この疾患の要点
FEVR は網膜 周辺部の血管形成不全を本態とする遺伝性硝子体 網膜 疾患で、1969年にCriswickとSchepensが初報告した。
遺伝性疾患だが症例の半数は孤発例であり、必ずしも家族歴が明確ではない。
FZD4・LRP 5・TSPAN12・NDPの4種類が主要原因遺伝子で、いずれもWntシグナル経路に関与する。11以上の遺伝子が同定されているが、既知変異で説明できる症例は約50%にとどまる。
乳児期には白色瞳孔 や鎌状網膜 ひだとして、小児期には滲出斑・硝子体出血 として発現する。未熟児網膜症 と異なり、出生後に鎮静化しても再増殖することがある。
屈折 異常(中等度近視 ・乱視 )や弱視 を伴うことが多く、眼鏡矯正と弱視 訓練が重要である。
治療はレーザー光凝固 ・抗VEGF療法 ・硝子体手術 ・強膜 バックリング を病期に応じて組み合わせる。
成人後も虚血進行が報告されており、生涯にわたる定期的な眼科管理と家族全員の眼底検査 が必要である。
家族性滲出性硝子体網膜症 (Familial Exudative Vitreoretinopathy; FEVR )は、1969年にCriswickとSchepensが報告した網膜 硝子体 疾患である。網膜 血管の形成不全により周辺部網膜 の無血管や走行異常を認めることが本態で、続発性病変として網膜 滲出斑、新生血管 、硝子体出血 、網膜剥離 などを認める。眼底像は未熟児網膜症 に類似することが特徴である。
遺伝性疾患であり、FZD4・LRP 5・TSPAN12・NDPの4種類の主要原因遺伝子が知られている。遺伝形式は常染色体優性遺伝 が多く、常染色体劣性遺伝 やX染色体劣性遺伝の症例もある。遺伝性が明らかでないことも多く、症例の半数は孤発例である。
新生児における発生率は0.11%、平均発症年齢は6歳とされる1) 。遺伝形式は常染色体優性(AD)が最多で、常染色体劣性(AR)およびX染色体連鎖劣性(XLR)も報告される1) 。現在11以上の原因遺伝子が同定されているが、既知変異で説明できる症例は約50%にとどまる1) 。
臨床像は患者間でも同一家系内でも非対称的で、無症状の軽症から重篤な視力 障害まで多様である1) 。網膜剥離 を併発しない限り視力 は良好だが、いったん重症化すると難治性となりやすい。早期診断と予防的治療が予後を左右する。
Q
FEVRは必ず家族歴があるのか?
A
「家族性」とあるが、症例の半数は孤発例であり、家族歴が明確でない場合も多い。不完全浸透率のため家族内に無症状の変異保因者がいることがあり、表現型が大きく異なる場合もある。遺伝子検査で変異が同定されれば診断の確度が高まるが、変異が検出されなくてもFEVR を否定できない。
多くの患者は無症状であり、学校健診や家族歴をきっかけに発見されることがある。軽度の周辺部網膜 異常のみで無症状の症例も多い。発見のきっかけは年齢によって異なる。
白色瞳孔 (白瞳孔 ) :重症例で認められる。乳児期に家族からの指摘で受診することが多い。
視力 低下 :黄斑 偏位や網膜剥離 が進行した際に顕著となる。
斜視 ・不同視 :幼児期の視機能障害に伴って生じる。屈折 性の弱視 で発見されることもある。
屈折 異常 :中等度の近視 を呈することが多く、乱視 もみられる。
視力 発達障害・弱視 :鎌状網膜 ひだによる視力 発達障害や弱視 を生じることがある。
FEVR の臨床所見はステージ1〜5に分類される。年齢に応じた臨床像の変化が特徴的である。乳児期には増殖性変化や牽引性網膜剥離 のため白色瞳孔 や鎌状網膜 ひだとして発現し、小児期には新生血管 からの滲出斑や硝子体出血 をきたす。
未熟児網膜症 (ROP )に類似した眼底像を呈するが、ROP と異なり出生後に鎮静化しても再増殖することがある。特に2〜3歳までは頻度が高く、10歳を過ぎても再増殖が起こりうる点が重要である。
軽症(ステージ1〜2)
周辺部無血管域 :V字型の無血管領域が耳側周辺部に形成される。最も基本的な所見。
血管直線化・牽引 :無血管域との境界付近で血管が直線化し、黄斑 方向に牽引される。
刷子様変化(brushing) :FA 上、無血管域辺縁での網膜 血管の刷子状拡張が特徴的。
黄斑 偏位 :牽引による黄斑 の側方偏位。
重症(ステージ3〜5)
網膜 ひだ :増殖性変化を伴う網膜 ひだの形成。症例の約28%に認められる5) 。
新生血管 ・滲出 :虚血網膜 からの新生血管 形成と脂質滲出。
部分/全網膜剥離 :滲出性または牽引性の網膜剥離 。症例の21〜64%に認められる5) 。
白色瞳孔 :ステージ5(全剥離)で認められる最重症の所見。
ステージ分類の詳細を以下に示す。
ステージ 所見 主な治療方針 1 無血管域のみ 経過観察 2 新生血管 ・滲出レーザー/抗VEGF 3 周辺部網膜剥離 硝子体手術 /バックリング 4 黄斑 外網膜剥離 硝子体手術 5 全網膜剥離 硝子体手術
眼底の詳細所見として、周辺部には無血管領域・網膜 血管の多分岐・直線化・動静脈の交叉過多を認める。後極部には視神経乳頭 の低形成・黄斑 牽引・血管の多分岐がみられる。黄斑 耳側の咬合不全も本疾患の特徴の一つで、無血管領域に網膜裂孔 を形成して網膜剥離 となりうる。
光干渉断層計 (OCT )では、黄斑 低形成・網膜前膜 ・視神経乳頭 周囲のグリア組織増生を認めることがある。
Q
FEVRは必ず両眼に発症するか?
A
FEVR の多くは両眼性だが、片眼性の例も報告されている。Boalら(2021)は片眼性FEVR の症例を報告し、臨床的に非対称な表現型をとりうることを示した5) 。家族内でも重症度が大きく異なる場合があり、非常に非対称的な臨床像は本疾患の特徴の一つである。
FEVR の原因となる4種類の主要遺伝子はFZD4・LRP 5・TSPAN12・NDPで、いずれもWntシグナル経路に関与し、網膜 血管の正常発達に不可欠である。遺伝形式は常染色体優性遺伝 が多く、常染色体劣性遺伝 やX染色体劣性遺伝の症例もある。
AD/AR(常染色体)
FZD4 :Frizzled-4受容体をコードする。Norrin/β-カテニン経路の中心的役割1) 。
LRP 5 :Wnt共受容体。毛細血管成熟に関与3) 。常染色体優性・劣性の両遺伝形式をとりうる。
TSPAN12 :FEVR 患者の5.6〜8.0%1) 。細胞外ループ2(ECL-2)に変異の38%が集中1) 。
ZNF 408・KIF11 :その他の原因遺伝子。
XLR(X連鎖劣性)
NDP :Norrinタンパクをコードする。X染色体連鎖劣性FEVR の原因遺伝子。
ノーリー病 との関連 :NDP変異はノーリー病 (失明・難聴・精神遅滞)とも関連し、疾患スペクトラムを形成する。
複数の変異が重なると重症化する。LRP 5とTSPAN12の二重変異を持つ症例では、単一変異例より有意に重度の表現型を示すことが報告されている3) 。
TSPAN12の新規欠失変異がFEVR 患者で同定されており、エクソン欠失がTSPAN12変異全体の一部を構成する可能性が示唆されている1) 。
TUBGCP6変異 :小頭症を伴いFEVR 様の網膜 血管異常を呈する症例が報告されている2) 。
FA DD欠損 :アポトーシス 経路の異常を介してFEVR 様の血管病変を引き起こす例が報告されている7) 。
不完全浸透率 :同じ変異を持つ家族内でも表現型が大きく異なることがある1, 4) 。
遺伝性疾患としての家族への注意点
FEVR は遺伝性疾患のため、患者の両親・兄弟姉妹・子供も眼科検診を受けることが推奨されます。
無症状でも病変が進行していることがあるため、家族歴がある場合は定期的な眼底検査 が重要です。
遺伝子検査で変異が検出されない場合でも、臨床的にFEVR と診断される場合があります。
近親者に出産予定があれば、分娩後早期に出生児の眼底検査 を行うことが推奨されます。
Q
遺伝子変異が見つからなくてもFEVRと診断できるか?
A
診断できる。既知の変異で説明できる症例は約50%にとどまり、残りは未同定の遺伝子変異が原因と考えられている1) 。典型的な臨床所見(周辺部無血管域・V字型FA 所見・家族歴)があれば、変異未検出でも臨床診断が可能である。
FEVR の診断には広角蛍光眼底造影 (広角FA )が最も重要である。網膜 血管の走行異常は検眼鏡的には不明瞭なこともあるが、FA では描出されるため有用である。新生血管 の有無の判定にもFA が必要である。
広角FA :周辺部無血管域、血管漏出、新生血管 を検出する。V字型の無血管野パターンと血管の刷子様変化が特徴的1) 。
光干渉断層計 (OCT ) :硝子体 黄斑 牽引(VMT )、中心窩 輪郭の消失、胎児型中心窩 の遺残を評価する。黄斑 低形成・網膜前膜 ・視神経乳頭 周囲のグリア組織増生を認めることがある。
光干渉断層血管撮影(OCTA) :中心窩 無血管帯(FA Z)の縮小や血管密度の低下を評価できる。
検眼鏡検査 :眼底所見の特徴は網膜 血管の多分岐や直線化、動静脈の交叉過多である。周辺部網膜 の精査が必須である。
RetCam III :新生児・乳幼児のスクリーニングに有用4) 。
全ゲノムシーケンシング(WGS)はコピー数変異(CNV )の検出に有用であり、従来のターゲット配列決定では見落とされるエクソン欠失等の検出に優れる1) 。
検査 主な情報 特徴 広角FA 無血管域・漏出 診断の主力・全年齢 OCT 網膜 層構造・牽引非侵襲・繰返し可 OCTA 毛細血管密度・FA Z FA 造影剤不要
FEVR は以下の疾患との鑑別が必要である。網膜 血管の形成不全を呈する疾患・鎌状網膜 ひだをきたす疾患・若年者の裂孔原性網膜剥離 との鑑別が特に重要である。
未熟児網膜症 (ROP ) :早産歴の有無が鑑別の鍵。FEVR は足月産でも発症し、出生後に鎮静化しても再増殖する点が相違する。
Bloch-Sulzberger症候群(色素失調症 ) :網膜 血管形成不全や鎌状網膜 ひだをきたす。女児に多く皮膚病変を伴う。
第一次硝子体過形成遺残 (PFV ) :鎌状網膜 ひだをきたす疾患として鑑別が必要。単眼性が多く硝子体 茎を認める。
Stickler症候群 :若年者の裂孔原性網膜剥離 の鑑別として重要。
先天網膜分離症 :若年者の裂孔原性網膜剥離 の鑑別として重要。
ノーリー病 :NDP変異によるXLR疾患。精神遅滞・難聴を合併する。
コート病 :一側性・男性に多い。家族歴なし。
無症候であっても、家族の眼底検査 をして罹患の有無を確認することが重要である。RetCam IIIを用いた新生児スクリーニングプログラムの有用性が報告されている4) 。
Q
無症状でも定期検査は必要か?
A
必要である。FEVR は不完全浸透率が高く、無症状の家族にも病変が存在することがある。家族歴を持つ者には乳幼児期からのスクリーニングが推奨される。RetCam IIIを用いた新生児スクリーニングプログラムの有用性が報告されている4) 。
FEVR の治療は病期(ステージ)に応じて段階的に選択する。早期に診断し、レーザー光凝固 などの予防的治療を講じることが予後を左右する。
小児では、屈折 異常に対する矯正や弱視 訓練が必要な症例がある。中等度近視 ・乱視 を伴うことが多く、視力 発達の時期に適切な眼鏡矯正と弱視 訓練を行うことが重要である。不同視 がある場合には健眼遮蔽なども考慮する。
網膜 新生血管 や網膜裂孔 があれば、無血管領域や裂孔周囲にレーザー光凝固 を行う。無灌流領域 への光凝固が標準的な治療法であり4, 6) 、新生血管 の退縮と滲出の抑制を図る。ステージ1〜2の早期病変に対して特に有効である。
ベバシズマブ ・ラニビズマブ などの抗VEGF薬 が使用される3, 4) 。新生血管 や滲出に対して有効だが、単独投与では牽引性変化を悪化させるリスクがある点に注意が必要である3) 。レーザー光凝固 と組み合わせて使用されることが多い。
増殖性変化(増殖膜 ・牽引性剥離)に対して硝子体手術 が行われる3) 。ステージ3以上の症例で適応となる。網膜剥離 が重症化した場合は難治性となりやすいため、早期介入が推奨される。
周辺部裂孔を伴う網膜剥離 に対して強膜 バックリング が選択される。バックリング やレーザーで病変が収まっても、牽引性変化のため成長してから網膜剥離 を起こす危険性がある。成長期を通じた長期的な経過観察が必須である。
治療における注意点
抗VEGF薬 の硝子体内注射 後に牽引性変化が悪化する例が報告されている。特に牽引性成分を伴う症例では硝子体手術 の準備を整えたうえで慎重に投与する必要がある3) 。
治療後も長期的な経過観察が必要である。19歳以降も虚血進行が報告されており、成人後も定期検査を継続すべきである3) 。
網膜剥離 を併発しない限り視力 は良好だが、いったん重症化すると難治性となりやすい。早期診断と予防的治療が予後を左右する。
家族内の軽症例も経過観察対象となる。
Q
レーザー治療後も定期検査は必要か?
A
必要である。FEVR では成人後も虚血の進行が報告されている。LRP 5とTSPAN12の二重変異を持つ症例では19歳以降も疾患が進行したことが報告されており3) 、治療後であっても生涯にわたる定期的な眼科管理が推奨される。
FEVR の本態は遺伝子異常による網膜 血管の形成不全である。原因遺伝子産物はいずれもWntシグナル経路に関与し、網膜 血管の正常発達に不可欠である。
FEVR の病態の中心はNorrin/β-カテニン経路 の機能不全にある1) 。
正常では、Norrinタンパク(NDPがコード)がFZD4受容体に結合し、LRP 5共受容体およびTSPAN12を介してWnt/β-カテニンシグナルを活性化する。このシグナルが網膜 血管の形成・成熟に不可欠である1) 。
TSPAN12の役割 :ECL-2(細胞外ループ2)領域でFZD4と相互作用してシグナルを増強する1) 。ECL-2にFEVR 変異の38%が集中することは、この領域の機能的重要性を示す1) 。
LRP 5の役割 :Wnt共受容体として機能し、毛細血管の成熟と安定化に関与する3) 。LRP 5とTSPAN12の二重変異が単一変異より重度の表現型をもたらすのは、同一シグナル経路の複数構成要素が同時に障害されるためと考えられる3) 。
このシグナルが障害されると、網膜 周辺部の毛細血管形成が不完全となり、無血管域が形成される。無血管域は虚血をもたらし、VEGFが上昇して新生血管 ・滲出・牽引が生じる。
FA DD(Fas-associated protein with death domain)欠損によるFEVR 様病変では、TNF α–FA S–FA DD–カスパーゼ経路のアポトーシス 下方調節が網膜 血管内皮細胞の生存異常と虚血・新生血管 形成につながると考えられている7) 。
Meerら(2022)はFA DD欠損を持つ患者でFEVR 様の網膜 血管異常を報告した7) 。この例はNorrin/FZD4経路とは独立したFEVR 類似表現型の存在を示し、病態の多様性を示唆する。
FZD4受容体の特異的アゴニストであるSZN-413が前臨床研究において網膜 血管発生の回復を示した4) 。Norrin/FZD4経路を直接活性化することで、遺伝子変異の下流にある共通の病態を修正することが期待される。
Yangら(2025)のFZD4変異症例報告でも、FZD4シグナルの増強を目指す治療的アプローチの理論的根拠が論じられている4) 。
EMC1がWnt経路の新規調節因子として同定された4) 。EMC1はFZD4タンパクの安定性に関与する可能性があり、新たな治療標的となりうる。
WGSはFEVR の遺伝子診断において従来の手法より高感度であり、エクソン欠失などのコピー数変異を検出できる1) 。新規TSPAN12欠失変異の同定や、未解明の遺伝子変異の探索において重要な役割を担う1) 。
RetCam IIIを用いた新生児・乳幼児スクリーニングプログラムの有用性が報告されており4) 、早期発見・早期治療による予後改善が期待される。
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