食事療法
ガラクトキナーゼ欠損症
1. ガラクトキナーゼ欠損症とは
Section titled “1. ガラクトキナーゼ欠損症とは”ガラクトキナーゼ(GALK)欠損症は、II型ガラクトース血症とも呼ばれ、ガラクトース代謝異常症として知られる4つの先天性代謝異常の一つである。常染色体劣性遺伝形式をとり、GALK1遺伝子(17q25.1)の変異に起因する。これまでに30以上の病的変異が同定されている1)。最も頻度の高い2変異は、創始者変異c.82C>A(p.Pro28Thr)とOsaka変異c.593C>T(p.Ala198Val)である1)。
ガラクトース血症の中で最も軽症の型であり、全身症状を認めず白内障が唯一の症状である。
日本でのガラクトース血症全体の発生頻度は90万〜100万人に1人とされる。世界的なGALK欠損症の発生率は1:15万〜1:100万と幅がある1)。ロマ集団では創始者変異(p.Pro28Thr)により1:4万と高頻度である1)。米国での推定発生率は新生児10万人に1人である。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”乳幼児期の劇的症状に乏しく、認識が遅れることがある。白内障が見逃された場合、以下の症状として気づかれることがある。
- 両眼性核硬化性白内障:最も一般的な眼科的所見である。水晶体核の油滴状混濁で発症し、赤道部の混濁を伴った層状白内障を呈する。進行すると全白内障となる。
- 白内障の発見時期:症例報告では、生後2か月頃から瞳孔の白点を指摘され、11か月で両側核白内障と診断された例がある1)。
ヘテロ接合体の保因者も若年性白内障(40歳未満での発症)のリスクが上昇する。
全身所見(稀)
Section titled “全身所見(稀)”全身症状は基本的に認めないが、稀に以下が報告されている。
- 高ビリルビン血症:新生児期に比較的多い徴候の一つ。
- 偽脳腫瘍(特発性頭蓋内圧亢進症):ガラクチトール蓄積による浸透圧上昇が原因。
- その他:出血傾向、脳症、知的障害、運動発達遅滞、高ゴナドトロピン性性腺機能低下症。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”GALK1遺伝子の変異によりガラクトキナーゼ酵素が欠損し、ガラクトース代謝の主経路であるルロワール経路が障害される。代謝されないガラクトースは代替経路(アルドース還元酵素経路)に迂回し、浸透圧特性を持つガラクチトールが産生される1)。
水晶体前面にはアルドース還元酵素が多く存在するため、体内ガラクトース濃度の上昇に伴いガラクチトールが水晶体内に過剰蓄積する。これにより水晶体線維の膨隆・細胞溶解・蛋白変性が起こり、白内障が形成される1)。
- 常染色体劣性遺伝:ホモ接合体が発症する。ヘテロ接合体保因者も若年性白内障のリスクがある。
- ロマ集団:創始者変異p.Pro28Thrにより発症頻度が高い1)。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”新生児マススクリーニング
Section titled “新生児マススクリーニング”新生児マススクリーニングによる早期発見が理想的である。ガラクトース血症の診断がつき次第、乳糖摂取制限を開始する。ただし、すべての国のスクリーニングプログラムにGALK欠損症が含まれているわけではなく、発見が遅れる場合がある1)。
血液生化学検査
Section titled “血液生化学検査”確認検査として以下を測定する。
- 血中ガラクトース:高値を示す(症例では45.2mg/dL、基準値<5mg/dL)1)
- Galactose-1-P:正常値(古典的ガラクトース血症との鑑別点)1)
- ガラクチトール:白内障の直接的原因物質として測定される
GALK1遺伝子解析により確定診断が可能である1)。症例では、既知の病的変異c.919_921delATG(p.Met307del)と、新規ミスセンス変異c.500C>A(p.Ala167Asp)の複合ヘテロ接合体が同定された1)。
両眼性先天白内障を呈する乳幼児では、以下を鑑別する必要がある。
- 他のガラクトース代謝異常症:I型(GALT欠損症)は全身症状が重篤でgalactose-1-Pが高値。III型(GALE欠損症)
- TORCH感染症:トキソプラズマ、風疹、サイトメガロウイルス、ヘルペス
- 染色体異常:Down症候群、13トリソミー、15トリソミー
- その他:Lowe症候群、低カルシウム血症
国や地域によって新生児スクリーニングの対象疾患は異なる。ガラクトース代謝異常がスクリーニングに含まれていない場合、診断が遅れることがある1)。家族歴のない両眼性先天白内障を認めた場合は、ガラクトース代謝異常を積極的に疑い検査する必要がある。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”良好な転帰を得るための最も重要な治療法である。
- 厳格なガラクトース制限食:ガラクチトールの蓄積を防ぐ。カルシウム補給も併せて行う。
- 大豆ベースフォーミュラ:乳児に対して乳糖を含まないミルクとして推奨される。
- 早期開始の重要性:乳児期早期から乳糖制限を開始すれば白内障は可逆的である。生後2〜3週間以内の治療開始で白内障の退行が可能である。
- モニタリング:食事療法開始後、6か月ごとに血中ガラクトース値を測定する。症例では平均4.95mg/dL(基準値<5mg/dL)に低下した1)。
食事制限を遵守しても、ガラクチトール濃度は正常値を超えることがある1)。II型では長期間にわたり白内障の発症・進行を観察する必要がある。
白内障手術
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”ガラクトースは主にルロワール経路によって代謝される。この経路はガラクトース→(GALK)→ガラクトース-1-リン酸→(GALT)→UDP-ガラクトース→(GALE)→UDP-グルコースの順で進行する1)。
GALK欠損によりルロワール経路の最初のステップが障害されると、ガラクトースは代替経路であるアルドース還元酵素経路に迂回する。この経路ではガラクトースからガラクチトールが産生される1)。
ガラクチトールは浸透圧特性を持ち、水晶体線維に蓄積すると以下の過程で白内障を形成する1)。
- 水晶体線維の膨隆:浸透圧上昇による水分流入
- 細胞溶解:過度の膨潤による細胞破壊
- 蛋白変性:構造蛋白の変性と凝集
- 白内障形成:光散乱と混濁の進行
正常な水晶体では、エネルギー代謝の70〜80%が嫌気的解糖系で賄われ、10%がペントースリン酸回路、10%がソルビトール経路による。水晶体ではアルドース還元酵素の活性はヘキソキナーゼ活性より高いが、グルコースに対する親和性はヘキソキナーゼが上回る。高ガラクトース血症下ではヘキソキナーゼが飽和し、アルドース還元酵素経路への基質流入が増加する。この機序は糖尿病白内障と共通している。
ガラクトース血症の3型の眼科的特徴を以下に比較する。
| 型 | 欠損酵素 | 白内障以外の主な症状 |
|---|---|---|
| I型(GALT欠損) | GALT | 肝障害・敗血症・中枢神経障害 |
| II型(GALK欠損) | GALK | なし(白内障のみ) |
| III型(GALE欠損) | GALE | 軽症〜重症まで幅がある |
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”新規遺伝子変異の同定
Section titled “新規遺伝子変異の同定”GALK1遺伝子の病的変異はこれまでに30以上が報告されているが、新規変異の同定が継続している。
Cordeiroら(2021)は、ポルトガル在住のモルドバ出身の12か月女児において、既知の病的変異c.919_921delATG(p.Met307del)と新規ミスセンス変異c.500C>A(p.Ala167Asp)の複合ヘテロ接合体を同定した1)。後者は予測病原性変異であり、ロマ集団に多い創始者変異とは異なる遺伝的背景を示した。
新生児スクリーニングの拡充
Section titled “新生児スクリーニングの拡充”各国で新生児マススクリーニングへのGALK欠損症の組み込みが検討されている1)。現在、すべての国のスクリーニングプログラムにガラクトース代謝異常が含まれているわけではなく、診断の遅延が課題となっている。スクリーニングの拡充により早期発見・早期治療が促進され、白内障の予防が期待される。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Cordeiro C, Garcia P, Coelho D, Oliva M. Galactokinase deficiency: a treatable cause of bilateral cataracts. BMJ case reports. 2021;14(6). doi:10.1136/bcr-2021-242227. PMID:34088690; PMCID:PMC8183283.
- Rubio-Gozalbo ME, Derks B, Das AM, Meyer U, Möslinger D, Couce ML, et al. Galactokinase deficiency: lessons from the GalNet registry. Genet Med. 2021;23(1):202-210. PMID: 32807972.
- Bosch AM, Bakker HD, van Gennip AH, van Kempen JV, Wanders RJ, Wijburg FA. Clinical features of galactokinase deficiency: a review of the literature. J Inherit Metab Dis. 2002;25(8):629-34. PMID: 12705493.