この疾患の要点
外傷性結膜下出血は眼球打撲・外傷により結膜 血管が破綻して生じる結膜 下の出血である。
結膜下出血 そのものは1〜4週間で自然吸収し、視力 に影響しない。
最も重要なのは結膜下出血 の下に隠れた結膜裂傷 ・強膜 裂傷・眼球破裂 の除外である。
360度の結膜下出血 +著明な低眼圧 +視力 低下は潜在性眼球破裂 を強く疑い、眼窩 CTと眼球探査術を検討する。
出血に隠れた結膜裂傷 は見逃しやすいため、丁寧な細隙灯観察とSeidel試験が必須である。
外傷後は前房出血 ・虹彩 離断・水晶体 亜脱臼・網膜 振盪症の合併も評価する。
外傷性結膜下出血は、眼球打撲・外傷を原因として結膜 血管が破綻し、結膜 下腔(球結膜 とテノン嚢 の間)に血液が貯留した状態 である。結膜下出血 全体の中で外傷性は10〜20%を占めるとされる1) 。
非外傷性結膜下出血(特発性・高血圧・抗凝固薬・バルサルバ手技等)と異なり、外傷性の場合は眼球内部の重篤な損傷のサインとなりうる点で臨床的重要性が高い。結膜下出血 そのものは良性であるが、外傷後に認めた場合は潜在する眼球損傷を系統的に除外する必要がある。
眼科外来受診者の約3%に結膜下出血 が認められ、65歳以上では10.1%に達する2) 。Tarlanらのレビューでは、結膜下出血 全体のうち特発性が30〜50%、高血圧が10〜30%、外傷が10〜20%を占める1) 。外傷性に限定した詳細な疫学データは乏しいが、スポーツ・作業・交通事故・家庭内事故が主な受傷機転となる。
外傷性結膜下出血は、合併眼球損傷がない単純例であれば1〜4週間以内に自然吸収 し、後遺症を残さない。吸収過程で出血は赤色→紫色→青緑色→黄色へと変色する。視力 への影響はない。ただし合併する眼球損傷の有無が予後を決定するため、慎重な初期評価が欠かせない。
Q
外傷で白目が真っ赤になりました。大丈夫ですか?
A
結膜下出血 そのものは1〜4週間で自然吸収し、視力 に影響しない。ただし外傷後の結膜下出血 は眼球内部の損傷(眼球破裂 ・結膜裂傷 ・前房出血 等)のサインとなりうるため、痛みがなくても必ず眼科を受診することが重要である。特に360度の結膜下出血 や視力 低下・著明な低眼圧 を伴う場合は緊急性が高い。
外傷性結膜下出血の典型例:鮮明な赤色・境界明瞭な出血斑
球
結膜 下に鮮血色・境界明瞭な出血斑が透見され、外傷後に生じる
結膜 下への血液貯留を示す。本文「主な症状と臨床所見」の項で扱う
結膜下出血 の肉眼所見に対応する。
多くは無症状 :結膜下出血 単独では痛みや視力 低下を伴わない。外傷に伴う眼痛 は合併損傷(角膜上皮剥離 ・前房出血 等)による。
充血 の自覚 :鏡を見て気づく、あるいは他者から指摘されて受診することが多い。
異物感 :ドライアイ 関連症状を訴える場合がある。
出血斑 :球結膜 下に鮮血色あるいは暗赤色の出血斑が透見される。点状・しみ状の限局型から球結膜 全体に広がる広範型まである。吸収過程でピンク・オレンジ・黄色に変色する。
出血の拡大方向 :時間とともに瞼裂から下方に移動拡大する。
結膜裂傷 の合併 :出血に隠れた結膜裂傷 は見逃しやすい。フルオレセイン染色 と丁寧な細隙灯観察が必要である。
合併所見 :前房出血 ・虹彩 離断・水晶体 亜脱臼・硝子体出血 ・網膜 振盪症の有無を系統的に評価する。
良性経過の特徴
限局性出血 :出血は一部の結膜 にとどまる。
正常眼圧 :触診・非接触眼圧 計で眼圧 が正常範囲内。
瞳孔 正常 :対光反射正常・瞳孔 形状正常。
視力 正常 :矯正視力 が受傷前と同等。
眼球破裂を疑う危険徴候
360度の結膜下出血 :全周性出血は潜在性眼球破裂 の重要サイン。
著明な低眼圧 :用指法による眼球軟化(開放性外傷疑い時は眼圧 計使用禁忌)。
瞳孔 偏位・変形・強直 :前眼部組織の脱出を示唆。
前房出血 ・視力 低下 :眼球内部への高度損傷を示唆。
Q
白目全体が赤い場合はどうすべきですか?
A
360度の結膜下出血 は潜在性眼球破裂 のサインとなりうる。著明な低眼圧 や視力 低下・瞳孔 変形を伴う場合は緊急性が高く、眼窩 CTと眼球探査術が検討される。このような所見を認めた場合は当日中に眼科専門医を受診する必要がある。
外傷性結膜下出血の受傷機転は多様である。
鈍的外傷 :拳・ボール・肘・転倒・交通事故による直達・介達外力
鋭的外傷 :ガラス片・金属片・木の枝・鉛筆等による穿通・穿孔
医原性 :白内障 手術・硝子体内注射 ・結膜 麻酔・デバイス留置等の術後
小児 :遊具事故・球技・子ども同士の接触
以下のリスク因子は外傷性・非外傷性を問わず結膜下出血 の発生率を高める。
抗凝固薬服用 :ワルファリン服用者のSCH発生率は3.7%(非服用者1.7%)3) 。DOAC も同程度のリスクと推定される。
抗血小板薬 :アスピリン・クロピドグレル等による止血遅延。
高血圧 :慢性的な血圧上昇による結膜 血管の弾性低下。
糖尿病 :微小血管障害による結膜 血管の脆弱化3) 。
高齢 :テノン嚢 と結膜 間の弾性組織・結合組織の脆弱化により出血が広がりやすい。
外傷後の結膜下出血 では以下の手順で系統的に評価する。
視力 測定・対光反射確認 :受傷前後の視力 変化・瞳孔異常 を確認する。
細隙灯顕微鏡検査 :出血の範囲・深さ・結膜裂傷 の有無を評価する。出血に隠れた結膜裂傷 は見逃しやすい。
フルオレセイン染色 ・Seidel試験 :結膜裂傷 ・角膜上皮 障害の確認、眼球開放創(房水 漏出)の検出。
眼圧測定 :開放性外傷(眼球破裂 ・穿孔性外傷)が疑われる場合は接触型眼圧 計の使用を避け、用指法または非接触型を用いる。
散瞳 下眼底検査 :網膜 振盪症・網膜裂孔 ・硝子体出血 の除外。
360度出血+低眼圧 認識時 :眼窩 CT+眼球探査術を検討する。
臨床診断
病歴聴取 :外傷の状況・受傷機転・抗凝固薬服用歴を確認する。
細隙灯顕微鏡 :出血の範囲・色調、結膜裂傷 ・角膜 障害の評価。
Seidel試験 :フルオレセイン染色 後に出血部位から房水 漏出がないか確認する。
眼圧測定 :用指法または非接触型(開放性外傷疑い時は接触型禁忌)。
全身・画像検査
血圧測定 :高血圧のスクリーニングとして必須。
血液検査 :抗凝固薬服用者ではINR・PT・APTT・血小板数を確認する。
眼窩 CT :360度出血・低眼圧 例では眼球壁の連続性・眼内異物 ・骨折の有無を評価する。
散瞳 下眼底検査 :網膜 振盪症・網膜裂孔 ・硝子体出血 の除外。
以下の疾患との鑑別が必要である。
外傷性結膜下出血の治療は、結膜下出血 そのものではなく合併する眼球損傷の治療が最優先 である。
結膜裂傷 合併 :小さいもの(<5mm)は経過観察可、大きいものは縫合
強膜 裂傷合併 :手術室でのナイロン縫合
眼球破裂 :緊急創閉鎖手術(一次修復)
前房出血 合併 :安静・ステロイド 点眼、必要に応じて洗浄手術
合併眼球損傷がない場合、結膜下出血 は自然経過に任せる。1〜4週間で自然吸収する。現時点で吸収を促進する確立された治療法はない。
薬剤 用法 適応 人工涙液 適宜点眼 不快症状の対症療法 カルバゾクロムスルホン酸Na(アドナ®)30mg 1日3回内服 毛細血管強化(繰り返す場合)
不快症状に対しては人工涙液点眼による支持療法を行う。ドライアイ を合併する場合は、3%ジクアホソルナトリウム点眼液・2%レバミピド懸濁点眼液・ヒアルロン酸ナトリウム点眼液等の処方を検討する。繰り返す出血にはカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(アドナ®錠30mg、1日3回内服)を用いる場合があるが、エビデンスレベルは高くない。
ワルファリン服用者でINRが治療域(多くは2.0〜3.0)を超えていないか血液検査で確認する。自己判断での抗凝固薬中止は脳梗塞・心原性塞栓のリスクを伴うため厳禁 である。必ず主治医と相談のうえ対応する3) 。
Q
外傷後の結膜下出血を早く治す方法はありますか?
A
現時点では結膜下出血 の吸収を促進する確立された治療法はない。吸収過程で赤→紫→青緑→黄と変色するが正常経過である。温罨法が経験的に推奨されることもあるが、エビデンスは限られている。合併する眼球損傷(結膜裂傷 ・前房出血 等)がある場合はその治療を優先する。
Q
血液サラサラの薬を飲んでいます。結膜下出血が起きたら薬をやめるべきですか?
A
自己判断での抗凝固薬中止は脳梗塞・心原性塞栓のリスクを伴うため厳禁である。INR等の検査で治療域を確認し、主治医と相談のうえ対応する。ワルファリン服用者の結膜下出血 発生率は3.7%(非服用者1.7%)であり3) 、外傷後はとくに出血が広がりやすいが、薬剤の中止判断は専門医が行う。
直達外力により結膜 血管に物理的損傷が生じ、結膜 下腔に血液が漏出する。高齢者ではテノン嚢 と結膜 の間の弾性組織・結合組織が脆弱であるため、同一の外力でも出血が広範囲に広がりやすい。
鈍的外傷による眼球破裂 では、急激な眼内圧上昇により眼球壁の最薄部(角膜輪部 ・直筋付着部付近)で断裂が生じる。眼内出血・硝子体 が結膜 下に溢出し、広範な結膜下出血 として現れる。360度の結膜下出血 がこの機序を示す特徴的所見である。
結膜下出血 の吸収に結膜 リンパ管が関与する可能性が報告されている。術中OCT により出血部位に隣接する弁様構造を持つリンパ管内に血液が確認されており、リンパ管が結膜 下腔からの血液クリアランスを促進していることが示唆されている4) 。
糖尿病では結膜 微小血管に拡張・蛇行・血流速度変化が生じ、血管の脆弱性が高まる。これにより軽微な外力でも結膜下出血 が生じやすくなる。
結膜 リンパ管による結膜下出血 のドレナージ機序が術中OCT を用いて初めて実証された4) 。白内障 手術時に生じたSCHの症例で、弁様構造を持つリンパ管内への血液移行が確認され、術後1〜2日での著明なSCH消退が報告された。この知見は緑内障 濾過手術 の予後予測にも応用される可能性がある。
外傷性結膜下出血と眼球破裂 の鑑別アルゴリズムの標準化が求められている。前眼部OCT による結膜下出血 の深さ・範囲の定量評価が診断精度向上に寄与するとの報告もあるが、臨床的普及には至っていない。
Tarlan B, Kiratli H. Subconjunctival hemorrhage: risk factors and potential indicators. Clin Ophthalmol. 2013;7:1163-1170.
Mimura T, Usui T, Yamagami S, Funatsu H, Noma H, Honda N, Amano S. Recent causes of subconjunctival hemorrhage. Ophthalmologica. 2010;224(3):133-137.
American Academy of Ophthalmology. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2021.
Lau AZB, Tang GYF, Morgan WH, Chan GZP. Drainage of subconjunctival hemorrhage through conjunctival lymphatic pathways. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025;39:102368.
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