陽性マーカー
CK-PAN:汎サイトケラチン。上皮性腫瘍であることを示す。
CK7:サイトケラチン7。腺上皮系マーカー。
CD117:c-kit。オンコサイトーマで陽性を示す。
P63:基底細胞系マーカー。陽性を示す。

オンコサイトーマ(好酸性細胞腫)は、ミトコンドリアが豊富な好酸性上皮細胞(オンコサイト)から構成される良性腫瘍である。眼附属器のオンコサイトーマは1941年に涙丘病変として初めて文献に記載された。
全身の発生部位としては、甲状腺・副甲状腺・唾液腺・腎臓などが知られており、唾液腺では全腫瘍の1〜2%を占める。眼附属器における発生率は年間100万人あたり0.3人と極めて希少な疾患である。ICD-10分類ではD31に該当する。
212例の文献レビューに基づく眼附属器オンコサイトーマの発生部位別頻度を以下に示す。
| 発生部位 | 症例数 | 割合 |
|---|---|---|
| 涙丘 | 127例 | 60% |
| 涙嚢 | 40例 | 19% |
| 結膜 | 20例 | 10% |
| 眼瞼 | 15例 | 6% |
| 涙腺 | 10例 | 5% |
悪性型(好酸性腺癌)の報告は極めて少なく、涙腺で3例、涙嚢で11例にとどまる。
212例の文献レビューでは、涙丘が127例(60%)と最多である。次いで涙嚢(19%)、結膜(10%)の順で多い。涙腺・眼瞼への発生は比較的稀である。
最も一般的な症状は腫瘤(できもの)の出現である。その他に以下の症状を伴うことがある。
超音波生体顕微鏡(UBM)および前眼部光干渉断層計(AS-OCT)による画像評価が行われる。15例の検討では以下の所見が得られている。
超音波生体顕微鏡は接触型の検査であり、前眼部の詳細な断層像を解像度20〜60μmで取得できる。前眼部光干渉断層計は非接触で高分解能の断層画像を得られるため、患者への負担が少ない。
超音波生体顕微鏡/前眼部光干渉断層計では固形成分と嚢胞成分の混在所見が特徴的である。強膜浸潤の兆候は認めず、良性腫瘍としての画像特性を呈する。術前の腫瘍範囲の評価に有用な検査である。
オンコサイトーマの発生には、ミトコンドリアおよび体細胞の遺伝子変異が関与すると考えられている。
発症機序は以下の通りである。
唾液腺オンコサイトーマにおいてはミトコンドリアDNA(mtDNA)変異の報告がある1)。眼附属器オンコサイトーマにおいても類似した分子機序が関与している可能性がある。
確定診断には病理組織学的検査が不可欠である。
唾液腺オンコサイトーマのデータに基づく免疫染色の特徴を以下に示す1)。眼附属器オンコサイトーマにも類似した染色パターンが示唆される。
陽性マーカー
CK-PAN:汎サイトケラチン。上皮性腫瘍であることを示す。
CK7:サイトケラチン7。腺上皮系マーカー。
CD117:c-kit。オンコサイトーマで陽性を示す。
P63:基底細胞系マーカー。陽性を示す。
陰性マーカー
Ki-67:<2%と低増殖能を示し、良性腫瘍の性格を反映する。
Vimentin・CD10:間葉系・腎細胞癌マーカー。陰性。
S-100・SOX-10:神経・神経鞘系マーカー。陰性。
涙丘は様々な病変が発生する部位であり、病理学的検索が鑑別に必須である。涙丘病変112例の病理学的検討における疾患別頻度を以下に示す。
| 病変 | 頻度 |
|---|---|
| 母斑(Nevi) | 43% |
| 扁平上皮乳頭腫 | 13% |
| 脂腺増殖症 | 9% |
| 慢性炎症 | 5% |
| オンコサイトーマ | 4% |
| 上皮性封入嚢胞 | 4% |
| 異物肉芽腫 | 3% |
| 化膿性肉芽腫 | 3% |
| 悪性黒色腫 | 2% |
| 毛細血管腫 | 2% |
その他、リンパ腫・基底細胞癌・扁平上皮癌などの稀な病変も鑑別に挙がる。
涙丘病変で最も多いのは母斑(43%)である。オンコサイトーマは4%と稀であり、臨床所見のみでの鑑別は困難である。生検または切除標本の病理組織学的検査による確定診断が必要となる。
涙丘・結膜に発生したオンコサイトーマの標準治療は全切除(total resection)である。
再発リスク低
涙丘・結膜:全切除後の再発報告なし。
良性の臨床経過をたどる。全切除により根治が期待できる。
再発リスクあり
眼瞼・涙嚢・涙腺:全切除後も稀に再発することがある。
より慎重な経過観察が必要である。
好酸性腺癌(悪性オンコサイトーマ)は15例の報告があり、放射線療法・化学療法を含むより侵襲的な管理が必要となる。
発生部位によって再発リスクが異なる。涙丘・結膜では全切除後の再発報告はなく予後良好である。一方、眼瞼・涙嚢・涙腺では稀に再発を認めることがあり、定期的な経過観察が重要である。
オンコサイトーマの発症における分子機序は以下のように考えられている。
ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異が生じると、電子伝達系の機能不全を介して酸化的リン酸化(oxidative phosphorylation)が障害される。その結果、ATP産生が低下し、細胞はエネルギー不足に陥る。この状態に対する代償的反応として、細胞内にミトコンドリアが異常に蓄積する。唾液腺オンコサイトーマではmtDNA変異の報告があり1)、眼附属器においても類似した機序が想定される。
蓄積した「燃え尽きた(burnt out)」ミトコンドリアが、病理学的に特徴的な以下の所見を形成する。
眼附属器オンコサイトーマは発生率が年間100万人あたり0.3人と極めて希少であるため、大規模な前向き研究や無作為化比較試験のエビデンスは存在しない。現時点での研究動向は以下の通りである。