軽症
局所ステロイド:1%酢酸プレドニゾロンを1日6回以上点眼する2,5)。
予防的抗菌薬:二次感染予防として局所抗菌薬を併用する5)。
パリトキシン角膜炎は、パリトキシン(palytoxin: PTX)の眼への局所曝露により生じる角膜炎ないし角膜結膜炎である。サンゴ角膜炎(coral keratitis)とも呼ばれる。
PTXは分子量2,680 kDaの非タンパク質性ポリエーテル毒素であり、1971年にハワイで初めて単離された。スナギンチャク(zoanthids)を中心としたソフトコーラルに含有されるが、イソギンチャク、渦鞭毛藻、藻類、多毛類、カニ、魚類からも検出されている2)。
本疾患はきわめて稀であるが、家庭用アクアリウムの普及に伴い報告数が増加傾向にある2,3)。Farooqらは2017年、7例の角膜毒性症例を集積した多施設後方視的症例集積研究を報告しており、軽度の点状表層上皮症から両眼性の角膜融解・穿孔まで多彩な所見を呈することを示している1)。
PTXの全身曝露は致死的となりうる。苦味・金属味、倦怠感、呼吸困難に始まり、重症例では呼吸不全や心不全により死亡する2,3)。
スナギンチャク属のすべてのサンゴがPTXを保有するわけではないが、外見からの判別は不可能であり、すべてが有毒であると想定して取り扱うべきとされる。アクアリウム愛好家の間でも、PTXの危険性に関する認知は限定的である。
曝露直後から急性の症状が出現する。
眼症状に加え、全身症状(呼吸困難、胸痛、咳嗽、頻脈、悪心・嘔吐、頭痛、発熱、筋肉痛、金属味)が現れることがある。
細隙灯顕微鏡所見は多彩であるが、代表的な所見を以下に示す1,2)。
| 所見 | 頻度 | 特徴 |
|---|---|---|
| 結膜充血 | 高頻度 | 曝露直後から出現 |
| 輪状浸潤 | 高頻度 | PTX角膜炎の特徴的所見 |
| デスメ膜皺襞 | 高頻度 | 角膜浮腫に伴う |
前眼部光干渉断層計(AS-OCT)による高解像度評価では、角膜実質の高反射所見やデスメ膜皺襞が描出され、角膜厚の菲薄化を伴わない症例も報告されている6)。
PTXの眼への曝露は以下の経路で生じる2,3)。
保護ゴーグル・防水手袋・マスクの着用が基本である。サンゴの除去に熱湯を使用するとPTXがエアロゾル化するため、この方法は避けるべきとされる。換気のよい場所で作業し、作業後は必ず手洗いを行う。
PTX曝露を検出する確定的な検査法は存在しない。診断は臨床的に行われ、以下の2点が必須である。
非特異的な臨床像を呈するため、鑑別は多岐にわたる。
確立された治療プロトコルは存在しない。発表された症例報告からの経験的知見に基づき対応する。
治療の第一歩は洗眼による毒素除去である。生理食塩水または人工涙液で速やかに大量洗眼を行う2,5)。コンタクトレンズを装用している場合は直ちに除去する。レンズが毒素の濃度や曝露時間を増大させるためである2)。
軽症
局所ステロイド:1%酢酸プレドニゾロンを1日6回以上点眼する2,5)。
予防的抗菌薬:二次感染予防として局所抗菌薬を併用する5)。
中等症
局所ステロイド強化:1%酢酸プレドニゾロンを1時間ごとに点眼する2)。
アスコルビン酸:角膜実質融解の予防を目的とする。
ドキシサイクリン内服:コラゲナーゼ活性を抑制し角膜融解を防ぐ。
経口ステロイド:炎症が高度な場合に追加する。
重症
軽症例では局所ステロイドと抗菌薬による2週間程度の保存的治療で完全治癒が得られることが報告されている5)。一方、Ruizらの報告例では羊膜移植を要する重症経過をたどっており、また集中治療室での全身管理を要した例も存在する3,4)。
直ちに大量の水または生理食塩水で洗眼する。コンタクトレンズを装用中であれば速やかに除去する。眼をこすらないように注意し、できるだけ早く眼科救急を受診する。
PTXの角膜細胞に対する影響は完全には解明されていないが、いくつかの機序が提唱されている。
PTXの主要な細胞毒性機序はNa+/K+ ATPase(ナトリウム・カリウムポンプ)の阻害である2)。このポンプは本来、能動的なイオン輸送体として機能するが、PTXの結合により非選択的なイオンチャネルへと変換され、細胞膜を介した陽イオンの非制御的な流入が起こる。細胞内Ca²⁺の蓄積と細胞内イオン環境の崩壊により細胞死が惹起される2)。
PTXはアクチン・マイクロフィラメントを破壊する。これにより角膜上皮細胞の遊走能が低下し、創傷治癒プロセスが遅延する。
PTXは血管収縮作用をもち、結膜の部分的な無血管化を引き起こしうる。加えて炎症性反応を誘導する。
これらの機序が複合的に作用し、以下の病態が段階的に進行する。
角膜移植が行われた検体の組織病理学的検査では、重度の角膜融解、急性および慢性角膜炎(炎症細胞数は比較的少ない)、実質瘢痕が認められている1)。
Farooq AV, Gibbons AG, Council MD, Harocopos GJ, Holland S, Judelson J, et al. Corneal Toxicity Associated With Aquarium Coral Palytoxin. Am J Ophthalmol. 2017;174:119-125. (PMID: 27793603)
Moshirfar M, Hastings J, Ronquillo Y, Patel BC. Palytoxin Keratitis. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023. (PMID: 31985993, Bookshelf ID: NBK553212)
Barrett RT, Hastings JP, Ronquillo YC, Hoopes PC, Moshirfar M. Coral Keratitis: Case Report and Review of Mechanisms of Action, Clinical Management and Prognosis of Ocular Exposure to Palytoxin. Clin Ophthalmol. 2021;15:141-156. (PMID: 33469260, PMC: PMC7811479)
Ruiz Y, Fuchs J, Beuschel R, Tschopp M, Goldblum D. Dangerous reef aquaristics: Palytoxin of a brown encrusting anemone causes toxic corneal reactions. Toxicon. 2015;106:42-45. (PMID: 26365918)
Begaj T, Ong Tone S, Ciolino JB. Toxic Keratoconjunctivitis from Coral Reef. Case Rep Ophthalmol. 2021;12(2):694-698. (PMID: 34594206)
Berges Marti M, Aragon-Roca D, Trejo-Velasco F, Garrido-Marin M, Oliveres J, Martin Nalda S. Palytoxin-Related Keratoconjunctivitis Assessed by High-Resolution Anterior Segment Optical Coherence Tomography. Turk J Ophthalmol. 2021;51(6):393-397. (PMID: 34963267, PMC: PMC8715661)