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角膜・外眼部疾患

Lisch角膜ジストロフィ

1. Lisch角膜ジストロフィ(LCD)とは

Section titled “1. Lisch角膜ジストロフィ(LCD)とは”

Lisch角膜ジストロフィ(Lisch corneal dystrophy: LCD、近年は Lisch epithelial corneal dystrophy: LECD とも呼称される)は、角膜上皮に灰色で渦巻状(whorled)あるいは羽毛状(feathery)のマイクロシスト(微小嚢胞)が出現する、まれな表層角膜ジストロフィである。1992年に Lisch らがドイツの一家系5名における新規角膜上皮ジストロフィとして American Journal of Ophthalmology に報告したのが初出である1)

IC3D分類における位置づけの変遷

  • 国際角膜ジストロフィ分類委員会(IC3D)の Edition 2(2015年)までは、本症はカテゴリー2(染色体座位にマッピングされているが原因遺伝子未同定)に分類されていた。
  • 2024年の Edition 3 では、MCOLN1 の同定を受けてカテゴリー1(原因遺伝子・蛋白質ともに同定されたよく確立された角膜ジストロフィ)に格上げされた4)

遺伝形式:従来は X 連鎖優性遺伝とされ、Xp22.3 への連鎖が2000年の Lisch らの家系研究によって LOD score 4.59(θ=0)で証明された2)。男性から男性への伝播がみられない点も X 連鎖遺伝を裏付ける。2024年の Patterson らの大規模研究で、原因遺伝子は MCOLN1(mucolipin-1 をコード) であり、ヘテロ接合性機能喪失変異により発症することが明らかにされた3)。MCOLN1 は通常 19p13.2 に存在するが、本症の連鎖領域(Xp22.3)における擬似遺伝子・偽常染色体領域あるいは別の調節機構を介する可能性が議論されている。なお、MCOLN1 の両アレル(ホモ/複合ヘテロ接合)変異は別疾患のムコリピドーシス IV 型(MLIV)を引き起こす3)

LCD の発症は小児期と考えられているが、報告例の多くは成人である。病変はゆっくりと進行し、多くの患者で成人期になるまで臨床的に顕在化しない。受診時年齢は20代から70代まで幅があり、Patterson らの報告では LECD と診断された27例中23例(約85%)に MCOLN1 のヘテロ接合性希少バリアントが同定された3)

眼鏡で矯正できない無痛性の進行性霧視が主訴となる1)。単眼複視が報告されることもある。病変が視軸にかかっていない場合は無症状で、偶然発見されることもある。角膜上皮びらんは通常認められず、眼痛を伴わない点が特徴的であり、これが Meesmann 角膜ジストロフィとの臨床的鑑別点となる1,2)

細隙灯顕微鏡所見

灰色のマイクロシスト:帯状(band-shaped)・棍棒状の角膜上皮内病変を認める

渦巻状(whorled)パターン:病変が渦を巻くように配列することがある

羽毛状(feathery)パターン:羽毛のようなフワフワとした外観を呈することがある

染色所見フルオレセインおよびローズベンガルで染色されない

特殊検査所見

徹照法:透明な上皮内マイクロシストの密な集簇が明瞭に観察される

前眼部光干渉断層計OCT角膜厚は正常で実質の関与はなく、上皮の高反射像を認める

共焦点顕微鏡:Kurbanyan らの報告では、罹患上皮細胞において核周囲の細胞質に高反射、核に低反射が認められ、輪部領域の関与も確認された9)

角膜トポグラフィ:正常所見を示すことがある

片眼性の発症がより一般的であると報告されているが、両眼性の関与も起こりうる。両眼に病変があっても、視軸への関与が片眼のみの場合は片眼の視力障害のみを呈する。

原因遺伝子(2024年同定)

  • 2024年に Patterson らが27例の LECD 患者(17家系)を対象とした大規模解析を行い、MCOLN1 のヘテロ接合性機能喪失変異を原因として同定した3)
  • 27例中23例(約85%、13家系)に9種類の希少ヘテロ接合バリアントが検出され、うち7種類は truncating 変異(短縮型変異)であった3)
  • MCOLN1 はリソソーム膜カチオンチャネル mucolipin-1 をコードする。ハプロ不全(haploinsufficiency)が病態の本質と考えられる3)
  • 同遺伝子の両アレル変異(ホモ/複合ヘテロ接合)はムコリピドーシス IV 型(MLIV)という重篤な全身性リソソーム蓄積症を引き起こす3)

遺伝形式

  • 家系研究では X 連鎖優性遺伝の様式を示し、Xp22.3 への連鎖が証明されている2)
  • 男性から男性への伝播がみられないことが X 連鎖を裏付ける2)
  • ただし MCOLN1 は本来 19p13.2 にあり、家系内発現様式と分子遺伝学的所見との関係には今後の検討を要する3,4)
  • 単純散発例(simplex case)も多く、Patterson らの報告では14例が散発例であった3)

リスク要因

  • 家族歴(陽性の場合にリスクが上昇する)

一貫して観察される全身合併症はなく、機械的メカニズムを示唆する身体的要因も認められない。上皮欠損の原因となる異常細胞が輪部に由来することを示唆する証拠がある9)

LCDの診断は、特徴的な細隙灯顕微鏡所見と病理組織学的所見の組み合わせに基づく。

診断の要点

  • 細隙灯顕微鏡で羽毛状の角膜マイクロシストを認める
  • 徹照法で透明な上皮内嚢胞の密な集簇を確認する
  • 病理組織学的に広範な細胞質空胞化を認める

補助的検査

  • 共焦点顕微鏡検査9)
  • 高解像度前眼部OCT
  • MCOLN1 遺伝子解析:2024年以降、確定診断手段として位置づけられる3)。臨床診断に迷う場合や家族カウンセリング目的で考慮する
  • 代謝検査(Fabry病等の除外目的)

鑑別診断

鑑別疾患鑑別のポイント
Meesmann角膜ジストロフィ常染色体優性、対称性びまん性、眼痛あり
Fabry病常に両側対称性、渦状角膜
CL誘発性脱上皮CL中止で改善

Meesmann角膜ジストロフィとの鑑別が最も重要である。MeesmannはKRT3/KRT12遺伝子の変異による常染色体優性遺伝であり、病変は左右対称でびまん性である。LCDは非対称で密な病変を呈し、眼痛を通常伴わない点で鑑別される1,2)。Lisch ら(2000年)は連鎖解析により Meesmann(17q12 および 12q13 の KRT12/KRT3)と LCD(Xp22.3)が遺伝学的に異なる疾患であることを確立した2)

Q Meesmann角膜ジストロフィとの違いは何ですか?
A

Meesmann角膜ジストロフィ常染色体優性遺伝(KRT3/KRT12遺伝子変異)であるのに対し、LCDはX連鎖優性遺伝(Xp22.3)です。Meesmannの病変は両眼性で左右対称かつびまん性ですが、LCDは非対称で密な集簇を呈します。また、Meesmannでは角膜上皮びらんに伴う眼痛が頻繁に見られますが、LCDでは通常眼痛を伴いません。

LCDは極めてまれであり、治療法はすべて症例報告に基づいている。

保存的治療

コンタクトレンズ:ハードおよびソフトCLの使用で病変の減少と視力改善が報告されている1)。ただし使用中止により病変が悪化する

経過観察:病変が視軸にかかっていない場合や視力障害が軽度の場合は経過観察とする

外科的治療

上皮デブリードマン:低侵襲な第一選択肢。少なくとも6か月間は病変消失が得られるが再発率が高い

上皮切除術+輪部焼灼:Tuteja & Lockington(2025年)は、段階的角膜上皮切除に標的化した輪部の小範囲切除+焼灼を併用する definitive treatment を報告した7)

PRK+マイトマイシンC:Wessel ら(2011年)が PRK with adjunctive mitomycin C 0.02% で良好な結果を報告。屈折矯正も同時に希望する患者に適する6)

5-フルオロウラシル(5-FU)局所点眼:Amer ら(2023年)が再発例に対して 5-FU 点眼で病変消退を報告8)

自己輪部移植:他の治療に抵抗性の症例で適応となる。再発防止に成功した報告がある5)

治療選択の段階的アプローチ

  1. まずコンタクトレンズ装用を試みる
  2. 効果不十分な場合は上皮デブリードマンを検討する
  3. 再発を繰り返す場合は上皮切除術+輪部焼灼を考慮する
  4. 難治例には自己輪部移植を検討する(侵襲性が高いため最終手段)
Q コンタクトレンズで改善しますか?
A

ハードおよびソフトコンタクトレンズの使用により、病変の減少と視力改善が複数の症例で報告されています。しかし、コンタクトレンズの使用を中止すると病変が再び悪化するため、根本的な治療ではありません。コンタクトレンズを日常的に使用している患者でもLCDが発症した報告があり、保護効果は完全ではありません。

Q 手術をしても再発しますか?
A

上皮デブリードマンでは再発が比較的多いとされています。上皮切除術と輪部焼灼の併用では2年間再発なしの報告があり、自己輪部移植でも再発防止に成功した報告がありますが、いずれも少数の症例に基づいています。長期的な再発防止効果についてはまだ十分なデータがなく、定期的なフォローアップが重要です。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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LCDの病態の本質は、角膜上皮細胞の広範な細胞質空胞化である。

病理組織学的所見

  • 光学顕微鏡では、翼細胞層で最も顕著な細胞質空胞化を認める1)
  • 空胞化は角膜上皮層全体の細胞に見られ、罹患部位と非罹患部位の境界は明瞭である
  • PAS 染色の結果は報告により一定しない(陽性・陰性の両方の報告あり)
  • ジアスターゼ消化性であり、ルクソールファストブルー染色・スダンブラック染色は陰性である1)

電子顕微鏡所見

  • 細胞質内の空胞は空に見える
  • 空胞同士が融合し、細胞質が透明で構造のない外観を呈する傾向がある

輪部との関連

  • 上皮欠損の原因となる異常細胞が輪部に由来することを示唆する証拠がある
  • 共焦点顕微鏡輪部領域の関与が確認されている9)
  • 輪部焼灼や自己輪部移植が治療に有効であることも、輪部起源の病態を裏付ける5,7)

MCOLN1 ハプロ不全と空胞形成:MCOLN1 がコードする mucolipin-1 はリソソーム膜のカチオンチャネル(TRPML1)であり、リソソーム機能・オートファジー・エンドソームトラフィッキングに関与する。LECD ではヘテロ接合性機能喪失によるハプロ不全が、角膜上皮細胞において部分的なリソソーム機能低下と空胞化を引き起こすと推定されている3)。一方、両アレル変異では MLIV というより重篤な全身性表現型を呈することから、用量依存的な分子病態が示唆される3)

LCD/LECD は1992年の初出記載以来、症例数の少なさゆえに研究が限られていたが、2020年代に入り重要な進展がみられた。

原因遺伝子の同定(2024年):Patterson らは多施設・多国籍コホート(27例/17家系)に対する全エクソーム解析・全ゲノム解析により、MCOLN1 ヘテロ接合性機能喪失変異を LECD の主要原因として同定した3)。これにより IC3D Edition 3(2024年)では本症がカテゴリー1(既知の遺伝子・蛋白質)に再分類された4)

治療法の発展

  • Wessel ら(2011年)は PRK with mitomycin C 0.02% を報告6)
  • Amer ら(2023年)は再発例に 5-FU 点眼を試み病変消退を確認8)
  • Tuteja & Lockington(2025年)は段階的上皮切除+標的化輪部焼灼による definitive treatment を提唱7)
  • いずれも少数の症例報告に基づくため、長期的な有効性と安全性の検証が課題である

今後の課題

  • MCOLN1 ハプロ不全がいかにして角膜上皮特異的な表現型を生むかの分子機序の解明
  • ヘテロ接合キャリアにおける臨床的浸透率と発現パターンの定量化
  • より大規模な症例集積による治療成績の評価
  • 再発予防に関する長期フォローアップデータの蓄積
  1. Lisch W, Steuhl KP, Lisch C, Weidle EG, Emmig CT, Cohen KL, Perry HD. A new, band-shaped and whorled microcystic dystrophy of the corneal epithelium. Am J Ophthalmol. 1992;114(1):35-44. PMID: 1621784.

  2. Lisch W, Büttner A, Oeffner F, Böddeker I, Engel H, Lisch C, Ziegler A, Grzeschik KH. Lisch corneal dystrophy is genetically distinct from Meesmann corneal dystrophy and maps to xp22.3. Am J Ophthalmol. 2000;130(4):461-468. PMID: 11024418.

  3. Patterson K, Chong JX, Chung DD, Lisch W, Karp CL, Dreisler E, Lockington D, Rohrbach JM, Garczarczyk-Asim D, Müller T, Tuft SJ, Skalicka P, Wilnai Y, Samra NN, Ibrahim A, Mandel H, Davidson AE, Liskova P, Aldave AJ, Bamshad MJ, Janecke AR. Lisch Epithelial Corneal Dystrophy Is Caused by Heterozygous Loss-of-Function Variants in MCOLN1. Am J Ophthalmol. 2024;258:183-195. PMID: 37972748.

  4. Weiss JS, Rapuano CJ, Seitz B, Busin M, Kivelä TT, et al. IC3D Classification of Corneal Dystrophies—Edition 3. Cornea. 2024;43(4):466-527. PMID: 38359414.

  5. Alvarez-Fischer M, Alvarez de Toledo J, Barraquer RI. Lisch corneal dystrophy. Cornea. 2005;24(4):494-495. PMID: 15829814.

  6. Wessel MM, Sarkar JS, Jakobiec FA, Dang N, Bhat P, Michaud N, Starr CE. Treatment of Lisch corneal dystrophy with photorefractive keratectomy and mitomycin C. Cornea. 2011;30(4):481-485. PMID: 21045666.

  7. Tuteja SY, Lockington D. Definitive Treatment of Lisch Epithelial Corneal Dystrophy via Staged Keratectomy and Targeted Minor Limbal Excision With Cautery. Cornea. 2025;44(3):383-386. PMID: 39774538.

  8. Amer MM, Arze K, Galor A, Sayegh Y, Dubovy SS, Karp CL. Recurrent Lisch Epithelial Corneal Dystrophy Treated With 5-Fluorouracil: A Case Report and Review of the Literature. Cornea. 2023;42(5):645-647. PMID: 36533990.

  9. Kurbanyan K, Sejpal KD, Aldave AJ, Deng SX. In vivo confocal microscopic findings in Lisch corneal dystrophy. Cornea. 2012;31(4):437-441. PMID: 22222997.

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