発生する。これは下眼瞼が紫外線に曝露されやすい部位であることと関連すると考えられる。

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Rylee Moody et al. A Case of Pleomorphic Dermal Sarcoma: Giant Exophytic Tumor of the Medial Canthus. Dermatopathology. 2023 Dec 29; 11(1):13. Figure 1. PMCID: PMC10801471. License: CC BY.
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  • 色素斑の変化:既存のほくろやシミの大きさ・色調・形状が変化する。
  • 新規色素斑の出現:以前なかった部位に褐色〜黒色の斑が出現する。
  • 通常は無痛性:進行期には潰瘍形成に伴う疼痛や出血を生じうる。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

疑わしい病変の評価にはABCD基準を用いる。

  • Asymmetry(非対称性):病変の形状が左右非対称。
  • Border irregularity(境界の不整):辺縁が不規則、ぎざぎざ。
  • Color variation(色調の多様性):褐色・黒・灰・桃・青・白などの混在。
  • Diameter(直径):6mm以上が疑わしい。

病変は平坦な褐色斑から結節状の隆起病変まで幅広いスペクトラムを示す。**無色素性黒色腫(amelanotic melanoma)**として色素を欠く場合もあり、色白の人では発見が困難である。紅斑・鱗屑・境界不整を手がかりとし、ダーモスコピーによる評価が有用である。

診察では局所リンパ節腫脹の触診を必ず含める。

  • 紫外線曝露:特に紫外線B波(UVB、290〜320nm)によるDNA損傷が主因。
  • 色白の肌:メラニン産生が少なく紫外線防御が弱い。
  • 異形成母斑・先天性母斑の存在:前駆病変となりうる。
  • 黒色腫の家族歴:遺伝的素因が関与する。
  • 高齢:50歳以上で発症リスクが上昇する。

眼瞼皮膚悪性黒色腫の診断は臨床的に疑い、組織学的に確定する。術中の迅速病理で切除断端における腫瘍細胞の有無を確認し、必ず永久標本で最終確認を行う。

マーカー感度特異度
S10097〜100%75〜87%
MelanA/MART-175〜92%95〜100%
HMB-4569〜93%約97%

S100は最も高感度だが、神経鞘細胞・筋上皮細胞・脂肪細胞にも陽性を示すため特異性は限定的である。MelanA/MART-1は高い特異度を持つ。HMB-45はプレメラノソームの糖タンパク質gp100のマーカーである。

米国総合がん情報ネットワーク(NCCN)ガイドライン(version 2.2023)に基づくセンチネルリンパ節生検の適応:

  • <0.8mm(潰瘍なし):センチネルリンパ節生検非推奨
  • 0.8〜1.0mm:個別に検討
  • >1.0mm:センチネルリンパ節生検提示すべき
  • 潰瘍形成あり:厚さに関わらず検討を促す
Q センチネルリンパ節生検はすべての眼瞼黒色腫に必要か?
A

必ずしも全例に必要ではない。米国総合がん情報ネットワーク(NCCN)ガイドラインでは厚さ0.8mm未満・潰瘍なしの黒色腫にはセンチネルリンパ節生検を推奨していない。1.0mm超の黒色腫や潰瘍形成例では積極的に検討する。

ステージ0(上皮内)

モース顕微鏡手術:上皮内黒色腫に対する推奨治療。再発率0〜3.6%と外科的切除(6〜20%)より優れる。

MART1免疫染色:凍結切片での黒色腫検出能を向上させ、1日でのMohs切除を可能にする。

パラフィン包埋切片:メラノサイト系病変の評価におけるゴールドスタンダード。

ステージIA〜II

広汎局所切除:10mmマージンが基本(ステージ0/IA/IB、厚さ<0.8mm)。

厚い腫瘍:2.0mm超では20mmマージンを確保する。

センチネルリンパ節生検:個別検討。陽性の場合は完全リンパ節郭清。

眼瞼の悪性黒色腫では3〜5mm以上の安全域を確保しても飛び石状に病変が散在していることがあるため、術中迅速病理で切除断端の確認が不可欠である。全身状態不良や高齢者で根治切除に耐えられない場合は放射線治療を考慮する。

米国総合がん情報ネットワーク(NCCN)による病期別推奨マージン:

病期推奨マージン
ステージ0〜IB(<0.8mm)10mm
ステージII(>2.0mm)20mm

進行期黒色腫(ステージIII〜IV)

Section titled “進行期黒色腫(ステージIII〜IV)”

センチネルリンパ節生検陽性またはステージIIIの患者は、切除と完全リンパ節郭清の後、経過観察・臨床試験・術後補助インターフェロンα療法の検討を行う。一部の患者にはリンパ節流域への放射線療法も考慮する。

ステージIVの患者は遺伝子検査のための生検、乳酸脱水素酵素(LDH)測定、画像診断を受ける。

免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)やニボルマブ(抗PD-1抗体)は、局所進行性および転移性の眼瞼黒色腫の一部で有効性が示されており、一次治療・術前補助療法・緩和ケアとして使用される場合がある。

術後は局所再発の有無だけでなく、全身転移の有無も定期的に画像検査で確認する。

Q モース手術と通常の外科切除のどちらが推奨されるか?
A

上皮内黒色腫(ステージ0)にはモース顕微鏡手術が推奨される。再発率はモース手術で0〜3.6%、通常の外科切除で6〜20%とモース手術が優れている。ただしパラフィン包埋切片がメラノサイト評価のゴールドスタンダードである。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

正常メラノサイトの悪性転換は、遺伝的・分子的変化の蓄積によって生じる。異常が多い染色体には1、6、7、9〜11、17、20番が含まれる。

MAPK経路(RAS-RAF-MEK-ERK)の活性化が中心的な役割を果たし、細胞の増殖と生存を誘導する。さらにCDKN2ATP53(p53)、PTENなどの腫瘍抑制遺伝子を含むアポトーシス経路の調節不全も発症に寄与する。

悪性黒色腫の進行は2つの段階を経る。

  • 水平増殖期(radial growth phase):表皮内または真皮浅層の表層増殖。転移性拡散とは関連せず、核分裂像は見られない。
  • 垂直増殖期(vertical growth phase):真皮に浸潤する侵襲的段階。核分裂像が顕著となり、潰瘍形成の可能性が高まる。血行性・リンパ行性転移のリスクが生じる。

悪性黒子型

Lentigo maligna melanoma:眼瞼で最も多い亜型。日光損傷部位から発生。基底表皮の異型紡錘形メラノサイトを特徴とし、パジェット様波及を示す。

表在拡大型

Superficial spreading melanoma:表皮全体に散在する類上皮細胞を特徴とし、垂直増殖を伴うことがある。

結節型

Nodular melanoma:主に垂直増殖パターン。類上皮型細胞で構成される。早期に深部浸潤を示し予後不良。

末端黒子型

Acral lentiginous melanoma:手掌・足底・爪下・口腔粘膜に発生。真皮表皮接合部の異型メラノサイト増殖を特徴とする。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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ペムブロリズマブやニボルマブなどの抗PD-1抗体は、局所進行性・転移性の眼瞼黒色腫に対して一部の症例で良好な有効性が報告されている。一次治療、術前補助療法(ネオアジュバント)、緩和ケアとしての使用が検討されている。

腫瘍の厚さ、潰瘍形成、核分裂像頻度が予後を左右する主要因子である。10年生存率はステージIAで93%、ステージIICで39%、ステージIIIAで約68%、ステージIIICで24%、ステージIVで10〜15%と報告される。


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