視床下部・概日リズム
視床下部機能障害:後部視床下部の灰白質体積減少が確認されている(Holle et al. 2011)5)。
視交叉上核(SCN):メラトニン分泌を通じて体内時計を制御する。加齢に伴うSCN細胞減少がメラトニン分泌の低下をもたらし、50歳以上への好発を説明する仮説がある。
SCN-PAG投射:SCNは中脳水道周囲灰白質(PAG)と双方向の投射を持ち、鎮痛系に影響する可能性がある。
睡眠時頭痛(Hypnic Headache; HH)は、睡眠中にのみ発生し患者を覚醒させる稀な一次性頭痛である。毎晩ほぼ同じ時刻に起こることから「目覚まし時計頭痛(alarm clock headache)」とも呼ばれる。
1988年にNeil Raskinが6例の症例を初めて報告した。その後、2004年の国際頭痛分類第2版(ICHD-2)で「その他の一次性頭痛」(コード4.5)に正式分類され、国際頭痛分類第3版ではコード4.9に位置づけられる。
有病率は頭痛クリニックベースで0.07〜1.1%とされる。アイスランドの人口研究では probable HH は0.22%であった。348例を対象としたレビューでは女性:男性=2.2:1と女性優位の性差を示す。典型的には50歳以上に好発するが、小児例も報告されている5)。
典型的には50歳以上に好発するが、小児例も報告されている。小児HHの系統的レビューでは発症年齢の平均は10±4.3歳(範囲3〜15歳)であり、極めて稀ながら若年者にも発症しうる1)。
HHの特徴的な症状は、睡眠中の毎晩ほぼ同じ時刻における頭痛発作である。
神経学的検査は正常である。一次性HHでは脳MRIおよびEEGも正常所見を示す。
小児では拍動性・脈打つ性質の痛みが多い(42.8%)。成人に比べて発作頻度・持続時間は短い傾向にある1)。
成人と小児の主な臨床特徴を示す。
| 特徴 | 成人 | 小児 |
|---|---|---|
| 好発年齢 | 50歳以上 | 平均10±4.3歳 |
| 痛みの性質 | 鈍痛・圧迫感が多い | 拍動性が多い(42.8%) |
| 発作頻度 | 月10日以上 | 成人より少ない傾向 |
HHは自律神経症状(流涙・結膜充血・鼻閉など)や不穏を伴わない点で群発頭痛と鑑別される。群発頭痛は激しい片側性頭痛に同側の自律神経症状を伴い、患者は不穏状態になることが多い。HHはこれらの所見を欠き、国際頭痛分類第3版診断基準のE項目として明記されている5)。
HHの病因は未解明である。現在提唱されている主な病態仮説を以下に示す。
視床下部・概日リズム
視床下部機能障害:後部視床下部の灰白質体積減少が確認されている(Holle et al. 2011)5)。
視交叉上核(SCN):メラトニン分泌を通じて体内時計を制御する。加齢に伴うSCN細胞減少がメラトニン分泌の低下をもたらし、50歳以上への好発を説明する仮説がある。
SCN-PAG投射:SCNは中脳水道周囲灰白質(PAG)と双方向の投射を持ち、鎮痛系に影響する可能性がある。
REM睡眠・脳幹
脳幹鎮痛系の抑制解除:背側縫線核・青斑核がREM睡眠中に活動を停止し、痛み閾値が低下すると考えられる。
睡眠段階との関連:当初REM睡眠関連と考えられたが、PSG研究ではNREM(特にstage 2)での発作が50〜70%、REM睡眠での発作が20〜50%と報告されており5)、特定睡眠段階への選択的関連はない。
動脈性高血圧:HHにおける非常に一般的な併存症であり、24時間血圧測定が推奨される。
二次性HHの原因:構造的病変が症候性HHを引き起こす場合がある。脊索遺残腫(Ecchordosis physaliphora; EP)による脳幹圧迫が三叉神経血管系求心路の感作を引き起こした症例が報告されている2)。聴神経腫瘍がHH様症候群を呈した症例も報告されており、HH様症候群の約1%に構造的原因が存在する6)。
HHは除外診断であり、二次性頭痛を除外したうえで国際頭痛分類第3版診断基準を満たす場合に診断する。
診断にはA〜Fのすべてを満たす必要がある。
国際頭痛分類第2版から国際頭痛分類第3版への改訂では、年齢制限が撤廃され発作頻度の閾値が月15日以上から10日以上に緩和されたことで診断感度が向上した1)。
一次性・二次性の鑑別疾患を示す。
| 分類 | 鑑別疾患 |
|---|---|
| 一次性頭痛 | 群発頭痛、片頭痛、発作性片頭痛、SUNCT |
| 二次性頭痛 | 睡眠時無呼吸、夜間高血圧、頭蓋内腫瘍(髄膜腫・下垂体腺腫・聴神経腫瘍)、脳梗塞、低血糖、薬物乱用 |
| 高齢者での追加考慮 | 巨細胞性動脈炎 |
HH様症候群の約1%に構造的原因が存在するとされ、神経画像検査は必須である6)。
HHは除外診断であり、PSG・脳MRI・血液検査・24時間血圧測定などが必要である。特に脳MRIは頭蓋内腫瘍など構造的原因を除外するために必須であり、HH様症候群の約1%に構造的病変が存在する6)。国際頭痛分類第3版診断基準をすべて満たしたうえで診断を確定する。
HHの治療はランダム化比較試験(RCT)に乏しく、症例報告・小規模ケースシリーズに基づく5)。予防療法が治療の中心となる。
| 薬剤 | 用量 | 有効率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| カフェイン | 65〜200mg 就寝時 | 60〜80% | 急性・予防の両方で使用可能 |
| リチウム | 300mg 就寝時(難治例300〜600mg/日) | 最大90% | 最もエビデンスあり |
| インドメタシン | 25〜150mg/日 | 50〜60% | 消化器系副作用に注意 |
| メラトニン | 成人:一定せず。小児:2〜4mg | 一定せず | 小児では有効例あり |
カフェイン:就寝前のカフェイン錠(65〜200mg)またはコーヒーの摂取で60〜80%に有効である5)。急性期治療としても使用できる。高齢者でも不眠の報告は稀とされる。
リチウム:最もエビデンスのある予防薬であり、300mg就寝時投与で最大90%に有効である5)。難治例では300〜600mg/日まで増量する場合がある。振戦・消化器症状・腎毒性・甲状腺毒性のリスクがあり、定期的なモニタリングが必要である。
インドメタシン:25〜150mg/日で50〜60%に有効だが、消化器系副作用による継続困難例がある5)。小児では75mgが有効であった例が報告されている1)。
メラトニン:概日リズムとの関連から理論的に魅力的な選択肢だが、成人での臨床効果は一定していない5)。小児ではメラトニン2〜4mgで有効例が報告されている1)。
構造的原因が同定された場合、その外科的治療によって頭痛が消失する。5例すべてで術後6ヶ月〜3年の経過観察期間中に無症状となったことが報告されている6)。EPに伴う例ではインドメタシン100mg+メラトニン4mgの組み合わせで発作減少が得られた2)。
就寝前のカフェイン摂取(65〜200mg)で60〜80%に有効とされる5)。使い慣れた飲み物として就寝前のコーヒー1杯も有効な場合がある。高齢者でも不眠の報告は稀であり、安全性は比較的高い。ただし、個人差があるため不眠が問題になる場合は他の治療法を検討する。
HHの詳細な発症機序は未解明だが、視床下部・概日リズム・睡眠関連機序の複合的な関与が示唆されている。
Holle et al.(2011)は14例のHH患者と14例の対照群を比較し、HH患者において後部視床下部の灰白質体積が有意に減少していることを報告した5)。前帯状皮質・前頭葉・側頭葉にも灰白質減少が認められた。視床下部は睡眠-覚醒移行・覚醒メカニズム・概日リズムの統合的な制御に関与しており、この構造的変化がHH発症の基盤となっている可能性がある。
SCNはメラトニン分泌を通じた体内時計の制御に中心的な役割を果たす。加齢に伴うSCN細胞数の減少がメラトニン産生低下をもたらし、これがHHの50歳以上への好発を部分的に説明すると考えられる。ただし、HH患者のメラトニン夜間分泌パターンは健常対照と有意差がなく5)、一次的なメラトニン機能障害が主因とは考えにくい。
当初HHはREM睡眠と選択的に関連すると考えられていたが、PSG研究の蓄積によってNREM睡眠(特にstage 2)での発作が50〜70%、REM睡眠での発作が20〜50%と報告されており5)、同一夜に両睡眠段階で発作が観察された例もある。このため、特定の睡眠段階との選択的関連は支持されていない。
背側縫線核・青斑核はREM睡眠中に活動を停止する。この「鎮痛系の抑制解除」が痛み閾値を低下させる機序として提唱されている。
HH患者では侵害受容性瞬目反射および疼痛関連誘発電位に有意差が認められず5)、片頭痛・群発頭痛とは異なる独自の神経生理学的メカニズムが関与すると考えられる。
Magro et al.(2023)は脊索遺残腫(EP)に伴う二次性HH2症例を報告した2)。EPによる脳幹構造への直接圧迫が三叉神経血管系求心路の感作を引き起こし、夜間に繰り返す覚醒発作を生じさせたと考察している。
Ceronie et al.(2021)は40歳女性の聴神経腫瘍がHH様症候群として発症した症例を報告した6)。後頭蓋窩腫瘍による直接的な血管鬱血・髄膜伸展が夜間頭痛の機序と推察され、ガンマナイフ放射線手術後に頭痛は消失した。
Ferretti et al.(2023)による7例の小児HH系統的レビューでは、小児と成人で痛みの性質・頻度・持続時間に差異があることが示された1)。小児では拍動性の痛みが多く(42.8%)、国際頭痛分類第3版のすべての基準を満たさない例も存在した。小児固有の診断基準の必要性が提唱されており、今後の検討課題である。PSGの睡眠ミクロ構造(CAP rateなど)の変化を報告した単一症例もあり、小児HHの睡眠構造の詳細解析が期待される。
Magro et al.(2023)は脊索遺残腫(EP)という比較的稀な病変がHHを呈した2症例を初報告した2)。これまでの二次性HH報告に加え、EPが新たな二次性HHの原因として認識される必要性を示している。
Moreau et al.(2024)は33歳男性のREM睡眠関連性的疼痛勃起(SRPE)とHHの併発症例を報告した3)。バクロフェン10mgで改善したが過眠の出現により中止。SRPEとHHの共通病態として視床下部の血管制御・自律神経系機能障害の関与が仮説として提示されており、この分野の研究は緒についたばかりである。
カフェイン・リチウム・インドメタシンはいずれも症例報告・小規模ケースシリーズに基づくエビデンスに留まる5)。RCTは存在せず、治療の標準化に向けた大規模前向き研究が今後の課題である。トピラマート・ラモトリギン・アゴメラチン・ガバペンチン・バルプロ酸・ボツリヌス毒素A型(BoNT-A)などの個別報告も存在するが5)、エビデンスは極めて限定的である。