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白内障・前眼部

水晶体欠損(Lens Coloboma)

水晶体欠損(lens coloboma)は、形成不全により水晶体の赤道部縁が一部不整に凹んだ病態である。毛様小帯線維(Zinn小帯)の部分的欠損により水晶体辺縁にノッチ状の凹みを生じ、同部位のZinn小帯の減数や伸展がみられる。毛様体の部分欠損を伴う例もある。胎生裂閉鎖不全と関連し、虹彩毛様体・網脈絡膜コロボーマに伴って下方に欠損を生じることが多い。

コロボーマ」はギリシャ語で「欠損・切截」を意味する。眼では虹彩毛様体脈絡膜視神経など様々な構造に生じうるが、水晶体に生じるものを特に水晶体コロボーマという。先天性の水晶体偏位にも水晶体欠損が多くみられる。

水晶体欠損の正確な有病率データは乏しい。眼コロボーマ全体として出生10,000〜16,000人に1人程度に生じると報告されており1)、水晶体欠損はそのなかで孤立性に生じることは少なく、他のコロボーマを合併する複合型として認められることが多い。通常片眼性であるが、胎生裂閉鎖不全が両側に生じた場合は両眼性にもなりうる。

コロボーマは先天性視覚障害の重要な原因の一つであり、小眼球・無眼球症とともに適切な管理が求められる2)

Q 水晶体欠損は遺伝するのか?
A

水晶体欠損は胎生裂閉鎖不全に伴う先天性疾患であり、孤立性のほかPAX2・PAX6・CHD7などの遺伝子異常に関連した眼球全体の形成異常の一部として生じる場合がある。CHARGE症候群(CHD7遺伝子変異)や腎コロボーマ症候群(PAX2遺伝子変異)などの全身性症候群に合併することもある。他のコロボーマを合併する場合や全身疾患が疑われる場合は遺伝カウンセリングが推奨される。

水晶体欠損の症状は欠損の程度と合併する眼疾患によって大きく異なる。

  • 無症状:軽度の水晶体欠損では視力への影響が軽微で、散瞳下の細隙灯顕微鏡検査で偶発的に発見されることがある
  • 視力低下白内障合併時に生じる。混濁の部位・程度に応じて視力が低下する。小児例では弱視の主要原因となる
  • 不正乱視水晶体赤道部の変形により、眼鏡では十分に矯正できない不規則な乱視が生じる
  • 眼位異常・弱視:小児例で合併コロボーマ視力低下がある場合、斜視弱視が形成されることがある
  • 視野欠損:網脈絡膜コロボーマを合併する場合、対応する視野欠損(上方視野が多い)が生じる

散瞳下の細隙灯顕微鏡検査が診断の核心であり、以下の所見が認められる。

  • 水晶体赤道部のノッチ状欠損水晶体周縁部に切り込んだような凹状変形を認める。下方(胎生裂の位置)に生じることが最も多い
  • Zinn小帯の異常:欠損部位のZinn小帯が減数または伸展しており、水晶体の支持が不安定となっている
  • 虹彩コロボーマ:下方虹彩の欠損(鍵穴状瞳孔)を合併することがある
  • 水晶体混濁白内障を高率に合併する。混濁パターンは核白内障から皮質混濁まで多様
  • 眼底所見:網脈絡膜コロボーマ合併時に、下方の網膜脈絡膜の欠損を認める
Q 水晶体欠損は必ず視力低下を引き起こすのか?
A

軽度の欠損では視力への影響が軽微なこともある。白内障を合併した場合や不正乱視が顕著な場合に視力低下が問題となる。また網脈絡膜コロボーマを合併する場合は欠損部位に対応した視野欠損を生じうる。小児例では弱視が形成されることがあり、早期発見・治療が重要である。

水晶体欠損の主要な発生機序は胎生裂閉鎖不全である。胎生6〜7週に眼杯の下方縁(胎生裂)が融合して閉鎖するが、この閉鎖過程に異常が生じると眼杯下方部分に欠損が残存する。

水晶体欠損は、毛様体由来のZinn小帯線維が胎生裂閉鎖不全部位で形成不全を起こした結果として生じる。欠損部位ではZinn小帯が減数または伸展し、水晶体への牽引が非対称になることで赤道部縁に凹状変形(ノッチ)が形成される。同時に毛様体自体にも欠損を生じることがあり、胎生裂閉鎖不全の眼科的表現型の一部を構成する。

コロボーマの原因として複数の遺伝子変異が同定されている3)

  • PAX2遺伝子:腎コロボーマ症候群の原因遺伝子。視神経コロボーマと腎形成不全を合併する。眼コロボーマを主要所見とする4)
  • CHD7遺伝子CHARGE症候群(Coloboma・Heart defect・Atresia of choanae・Retardation・Genital abnormalities・Ear defects)の原因遺伝子。クロマチンリモデリング因子であり、変異により眼コロボーマを含む多臓器奇形を呈する5)
  • PAX6遺伝子:眼発生の主要な転写因子。変異により無虹彩症コロボーマ等の多様な表現型を示す
  • SHH遺伝子・FZD4遺伝子等:眼球形成に関与し、変異によりコロボーマを生じうる

孤立性の水晶体欠損(他のコロボーマを伴わない)では、遺伝子変異が同定されないことも多い。

水晶体欠損は他の眼球構造のコロボーマや先天異常と合併することが多い。

  • 虹彩コロボーマ:最も合併頻度が高い。下方虹彩の欠損(鍵穴型瞳孔)として現れる
  • 毛様体コロボーマ:Zinn小帯の形成不全を介して水晶体欠損と直接的に関連する
  • 脈絡膜コロボーマ:下方の脈絡膜網膜の欠損。視力予後・網膜剝離リスクに大きく影響する
  • 視神経乳頭コロボーマ視神経周囲の欠損。著明な視野欠損を伴うことがある
  • 先天性水晶体偏位:Zinn小帯の広範な異常に伴い水晶体欠損を合併することがある
  • 小眼球:胎生裂閉鎖不全の重症型として小眼球を伴う場合がある

水晶体欠損の診断は散瞳下の細隙灯顕微鏡検査を基本とし、合併する眼疾患の評価のため複数の検査を組み合わせる。問診では家族歴と全身異常の確認が必須である。

検査項目目的主な所見
散瞳細隙灯顕微鏡検査水晶体赤道部の欠損確認・Zinn小帯評価ノッチ状欠損(下方に多い)、Zinn小帯の減数・伸展
眼底検査脈絡膜コロボーマの確認・網膜剝離の評価下方の網膜脈絡膜欠損、視神経乳頭コロボーマ
視野検査視野欠損の評価上方視野欠損(網脈絡膜コロボーマに対応)
UBM検査前眼部構造の詳細評価Zinn小帯の減数・伸展の可視化

散瞳細隙灯顕微鏡検査は診断の基本である。水晶体赤道部に生じたノッチ状の凹状変形が下方(胎生裂の位置)に認められれば診断の確立となる。欠損部位のZinn小帯の状態(減数・伸展の程度)を評価することは、後の白内障手術計画立案に重要な情報を提供する。

眼底検査では網脈絡膜コロボーマの有無と範囲を評価する。欠損が黄斑部視神経乳頭に及ぶかを確認することが視力予後の予測に不可欠である。

超音波生体顕微鏡UBM)検査はZinn小帯の微細構造を断層画像として評価でき6)白内障手術前の脆弱度評価に有用である。前嚢切開(CCC)時の難易度予測に役立つ。

全身検索CHARGE症候群(心臓・耳介・後鼻孔)、腎コロボーマ症候群(腎機能)等の合併が疑われる場合は関連各科との連携のもとで全身評価を行う。

  • 外傷性水晶体偏位:外傷歴の有無、Zinn小帯の断裂パターン(急性かつ一方向性が多い)で鑑別する
  • 先天性水晶体偏位マルファン症候群・Weill-Marchesani症候群等):全身疾患・骨格異常の有無で鑑別する。Zinn小帯の広範な欠損を伴い偏位方向が特徴的(マルファン症候群では上方偏位が多い)
  • 球状水晶体水晶体全体が球形化する疾患。Weill-Marchesani症候群やAlport症候群との関連で鑑別する
Q 水晶体欠損の診断に特別な検査が必要か?
A

散瞳下の細隙灯顕微鏡検査水晶体赤道部のノッチ状欠損を確認できれば診断可能である。合併する網脈絡膜コロボーマの評価のため眼底検査も必須である。白内障手術を計画する場合はUBM検査でZinn小帯の詳細な状態を評価することが手術計画に役立つ。全身疾患(CHARGE症候群等)の合併が疑われる場合は小児科との連携が重要である。

水晶体欠損そのものに対する根本的治療法はない。治療は合併症(白内障・不正乱視弱視網膜剝離)への対応が中心となる。

  • 屈折矯正:不正乱視に対しては眼鏡処方が基本となる。眼鏡で十分な矯正が得られない場合はハードコンタクトレンズを使用する。ハードコンタクトレンズは角膜前面を均一に覆うことで不正乱視を補正する効果がある
  • 弱視治療:小児例で視力差が生じている場合、健眼遮閉(アイパッチ)による弱視訓練を行う。視覚の臨界期(概ね10歳前後まで)内に介入することが不可逆的な視力低下を防ぐ鍵である
  • 定期的眼底検査:網脈絡膜コロボーマ合併例では網膜剝離のリスクがあるため、6〜12か月ごとの眼底検査によって早期発見を図る

白内障が合併し視力障害が進行した場合、手術適応となる。水晶体欠損例ではZinn小帯の減数・伸展により水晶体の支持が不安定なため、通常の白内障手術より手術難易度が高い。

術前評価の要点

Zinn小帯脆弱度に応じた術式選択は以下のとおりである。

Zinn小帯脆弱推奨術式囊支持器具
軽度(1度)水晶体超音波乳化吸引術(PEACTR「先入れ」
中等度(2度)PEACTR + CE(囊拡張器)併用検討
重度(3度以上)嚢外水晶体摘出術(ECCE)検討M-CTR/CTS(強膜縫着型)
広範欠損水晶体摘出強膜固定IOL / 虹彩縫着IOL

CTR(Capsule Tension Ring:水晶体囊拡張リング)の使用ポイント

CTRはZinn小帯が脆弱な症例の白内障手術において、水晶体囊内に挿入して囊を円形に保持し、Zinn小帯へのストレスを軽減する器具である。CTRの使用により後囊破囊やZinn小帯断裂部の拡大を予防できる7)

軽度〜中等度の脆弱例では、CCC作製後に超音波乳化(US)チップによる核乳化の前にCTRを「先入れ」することが有用である。CTR挿入前に粘弾性物質(ヒアルロン酸製剤等)で囊を十分に広げておくことで、挿入操作時の囊へのストレスを軽減できる。核が硬い症例では皮質層が薄くCTR挿入が困難になることがあるため注意を要する。

重度のZinn小帯脆弱では、強膜固定可能なmodified CTR(Cionniリング)などの囊支持器具が選択肢となる7)水晶体囊ごと強膜へ支持を加えることで、IOLを囊内に挿入した状態での安定化を図る。後囊やZinn小帯の支持が著しく不十分な場合は、囊外にIOLを固定する方法(強膜固定IOL虹彩縫着IOL)が選択される。小児例では無水晶体眼として屈折矯正を行う場合もある。

脈絡膜コロボーマを合併する例では網膜剝離のリスクが高い。コロボーマ部位では網膜脈絡膜が欠損しており、その周辺に網膜剝離が生じやすい。コロボーマに伴う網膜剝離は難治性のことが多く、硝子体手術による治療が行われるが視機能予後は欠損の範囲と部位に依存する1)

Q 水晶体欠損があると白内障手術は難しいのか?
A

Zinn小帯の減数・伸展があるため、通常の白内障手術よりも難易度が高い。CCC時にZinn小帯脆弱度を評価し、脆弱度に応じてCTR水晶体囊拡張リング)等の囊支持器具を使用する。軽度〜中等度の脆弱例ではCTR「先入れ」を併用した水晶体超音波乳化吸引術が行われる。重度の場合はM-CTR・CTSなどの強膜縫着型囊支持器具や囊外IOL固定が選択される。経験豊富な術者による手術が推奨される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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眼球の発生において、網膜脈絡膜虹彩毛様体・Zinn小帯はいずれも眼杯(二次眼胞)から分化する構造である。胎生6〜7週、眼杯の下方縁(胎生裂)が閉鎖する際に異常が生じると、閉鎖不全の程度と部位に応じて多様なコロボーマが形成される2)

水晶体欠損は毛様体由来のZinn小帯線維が胎生裂閉鎖不全部位で形成不全を起こした結果として生じる。正常では毛様体から水晶体赤道部に均等に放射状に伸びるZinn小帯線維が、欠損部位では線維本数が少ない(減数)か、または線維が伸びた状態(伸展)となる。この非対称な牽引力により、水晶体赤道部に凹状変形(ノッチ)が形成される。同時に毛様体の一部が欠損することがあり(毛様体コロボーマ)、より広範な胎生裂閉鎖不全では虹彩網膜脈絡膜視神経にも欠損が波及する。

コロボーマの分子遺伝学的背景は複雑であり、眼の発生に関与する複数の転写因子・シグナル伝達経路の異常が報告されている3)

PAX2とPAX6は眼の発生における主要な転写因子であり、胎生裂の閉鎖を制御するシグナルにも関与する。PAX2変異では主として視神経コロボーマと腎形成不全(腎コロボーマ症候群)が生じ、PAX6変異では無虹彩症コロボーマなど多彩な表現型が現れる4)。CHD7はクロマチンリモデリング因子であり、CHARGE症候群の原因遺伝子として眼コロボーマを含む多臓器奇形を引き起こす5)

Zinn小帯(毛様小帯)は毛様体から水晶体赤道部に放射状に伸びる線維束であり、水晶体を眼球内に懸垂・支持する役割を果たす。線維はフィブリリン-1(マルファン症候群の原因タンパク質)を主成分とするマイクロフィブリルで構成されている。

水晶体欠損例ではZinn小帯の減数または伸展により、水晶体の支持が不安定になる。この不安定性が不正乱視の一因となるほか、白内障手術時の囊の安定性低下を招く。術中に前嚢切開(CCC)を行う際、Zinn小帯脆弱部位では水晶体が不安定に動揺し、前嚢切開の精度が低下するリスクがある。CTRはこの問題に対応する目的で開発された器具であり、囊内に挿入することで内側から囊を円形に支持し、Zinn小帯への負荷を均等化する。

水晶体欠損そのものは通常進行性ではない。欠損の大きさや形状は成長とともに著変しないことが多い。軽度の水晶体欠損が孤立性に存在する場合、視機能への影響が軽微なこともある。ただし合併コロボーマの有無・範囲によって視力予後が大きく異なるため、合併疾患の状態が予後を規定する。

  • 白内障合併例:早期に白内障手術を行えば視力改善が期待できる。しかしZinn小帯の問題から手術リスクが高く、術前の十分な評価と準備が重要となる
  • 脈絡膜コロボーマ合併例コロボーマの範囲と部位(黄斑視神経を含むか)によって視力予後が決まる。黄斑部に欠損が及ぶ場合は著明な視力低下を残す。コロボーマ縁に網膜剝離が生じるリスクがあり、長期フォローが必要となる1)
  • 弱視:小児例で早期発見・治療が行われない場合、不可逆的な視力低下を残す。視覚臨界期(概ね10歳前後)以前に適切な屈折矯正と弱視治療を開始することが視力予後を大きく左右する
  • 術後IOL偏位・脱臼:Zinn小帯の脆弱性から、白内障手術後に長期経過でIOLが偏位・脱臼するリスクがある。術後の定期観察が必要である
  • 定期的な眼科検査(6〜12か月ごと)により合併症の進行をモニタリングする
  • 脈絡膜コロボーマ合併例では網膜剝離の早期発見のため眼底検査を欠かさない
  • 白内障の進行度を定期的に評価し、視力への影響が生じた時点で手術適応を検討する
  • 小児例では弱視治療のコンプライアンス維持が重要であり、保護者への十分な説明と支援が求められる
  • 全身疾患(CHARGE症候群・腎コロボーマ症候群等)を合併する場合は関連各科との連携管理を行う
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