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腫瘍・病理

眼瞼黄色腫

眼瞼黄色腫(xanthelasma palpebrarum)は、黄色腫(xanthoma)の一種であり、壮年期以降に多くみられる。脂質を含有した組織球(泡沫細胞 foam cell)が真皮内に集簇して形成され、上眼瞼内眼角部に境界明瞭な黄色調の扁平隆起を生じる。両側対称性に出現することが多い。

  • 一般成人における有病率は約0.56〜1.5%と報告されている1)
  • 女性にやや多い(男女比 ≒ 1:1.3)1)
  • 壮年期以降(中年以降)に好発する
  • 眼瞼良性腫瘍のうち病理診断別頻度は約5%(3/64眼)
  • 高脂血症(特に高LDLコレステロール血症)との関連が多い
  • 約50%の症例に脂質異常症が認められる2)
  • 脂質が正常でも発症する「正脂血症性黄色腫」が存在する2)
  • 家族性高コレステロール血症では高率に眼瞼黄色腫を合併する3)
Q 眼瞼黄色腫があるとコレステロールが高いのですか?
A

約50%の症例に脂質異常症を認めますが、残りの約50%は血中脂質が正常です。正常脂質でも局所的な脂質代謝異常により発症しうるため、「黄色腫 = 必ず高脂血症」ではありません。ただし心血管リスクの評価を目的として、発見時には血液検査(総コレステロール・LDL・HDL・中性脂肪)を受けることが推奨されます。

眼瞼黄色腫の臨床像:内眼角部上下眼瞼の黄色扁平隆起
眼瞼黄色腫の臨床像:内眼角部上下眼瞼の黄色扁平隆起
Klaus D. Peter, Wikimedia Commons, 2005. Figure 1. Source ID: commons.wikimedia.org/wiki/File:Xanthelasma.jpg. License: CC BY 3.0.
上下眼瞼の内眼角部に境界明瞭な黄色調扁平隆起(眼瞼黄色腫 xanthelasma palpebrarum)が両側対称性に認められる。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う上眼瞼内眼角部の黄色扁平隆起に対応する。
  • 黄色の扁平隆起による整容的問題が主訴となる
  • 無痛性であり視機能への影響は通常ない
  • 徐々に増大するが急速増大は稀
  • 上眼瞼内眼角部に境界明瞭な黄色調扁平隆起として好発する
  • 表面は平滑で柔らかく弾力性がある
  • 両側対称性に出現することが多い
  • 下眼瞼にも出現することがある1)
  • 病変の大きさは数mm〜数cmと様々である

弾力線維性仮性黄色腫(PXE)合併時の眼症状

Section titled “弾力線維性仮性黄色腫(PXE)合併時の眼症状”

弾力線維性仮性黄色腫は皮膚の弾力線維に変性・断裂がみられる遺伝疾患で、常染色体優性遺伝と劣性遺伝がある。眼症状として以下が出現する。

  • 両眼瞼に黄色腫が発生する
  • Bruch膜の断裂により乳頭周囲に網膜色素線条(angioid streaks)が出現する
  • PXE網膜色素線条の併存はGrönblad-Strandberg症候群と呼ばれる
  • 眼底の色調異常として梨子地眼底が認められる
  • 病変が黄斑に波及すると新生血管黄斑症に至る
Q 眼瞼黄色腫で視力が下がることはありますか?
A

通常の眼瞼黄色腫は整容的問題のみで、視機能に影響しません。ただし弾力線維性仮性黄色腫(PXE)に合併した場合は異なります。PXEでは網膜のBruch膜が断裂し、網膜色素線条から脈絡膜新生血管が生じ、新生血管黄斑症へと進行することで視力低下をきたす可能性があります。首や腋窩に黄色の小丘疹がある場合はPXEを疑い眼科的精査を受けてください。

眼瞼黄色腫の発症には複数の因子が関与する。

  • 高LDL血症: 最大のリスク因子。酸化LDLが真皮マクロファージに取り込まれ泡沫細胞を形成する2)
  • 家族性高コレステロール血症: LDLR・APOB・PCSK9遺伝子変異により眼瞼黄色腫を高率に合併する3)
  • 正脂血症性黄色腫: 血中脂質が正常でも局所的なリポ蛋白リパーゼ活性の亢進により発症しうる2)
  • 糖尿病: 脂質代謝異常を介して発症リスクが上昇する1)
  • 甲状腺機能低下症: LDL上昇を介してリスクとなりうる1)
  • 心血管リスク: 眼瞼黄色腫は動脈硬化性疾患(虚血性心疾患・脳梗塞)の独立したリスクマーカーとされる4)
  • 弾力線維性仮性黄色腫(PXE: ABCC6遺伝子変異による遺伝疾患。弾力線維の石灰化・断裂が全身性に生じる

臨床的に典型例は視診のみで診断可能である。以下の所見を確認する。

  • 中年以降の両眼性上眼瞼鼻側(内眼角部)の黄色扁平隆起
  • 境界明瞭・表面平滑・無痛性
  • 両側対称性

非典型例や診断に疑問がある場合は切除生検により確定診断する。病理組織では真皮に泡沫細胞(脂質貪食マクロファージ)の集簇が認められる。

高脂血症のスクリーニングとして以下を行う。

  • 血清総コレステロール
  • LDLコレステロール(フリードウォルド法またはダイレクト法)
  • HDLコレステロール
  • 中性脂肪(空腹時採血)

PXEが疑われる場合は以下を追加する。

鑑別疾患鑑別のポイント
霰粒腫炎症性、境界不明瞭、圧痛あり
脂腺腺腫瞼縁部の白〜黄色の脳回転状隆起
弾力線維性仮性黄色腫(PXE皮膚(首・腋窩)に黄色丘疹、網膜色素線条を伴う
脂肪腫皮下の軟らかい腫瘤、黄色調は薄い
眼窩脂肪ヘルニア柔らかく波動性あり、眼圧変化で大きさが変わる

眼瞼黄色腫は良性であり、整容的問題がなければ経過観察でよい。治療を希望する場合は以下の方法から選択する。

高脂血症が認められる場合、スタチン系薬剤(例: アトルバスタチン10〜20 mg/日)による脂質管理で黄色腫が縮小することがある。根本的な原因への対処が再発予防にも重要である。

治療法適応再発率備考
外科的切除大型・整容重視26〜40%確実だが瘢痕を生じる
トリクロロ酢酸(TCA)局所塗布低侵襲希望30〜60%50〜100%濃度で化学的焼灼7)
CO2レーザー蒸散整容重視・小型10〜30%瘢痕最小、精密な蒸散が可能7)
Er:YAGレーザー蒸散精密蒸散10〜30%浅い病変・小型病変に適する8)
高周波(RF)治療小型病変未確立低侵襲6)

外科的切除: 整容希望時の基本術式。安全域をつけた紡錘形切除を行い、欠損が大きい場合は皮弁または植皮を要することがある。術後再発率は26〜40%と報告されている6)

トリクロロ酢酸(TCA)局所塗布: 50〜100%濃度のTCAを病変部に直接塗布し化学的に凝固・壊死させる低侵襲治療。麻酔不要で外来処置が可能。複数回の施行が必要な場合が多く、再発率は30〜60%と高い。色素沈着・瘢痕のリスクがある7)

CO2レーザー蒸散: レーザーで病変を蒸散させる方法。創傷治癒後の瘢痕が最小限で済む利点がある。TCAと比較して再発率が低い傾向がある7)

Er:YAGレーザー: 精密な蒸散が可能で、浅い病変や小型病変に適する。外科的切除と比較して再発率・合併症は同等との報告がある8)

Q 眼瞼黄色腫は治療後に再発しますか?
A

再発率は治療法によって異なりますが、一般に26〜60%と高く、特に高脂血症が未治療の場合に再発しやすいです。外科的切除後でも再発しうるため、スタチン等による脂質管理を並行して行うことが再発予防に重要です。再発を繰り返す場合はより侵襲的な治療(大きな切除・植皮)が必要になることがあります。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

眼瞼黄色腫の本態は、脂質を貪食したマクロファージ(泡沫細胞 foam cell)の真皮内集簇である。

血中のLDLおよび酸化LDLが真皮に沈着し、組織常在マクロファージに取り込まれる。酸化LDLはスカベンジャー受容体(SR-A・CD36)を介して大量にマクロファージに取り込まれ、脂質に富む泡沫細胞へと変化する2)。局所的なリポ蛋白リパーゼ活性の亢進も脂質蓄積に関与するとされる2)。集簇した泡沫細胞が真皮内で黄色調の扁平隆起を形成する。

病理組織学的には、表皮下に粗糙なコラーゲン線維の層形成がみられ、脂質を貪食したマクロファージ(泡沫細胞)が集簇する。ときに多核巨細胞を形成することもある。

弾力線維性仮性黄色腫(PXE)の病態

Section titled “弾力線維性仮性黄色腫(PXE)の病態”

PXEはABCC6遺伝子変異(第16番染色体 p13.1)による常染色体遺伝疾患である5)。ABCC6タンパク(MRP6)の機能喪失により、弾力線維への無機ピロリン酸(石灰化抑制物質)の分泌が障害される。その結果、弾力線維の進行性石灰化・変性・断裂が皮膚・血管・眼底Bruch膜を中心に全身性に生じる。

眼底では以下の経過をたどる。

  1. Bruch膜(眼底の支持膜)の弾力線維が石灰化・断裂する
  2. 乳頭周囲に放射状の灰褐色線条(網膜色素線条 angioid streaks)が出現する
  3. Bruch膜断裂部位から脈絡膜新生血管CNV)が発生する
  4. CNV黄斑部に及ぶと滲出性変化・出血・視力低下(新生血管黄斑症)をきたす
  5. 進行例では硝子体手術の適応となりうる

PXE網膜色素線条の併存をGrönblad-Strandberg症候群と呼ぶ。眼底の色調異常は梨子地眼底と呼ばれ、PXEの特徴的眼底所見のひとつである。

眼瞼黄色腫は単なる整容的問題にとどまらず、動脈硬化性疾患の独立したリスクマーカーである可能性が示されている。デンマークの大規模コホート研究(Copenhagen City Heart Study)では、眼瞼黄色腫を有する者は有意に高い虚血性心疾患・脳梗塞・末梢動脈疾患リスクと死亡リスクを示した4)。この関連は脂質値を調整後も独立して認められた。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

PCSK9阻害薬による難治性黄色腫への効果

Section titled “PCSK9阻害薬による難治性黄色腫への効果”

PCSK9阻害薬(エボロクマブ・アリロクマブ)はLDLコレステロールを50〜70%低下させる強力な脂質低下薬である。家族性高コレステロール血症を対象としたRCTでは、スタチン抵抗性の黄色腫に対してもエボロクマブが縮小効果を示した9)。黄色腫の消退における生物学的機序と臨床的意義については引き続き研究が進んでいる。

網膜色素線条に対する抗VEGF療法

Section titled “網膜色素線条に対する抗VEGF療法”

PXE合併の網膜色素線条から発生した脈絡膜新生血管に対し、抗VEGF薬ラニビズマブアフリベルセプトベバシズマブ)の硝子体内注射が有効との報告がある。ベバシズマブの長期観察(平均38か月)では、視力維持ないし改善が多数例で達成された10)。ただし網膜色素線条における抗VEGF療法のエビデンスはAMD等と比較して少なく、適応や治療間隔の標準化は確立されていない。

大型眼瞼黄色腫(縦径 >10 mm)に対する眼瞼形成術(blepharoplasty)技術との組み合わせにより、整容的満足度を維持しながら再発率を低下させる試みが報告されている11)


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