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屈折矯正

屈折矯正手術後のエクタジア

1. 屈折矯正手術後のエクタジアとは

Section titled “1. 屈折矯正手術後のエクタジアとは”

屈折矯正手術後のエクタジア(iatrogenic keratectasia / post-refractive surgery ectasia)は、LASIK・PRK・SMILEなどの屈折矯正手術後に角膜実質が進行性かつ偏心性に菲薄化し、前表面・後表面が急峻化する病態である。屈折矯正手術における最も重篤な合併症の一つとされ、屈折矯正手術のガイドライン(第8版)でもエキシマレーザー手術の術後合併症⑦として明記されている1)

不可逆的であり、裸眼視力・眼鏡矯正視力の双方を著しく低下させる。進行が確認された場合は早期介入が予後を左右する。

術式によってエクタジア発症リスクは大きく異なる。

術式有病率(10万眼あたり)主な特徴
LASIK約90フラップ作製により角膜バイオメカニクスが低下。リスクが最も高い
PRK約20フラップなし。LASIKの約1/4のリスク
SMILE約11キャップが角膜強度に一定程度寄与する可能性2)

LASIKの発症率はPRKの約4.5倍である3)。ただしSMILEは承認後の追跡期間が短く、過小評価の可能性がある3)。また、屈折矯正手術希望者の最大6%に何らかの臨床下拡張性疾患が存在すると推定されており、術前スクリーニングの精度が発症率を左右する。

Q SMILEならエクタジアにならないのですか?
A

SMILEはLASIKと比較してエクタジア発症率が低いとされますが(10万眼あたり11 vs 90)3)、リスクが消失するわけではありません。SMILEはキャップが角膜強度に一定程度寄与する可能性が示唆されていますが2)、追跡期間がまだ短く長期的な発症率の過小評価が懸念されます。SMILEにおいても角膜拡張症は術後合併症として明記されており1)、術前スクリーニングと安全閾値の遵守は必須です。

2. リスク因子と術前スクリーニング

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エクタジアの最も重要な予防策は、術前の徹底したリスク評価である。

リスク因子詳細
円錐角膜(潜伏型含む)最重要因子。ガイドライン第8版で禁忌として明記1)
RST(残余角膜実質床)の不足RST <280μmでリスク急上昇。RST <250μmは不可2)
高いLT index最大切除厚/中心角膜厚比(LT/CCT)が28%超でリスク増大2)
高いPTA組織変化率≧40%でLASIKエクタジアリスクと有意に関連4)
若年34歳未満。18歳以下では角膜が安定しておらず進行が速い
強度近視多量の切除が必要となり残余実質床が不足しやすい
眼をこする習慣進行と関連する唯一の確認された生活習慣因子

角膜クロスリンキング手術のエビデンスに基づく国際ガイドラインでは、以下の安全閾値を推奨している2)

指標安全基準禁止基準
RST(残余角膜実質床)≧280μm<250μm(測定誤差考慮後も不可)
LT index(LT/CCT比)≦28%28%超
PTA(組織変化率)※LASIK<40%≧40%

SMILE(KLEx)ではPTA計算の解釈がLASIKと異なる。キャップはフラップと異なり角膜構造強度に寄与するため、LASIK基準のPTA閾値をそのまま適用することには議論がある2)

角膜形状解析やRST単独では術後エクタジア予測の感度は70%を超えない2)。TBI(Tomographic and Biomechanical Index、SUCRA 96.2)、CBI(Corvis Biomechanical Index、SUCRA 83.8)、CRF(SUCRA 66.4)が早期円錐角膜検出に有用である2)角膜形態とバイオメカニクスの包括的評価が推奨される。

術後数か月〜数年を経て以下の症状が出現する。いずれも進行性であることが特徴である。

  • 進行性の近視化・乱視
  • 裸眼視力の低下
  • 眼鏡矯正視力(BCVA)の低下
  • 不正乱視による像の歪みやハロー・グレア
  • 高次収差(垂直コマ収差)の増加

角膜形状解析所見

下方急峻化(inferior steepening): I/S比≧1.2

角膜屈折力の急峻化: 46D超はエクタジアを示唆

非対称的パターン: スキュー(skewed radial axes)21°超

角膜断層撮影所見

後面エレベーション上昇: 角膜後面の前方突出が初期変化

最薄点の偏心: 角膜厚マップでの偏心

BAD-D値上昇: 1.65超で拡張症疑い

細隙灯顕微鏡所見

Fleischer ring: 円錐底部の上皮内鉄沈着

Vogt’s striae: デスメ膜の皺

角膜頂点の瘢痕: 進行例で出現

術後エクタジアと自然発症の円錐角膜角膜形状・臨床所見が類似するが、屈折矯正手術の既往の有無が鑑別の鍵となる。円錐角膜疑いで施術を受け術後に拡張が顕在化したケースと、正常角膜での術後エクタジアは病態的に連続している部分もある6)

鑑別に際しては、手術記録(フラップ厚・切除深・術後RST)の確認が重要である。

Q エクタジアと円錐角膜はどう違うのですか?
A

角膜拡張症エクタジア)は屈折矯正手術後の医原性病態、円錐角膜は自然発症の変性疾患という点で原因が異なります。しかし両者の臨床像(角膜菲薄化・急峻化・不正乱視)と発症機序(角膜バイオメカニクスの破綻)は本質的に類似しており、潜伏型円錐角膜が手術侵襲により顕在化したケースも多いとされています6)。鑑別は手術既往の有無と術前データの確認が基本です。

エクタジアの治療方針は、①進行阻止と②視機能の矯正・回復の二本柱である。進行が確認された時点での早期介入が視機能温存に重要である。

治療法適応目的
角膜クロスリンキングCXL進行確認時・第一選択進行阻止(コラーゲン架橋強化)
ハードコンタクトレンズ(RGP不正乱視が強い場合視機能矯正
角膜内リングICRS中等度エクタジア不正乱視軽減
CXL + topography-guided PRK進行したエクタジア不正乱視矯正と進行阻止の同時達成
CXL + ICRS中等度〜高度エクタジア複合的アプローチ
全層角膜移植PKP高度進行例・角膜混濁最終手段
深部層状角膜移植DALK内皮機能が保たれている例PKP代替(内皮温存)

進行が確認されたエクタジアに対する第一選択治療である。0.1%リボフラビン点眼後に紫外線A(3 mW/cm²)を照射し、角膜コラーゲン間の架橋結合を強化することで角膜の構造的安定化を図る。標準法(Dresden protocol)のほか、加速法やポケット法がある。CXL後は多くの症例で進行が停止し、若干の角膜急峻化の改善が得られることもある。

高リスク患者(思春期前・若年者など)では、さらなる視力低下を待つことなく早期CXLの検討が推奨される。

ハードコンタクトレンズ(RGP)

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角膜不正乱視による矯正視力低下に対する視機能矯正の主柱である。レンズ後面に涙液レンズを形成することで不正乱視を光学的に補正する。中等度までのエクタジアで有効であり、多くの患者で日常視機能の維持が可能となる。センタリングと動きの良好なフィッティングが重要である。

進行例で角膜混濁・瘢痕を伴い、コンタクトレンズによる矯正が不可能な場合に検討する。全層角膜移植PKP)が従来の標準だが、エンドセリウムが正常の場合は内皮を温存する深部層状角膜移植DALK)が選択肢となる。

Q エクタジアは治るのですか?
A

現在の治療では「治癒(元の角膜形状への回復)」は困難ですが、角膜クロスリンキングCXL)により進行を停止させることが可能です。CXL後は多くの症例で角膜形状が安定し、コンタクトレンズや眼鏡による視機能矯正が継続できます。進行した例でも、CXL + topography-guided PRKや角膜内リングICRS)を組み合わせることで不正乱視の改善が期待できます。最終手段として角膜移植があり、これにより視機能を回復できる場合があります。

5. 病態生理学・詳細な発症機序

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屈折矯正手術後エクタジアの本態は、手術侵襲による角膜バイオメカニクスの破綻である。

  • フラップ・キャップの影響: LASIKフラップは術後も角膜バイオメカニクスに実質的に寄与しないとされる2)。一方SMILEでは角膜前方実質を保持するキャップが一定程度の強度を担う可能性がある2)
  • 前方ストロマの切断: 角膜前方ストロマはバイオメカニクス的tensile strengthに最も寄与する層であり、エキシマレーザーによる切除がその機能を低下させる7)
  • RST不足のフィードバックループ: RST不足により残余実質への応力集中が生じ、進行性の菲薄化が加速する。RSTが280μm未満になると角膜のバイオメカニクス的安定性が急速に悪化する2)
  • LT indexの閾値効果: LT indexが28%を超えるとCH(角膜ヒステレシス)およびCRFの変化率が著しく増大する2)

術前に検出できなかった微細な角膜バイオメカニクスの脆弱性(潜伏型・subclinical円錐角膜)が、手術侵襲を契機に顕在化するケースが多い。Seilerらが1998年に初めて報告したforme fruste keratoconusへのLASIK施術後のエクタジア例はその代表的な報告である6)

角膜後面エレベーションの意義

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角膜後面エレベーションの前方シフトがエクタジアの初期サインとして認識されている。前面の変化に先立って後面が変化する例もあり、後面評価を含む断層撮影が早期診断に不可欠である。

Reinsteinらの数学モデルでは、PRK・LASIKSMILEの相対的角膜tensile strengthを数値化した7)SMILEはLASIKと比較して前方実質を温存するため、同等の矯正量においてより多くの角膜強度を保持する。この構造的差異がSMILEの低いエクタジア発症率と関連すると考えられる。

  • 角膜バイオメカニクス測定の進歩: Corvis ST・ORAによるリアルタイム評価が術前スクリーニングの精度向上に貢献している2)。TBI・CBIによる包括的評価が拡大しつつある
  • AI・機械学習: 角膜形態・バイオメカニクス・遺伝データを統合したAI予測モデルの開発が進んでいる。角膜形状解析単独では術後エクタジア予測の感度は70%を超えないが2)、マルチモーダルAI評価による改善が期待される
  • 予防的CXL(prophylactic CXL: 拡張症リスクが高い症例に対して屈折矯正手術と同時にCXLを施行する概念が研究されているが、エビデンスはまだ確立されていない
  • 角膜コラーゲンの分子レベル研究: MMP・TIMP系の調節を標的とした薬物介入や、コラーゲン線維の遺伝子発現解析による個別化リスク評価
  • 新規角膜強化材料: CXL以外の角膜強化アプローチとして、コラーゲン架橋薬剤の局所投与や新規生体材料による補強の研究が進んでいる
  1. 日本眼科学会屈折矯正委員会. 屈折矯正手術のガイドライン(第8版). 日眼会誌. 2024;128(2):135-138.
  2. Wang Y, Xie L, Yao K, et al. Evidence-Based Guidelines for Keratorefractive Lenticule Extraction Surgery. Ophthalmology. 2024.
  3. Moshirfar M, Tukan AN, Bundogji N, et al. Ectasia after corneal refractive surgery: a systematic review. Ophthalmol Ther. 2021;10:753-776.
  4. Santhiago MR, Smadja D, Gomes BF, et al. Association between the percent tissue altered and post-LASIK ectasia in eyes with normal preoperative topography. Am J Ophthalmol. 2014;158:87-95.e1.
  5. Gomes JA, Tan D, Rapuano CJ, et al. Global consensus on keratoconus and ectatic diseases. Cornea. 2015;34:359-369.
  6. Seiler T, Quurke AW. Iatrogenic keratectasia after LASIK in a case of forme fruste keratoconus. J Cataract Refract Surg. 1998;24:1007-1009.
  7. Reinstein DZ, Archer TJ, Randleman JB. Mathematical model to compare the relative tensile strength of the cornea after PRK, LASIK, and SMILE. J Refract Surg. 2013;29:454-460.

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