コントラスト感度検査(Contrast Sensitivity Testing)
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. コントラスト感度検査とは
Section titled “1. コントラスト感度検査とは”
コントラスト感度検査は、異なる空間周波数(サイクル/度:cycles per degree, c/d)における縞状格子パターン(sine wave grating)の識別能力(コントラスト閾値)を測定する視機能検査である。視力検査(最高空間周波数でのコントラスト閾値の逆数に相当)では評価できない視機能の質的側面を評価し、特に視力が保たれていても主観的な視機能低下がある症例に有用である。
空間周波数とは1度の視角内に含まれる明暗のサイクル数を指す。コントラスト感度曲線(Contrast Sensitivity Function: CSF)は、横軸に空間周波数(c/d)、縦軸にコントラスト感度(コントラスト閾値の逆数)をとったグラフであり、成人正常眼では逆U字型のバンドパス特性を示す。ピークは中間周波数(3〜6 c/d)にあり、高周波・低周波の両端で感度が低下する。加齢により全周波数帯で感度が低下する。
視機能はコントラスト感度、視力の順で低下するため、霞むという訴えがあっても視力低下がない場合にはコントラスト感度を測定することが有用である。患者の主観的な「霞み」「グレア」「夜間の視力低下」はコントラスト感度低下と相関することが多い。
コントラスト感度検査の歴史は、de Lange(1952年)らによる正弦波格子を用いた時間的・空間的コントラスト感度特性の研究に端を発する。1988年にはPelli & Robsonが臨床応用可能な標準チャートを開発し、臨床検査として普及した1)。
2. 検査方法(チャート・手技・判定)
Section titled “2. 検査方法(チャート・手技・判定)”
主要検査チャート
Section titled “主要検査チャート”| チャート名 | 空間周波数 | コントラストレベル | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Pelli-Robsonチャート | 1 c/d相当(固定) | 3文字ずつ8段階 | 簡便・広く普及。文字サイズ一定でコントラストのみ変化 |
| FACT(Functional Acuity Contrast Test) | 1.5/3/6/12/18 c/d(5段階) | 9コントラストレベル | 複数空間周波数で詳細なCSF描出が可能 |
| CSV-1000(Vector Vision社) | 3/6/12/18 c/d(4段階) | 8コントラストレベル | 背光式パネル。各周波数で定量評価可能 |
| CGT-2000(タカギセイコー社) | 複数周波数 | 段階的 | 液晶ディスプレイ方式。国内で使用される |
Pelli-Robsonチャートは一定サイズの文字(約1 c/d相当)を提示し、コントラストのみを段階的に低下させて測定する。最も低いコントラストで3文字中2文字以上を正答できたレベルをlog単位で記録する。スクリーニングおよび白内障・視神経疾患のモニタリングに広く用いられる1)。
FACTおよびCSV-1000は複数の空間周波数で感度を測定し、CSF全体の形状を把握できる。角膜不正乱視では高空間周波数の選択的感度低下、視神経疾患では全周波数帯の広範な感度低下など、疾患特異的なパターンの同定が可能である2)。
- 検査距離: チャートにより異なる(Pelli-Robson: 1 m、FACT/CSV-1000: 3 m)
- 照度・輝度: 85 cd/m²前後の均一な背景輝度が推奨される
- 矯正: 完全屈折矯正下で片眼ずつ測定する
- 手順: 各空間周波数で識別可能な最低コントラストレベルを記録し、CSFを描出する
正常値の参考
Section titled “正常値の参考”- 成人正常眼のピーク感度: 中間周波数(3〜6 c/d)でコントラスト感度 100〜400(コントラスト閾値 0.25〜1%)
- Pelli-Robsonチャート: 正常成人では対数コントラスト感度1.65〜1.95(コントラスト閾値2〜3%)1)
- 加齢により全周波数帯で感度低下がみられ、60歳代では若年成人比で約0.3 log単位の低下を示す3)
3. コントラスト感度と視力の関係
Section titled “3. コントラスト感度と視力の関係”視力(Visual Acuity: VA)は高空間周波数側のコントラスト閾値の逆数として定義されるため、コントラスト感度曲線(CSF)の一点にすぎない。コントラスト感度検査はCSF全体を評価することで、視力では捉えられない視機能の全体像を把握できる。
視機能はコントラスト感度から先に低下し、続いて視力が低下する順序をたどることが多い。したがって、視力が正常でも主観的な見えにくさを訴える症例では、コントラスト感度の低下が先行している可能性がある。特に以下の状況でこの乖離が生じやすい。
- 後囊混濁(線維化型): 視力が1.0以上を保持したままコントラスト感度のみ低下する
- 視神経炎回復期: 視力は0.8以上に回復しても、コントラスト感度の低下が長期間残存することがある4)
- 多焦点IOL術後: 遠見・近見の視力は良好でも、コントラスト感度が単焦点IOLより低下する傾向がある5)
患者の主観的訴え(「霞む」「グレアが強い」「夜間に見えにくい」)はコントラスト感度の低下と強く相関する。視力が良好でもこのような訴えがある場合、コントラスト感度検査は客観的な評価指標として有用である。
4. 臨床的意義(適応疾患と特徴的パターン)
Section titled “4. 臨床的意義(適応疾患と特徴的パターン)”| 疾患・状況 | 感度低下の空間周波数 | 特徴・臨床的意義 |
|---|---|---|
| 後囊混濁(線維化型) | 中〜高周波数(選択的) | 視力正常でもコントラスト感度低下。Nd:YAGレーザー後囊切開の適応判断に有用 |
| 白内障 | 全周波数帯(中間周波数で顕著) | 散乱光によるグレア条件下での感度低下。核白内障で特に顕著6) |
| 角膜不正乱視(屈折矯正術後) | 高空間周波数(選択的) | 光学的解像限界の低下を反映 |
| 視神経炎・NAION | 全周波数帯 | 急性期後も視力回復を超えてコントラスト感度低下が残存する場合あり4) |
| 弱視 | 中〜高空間周波数(タイプ依存) | 弱視タイプにより低下パターンが異なる |
| 緑内障 | 高空間周波数(早期) | 視野障害に先行して検出される可能性あり7) |
| 多焦点IOL・EDOF IOL術後 | 中〜高空間周波数 | 単焦点IOLに比べコントラスト感度がやや低下する傾向。術前説明に活用5) |
| 加齢性変化 | 全周波数帯(高周波数で早期) | 正常加齢でも全周波数帯で漸進的に低下3) |
後囊混濁と白内障においてコントラスト感度検査は特に重要な役割を果たす。後囊混濁のElschnig真珠型では通常すでに視力が低下していることが多いが、線維化型では軽度であればコントラスト感度の低下のみを起こし視力は保持される。この違いを把握することで、Nd:YAGレーザー後囊切開の適応をより適切に決定できる。
緑内障では、high-pass resolution perimetry(HRP)と類似した原理で、高空間周波数のコントラスト感度低下が視野障害に先行して検出される場合があるとの報告がある7)。ただし感度・特異度は視野検査に劣るため、現時点では補助的な役割にとどまる。
5. 後囊混濁の評価とNd:YAGレーザー後囊切開
Section titled “5. 後囊混濁の評価とNd:YAGレーザー後囊切開”後囊切開の適応は、主に細隙灯顕微鏡の徹照法を用いて混濁のタイプ・程度から視機能障害を推定して決定する。視機能はコントラスト感度、視力の順で低下するため、霞むという訴えがあっても視力低下がない場合はコントラスト感度を測定することが有用である。
後囊混濁のタイプと視機能への影響:
- Elschnig真珠型(重層化): 後囊上に残存水晶体上皮細胞が増殖・重層化したもの。通常はすでに視力低下が生じていることが多い
- 線維化型(軽度): コントラスト感度の低下のみを起こし、視力は保持される。この場合、視力検査のみでは視機能低下を見逃す可能性がある
コントラスト感度低下がNd:YAGレーザー後囊切開の判断に加味できる場合、患者の主訴(霞み・グレア)と客観的測定値が乖離している症例でも適切な介入時期を判断しやすくなる。
Nd:YAGレーザー後囊切開の手技参考値:
- パルスエネルギー: 1.0〜2.0 mJ(開始は低エネルギーから)
- 切開パターン: 十字型または円形切開(直径3〜4 mm以上を目標)
- 主な合併症: 眼圧上昇(術後1〜2時間、眼圧下降薬で対応)、IOL損傷(ピットが生じることがある)、硝子体前面脱出
6. 測定原理(空間周波数理論)
Section titled “6. 測定原理(空間周波数理論)”コントラストの定義
Section titled “コントラストの定義”コントラストはMichelson式で定義される。
コントラスト(C)= (Lmax − Lmin)/(Lmax + Lmin)
ここでLmaxは縞の最高輝度、Lminは最低輝度を示す。コントラストは0(均一)〜1(最大)の値をとる。コントラスト感度(CS)はコントラスト閾値(識別可能な最低コントラスト値)の逆数である。
CS = 1 / コントラスト閾値
人間の視覚系のバンドパス特性
Section titled “人間の視覚系のバンドパス特性”人間の視覚系はバンドパスフィルター特性を持ち、中間空間周波数(3〜6 c/d)で最も高い感度を示す。
- 低周波数での感度低下: 側方抑制(lateral inhibition)によるもの。網膜・大脳視覚野の処理機構が低周波の均一パターンを抑制する
- 高周波数での感度低下: 眼光学系の解像限界(収差・回折)と網膜光受容体のサンプリング限界(錐体間距離)による
中心窩錐体密度は約150,000〜200,000個/mm²であり、サンプリング限界は約50〜60 c/dに相当する。実際のCSFのカットオフ周波数は光学収差の影響でこれより低くなる。
空間周波数と視力の換算
Section titled “空間周波数と視力の換算”空間周波数(c/d)と視力の関係は次のとおり。
| 空間周波数(c/d) | 相当する小数視力 |
|---|---|
| 3 | 約0.1 |
| 6 | 約0.2 |
| 12 | 約0.4 |
| 18 | 約0.6 |
| 30 | 約1.0 |
| 60 | 約2.0 |
視力1.0に相当する空間周波数は約30 c/dであるため、CSFの高周波数限界がCSF上の視力に相当する点となる。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”qCSF(quick Contrast Sensitivity Function)法は、ベイズ推定を用いた適応型検査アルゴリズムにより、従来法の1/3〜1/5の試行回数でCSF全体を推定できる手法である8)。心理物理学的計測の効率化に大きく貢献し、臨床応用が進んでいる。
タブレット型デバイスを用いたコントラスト感度測定の簡便化も進んでいる。スマートフォン・タブレットの液晶ディスプレイを用いた検査アプリが開発されており、在宅でのモニタリングや大規模スクリーニングへの応用が期待される9)。ただし、ディスプレイの輝度・ガンマ特性の校正が精度確保に不可欠であり、標準化が課題である。
多焦点IOL・EDOF IOL術後評価では、コントラスト感度が重要なアウトカム指標として位置づけられている。各IOLデザインによる中間〜高空間周波数でのコントラスト感度への影響を客観的に評価し、患者説明・デバイス選択に活用する取り組みが続いている5)。
神経眼科領域では、視神経炎・多発性硬化症の病勢評価指標としてのコントラスト感度の有用性が検討されている。視力が正常化した後も持続するコントラスト感度低下は、亜臨床的な軸索障害を反映する可能性があるとされる4)。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”-
Pelli DG, Robson JG, Wilkins AJ. The design of a new letter chart for measuring contrast sensitivity. Clin Vis Sci. 1988;2(3):187-199.
-
Ginsburg AP. Contrast sensitivity: determining the visual quality and function of cataract, intraocular lenses and refractive surgery. Curr Opin Ophthalmol. 2006;17(1):19-26.
-
Owsley C. Aging and vision. Vision Res. 2011;51(13):1610-1622.
-
Balcer LJ, Miller DH, Reingold SC, Cohen JA. Vision and vision-related outcome measures in multiple sclerosis. Brain. 2015;138(Pt 1):11-27.
-
de Vries NE, Webers CA, Touwslager WR, et al. Dissatisfaction after implantation of multifocal intraocular lenses. J Cataract Refract Surg. 2011;37(5):859-865.
-
Elliott DB, Bullimore MA. Assessing the reliability, discriminative ability, and validity of disability glare tests. Invest Ophthalmol Vis Sci. 1993;34(1):108-119.
-
Sample PA, Ahn DS, Lee PC, Weinreb RN. High-pass resolution perimetry in eyes with ocular hypertension and primary open-angle glaucoma. Am J Ophthalmol. 1992;113(3):309-316.
-
Lesmes LA, Lu ZL, Baek J, Albright TD. Bayesian adaptive estimation of the contrast sensitivity function: the quick CSF method. J Vis. 2010;10(3):17.
-
Hazel CA, Elliott DB. The dependency of logMAR visual acuity measurements on chart design and scoring rule. Optom Vis Sci. 2002;79(12):788-792.