後天性風疹ぶどう膜炎
軽度虹彩毛様体炎:前房フレア・細胞が軽度に出現する。
眼底後極部の小白点:網膜色素上皮レベルの散在性白点。2〜3週間後に瘢痕残さず自然消失する。
黄斑部混濁:その後に星芒状または顆粒状混濁を呈することがある。
風疹(rubella)は1本鎖RNAウイルス(Togaviridae科 Rubivirus属)を原因とする感染症である。眼に対しては先天感染・後天感染いずれの場合も炎症性変化を引き起こし、その臨床像は感染の時期や免疫応答の様式によって大きく異なる。
風疹ウイルスによる眼疾患は、発症機序と臨床像に基づき以下の3病型に分けられる。
後天性風疹関連ぶどう膜炎:成人が風疹に罹患した場合、最盛期から回復期にかけて軽度の虹彩毛様体炎が生じ、眼底後極部に散在性の網膜色素上皮レベルの小白点が出現する。これらは2〜3週間後には瘢痕を残さず自然に消失する。その後、黄斑部に星芒状または顆粒状混濁がみられることがある。
先天風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)の眼合併症:妊娠初期(特に初期3か月)の風疹感染は胎児の眼組織を直接障害する。白内障・風疹網膜症(salt-and-pepper retinopathy)が主要眼合併症であり、心疾患・難聴とともに主要合併症を形成する。
Fuchs虹彩異色性毛様体炎(風疹関連型):虹彩異色・虹彩毛様体炎・白内障を3主徴とする慢性片眼性ぶどう膜炎であり、患者前房水中に風疹ウイルスゲノムが検出された報告から風疹ウイルスとの関連が示唆されている。その具体的な発症機序は依然として不明である。
ぶどう膜炎診療ガイドライン(2019年)の国内調査(3,055例)では、Fuchs虹彩異色性毛様体炎は0.7%(21例)を占めた1)。後天性風疹ぶどう膜炎については、2012年および2018〜2019年に生じた成人男性主体の風疹アウトブレイク後に眼症状の報告が増加した。MMRワクチンの普及によって先天風疹症候群の新規発生は激減しており、眼科的なCRS症例の多くは過去の感染世代に限られつつある。
Fuchs虹彩異色性毛様体炎の患者前房水中に風疹ウイルスゲノムが検出されること、および前房水中の風疹ウイルス抗体価(Goldmann-Witmer係数)が上昇することから、両者の間に何らかの関連があると考えられている2, 3)。発症機序は不明であるが、幼小児期の風疹感染後に眼内での持続感染が成立するという仮説が提唱されている。全てのFuchs虹彩異色性毛様体炎が風疹関連というわけではなく、前房水PCRが陰性の例も存在する。
3病型では臨床所見が大きく異なる。それぞれの特徴を整理する。
後天性風疹ぶどう膜炎
軽度虹彩毛様体炎:前房フレア・細胞が軽度に出現する。
眼底後極部の小白点:網膜色素上皮レベルの散在性白点。2〜3週間後に瘢痕残さず自然消失する。
黄斑部混濁:その後に星芒状または顆粒状混濁を呈することがある。
先天風疹症候群(風疹網膜症)
Fuchs虹彩異色性毛様体炎
後天性風疹ぶどう膜炎では、風疹罹患中に霧視・軽度の充血・前房炎症症状が生じる。先天風疹症候群では、白内障による視力低下が乳幼児期から出現することがある。Fuchs虹彩異色性毛様体炎は多くの場合無症状で経過し、白内障による視力低下や飛蚊症(硝子体混濁由来)を契機に発見されることが多い。
日本人では褐色虹彩のため虹彩異色(虹彩色素の左右差)が目立ちにくい。無散瞳状態で僚眼と比較し、虹彩びまん性萎縮・虹彩紋理の不明瞭化・小虹彩輪の不鮮明化を確認することが診断の鍵となる。散瞳後は萎縮が分かりにくくなるため、必ず無散瞳での観察を先に行うことが重要である。
後天性:風疹ウイルスの全身感染時のウイルス血症に伴い眼内への播種が生じる。眼内炎症の主体は免疫介在性反応と考えられている。
先天性(CRS):妊娠初期(特に妊娠8週以前)の母体感染により、胎盤を経由して胎児の眼組織が直接障害される。風疹ウイルスは水晶体上皮・網膜色素上皮細胞に親和性が高く、白内障と網膜症を引き起こす。
Fuchs虹彩異色性毛様体炎:幼小児期の風疹感染後に前房内で持続感染が成立し、慢性の低悪性度炎症が続くという仮説が有力である。CD8+T細胞主体の免疫介在性炎症が虹彩萎縮・血管新生を誘発すると考えられている。
| 病型 | 主要検査 | 診断の要点 |
|---|---|---|
| 後天性風疹ぶどう膜炎 | 血清風疹IgM抗体、前房水風疹PCR・Q値 | 風疹罹患歴・接触歴、発症時期(最盛期〜回復期) |
| 先天風疹症候群(CRS) | 母体罹患歴確認、患児風疹IgM抗体価 | salt-and-pepper所見、白内障、心疾患・難聴の合併 |
| Fuchs虹彩異色性毛様体炎 | 臨床眼所見(虹彩萎縮・無後癒着・星状KP)、前房水風疹PCR(研究的) | 特異的検査なし。眼所見による診断が基本 |
診断には母体の風疹罹患歴や風疹ワクチン接種の有無、風疹抗体価の上昇を調べるとともに、患児の風疹IgM抗体価の測定が必要である。特徴的な網膜症(salt-and-pepper所見)は診断的価値が高い。
Fuchs虹彩異色性毛様体炎に特異的な検査はなく、診断は眼所見による。以下の所見の組み合わせが診断の根拠となる。
前房水中の風疹ウイルスPCRやGoldmann-Witmer係数(Q値)はFuchsと風疹の関連を確認する方法として研究的に用いられる2, 3)。
| 疾患 | 主な鑑別点 |
|---|---|
| HSV/VZV虹彩毛様体炎 | 扇形虹彩萎縮、角膜知覚低下、樹枝状角膜炎 |
| Posner-Schlossman症候群 | 発作性の高眼圧(40〜70 mmHg)、反復性 |
| CMV前部ぶどう膜炎 | コイン状KP・線状KP、CMV-PCR陽性 |
| サルコイドーシス | 両眼性、羊脂様KP、全身所見(皮膚・肺・リンパ節) |
両者は発症時期・臨床像・検査所見の3点で鑑別できる。後天性は成人期の風疹罹患中(最盛期〜回復期)に虹彩毛様体炎として発症し、血清IgM抗体が陽性となる。先天風疹症候群は乳幼児期から白内障・salt-and-pepper網膜症・難聴・心疾患を呈し、母体の妊娠初期罹患歴と患児のIgM抗体価が診断の根拠となる。
多くの症例では2〜3週間で自然消退するため、経過観察が基本である。虹彩毛様体炎が顕著な場合は以下の対症療法を行う。
風疹網膜症自体は停止性であり、特別な眼科治療は必要としないことが多い。ただし以下の管理が重要である。
前房炎症にステロイドをいくら投与しても完全に消炎することは難しく、長期使用は緑内障等の合併症リスクを高める。このためステロイド点眼は最小限にとどめることが重要である。虹彩後癒着が生じないため散瞳薬も通常不要である。
後天性風疹感染はMMRワクチンによりほぼ予防可能であり、先天風疹症候群(CRS)も母体の風疹感染予防によって発生をほぼ防ぐことができる5)。ワクチン普及地域でのFuchs虹彩異色性毛様体炎の発生率低下傾向も報告されており、風疹ワクチンの予防的効果はFuchs関連型にも及ぶ可能性がある7)。ただしFuchs虹彩異色性毛様体炎の発症機序は完全には解明されておらず、風疹以外の要因も関与している可能性がある。
成人が風疹ウイルスに感染すると、ウイルス血症(viremia)の時期に眼内への播種が生じる。眼内での炎症の主体はウイルスの直接感染よりも免疫介在性の反応と考えられており、T細胞やNK細胞主体の免疫応答が虹彩毛様体炎・網膜色素上皮病変を引き起こす。炎症は自己限定性であり、ウイルス血症の終息とともに2〜3週間で消退する。
妊娠初期(特に妊娠8週以前)に母体が風疹ウイルスに感染すると、胎盤経由で胎児への感染が成立する。風疹ウイルスは水晶体上皮細胞・網膜色素上皮細胞に対して強い親和性を持ち、胎児期の眼組織を直接障害する。
患者前房水中の風疹ウイルスゲノム(RNA)の検出2)、および前房水中における眼内特異的な風疹ウイルス抗体産生の証明(Goldmann-Witmer係数の上昇)3)から、眼内での風疹ウイルス持続感染の可能性が示されている。幼小児期の風疹感染後に前房内で低悪性度の持続感染が成立し、眼内免疫寛容の破綻に伴うCD8+T細胞主体の慢性炎症が虹彩萎縮・血管新生・KP形成を誘発するとする仮説が現在最も広く受け入れられている。しかしその具体的な発症機序については依然として不明な部分が多い。
de Groot-Mijnes ら(2006)は、Fuchs虹彩異色性毛様体炎患者の前房水PCRにより風疹ウイルスRNAを検出し、欧州コホートの75%(64例中48例)で眼内風疹抗体産生を確認した2)。この報告は風疹ウイルスとFuchsの関連を示す先駆的な大規模研究として位置づけられる。
Quentin & Reiber(2004)はFuchs虹彩異色性毛様体炎患者の前房水においてGoldmann-Witmer係数(Q値)が高値となることを報告し、眼内での風疹ウイルス特異的な免疫反応の存在を示した3)。
Ruokonen ら(2010)はFuchs虹彩異色性毛様体炎患者の眼内抗体産生を複数の微生物に対して検討し、風疹ウイルスに対する眼内抗体産生が最も高頻度であることを示した4)。
Suzuki ら(2010)は日本人のFuchs虹彩異色性毛様体炎患者を対象に前房水PCRを実施し、風疹ウイルスRNAの検出を確認するとともに、日本においても風疹ウイルスが本疾患の病因である可能性を示した7)。
MMRワクチンの普及に伴い、先天風疹症候群(CRS)の発生はワクチン導入国においてほぼ消失した。Birnbaum ら(2007)は米国での風疹ワクチン接種プログラムとFuchs虹彩異色性毛様体炎の有病率との関係を検討し、ワクチン普及世代での患者割合が低下傾向にあることを報告した5)。今後の長期的な疫学追跡により、ワクチン政策がFuchsの発生頻度に与える影響がより明確になると期待される。
Winchester ら(2013)は先天風疹症候群に合併したFuchs虹彩異色性毛様体炎患者において、眼内での風疹ウイルス持続感染を確認した6)。この報告はCRSと風疹関連ぶどう膜炎の直接的な連続性を示す重要な証拠となっている。
前房水を用いた多重PCR技術の向上により、風疹ウイルス・CMV・HSVの鑑別が精度よく行えるようになった。特にアジア人ではCMV陽性Fuchs様前部ぶどう膜炎の報告が多く、前房水PCRによる病型別治療(抗ウイルス薬の選択)が治療成績向上につながる可能性がある。風疹関連型Fuchs虹彩異色性毛様体炎へのガンシクロビル点眼などの抗ウイルス療法の試みも報告されているが、その有効性はいまだ確立されていない。
Stunf ら(2012)のスロベニアコホート研究では、Fuchs虹彩異色性毛様体炎患者の眼内風疹抗体産生が高い一致率で確認された8)。このデータは欧州においてFuchs虹彩異色性毛様体炎の主因が風疹ウイルスである可能性を強く支持するものであり、地域・民族による関連性の差異を検討する研究の基盤となっている。