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網膜・硝子体

マッカードル病(糖原病V型)

マッカードル病(McArdle disease)は糖原病V型(GSD5)とも呼ばれ、筋ホスホリラーゼ(myophosphorylase)の完全欠損により筋グリコーゲンの分解が障害される代謝性筋疾患である。1951年にBrian McArdleが初めて報告した。

遺伝・原因

原因遺伝子:PYGM遺伝子(11q13)。100以上の病原性変異が同定されている。1)2)

遺伝形式:常染色体劣性遺伝。1)

酵素欠損:筋ホスホリラーゼが完全に欠損し、筋グリコーゲンをグルコース-1-リン酸へ変換できない。1)

疫学・発症

有病率:1:100,000〜1:167,000と推定される。1)

発症年齢:思春期〜若年成人期に発症することが多い。1)

眼科的関連:RPEは筋肉型ホスホリラーゼアイソフォームを発現するため、グリコーゲン代謝障害により網膜パターンジストロフィが生じうる。

主要症状

運動耐容能低下:有酸素・無酸素運動いずれでも出現する。1)

横紋筋融解症:50%以上の患者が生涯に1回以上経験する。2)

眼科症状:網膜パターンジストロフィは稀だが合併しうる。

筋ホスホリラーゼはグリコーゲン外枝を切断してグルコース-1-リン酸を生成し、解糖系へのエネルギー供給を担う酵素である。1) この酵素が欠損すると、運動時に筋肉がグリコーゲンをエネルギー源として利用できなくなる。

眼科的には、RPEが筋肉型ホスホリラーゼを発現することが知られており、同酵素の機能障害が外網膜のエネルギー供給低下をもたらし、網膜パターンジストロフィを引き起こすと考えられている。また、グリコーゲン蓄積病一般として、角膜上皮や網膜血管周皮細胞へのグリコーゲン沈着を生じうることも知られている。

Q マッカードル病はどのくらい稀な疾患か?
A

有病率は1:100,000〜1:167,000と推定されており、きわめて稀な疾患である。1) PYGM遺伝子には100以上の病原性変異が同定されており、遺伝子型と表現型の対応についての研究が続いている。2)

4人のMcArdle病患者の眼底画像と眼底自発蛍光画像。黄白色の網状病変と対応する明るい網状変化が見られる
Mahroo OA, et al. Retinopathy Associated with Biallelic Mutations in PYGM (McArdle Disease). Ophthalmology. 2019;126(2):320-322. Figure 1. PMCID: PMC6347563. License: CC BY 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/).
4人のMcArdle病患者の網膜画像。A・C・Eはカラー眼底写真、Gは擬似カラー眼底画像、B・D・F・Hは対応する眼底自発蛍光画像で、各行が同じ患者を示す。眼底画像では黄白色の網状病変が見え、眼底自発蛍光では対応する網状の明るい変化を認める。患者1の画像には網膜色素上皮の萎縮に対応する暗い領域も見られる。

主な自覚症状は運動に関連した筋症状である。1)

  • 運動耐容能低下:有酸素・無酸素運動のいずれでも出現する。日常的な活動でも疲労しやすい。
  • 筋痛・筋痙攣:運動中〜運動後に生じる。重労働や激しい運動で顕著となる。
  • 倦怠感:慢性的な疲労感として持続することがある。
  • 暗色尿(ミオグロビン尿):横紋筋融解症が生じると、筋肉由来のミオグロビンが尿中に排泄されて暗色尿を呈する。1)2) 急性腎不全の警戒サインとなる。

眼科的には、網膜パターンジストロフィを合併した場合に軽度の視力低下や視野異常を自覚することがある。

全身所見

横紋筋融解症は患者の50%以上が1回以上経験する重篤な合併症である。2) 横紋筋融解症に伴う検査値異常を以下に示す。

検査項目異常値の例臨床的意義
CKベースライン1,000〜2,000 U/L、発作時数万U/L以上筋損傷の指標
Cr上昇(例: 7.71 mg/dL)2)腎機能障害
AST/ALT・LDH上昇(例: LDH 2,145 U/L)2)筋・肝障害

重症例では急性腎不全(CK 89,243 U/L、Cr 7.71 mg/dL、LDH 2,145 U/L)および尿毒症性脳症が報告されている。2) 電解質異常(低カリウム血症)や高尿酸血症も認められる。2)

セカンドウインド現象は本疾患に特徴的な所見である。運動開始約10分後に症状が軽減し、再び運動継続が可能となる。1) 詳細は「病態生理学」の項で解説する。

眼科所見

  • 網膜パターンジストロフィ:黄色の網状病変として眼底に観察される。RPEレベルの変化が主体である。
  • 眼底自発蛍光(FAF):網状の高自発蛍光パターンを呈することがある。
  • RPE萎縮・視細胞外節の消失:進行した場合に認められる。
Q セカンドウインド現象とはどのような現象か?
A

セカンドウインド現象とは、運動開始から約6〜10分後に、それまで感じていた筋痛・筋痙攣・倦怠感が軽減し、再び運動を続けられるようになる現象である。1) この現象は、筋グリコーゲンに代わり血流由来のグルコースや脂肪酸がエネルギー源として動員されることで生じる。詳細は「病態生理学」の項を参照。

マッカードル病はPYGM遺伝子の病原性変異により筋ホスホリラーゼが完全に欠損することで生じる。2) 常染色体劣性遺伝のため、両アレルに変異を有する場合に発症する。

横紋筋融解症を誘発する主な要因は以下の通りである。1)

  • 激しい有酸素・無酸素運動:最も頻度の高い誘因
  • スキューバダイビング:高圧環境・低体温・運動負荷の組み合わせが誘因となる1)
  • 分娩:子宮収縮に伴う筋エネルギー需要の増大
  • 神経性食欲不振:栄養状態の悪化による筋脆弱性の増大
  • 喘息発作:呼吸補助筋の過負荷
  • 飲酒誘発痙攣:骨格筋の強直性収縮
  • 薬剤:スタチン、アセタゾラミドなど

眼科的には、RPEが筋肉型ホスホリラーゼアイソフォームを発現しているため、同酵素の機能障害が外網膜のエネルギー供給を低下させることが網膜病変のリスクとなる。

Q どのような活動が横紋筋融解症を引き起こすか?
A

激しい運動が最も多い誘因だが、スキューバダイビング、分娩、神経性食欲不振、喘息発作、飲酒誘発痙攣なども誘因となる。1) スタチンやアセタゾラミドなどの薬剤も横紋筋融解症リスクを高めるため、処方時には医師への申告が必要である。

診断は臨床症状・生化学的検査・筋生検・遺伝子検査の組み合わせにより行われる。

検査主な所見診断的意義
筋生検ホスホリラーゼ消失確定的
遺伝子検査PYGM変異確定的
CK・LDHベースライン上昇補助的

筋生検

周辺虹彩前癒着(過ヨウ素酸シッフ)染色によりグリコーゲン蓄積が確認され、筋膜下空胞(subsarcolemmal blebs)が特徴的な所見として認められる。2) ホスホリラーゼ組織化学染色では酵素活性の消失が確認される。

生化学的検査

  • CK・LDH・トランスアミナーゼ(AST/ALT)は安静時もベースライン上昇を示す。1)2)
  • 横紋筋融解症発作時は急性腎不全指標(Cr上昇、高尿酸血症)と電解質異常(低カリウム血症)を評価する。2)

電気生理学的検査

EMG(筋電図)では軽度のミオパチー所見を示すことがある。2)

遺伝子検査

PYGM遺伝子の配列解析により病原性変異を同定する。100以上の既知変異との照合が可能である。

眼科的検査

眼底検査・FAFは網膜パターンジストロフィの評価に用いられる。確定診断後は定期的な眼底検査が推奨される。

Q マッカードル病はどのように診断されるか?
A

筋生検によるホスホリラーゼ消失の確認がゴールドスタンダードである。2) 周辺虹彩前癒着染色でのグリコーゲン蓄積および筋膜下空胞が特徴的所見である。PYGM遺伝子検査も確定診断に用いられる。生化学的検査では安静時CK上昇が補助診断として有用であり、横紋筋融解症発作時には腎機能・電解質の評価も必要となる。1)2)

確立された根治療法はなく、症状管理と合併症予防が治療の中心となる。

急性期治療

大量輸液:横紋筋融解症発作時は迅速な補液によりミオグロビンの腎毒性を軽減する。1)2)

腎機能モニタリング:CK・Cr・電解質・尿量を継続監視する。1)2)

緊急血液透析:急性腎不全が重症化した場合は緊急透析を行う。2)

長期管理

監督下運動プログラム:専門家の指導のもと有酸素運動能を段階的に向上させる。2)

食事管理:高複合糖質・低脂肪食が推奨される。2)

運動前ショ糖摂取:運動直前の糖分補給が症状軽減に有効とされる。1)

眼科的管理

定期眼底検査:網膜パターンジストロフィの進行を定期的にモニタリングする。

FAF検査:自発蛍光パターンの変化を経時的に評価する。

確立治療なし:網膜病変に対する特異的治療は現時点では確立されていない。

急性期の対応

横紋筋融解症発作時は大量の静脈内輸液が最優先の治療である。1)2) 輸液量・尿量・電解質バランスを厳密に管理し、急性腎不全の予防に努める。重症の急性腎不全では緊急血液透析が必要となる場合がある。2)

長期的な管理

  • 監督下運動プログラム:運動耐容能を段階的に改善させる。専門家の監督下で実施する。2)
  • 食事管理:高複合糖質・低脂肪食が推奨される。2)
  • 運動前ショ糖摂取:運動直前に糖分(ショ糖)を摂取することで症状の軽減が期待できる。1)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

正常では筋グリコーゲンは筋ホスホリラーゼによりグルコース-1-リン酸へ変換され、解糖系を経てATP産生に利用される。1) マッカードル病ではこの経路が完全に遮断されるため、運動開始直後の無酸素的エネルギー供給が著しく制限される。2)

筋エネルギー不足の結果、以下の分子機序が横紋筋融解症を引き起こす。2)

  • Na/Kポンプ活性低下:膜電位の維持障害
  • 細胞内Ca²⁺上昇:筋細胞の過剰収縮・細胞膜傷害
  • 酸化ストレス増大:活性酸素種の産生増加
  • 以上の結果として筋細胞膜が破綻し、ミオグロビン・CK・LDHが血中へ逸脱する

運動開始から約6〜10分後に、血流由来のグルコース(肝グリコーゲン由来)および遊離脂肪酸(脂肪組織由来)が筋肉のエネルギー源として動員される。1) これにより筋肉のエネルギー状態が改善し、症状が軽減する。この現象はマッカードル病に特異的であり、診断的価値を持つ。

スキューバダイビングにおける特殊リスク

Section titled “スキューバダイビングにおける特殊リスク”

スキューバダイビング時には、高圧環境・低体温・運動負荷の複合的影響が筋酸素供給を低下させ、横紋筋融解症のリスクをさらに高める。1)

McCann and Park(2023)は、スキューバダイビング後に横紋筋融解症を発症したマッカードル病患者の症例を報告した。1) ダイビング中の高圧・低体温環境が筋肉への酸素供給をさらに制限し、典型例よりも軽度の運動負荷で横紋筋融解症が誘発されたと考察されている。

RPEは筋肉型ホスホリラーゼ(PYGM)アイソフォームを発現している。PYGM欠損によりRPEのグリコーゲン分解が障害されると、外網膜への栄養供給が低下し、視細胞外節のターンオーバーや光変換サイクルに必要なエネルギーが不足する。この機序が網膜パターンジストロフィの病態と考えられている。

Q なぜ目(網膜)にも異常が生じるのか?
A

目の網膜色素上皮(RPE)は筋肉と同じ型のホスホリラーゼ(PYGM)を発現している。このため、マッカードル病ではRPEにおいてもグリコーゲン分解が障害され、外網膜へのエネルギー供給が低下する。結果としてRPE萎縮や視細胞外節の消失が生じ、網膜パターンジストロフィを引き起こすと考えられている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

特殊環境での横紋筋融解症メカニズムの解明

Section titled “特殊環境での横紋筋融解症メカニズムの解明”

McCann and Park(2023)は、スキューバダイビングに起因するマッカードル病の横紋筋融解症症例を詳細に分析し、高圧・低体温・高酸素環境が筋エネルギー代謝に与える影響を報告した。1) 特に高濃度酸素(nitrox 36%)ダイビングが筋疲労を軽減する可能性について言及されており、特殊環境下での活動ガイドラインの策定に向けた研究が進んでいる。

PYGM変異は現在100以上が同定されており、2) 特定の変異と臨床表現型(横紋筋融解症の頻度・重症度、眼科的合併症の有無)との関連を解明する研究が進行中である。遺伝子型と表現型の対応が明らかになれば、個別化医療への応用が期待される。

網膜パターンジストロフィとの関連研究

Section titled “網膜パターンジストロフィとの関連研究”

RPEにおける筋肉型ホスホリラーゼの機能解明を通じて、マッカードル病に伴う網膜変性の病態をさらに解明する研究が続いている。将来的には網膜病変に対する特異的介入法の開発が期待されるが、現時点では研究段階にとどまる。


  1. McCann UG 3rd, Park T. Rhabdomyolysis in McArdle disease caused by scuba diving. BMJ case reports. 2023;16(10). doi:10.1136/bcr-2023-255192. PMID:37852664; PMCID:PMC10603480.
  2. Hamadeh M, Nasrallah K, Ajami Z, Zeaiter R, Abbas L, Hamadeh S, et al. Clinical Presentation and Management of Severe Acute Renal Failure in McArdle Disease. Clinical medicine & research. 2021;19(2):90-93. doi:10.3121/cmr.2021.1641. PMID:33985978; PMCID:PMC8231694.
  3. Migocka-Patrzałek M, Elias M. Muscle Glycogen Phosphorylase and Its Functional Partners in Health and Disease. Cells. 2021;10(4). PMID: 33924466.

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