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その他

角膜・結膜生体染色検査(フルオレセイン・ローズベンガル等)(Ocular Surface Vital Staining)

1. 角膜・結膜生体染色検査とは

Section titled “1. 角膜・結膜生体染色検査とは”

角膜・結膜生体染色検査(ocular surface vital staining)は、眼表面の角膜結膜上皮の障害を色素によって可視化し、障害の分布・程度を定量化する基本的眼科検査である。

使用される主要色素は以下の3種である。

  • フルオレセイン(fluorescein):青色光で励起すると緑色蛍光を発する蛍光色素。最も広く用いられる
  • ローズベンガル(rose bengal):死細胞・変性細胞・粘液を赤色に染色する色素
  • リサミングリーン(lissamine green):ローズベンガルと類似の染色特性をもちつつ刺激が少ない代替色素

本検査の主な目的は以下の通りである。

  • ドライアイの角結膜上皮障害の検出・定量化
  • 感染性角膜炎における角膜浸潤・潰瘍の範囲把握2)
  • 薬剤毒性・コンタクトレンズ障害・眼瞼異常等による上皮障害の評価
  • Sjögren症候群の診断補助(van Bijsterveld スコアリング)3)

ドライアイ診療ガイドライン(2016年版)では、涙液層破壊時間BUT)の測定とフルオレセイン染色を組み合わせた評価がドライアイ診断の中核として推奨されている1)。2006年版では角結膜上皮障害がドライアイ診断に必須だったが、2016年版では上皮障害は必須要件ではなくなり、BUTの短縮と自覚症状に基づく診断に移行した。それでも生体染色は上皮障害の程度・パターンを客観的に記録する重要な評価手段として位置づけられている1)

感染性角膜炎の初期評価においても、フルオレセイン染色角膜上皮欠損の範囲と形状を把握するための標準的手技であり、感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)に準拠した診療に組み込まれている2)

Q 生体染色検査で何がわかるか?
A

角膜結膜の上皮障害の分布と程度が可視化される。フルオレセインでは角膜上皮点状表層角膜症SPK)やびらん・潰瘍が蛍光として浮かび上がり、ローズベンガルやリサミングリーンでは死細胞・変性細胞の分布が染色される。SPKの分布パターンから原因疾患(ドライアイ・薬剤毒性・コンタクトレンズ障害等)を推定できる。また、スコアリング法を用いれば障害を数値化でき、治療効果の経時的評価にも活用できる。

フルオレセイン染色による両眼の角膜上皮病変(細隙灯所見)
フルオレセイン染色による両眼の角膜上皮病変(細隙灯所見)
Petsoglou C, et al. Bilateral Thygeson’s Superficial Punctate Keratitis with Dendritic Corneal Lesion: A Case Report. Cureus. 2023;15(1):e80252. Figure 2. PMCID: PMC11975144. License: CC BY.
細隙灯フルオレセイン染色で、右眼(A)および左眼(B)の角膜上皮病変が青色光下で緑色蛍光として描出されている。本文「各色素の特性と手技」の項で扱うフルオレセイン染色の観察方法に対応する。

フルオレセインは生体染色色素として最も広く用いられている。入手しやすく、安全で刺激が少ないことから汎用される。フルオレセインは青色光(最大吸収波長494 nm)で励起すると緑色(521 nm)の蛍光を発する色素である。コバルトブルーのフィルターで励起するだけでも観察できるが、観察系にブルーフリーフィルターを入れると明瞭に病変を描出できる。

染色原理と観察ポイント:

  • 上皮細胞間の密着結合(tight junction)が破綻した部位に侵入・染色される
  • コバルトブルーフィルター(励起494 nm)とブルーフリーフィルター(バリアフィルター)の組み合わせで最も明瞭な観察が可能
  • 主な染色対象:点状表層角膜症SPK)・角膜びらん角膜潰瘍

染色手順(最小量染色法):

  1. フルオレセイン試験紙に生理食塩水を1〜2滴たらし、よく振って水分を切る
  2. 濡れた試験紙の端を下方眼瞼縁の涙液メニスカスに軽く触れさせて染色する
  3. 眼球に直接試験紙が触れないよう注意する(過剰染色による偽陰性を防ぐ)
  4. コバルトブルーフィルター下でSPKの分布・密度・形態を観察する

ローズベンガルはフルオレセインとは異なるメカニズムで眼表面を染色する。

染色特性:

  • 死細胞・変性細胞・ムチン保護が失われた部位を赤色に染色する
  • 正常細胞の表面は分泌型ムチンで被覆されており、ローズベンガルの浸透を防いでいる
  • 白色光または赤色フィルターで観察する
  • フルオレセインより刺激が強く、点眼時に疼痛を生じる場合がある

van Bijsterveld スコアリング(ローズベンガル・リサミングリーン共用):

  • 角膜・鼻側球結膜・耳側球結膜の3領域をそれぞれ0〜3点で評価する
  • 合計3.5点以上を陽性(Sjögren症候群診断基準に使用)3)

リサミングリーンはローズベンガルと類似した染色特性を持ちつつ、患者への刺激が少ない代替色素である。

染色特性:

  • 死細胞・変性細胞を緑色に染色する(メカニズムはローズベンガルと同様)
  • 赤色フィルター(560 nm以上)で明瞭に観察できる
  • ローズベンガルより点眼時の刺激が少なく、患者の負担が軽い
  • 近年ローズベンガルの代替として臨床使用が増加している傾向がある

フルオレセイン(fluorescein)

吸収波長:494 nm(青色光)→ 蛍光521 nm(緑色)

染色対象:上皮細胞間の密着結合破綻部位(細胞間隙)

主用途SPK検出・BUT測定・角膜潰瘍/びらん評価

刺激性:低い(最も使いやすい)

観察フィルター:コバルトブルー + ブルーフリー(バリア)フィルター

ローズベンガル(rose bengal)

染色色:赤色

染色対象:死細胞・変性細胞・ムチン保護欠失部

主用途:Sjögren症候群診断(van Bijsterveld スコア)、ドライアイ評価

刺激性:強い(点眼時疼痛あり)

観察フィルター:白色光または赤色フィルター

リサミングリーン(lissamine green)

染色色:緑色

染色対象:死細胞・変性細胞(ローズベンガルと同様のメカニズム)

主用途:ローズベンガルの代替。ドライアイ・Sjögren症候群評価

刺激性:低い(ローズベンガルより患者負担が少ない)

観察フィルター:赤色フィルター(560 nm以上)で明瞭

特性フルオレセインローズベンガルリサミングリーン
染色色緑色蛍光赤色緑色
染色対象細胞間隙(密着結合破綻部)死細胞・変性細胞・ムチン欠失部死細胞・変性細胞
刺激性低い高い(疼痛あり)低い
観察フィルターコバルトブルー + ブルーフリー白色光・赤色フィルター赤色フィルター(560 nm以上)
主な用途SPKBUT測定・角膜潰瘍Sjögren診断・ドライアイローズベンガル代替
代表スコアOxford スコア・NEI スコアvan Bijsterveld スコアvan Bijsterveld スコア
Q ローズベンガルとリサミングリーンの違いは?
A

両者とも死細胞・変性細胞を染色するが、リサミングリーンの方が刺激が少なく患者の負担が軽い。ローズベンガルは点眼時に疼痛を生じることがあるため、場合によっては点眼麻酔が必要になる。リサミングリーンはこうした欠点を解消した代替色素として近年普及が進んでいる。観察には赤色フィルター(560 nm以上)を使用すると明瞭に染色部位を確認できる。

NEIスコアリング法による角膜5分割グリッドとフルオレセイン染色評価例
NEIスコアリング法による角膜5分割グリッドとフルオレセイン染色評価例
Goyal S, et al. A prospective study evaluating the effect of dry eye disease on corneal fluorescein staining patterns. PLoS One. 2024;19(3):e0299776. Figure 1. PMCID: PMC10939279. License: CC BY 4.0.
角膜をNEIスコアに基づき中央・鼻上・耳上・鼻下・耳下の5区画に分割した評価グリッド(左右眼)と、実際のフルオレセイン染色写真による評価例を示す。本文「スコアリング法と判定基準」の項で扱うNEI/Industry Workshopスコアに対応する。

結膜上皮障害を定量化するためのスコアリング体系が複数確立されている。

スコア法評価領域評点範囲合計主な用途
van Bijsterveld スコア角膜・鼻側球結膜・耳側球結膜(3領域)各0〜3点9点満点(3.5点以上で異常)Sjögren症候群診断基準
Oxford スコアリング角膜・球結膜(鼻側・耳側)(3領域)各0〜4点(5段階)15点満点ドライアイ重症度評価
NEI/Industry Workshop スコア角膜(5分割)各0〜3点15点満点ドライアイ臨床研究

角膜・鼻側球結膜・耳側球結膜の3領域それぞれを0〜3点(0:染色なし、1:少数の点状染色、2:融合傾向の染色、3:広範囲の染色)で評価する。合計3.5点以上を異常とし、Sjögren症候群の診断基準として国際的に採用されている3)

角膜・球結膜(鼻側・耳側)の3領域をそれぞれ0〜4点(5段階)で評価し、合計15点満点とする。各段階はパネル図と照合して半定量評価する。ドライアイの重症度評価や治療効果の判定に使用される。

角膜を中央・鼻上・耳上・鼻下・耳下の5区画に分割し、各区画を0〜3点で評価し合計15点満点とする。臨床研究や多施設試験で広く採用されている。

ドライアイ診療ガイドラインでの角結膜上皮障害基準(2006年版)1)

  • フルオレセイン染色スコア3点以上
  • または ローズベンガル染色スコア3点以上
  • または リサミングリーン染色スコア3点以上

2016年版のドライアイ診断基準では上皮障害は診断の必須要件から外れたが、上皮障害の観察はドライアイの重症度評価・治療効果判定に引き続き重要な役割を担っている1)

4. 臨床的意義と染色パターンの読み方

Section titled “4. 臨床的意義と染色パターンの読み方”

点状表層角膜症(superficial punctate keratopathy: SPK)は、異物感を訴える患者で最も頻度が高い眼所見である。SPKは何らかの原因によって角膜上皮が障害を受けた「結果」であり、原因診断名ではない。フルオレセイン生体染色はSPKの検出と分布パターンの把握に不可欠であり、細隙灯顕微鏡のみではわからない微細なSPKも可視化できる。

SPKを検出したら、その分布パターンから原因疾患を積極的に推定することが重要である。

分布パターン主な原因疾患
角膜下1/3に集中ドライアイ(涙液減少型)、眼瞼内反
角膜上1/3に集中上輪部角結膜炎(SLK)、トラコーマ
角膜全体(びまん性)薬剤毒性角膜症、ウイルス性角膜
3時〜9時方向(水平帯)コンタクトレンズ(3-9 o’clock ステイニング)
角膜中央兎眼(ラグオフタルモス)、神経麻痺性角膜

外因性のSPK:

内因性のSPK:

薬剤毒性角膜症の特徴的染色パターン

Section titled “薬剤毒性角膜症の特徴的染色パターン”

薬剤毒性角膜症では、角膜上皮の障害に比べて結膜上皮の障害が少ないという特徴がある。この所見はフルオレセイン染色で明確に確認でき、他の原因疾患との鑑別に有用である。角膜全体にびまん性のSPKが認められる場合は、使用中の点眼薬(防腐剤・高濃度薬剤・アミノグリコシド系抗菌薬等)の影響を考慮する必要がある2)

感染性角膜炎における染色の意義

Section titled “感染性角膜炎における染色の意義”

感染性角膜炎では、フルオレセイン染色により角膜上皮欠損の形状・面積・深さ(染色の濃淡で判断)を客観的に把握できる。潰瘍の範囲と形状が治療方針の選択・経過観察の指標として活用される2)。また抗菌点眼薬(高濃度製剤・アミノグリコシド系)は角膜上皮毒性を生じやすいため、治療経過中の上皮障害の悪化がないか生体染色で確認することが重要である2)

Q 染色パターンから何がわかるか?
A

SPKの分布パターンを観察することで、原因疾患を推定できる。角膜下方に集中したSPKドライアイ眼瞼内反を示唆し、上方のSPKはSLK・トラコーマを、角膜全体のびまん性SPKは薬剤毒性やウイルス性角膜炎を示唆する。3時〜9時方向のSPKはコンタクトレンズ障害、角膜中央のSPK兎眼・神経麻痺性角膜炎に特徴的である。SPKはあくまで上皮障害の「結果」であり、分布パターンを手がかりに原因検索を行うことが診療の要点となる。

5. 関連する治療指針(上皮障害の原因別対応)

Section titled “5. 関連する治療指針(上皮障害の原因別対応)”

生体染色で確認した上皮障害の分布と程度から原因を同定し、原因に応じた治療を選択する。

ドライアイ診療ガイドライン(2016年版)に基づく標準治療は以下の通りである1)

  • 3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアス®): 1日6回点眼。水分分泌促進・分泌型ムチン(MUC5AC)分泌促進・膜型ムチン(MUC1, MUC4, MUC16)発現増加の多面的作用をもつ。涙液安定性・角結膜上皮障害・自覚症状を改善する
  • 2%レバミピド懸濁点眼液(ムコスタ®): 1日4回点眼。杯細胞数増加による分泌型ムチン分泌促進と膜型ムチン発現増加の作用をもつ。角結膜上皮障害・自覚症状を改善する
  • 0.1%ヒアルロン酸点眼液: 角結膜上皮障害・自覚症状を改善する。広いサブタイプに使用できる
  • 涙点プラグ挿入: 涙液排出を抑制。area breakパターン(涙液減少型)では第一選択となる

感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)に基づき、原因菌の同定後に適切な抗菌薬を選択する2)

  • 細菌性角膜炎の初期治療:レボフロキサシン1.5%等の広域フルオロキノロン系点眼薬
  • 高濃度点眼薬やアミノグリコシド系薬は角膜上皮障害を生じやすいことに留意する2)
  • 治療経過中は生体染色で上皮障害の改善を定期的に確認する
  • 原因と考えられる点眼薬(防腐剤含有製剤等)の中止・変更が基本対応
  • 保存剤フリー製剤への切り替えを検討する
  • 中止後に上皮障害の改善を生体染色で確認する
  • CL装用の一時中止
  • レンズ素材・含水率・装用時間の見直し
  • ドライアイを合併している場合は点眼治療を並行する

6. 測定原理(光学原理と染色メカニズム)

Section titled “6. 測定原理(光学原理と染色メカニズム)”

フルオレセインは蛍光色素であり、コバルトブルー光(494 nm)を吸収して緑色蛍光(521 nm)を発する。蛍光発光の原理は吸収エネルギーを光として再放出するフォトルミネッセンスである。

ブルーフリーフィルター(バリアフィルター)は励起光(494 nm付近)を遮断し、蛍光波長(521 nm)のみを透過させる。これによって背景光が除去され、SPKの蛍光が際立って観察できる。細隙灯顕微鏡にブルーフリーフィルターを装着すると、コバルトブルーフィルターのみの観察に比べてSPKの検出感度が大幅に向上する。

角膜上皮の密着結合(tight junction)が破綻すると、細胞間隙にフルオレセインが浸透して蛍光を発する。正常な密着結合が保たれている部位はフルオレセインが侵入できず染色されない。

ローズベンガルはムチンによって保護されていない細胞を選択的に染色する。健常な眼表面細胞はムチン層(主に分泌型ムチンMUC5AC)で被覆されており、ローズベンガルの染色を防いでいる。死細胞・変性細胞はこのムチン保護が失われているため染色される。フルオレセインとは異なり死細胞そのものを染色するため、眼表面の細胞活性を反映する指標といえる。

リサミングリーンはローズベンガルと同様のメカニズムで死細胞・変性細胞を染色する。赤色フィルター(560 nm以上)下での観察で最も明瞭に染色を確認できる。ローズベンガルに比べて眼表面の刺激が少ない理由は、生体組織への浸透性が異なるためと考えられている。

ブルーフリーフィルターの役割

Section titled “ブルーフリーフィルターの役割”

ブルーフリーフィルターはフルオレセイン観察において特に重要である。フィルターなしのコバルトブルー光観察でも病変は確認できるが、ブルーフリーフィルターを追加することで:

  • 背景光(コバルトブルー光の散乱)が除去される
  • 蛍光波長のみが眼底に届き、コントラストが大幅に向上する
  • 微細なSPKが検出しやすくなる
  • BUT測定の精度(涙液層破綻の判定)も向上する
  • 前眼部OCTによる非侵襲的角膜上皮厚マッピング: 前眼部光干渉断層計AS-OCT)を用いた角膜上皮厚の断層マッピング技術が進歩している。生体染色を使わずに角膜上皮の菲薄化・不整分布を評価できる可能性があり、生体染色の補完または代替として研究が進んでいる4)
  • 自動画像解析による染色スコアの客観化: 染色スコアリング(Oxford スコア・van Bijsterveld スコア等)は現在、観察者の主観的判断に依存している。AI・機械学習を用いた自動スコアリングシステムの開発が進んでおり、再現性・客観性の向上が期待される5)
  • 染色感度・特異度の精密化研究: 各染色色素の感度・特異度をドライアイサブタイプ別・病期別に評価する研究が継続中である。特にリサミングリーンとローズベンガルの同等性・互換性についての検討が行われている
  • 共焦点顕微鏡との組み合わせ: インビボ共焦点顕微鏡(IVCM)を生体染色と組み合わせることで、上皮障害の細胞レベルでの評価が可能になりつつある。感染性角膜炎の病原体同定への応用も研究されている4)
  1. ドライアイ研究会診療ガイドライン作成委員会(島﨑潤, 横井則彦, 渡辺仁, 他). ドライアイ診療ガイドライン. 日本眼科学会雑誌. 2019;123(5):489-592.
  2. 日本眼感染症学会. 感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版). 日眼会誌. 2013;117(6):467-509.
  3. Vitali C, Bombardieri S, Jonsson R, et al. Classification criteria for Sjögren’s syndrome: a revised version of the European criteria proposed by the American-European Consensus Group. Ann Rheum Dis. 2002;61(6):554-558.
  4. Palakkamanil MM, Nichols KK. Comparison of lissamine green and rose bengal staining. Optom Vis Sci. 2015;92(5):566-571.
  5. Bron AJ, Evans VE, Smith JA. Grading of corneal and conjunctival staining in the context of other dry eye tests. Cornea. 2003;22(7):640-650.

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