この疾患の要点
ビスホスホネート製剤は薬剤性ぶどう膜炎 ・強膜炎 の重要な原因薬剤として知られている1)
ゾレドロン酸静注後の急性前部ぶどう膜炎 (AAU)は、前向き試験で 0.8% に認められ、静注後 1〜7 日(平均 3 日)に発症した7)
経口ビスホスホネートでも、初回使用者でぶどう膜炎 ・強膜炎 リスクの上昇が報告されている6)
強膜炎 は前部びまん性・結節性が多く、壊死性強膜炎 まで進行すると失明率は 40% に達する
治療の第一選択は被疑薬の中止であり、多くは中止後数週間で改善する3)
同一薬剤の再投与で再燃した症例が報告されており、眼炎症を来した場合は代替薬(デノスマブ等)への変更を処方医と検討する5)
ぶどう膜炎 診療ガイドライン 2019 において薬剤性ぶどう膜炎 の主要原因薬剤として位置づけられている2)
ビスホスホネート製剤は骨粗鬆症・悪性腫瘍の骨転移・Paget 病の治療に広く用いられる骨吸収抑制薬である。骨吸収を担う破骨細胞の機能を抑制し、骨密度を維持する作用を持つ。
眼合併症としてぶどう膜炎 (虹彩 毛様体 炎)・強膜炎 ・上強膜炎 ・眼窩 炎症・眼瞼炎 ・結膜炎 が知られている。ビスホスホネートは薬剤性ぶどう膜炎 ・強膜炎 の重要な原因薬剤の一つであり1) 、投与歴の確認が重要である。ぶどう膜炎 診療ガイドライン 2019 においても薬剤性ぶどう膜炎 の主要原因薬剤として言及されている2) 。
剤形 代表的薬剤 主な対象疾患 経口 アレンドロン酸(ボナロン®・フォサマック®)、リセドロン酸(アクトネル®・ベネット®)、ミノドロン酸(ボノテオ®)、イバンドロン酸(ボンビバ®) 骨粗鬆症 静注 ゾレドロン酸(ゾメタ®・リクラスト®)、パミドロン酸、イバンドロン酸(ボンビバ静注®) 骨転移・Paget 病・骨粗鬆症
静注製剤(特にゾレドロン酸・パミドロン酸)は最も眼合併症頻度が高く、経口製剤より発症時期が早い。初回投与時のリスクが最も高く、繰り返し投与で減弱する傾向がある。
Q
骨粗鬆症の薬で眼に炎症が起こることはありますか
A
ビスホスホネート製剤(ボナロン®・ゾメタ®など)は眼炎症を引き起こすことがあります。この薬剤は薬剤性ぶどう膜炎 ・強膜炎 の重要な原因であり、特に点滴投与(ゾレドロン酸)では 0.8% の頻度で急性前部ぶどう膜炎 が報告されています7) 。投与後 1 週間以内に充血 ・眼痛 ・視力 低下が出現した場合は速やかに眼科を受診してください。
充血 ・眼痛 (圧痛・拍動性激痛)が主体である。視力 低下は重症例(壊死性強膜炎 )まで進行した際に自覚することが多い。羞明 ・流涙・異物感を伴うこともある。インフルエンザ様症候群(急性期反応:発熱・倦怠感・筋肉痛・関節痛)と眼炎症が同時期に出現することがある5) 。
前部ぶどう膜炎
特徴 :軽度〜中等度の前房 炎症細胞・フレアを認める。
付随所見 :角膜 後面沈着物(KP)を伴うことがある。
発症時期 :ゾレドロン酸静注後のAAUは投与後 1〜7 日(平均 3 日)に発症したと報告されている7) 。
症状 :羞明 ・充血 ・視力 低下が出現する。
強膜炎
特徴 :前部びまん性・結節性が多い。深在性充血 (暗赤色)がみられる。
診察所見 :エピネフリン点眼では充血 が消退しない(深在性のため)。圧痛・拍動痛が強い。
重症化 :壊死性強膜炎 まで進行すると失明率は 40% に達する。再発が多く、完治まで数年を要することもある。
上強膜炎
特徴 :一過性の刺激感・熱感・異物感が主体で、疼痛・圧痛はない。
鑑別点 :結節には可動性があり、エピネフリン点眼で充血 が消退する(強膜炎 との鑑別に重要)。
経過 :多くは無治療で数日から数週間で自然軽快する。
眼窩炎症・その他
眼窩 炎症 :眼球突出 ・複視 ・眼痛 を呈する。ゾレドロン酸静注後8) およびパミドロン酸静注後5, 9) の症例報告が複数ある。
その他 :結膜炎 ・眼痛 ・霧視 なども報告されている5) 。
画像評価 :MRI で眼外筋腫大・眼窩 脂肪炎症を確認する。
Q
点滴後すぐに眼が痛くなったら何を疑いますか
A
ゾレドロン酸やパミドロン酸などのビスホスホネート静注後 1〜7 日以内に眼痛 ・充血 が出現した場合、ビスホスホネート誘発性の前部ぶどう膜炎 または強膜炎 を疑います1, 7) 。同時期に発熱・倦怠感・関節痛などのインフルエンザ様症状(急性期反応)を伴う場合、薬剤との因果関係がさらに強く示唆されます。処方した整形外科・内分泌科・腫瘍科との連携のもとで被疑薬の中止を検討してください。
ゾレドロン酸 (静注):前向き試験でAAU発症率 0.8% と報告されている7)
パミドロン酸 (静注):強膜炎 ・眼窩 炎症の報告が特に多い4, 5, 9)
経口ビスホスホネート :初回使用者では非使用者と比べ、ぶどう膜炎 ・強膜炎 の発症率が高い6)
静注製剤(経口製剤より高リスク)
初回投与(繰り返し投与で急性期反応は減弱傾向)
HLA-B27 陽性者(ぶどう膜炎 素因)
既存の自己免疫疾患・過去のぶどう膜炎 歴2)
用量非依存性(通常量でも発症し、高用量でリスクが比例上昇するわけではない)
薬剤性ぶどう膜炎 の診断は、ビスホスホネート使用と症状出現の時間的関係から疑い、被疑薬中止による改善で確定する。Naranjo 基準を用いた因果関係評価が有用である1) :
薬剤使用後の合理的時系列(ゾレドロン酸静注後は1〜7日、経口薬では初回使用後の発症に注意)
薬剤中止による症状改善
他の原因(感染性・自己免疫性)が除外される
再投与による再燃(rechallenge 陽性例)5)
細隙灯顕微鏡:前房 炎症細胞・フレア、強膜 充血 の深度評価
エピネフリン点眼テスト :深在性強膜炎 では充血 が消退しない(強膜炎 vs 上強膜炎 の鑑別)
超音波 B モード:後部強膜炎 の検出(後部テノン嚢 内液貯留)
MRI:眼窩 炎症の評価(眼外筋腫大・眼窩 脂肪炎症)8, 9)
スクリーニング検査として以下を実施する2) :
血液一般・CRP (炎症マーカー)
リウマチ因子・抗核抗体(膠原病合併の検索)
c-ANCA(ANCA 関連強膜炎 ・GP A の除外)
HLA-B27
梅毒血清検査・結核スクリーニング(感染性の除外)
疾患 鑑別のポイント HLA-B27 関連急性前部ぶどう膜炎 HLA-B27 陽性、強直性脊椎炎・乾癬・炎症性腸疾患の既往 ANCA 関連強膜炎 (GP A・MPA) c-ANCA(抗 PR3 抗体)陽性、耳鼻咽喉・肺・腎病変 関節リウマチ関連強膜炎 RF・抗 CCP 抗体陽性、RA の既往 感染性ぶどう膜炎 梅毒血清検査・ツベルクリン反応、前房穿刺 (感染マーカー) Behçet 病 前房蓄膿 、口腔内アフタ、陰部潰瘍、皮膚症状
Q
眼炎症とビスホスホネートの関係はどう調べますか
A
ビスホスホネート投与歴と眼炎症の時間的関係(ゾレドロン酸静注後は1〜7日、経口薬では初回使用後の発症に注意)を確認することが診断の基本です1) 。感染性・自己免疫疾患を除外するため、血液検査(CRP 、RF、ANCA、HLA-B27)と結核スクリーニングを実施します2) 。被疑薬中止後に症状が改善すれば因果関係が強く示唆されます。再投与(rechallenge)で再燃する場合はほぼ確定診断となりますが、再投与は症状の再燃を来すため原則的には行いません。
被疑薬(ビスホスホネート製剤)の中止が第一選択 である1, 3) 。多くの症例は中止後数週間で改善する。整形外科・内分泌科・腫瘍科の処方医と協議し、骨粗鬆症治療が必要な場合はビスホスホネート以外の代替薬を検討する。
代替薬の選択肢 :
デノスマブ(RANK L 阻害薬):眼炎症の報告が少なく、切り替え後の再発が少ないとされる
テリパラチド(副甲状腺ホルモン製剤):骨形成促進薬
ロモソズマブ(スクレロスチン阻害薬):骨形成促進+骨吸収抑制
上強膜炎
ほとんどは無治療でも数日から数週間で自然軽快するが、強膜炎 との鑑別のためにステロイド と抗菌薬の点眼を行う:
フルメトロン点眼液® 0.1% 1 日 4 回
ガチフロ点眼液® 0.3% 1 日 4 回
前部ぶどう膜炎
ベタメタゾン点眼液(リンデロン® 0.1%)1 日 4〜6 回
散瞳薬 :ミドリン® P 点眼(虹彩後癒着 予防)
限局性強膜炎 (びまん性・結節性)
ステロイド が治療の主体である:
リンデロン® 点眼液 0.1% 1 日 4〜6 回
眼・耳科用リンデロン® A 軟膏 適量 就寝前 1 回点入
症状に応じて以下のいずれかを追加する:
ケナコルト-A® 筋注用(40 mg/1 mL)を 0.1 mL(= 4 mg)結膜 下注射 月 1 回まで(保険適用外)
デカドロン® 注(3.3 mg/1 mL)を 0.3 mL 結膜 下注射 1〜2 週ごと数回
局所治療に反応がない場合:
プレドニン® 錠 20〜30 mg 分 2 漸減療法で 1〜2 週間
全周性・重症強膜炎 :
プレドニン® 錠 30〜60 mg/日から漸減
ステロイド パルス:ソル・メドロール® 1,000 mg 1 日 1 回×3 日間点滴静注後、漸減療法(保険適用外)
ネオーラル® カプセル 5 mg/kg/日 分 2(保険適用外)
軽症例(上強膜炎 ・軽度の前部ぶどう膜炎 ):
びまん性・結節性強膜炎 :予後良好
壊死性強膜炎 :失明率 40% といわれ、再発が多く完治まで数年を要することがある
被疑薬中止後に眼炎症が改善した後、同一ビスホスホネートの再投与で再燃した症例が報告されている5)
別系統のビスホスホネートへの変更でも再発リスクがあり、原則としてビスホスホネート系薬剤の継続は推奨されない
Q
治療後にビスホスホネートを再開できますか
A
ビスホスホネート誘発性眼炎症が改善した後に同一薬剤を再投与すると、眼炎症が再燃することがあります5) 。別系統のビスホスホネートへの変更でも再燃リスクがあるため、眼炎症を経験した患者では原則としてビスホスホネート系薬剤を継続しないことが推奨されます。骨粗鬆症治療の継続が必要な場合は、デノスマブ・テリパラチドなど別機序の薬剤への変更を整形外科・内分泌科と協議してください。
ビスホスホネート誘発性眼炎症には複数の機序が関与すると考えられている。
静注ビスホスホネートでは急性期反応として発熱・筋痛などの全身症状がみられることがあり、眼炎症も投与後早期に出現しうる5, 7) 。免疫細胞活性化や炎症性サイトカインを介した機序が推定されるが、個々の症例では薬剤投与との時間的関係、他疾患の除外、中止後の改善を総合して判断する1) 。
炎症性サイトカイン(IL-6・TNF -α・IFN-γ)の産生増加が血液眼関門を破綻させ、循環免疫複合体や炎症細胞の眼内浸潤を許容する3) 。ビスホスホネートそのものの直接毒性(高濃度時)も血管内皮細胞への障害として関与する可能性がある。
ぶどう膜・強膜 組織への免疫複合体沈着により、補体 活性化を介した局所炎症が惹起される。骨・ぶどう膜・強膜 に共通するプロテオグリカン抗原への交差反応も仮説として提唱されている。
強膜炎 は特発性に単独発症するほか、全身疾患(関節リウマチ等の自己免疫疾患)・感染・眼科手術後にも生じる。内因性強膜炎 の発生機序には免疫機構の関与が考えられており、ビスホスホネート誘発性強膜炎 もこの枠組みの中に位置づけられる。
ビスホスホネートからデノスマブ(抗 RANK L 抗体)へ変更した症例群では、眼炎症の再発報告が少ないとされる。ただし大規模な前向き比較データは限られており、切り替え後の継続的なモニタリングが必要である。
国家処方データベースを用いたPazianas 2013のコホート解析でも、骨粗鬆症治療薬使用中の炎症性眼合併症が検討されている10) 。今後は、日本国内での発症率、初回投与前の眼科ベースライン評価の要否、リスク層別化を前向きに検証することが課題である。
ビスホスホネートは副作用を認識しつつも骨折予防の恩恵が上回る患者集団が多い。眼炎症発症後は多職種連携(眼科・整形外科・内分泌科・腫瘍科)による適切な代替療法への移行が重要である。
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