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角膜・外眼部疾患

SMILE角膜片移植

小切開角膜片抽出術(small incision lenticule extraction; SMILE)は、フェムト秒レーザーを用いて角膜実質内に角膜片(lenticule)を作成し、2〜3mmの小切開から摘出することで近視および近視乱視を矯正する屈折矯正手術である1)。2008年の臨床導入以来、2023年末までに世界で800万件以上が実施されている1)

SMILE手術の最大の利点は、LASIKのような角膜フラップを必要としない点にある1)。フラップ関連合併症のリスクがなく、角膜神経の保護と良好な角膜生体力学的特性の維持が得られる1)

SMILE角膜片移植とは、この手術で抽出された角膜実質角膜片を同種角膜インレイ(allogenic corneal inlay)として他の角膜疾患の治療に再利用する実験的な試みである。角膜片は純粋な実質組織であり、さまざまな屈折異常や角膜疾患に対する移植材料としての可能性が探索されている。

Q SMILE角膜片は拒絶反応を起こさないのか?
A

SMILE角膜片には角膜上皮や内皮が含まれないため、移植後の宿主による重大な免疫反応のリスクが軽減されると考えられている。ただし、長期的な免疫反応については更なる研究が必要である。

SMILE角膜片移植の対象となる患者の症状は、適応疾患によって異なる。

  • 霧視視力低下遠視老視に伴う裸眼視力の低下が主な訴えである。
  • 不正乱視円錐角膜患者では進行性の不正乱視が生じる。
  • 眼痛・異物感角膜菲薄化や穿孔を伴う症例で認めることがある。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 角膜菲薄化円錐角膜角膜潰瘍後の症例で認められる。角膜片移植による厚さの補強が検討される。
  • 角膜形状異常角膜トポグラフィで不正乱視やsteepening所見を認める。
  • 角膜混濁:一部の症例で実質混濁を伴う。

本項では、SMILE手術自体の合併症リスク因子について述べる。

SMILE手術の術中・術後合併症の発生率を示す1)

合併症発生率
切開部上皮損傷13.6%
不透明気泡層(OBL)5.7%
角膜上皮障害2.8%
角膜片剥離困難2.2%

その他に角膜片の偏心(1.0%)、不完全摘出(0.9%)、キャップ穿孔・裂傷(0.5%)などが報告されている1)

SMILE後の角膜拡張症(ectasia)の発生率は10万眼あたり11例と報告されており、LASIK(10万眼あたり90例)やPRK(10万眼あたり20例)と比較して低い2)。ただし、SMILEはLASIKより歴史が短いためフォローアップ期間の差を考慮する必要がある2)

SMILE角膜片移植の適応判断には、以下の検査が行われる。

  • 角膜形状解析(トポグラフィ/トモグラフィ)角膜曲率・厚さの分布を評価し、円錐角膜のスクリーニングや角膜菲薄化の程度を判定する1)
  • 角膜生体力学検査角膜の剛性を評価する。SMILE後はLASIK後と比較して良好な生体力学的特性が維持される1)
  • 角膜厚測定(パキメトリ):残余角膜厚の測定は術後角膜拡張症のリスク評価に不可欠である。
  • 屈折検査:矯正量の決定に用いる。

SMILE手術は以下の手順で行われる1)

  1. 点眼麻酔下でフェムト秒レーザーを用い、角膜実質内に角膜片を作成する
  2. まず下層のインターフェース(後面)を形成し、次にキャップ(上層のインターフェース)を形成する
  3. キャップ表面から角膜表面へ達する2〜3mmのトンネル切開を作成する
  4. 前層と後層を鈍的に剥離し、角膜片を鉗子または剥離器具で小切開から摘出する

SMILE角膜片はI型コラーゲンを主成分とする角膜実質で構成される。密に配列されたコラーゲン細線維が層板(lamellae)構造を形成している。上皮や内皮を含まないことが免疫学的な利点と考えられている。

凍結保存

方法:凍結保存液中でマイナス80℃で保管する。最も一般的な保存法である。

利点:コラーゲン細線維の構造と完全性が維持される。透明性を保つのに十分な角膜細胞が生存する。

課題:コストが高く手技が複雑であるため、臨床応用に限界がある。

その他の保存法

低温保存:比較的簡便な方法として検討されている。

グリセロール室温保存:コラーゲン構造が維持され安全性が確認されている。

脱細胞化角膜:脱細胞化処理後に保存液中で室温保存する方法である。

新鮮な角膜片と凍結保存された角膜片の両方で壊死細胞やアポトーシス細胞が認められるが、凍結保存された角膜片内には規則的な実質コラーゲン構造を維持するのに十分な数の角膜細胞が生存している。

Q 角膜片はどのように保存するか?
A

最も一般的なのは凍結保存(マイナス80℃)であり、コラーゲン構造と透明性を維持できる。ただしコストと手技の複雑さが課題であり、グリセロール室温保存や脱細胞化処理など代替法も検討されている。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

SMILE角膜片移植の原理は、角膜実質内への組織追加による角膜曲率の変化と角膜厚の増加にある。

角膜実質は層板構造を持つI型コラーゲンで構成されている。SMILE角膜片はこの実質のみを含み、上皮・内皮が除去されている。移植後はホスト角膜の実質内に角膜片が組み込まれ、局所的な屈折力の変化を生じさせる。

SMILEはLASIKと比較して角膜生体力学的特性をより良好に維持する1)角膜フラップを作成しないため、実質の構造的連続性が保たれる。

SMILEとFS-LASIKの5年間の比較研究では、両術式とも安全で有効であり、長期的な角膜生体力学への影響に大きな差はなかったとされる1)

角膜片移植により実質ボリュームが回復し、角膜厚が増加するため、薄くなった角膜の構造的補強効果も期待される。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

SMILE角膜片移植はさまざまな角膜疾患・屈折異常に対する応用が検討されている。

老視矯正

概念SMILE後の眼に自己角膜片を再移植し、実質ボリュームを回復させる。その後LASIK近視を目標に設定し、モノビジョンを確立する。

現状角膜の組織反応にSMILE + 角膜片移植 + LASIK眼とLASIK単独眼の間で差がなかったと報告されている。

遠視矯正

概念角膜片移植により角膜屈折力を変化させ、遠視を矯正する。SMILE遠視矯正のFDA承認を取得していない。

現状:霊長類研究やヒトの孤立症例で報告されているが、実験段階にある。sLIKE(小切開角膜片実質内角膜形成術)が新術式として提案されている。

円錐角膜

概念円錐角膜眼に角膜片を移植し、角膜厚の補強と形状改善を図る。

現状角膜片移植により視力の向上と角膜曲率の低下が報告されている。

角膜穿孔・菲薄化

概念:重度の角膜菲薄化に対し、角膜片を補強材料として使用する。

現状:3回再発した翼状片による角膜菲薄化に対して、角膜片移植が成功した症例が報告されている。

  • 角膜片の最適な保存条件と保存期間の確立
  • 移植後の長期的な透明性維持に関するデータ蓄積
  • 各適応疾患における有効性と安全性のRCTによる検証
  • 同種移植における免疫反応の長期評価
  • 角膜片の供給・規制に関する一般的枠組みの構築
Q 円錐角膜にも使えるか?
A

円錐角膜眼への角膜片移植により、視力の向上と角膜形状計測値(keratometry)の低下が報告されている。ただし、これらは限定的な報告であり、広く臨床応用されるには更なる研究が必要である。

Q 現在一般的に受けられる治療か?
A

SMILE角膜片移植は現時点では研究段階の手技であり、一般的な病院で受けられる標準治療ではない。臨床実装にはさらなる安全性・有効性の検証が必要とされている。


  1. Wang Y, Xie L, Yao K, Sekundo W, Alió JL, Mehta JS, Goel S, Elmassry A, Schallhorn J, Shilova T, Cao H, Xu L, Chen X, Zhang F, Bai J, Zhang W, Liu Q, Zhou X, Chen Y, Wang Z, Jhanji V, Yang K, Writing Committee for the Guideline Working Group. Evidence-Based Guidelines for Keratorefractive Lenticule Extraction Surgery. Ophthalmology. 2025;132(4):397-419. doi:10.1016/j.ophtha.2024.11.016. PMID:39577672.
  2. Jhanji V, Ahmad S, Amescua G, et al. Corneal Ectasia Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2024 Apr;131(4):P205-P246. doi:10.1016/j.ophtha.2023.12.038. PMID:38349299.
  3. Ang M, Gatinel D, Reinstein DZ, Mertens E, Alió Del Barrio JL, Alió JL. Refractive surgery beyond 2020. Eye (Lond). 2021;35(2):362-382. PMID: 32709958.

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